「咲さんや、まだ告白は、しないのか。何やってんだ、このヘタレ咲」
「五七五七七にしないで……事実、だけど」
休みの日。珍しく……本当に珍しく、奏くんと一緒に過ごさない休日。思えば、奏くんと出会ってからというもの、ほぼ毎週のように休みの日も会っているのは、ちょっと凄い事だったのかもと思い始めている。
なぜ、今日に限って奏くんと一緒じゃないのかと言うと……私の親に当たる伯父さんが、奏くんを呼び出して居るらしい。どんな話をしているのか、検討もつかない。奏くんも同じらしく、首を傾げていた。
今頃、伯父さんお気に入りのカフェでお茶してるんだと思うと、伯父さんにちょっと嫉妬。だけど、折角の機会と言うのも変な話だけど、私は奏くん以外の誰かと遊ぶ事に決めた。
そうなった時、神奈川に越してきてからと言うもの交友関係が片手で足りるくらいだった私──五人家族が増えたおかげで、最近は両手出ないと数えられない──信濃 咲が呼び出せる仲のいい友人なんて、一人しかいない。
ファミレスのボックス席。目の前に座ってポテトを口にくわえた瑠璃さんが、かなり呆れたようにため息。最近、瑠璃さんの私に対する態度が、かなり気安いものになってきている。ある意味で信頼されているのだろうけど、ため息をつかれると少し悲しい。
「早くしないと取られるかもって話してたじゃねぇか。良いのか? 奏がどこの誰とも知らない馬の骨に取られちまっても」
「良くない……けど、私にだって考えはある。一世一代の告白、最高のシチュエーションで実行したい」
そのために、最近読む本を恋愛指南書や恋愛小説、普段は敬遠していた女子高生に人気の雑誌などを読み漁り、念入りに計画を練っていた。普段は勉強の時にしか使わない思考回路を、最高の告白を完成させるために使ってきた。
ふんす、と胸を張った私を冷ややかな目で見つめてくる瑠璃さんは、相変わらずドブのような色の飲み物(飲み物の枠組みに入れていいか不明)をストローで啜る。
「……一応言ってみろ。添削くらいはしてやる」
「来週7/13日は、奏くんの誕生日。しかも日曜で休み。デートして帰りにマンション近くの公園で夕日に照らされながら告白。上手く行けば最高の誕生日。プレゼントは私、ってやつもワンチャンできる」
「……上手くいったとして、記念日は多い方がいいんじゃないか? 誕生日と恋人記念日は別にした方が良くね? それに、聞いた感じだと奏ん家は結構仲良いんだろ? 誕生日になんか家族で予定入ってる可能性高くね? 後、プレゼントは私とかほざいてるけど、どーせあの堅物の事だから、高校卒業するまではとか言って優しく断ってくるぞ。ラブコメ主人公だとしたら、失格なくらい性欲が見えない奴だからな」
完璧計画と思われた私の計画は、瑠璃さんからの容赦ない指摘により最早完璧なんかじゃなくなった。
良くここまで反省点を見つけられるものだと感心するほどの指摘の数々。これだけツッコミどころ満載出会ったにもかかわらず、全く気付かず計画を練っていた辺り、私は相当冷静では無かったらしい。恋は盲目、恋する乙女は暴走機関車──どちらかと言うと男性向けのラノベで、そんな事が書かれていたことを思い出す。
瑠璃さんの指摘は、どれもこれも納得のいくもので、ぐうの音も出ない。
「……奏くんの、性欲」
だからこそ、最後の指摘が、嫌に脳裏にこびりつく。
私に対して……所か、クラスの女子や、更には男子生徒にまで優しく紳士的な奏くん。
あの奏くんに、性欲なんて存在するのだろうか。
他の男子は、教室で下世話な話をしている所を見る。気分のいいものでは無いが、奏くんがそんな話題に興じているところを見たことない。
「……おーい、咲? ……聞こえてねぇなこれ」
想像してしまう。
来るべきその日。一糸纏わぬ姿でベットの上に座る私を、同じく全てを取り去った姿の奏くんが、上から下までじっとりとした熱を持った目線で見てくる、その光景を。
緊張や羞恥でがっちがちに固まっている私。呼吸も浅くなり、不安からか余計に縮こまる。あんまりにも恥ずかしくて、いつものように彼の目を見ることが出来ない。
そんな私に対して、奏くんは包み込むかのような慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら、私をとさり、と優しくベッドに押し倒し──。
「……なーに顔真っ赤にしながら妄想してんだむっつり咲。流石に読書家なだけあって、妄想の精度は抜群ってか? 残念だが、その情報はアタシらの年齢に開示されていないぜ?」
「べっ、つに……妄想なんて、してない……その、ちょっと、耳貸して」
あまり大きな声で話せない内容だと考えた私は、瑠璃さんの耳元で、周りの喧騒に掻き消えないギリギリの大きさで囁く。
「奏くんって……その、色々おっきい方が、好きかな?」
「知るかばーか。そうだったとしても、奴の性癖捻じ曲げる位の気概でいやがれ」
バカバカしい──そう言わんばかりに吐き捨てた瑠璃さん。私が百面相している間に、机の上のポテトの皿は綺麗に空になっていた。