ぼっち・ざ・ろっく・おぶ・ざ・ひーろー! 作:あいむ
前回の『ぼっち・ざ・ろっく・おぶ・ざ・ひーろー!』
苦節ありながらもアー写を撮り終えた結束バンド一行。そんな余韻も束の間、解散後湊音の元にひとりから「助けて」という謎の着信が入った!
一体、彼女の身に何が起きているのか! 不安を抱え、湊音は走る!
急げ湊音! 手遅れになる前に友達を救うのd「いや今チャリ漕いでるから! というかそんなバトル物作品みたいなピンチじゃないでしょ! 話を盛るなスカポンタヌキ! なんでこの小説はまともにあらすじ出来ないんだよ!」
「……あ、失礼しました。第12話どうぞ〜
ゼェゼェ」
あれから自転車を走らせて目的の場所へと到着した。
後藤さんが指定したのはなんかオシャレな喫茶店だった。そういえば最近新しく出来たんだっけ?
「後藤さんは……中で待ってるのかな………「……のくん」え?」
どこからか後藤さんの声が聞こえる。しかし、見たところ後藤さんの姿は無い……。
……これって
「こいつ……直接脳内に「星乃くん」うおっ!! ……ってビックリした後藤さんか」
突然肩を掴まれた事で勢いよく振り返るとそこには俺の反応にビックリしたと思われる後藤さんが尻もちをついていた。
「大丈夫?」
「あっはい。驚かせてすみません……」
どうやら後藤さんは俺が来た時に俺の背後に移動していたみたいだ。……ん? でも人が移動してる気配無かったよな? それに全く人気を感じさせず背後に回れるもんか?
もしやこやつ……忍者?
「で、何やってるんです?」
後藤さんがイエスニンニンなのかノットニンニンなのかはさて置いて、本題に入ることにしよう。
「えっと……こういうお洒落なお店に入ること無くて……私なんかが入るなんて恐れ多いというか……」
あー、なるほど。まあ気持ちはわからんでもないが。
「まあ……普通に入って店員さんに指定された席に座れば良いだけだと思うけど」
「えっと……そ……そうなんですけど……」
「……とりあえず入りますか?」
俺が先導して後藤さんがあとを着いてくる。こうすれば彼女でもすんなりとお店に入ることができるだろう。シンプルイズザベストってやつだ。
「へ、へい大将やってるぅ……?」
「居酒屋かな?」
と、思ったら俺の後ろでなんか言ってた。
マジで今まで飲食店行く時どうしてたんだこの子。
とりあえず山田さんが座ってた席へと移動。その際に店員さんから注文を聞かれて俺はココアを選択。後藤さんは「あっ……えと……同じので……」と言ったのでアイスココア2つで注文が通った。因みに山田さんはなんかカレー食べてた。
「こ……これです」
「うむ、拝見いたす」
後藤さんからノートを受け取った山田さんはページを捲り、黙読を始めた。その間後藤さんはやけにそわそわしていたが……。
「おっ……おおお……」
なんか珍しく動揺してる。一体何が書いてあるんだ。
「これでいいんだ?」
「えっあっはい最高傑作だと思います」
そして遂に再び山田さんが口を開き、ノートを机の上に置いた。
そこに書いてあったものは……
「このサイン、ロックバンドにしては可愛すぎると思う」
ページにびっしりと推敲されたサインの数々だった。
……あれ? 歌詞は?
「そそそそのページは違います!!」
「……さては集中力切らして気分転換に書いてた?」
俺がそういうと後藤さんは目を逸らした。図星らしい。
それから本来のページを開き、歌詞を読み始めた。山田さんは一向に黙ったままで後藤さんも気が気でなさそうだ。
「ぼっちはこれで満足?」
「えっと……あのそれは……」
何やら重い空気が流れた。そして山田さんは俺にノートを渡してきた。
……これは読めって事なのかな? 後藤さんの方見ても目をそらされたし。
実際にその内容は応援歌のようなものになっていた。ただ……なんて言うか何とか言葉を絞り出して書き上げたような印象が強い。
もしかしてスランプ?と思ったけど後藤さんはイソスタという言葉だけでも痙攣を起こしてしまう人だし、進んでこの歌詞を書くとは思えない。
これ……後藤さん無理してるんじゃ……。
「私、むかし別のバンドにいたんだけど」
そこから山田さんの長い話は始まった。
山田さんが前に所属していたバンドは雰囲気はそんなに悪くなかった。彼女も青臭くても真っ直ぐな歌を好みそのバンドにいたとの事。
しかし、徐々にその歌詞は売れ線寄りのものへと移行を始め本人たちの雰囲気も変わりつつあった。
そして山田さんはそのバンドを抜けた。
バンドそのものが嫌になって。
「「………………」」
その話を聞き、俺たちは何も言えなかった。
「その後、虹夏がバンドに誘ってくれてもう一度頑張ろうって今バンドを続けてる。
個性を捨てたバンドなんて死んでるのと一緒だよ。前のバンドも結局解散したし。
私はこのバンドには死んで欲しくない」
個性を無くしたら死んでるのと同じくかぁ……。まあ、そうだよなぁ。
「バラバラな個性が集まってそれがひとつの音楽になる。
バンドってそういうものだと思う
だからぼっちには自分が好きなように歌詞を書いて欲しい」
言葉の重みが違った。
山田さんのバンドに対する思いが今の結束バンドにある。そう思うとなんだか……
「それにぼっちの作った歌詞をリア充っ子に歌わせたら面白そうじゃん」
「そっそこまで酷い歌詞作りません……」
なんだろう……。「毎日一人ずつ呪っていくね〜♪」って歌ってる喜多さんのビジョンが出てきた。これリアルで見たいような見たくないような……。
「……リョウさん!」
「ん?」
「わっ私頑張ります……!」
「……うん」
後藤さんの目も変わった気がする。
俺からノートを受け取るとやる気に満ちた目をしていた。
「(………俺、来た意味あったかな?)」
結局、なんかいるだけの人になってしまったけど後藤さんも吹っ切れたみたいだし良しとしますか。
「さて、そろそろ出ようか」
「あの……リョウさん……お会計……」
俺と後藤さんがレジに向かう中、1人だけ出口に向かおうとしていた山田さん。後藤さんの一声で足を止め数秒後、彼女から発された言葉は……
「ごめん2人とも、お金ないから奢って」
衝撃の一言だった。
「え……? お金ないって……でもカレー食べてましたよね?」
「………………」
「あの、目をそらさないでください」
「……ここのカレー、美味しいって評判でどうしても食べたくて……」
「じゃあお金持ってきますよね?」
「……ココ最近、草しか食べてなかったから」
「それ言えば許されると思ってます?」
このやり取りしてる間にも後藤さんは財布を見てなんか絶望していた。
……なーんか嫌な予感が……
「……どうしました?」
「えっと……その……お金足りなくて……」
ホントに払おうとしてたよこの子。流石に良いように使われすぎて哀れになってきた……。
「ほ……ホントにすみませんでした……」
「まあ……気にしなくてもいいよ」
「恩にきる」
「今回は後藤さんに免じて見逃しますけど次はないと思ってください」
結局、俺が2人の分も支払う事で何とかなった。まあ、あのまま言い争ってもなんにもならないし、何より周りの視線が痛かったしもういいやって感じですねハイ。
「じゃあ私は帰るから」
「あ、あの! 次は頑張ります!」
「うん。楽しみにしてる」
そう言い残すと山田さんはあっという間に帰っていった。
全く……都合がいいんだから。
「じゃあ俺達も解散ですね」
「あっはい。……あの、星乃くん」
「はい?」
「ありがとうございました」
「え? えっと……歌詞、頑張ってください」
「は、はい」
この後、俺は駅まで後藤さんを送り自転車で帰還した。
この時の後藤さんの背中は……何となくいつもより伸びて見えたような気がした。
「あっ、あの!」
後日、STARRYにて後藤さんが来た際に突然大きな声を上げた。
「か……歌詞出来たんですけど……」
「後藤さん……目の下クマ出来てるけど大丈夫?」
「あっはい……。ここ最近、作詞に夢中になってて……」
「無理は禁物ですよ?」
喜多さんと俺に案じられながらも後藤さんはノートを差し出してきた。
「そっか……。よし! じゃあぼっちちゃんの力作、拝見しましょー!」
伊地知さんがノートを受け取り、皆が順番に歌詞を見ていた。俺にも回ってきたので後藤さんの歌詞を読ませてもらった。
その内容は……ちょっと暗いというか……、捻くれる様にも感じた。
でも……何故か異様に引かれた。
この歌詞をもっと知りたい。
この歌詞を元に作った歌が聞きたい。
この歌を奏でる彼女たちの姿が見たい。
そう思うとノートから目が離せなくなって「……のくん!」
「えっ? あっ、すみません。なんですか?」
「なんか……凄く入り込んでいたけど大丈夫?」
「え? ……そんなにですか?」
「……星乃くんもそこまで魅入るとは……。ぼっちちゃんの歌詞、早速刺さっちゃったね!」
後藤さんを見るとなんか凄く嬉しそうにしていた。……あ、これ喜多さんがバンドに加入した時に後藤さんが貢献したことを称えられた時と同じ顔してる。
「……後藤さん」
「は、はい!」
「……この歌詞を皆が演奏するの、楽しみにしてます」
「あ、ありがとうございます!」
俺からノートを受け取ると「フヘヘヘヘ」と声を漏らし、分かりやすく上機嫌になっていた。
そして、そのさらに数日後……
「お前ら〜、お待ちかねの給料日だぞ〜」
店長からの給料支給の日がやってきた。
STARRYは封筒に入れて渡すというレトロなやり方だけど俺はこっちの方が好きだったりする。だって自分の頑張りを直で見れる感じがするし。
横にいた後藤さんを見るとなんかいつにも増してキラキラした目をしていた。……何だかんだ言って後藤さんもなれない接客頑張ってたもんなぁ。そりゃ嬉しいよな。
「え〜、折角のところ悪いんだけどライブ代徴収するね〜!」
「………それでは聞いて下さい『さよなら諭吉』」
「ごめんね! 私だって心苦しいんだよ〜!」
後藤さんの顔が分かりやすく変わって今度は絶望のどん底に落ちていた。
……次に来るとしたら『カモン諭吉』とかかな……。いや、その曲もうあるか。
「お〜い、後藤さん大丈夫〜?」
その後、後藤さんはいつものゴミ箱に縮こまり山田さんに枝でつつかれていた。
なんかもう犬小屋みたいになってるねそのゴミ箱。
「え? アルバム作るのってそんなにかかるんですか!?」
「う〜ん、折角ならライブの物販で置いてみたいし……、それにMVの撮影もするとなると結構お金かかるんだよね」
「じゃあ夏休みは別のバイトも増やさないとですね!」
「だね〜。皆で海の家とかでバイトしちゃう?」
「………肝臓売りに行かなきゃ……」
そして隣から聞こえてきた伊地知さんと喜多さんの会話で後藤さんは更なるネガティブモードに突入。なんかとんでもない結論に辿り着いてるし。
にしても、バンド活動ってここまでキツいんだ……。どっかの誰かさんが以前そんなこと言ってたけど……、こう深く関わると結構な事なんだなぁ……。
「ぼっち」
「えっ、あっ、その、ギ、ギターを担保にすればお金借りられる筈なので! バイトを増やすのだけはど、どうか! 海の家とか遊園地とかは勘弁してください!!」
「? 曲、作ってきたんだけど」
「はい?」
山田さんが曲のデータを皆に公開した。
さっきまで後藤さんが入っていたゴミ箱の底面にスマホを置かれ、曲が響いた。
「……すっごい」
「え? かなり良くない?」
「はい……とっても!」
「リョウさん……凄いです」
「ぼっちの歌詞見てたら浮かんできた」
「……どうやったんですか!?」
「フィーリング」
皆が思い思いに感想を述べ、リョウさんは自慢げに返答した。
こういった曲作りってリズムとか音階とか結構大変そうなイメージあるけどそれをフィーリングでやるって……もしかしてこの人、天才?
これは……ホントに楽しみだ。どんな曲が生まれるのか……。ここまでワクワクすること滅多にない気がする。
「あたしの夢……叶っちゃうかもな……」
伊地知さんが小さな声でそう零した。
伊地知さんの夢……?
「さて! 歌詞も出来て曲も纏まりそうだし後はライブだね!」
「え? もうですか?」
「善は急げっていうでしょ! 来月辺りにライブの予定あるみたいだしお姉ちゃんにお願いしてくるね!」
そういうと伊地知さんは店長の元に駆け寄って交渉をしていた。
大丈夫なのかな……? 伊地知さんは「この前も直ぐに出させてくれたし大丈夫!」って言ってたけど……
「は? ライブ? 出す気無いけど」
おっとお?