ぼっち・ざ・ろっく・おぶ・ざ・ひーろー! 作:あいむ
前回までのあらすじ
普通の高校生、星乃湊音。彼はある日、後藤ひとりという少女と出会う。ひとりが結束バンドへ加入し、それに着いて行った湊音は彼女たちのライブを目の当たりにした。ついにそんな彼にもロックの鱗片に触れる機会が……。
スターリーでライブを見てからしばらくの月日が流れた。
ライブの翌日に後藤さんからまた色々と話を聞き、バンドの事なんかを教えて貰った。
「後藤さん、この間のライブの事なんだけど……」
「えっ!? あっ……その………
せっかくのライブなのに完熟マンゴーになんかなってすみません……。本当にお見苦しいものを見せてしまってすみません……」
「あ、あれやっぱり後藤さんなんだ……」
ライブの話になると後藤さんは即謝り状態。とりあえず完熟マンゴーのことはデリケートゾーンだと思うからこれ以上は触れないでおくか。
「……後藤さん」
「あ、はい」
「ライブ、楽しかったですか?」
「……は、はい」
彼女は当時の事に思い耽ていたのか、そのまま黙り込んでしまった。しかし、その表情は何時もより明るく感じたように俺には見えた。
と、以上が回想である。
結束バンドのライブははっきり言って俺も困惑したし(主に完熟マンゴーを被った後藤さんに)、お世辞にも成功とは言えない筈だ。
それでも、あの後藤さんの様子からも何かがあそこにはあった気がした。
「今度の休みの日、もう1回行ってみようかな」
そう思いながらベッドに横になり、天を仰ぐ。そう言えばこの間伊地知さんが言ってたギターの人……ギターヒーローだっけ? どんな人なんだろうな……と思いつつ動画投稿アプリを開き、その名前を検索ワードに入れると関連動画はすぐに出た。その中には俺も知ってる曲もあったので先ずはそれから視聴をすることにした。
その音を聞いた時、不思議な感覚になった。ヘッドフォンから聞こえる音楽はいつも聴いてるものなのだが、どこか違うものを聴いているようなそんな感じだった。
こういった楽器での演奏系動画は何本か見た事があるが、それらとはまた違う……上手くは言えないがそんな感じだった。
音楽が終わり、そのまま天を仰いでいた俺はスマホに目を移す。
ギターヒーローのチャンネルを登録し、通知もオンにしたところで、ページを一通り見た。
「ん?」
動画のサムネを眺めているとある事が気になった。この人が来てるピンクのジャージ、どっかで見たことがあるような……。いや、似た様なジャージなんて沢山あるだろうし気のせいか。
「……うん、スターリー行くか」
とりあえず週末の事に思考を移行してそのまま眠ることにした。
〇 〇 〇 〇 〇
そして週末、俺は自転車で下北沢まで来た。
ここまで来るのにもまあまあ時間はかかったけど、景色を楽しみながらだとその迄苦では無かった。
「さて、早速行きますか」
道は大体覚えているのでここからはそんなに時間もかからない筈だ。
しかし、喉が渇いた。どこかでジュースでも買って一服するのが先だな。
そう思い俺は自転車でコンビニ、若しくは自動販売機を目指した。まあコンビニなんて地域に少なくとも2件はある筈だ。
その後、10分もかからないうちにコンビニは見つかりミルクスを買って目的地へと向かった。
「確かこの辺りだったような……」
道中、道に迷い携帯のマップで確認をしていた。やっぱり行き慣れてない場所は迷ってしまう。後藤さん誘えば良かったかな………ってそもそも連絡先知らないから掛けようがないじゃん。
「あ、この辺見覚えあるな……ってあの階段もしかして……」
「あ! もしかして星乃くん?」
まもなく目的地周辺ですって所で突如声をかけられ、後ろを振り向くとそこには伊地知さんと山田さんがいた。
「やっぱり! 久しぶり〜!」
「どうも……ご無沙汰してます」
「うん、ご無沙汰」
伊地知さんは手を振りながらこちらに駆け寄って、山田さんも彼女の後を追うように歩いてきた。
「いや〜、
「あー、まあちょっとですね……。ところでお2人はお出かけですか?」
「あたしは買い出しだよ〜。リョウとはそこでバッタリあったんだ」
「買い出しに付き合ってた」
「隙あらばカゴに自分のお菓子入れようとした割に荷物1つも持ってないくせによく言うよ」
この2人、コントでもやってるのかな?と思う位にテンポ良くやり取りしてるなぁ……と考えていると山田さんの視線がこっちに向いた。
「その自転車、湊音の?」
「あっ、ハイ」
「おお〜、いい自転車乗ってるね」
「これ、両親が高校の入学祝いにって買ってくれたんです。中学に使ってたものは転んだりぶつけたりしちゃってボロボロになったので……」
俺がそう言うと伊地知さんは「へえ〜」と言い、山田さんは自転車を吟味するように見入っていた。あれ?山田さん、もしかして自転車好きなタイプなのか?
「フム、まだ新しい。それにこの自転車、定番のブランド会社のモデルか……。これなら中古でもさぞいい値段になるのでは」
はいストップ。なんか不穏な単語が聞こえたのは気の所為でしょうか?今この人いい値段になるとか言ったよね?
「はいはい、リョウは何でもかんでもお金に換算しない。ごめんね、星乃くん」
「あ、いえ……
ところ伊地知さん、山田さんってもしかして……お金に困ってたりするんですか……?」
「いやいや、こう見えて家は裕福なんだけどお金使い荒くてね〜。お小遣いは全部楽器にすぐ費やすから」
「褒めても何も出ない」
「褒めてないよ」
うん、なんか思ってたんと違う。
もっとなんかこう……クールでプライドの高いタイプなのかなと思ってた。ほら、バトル物の作品だと主人公のライバルポジにいそうなアレ。
「ところで星乃くんは何で下北沢に?」
おっといけない。本来の予定を忘れるところだった。話を戻してくれた伊地知さんに感謝しておこう。
「あの〜、スターリーでライブって今日やってますか?」
「お、ライブ見に来てくれたの?」
「は、はい」
「でもごめんね〜。今日ウチお休み貰っててライブハウスやってないんだ」
「……うそーん」
マジすか。折角ここまで来たのに……。いや、先にお店やってるか確認してから出なかった俺が悪いんだけれども。
「まあ、折角来たんだし寄ってってよ」
そう言うと伊地知さんが先行して俺はその後について行った。
〇 〇 〇 〇 〇
「ただいま〜」
「お邪魔します……」
スターリーに入ると定休日故か中は空虚な箱と化している。伊地知さんは奥に行き、山田さんは空いてる席に座ってベースをテーブルに立て掛けていた。
「湊音、そんなに緊張しなくても自分の家だと思って自由に寛げばいい」
「リョウは少しは遠慮しなよ」
コップに入ったジュースを持ってきた伊地知さんがジト目で山田さんにツッコむ。そのまま俺も促されるままに座り、座談会は始まった。
「そう言えば今日はぼっちちゃんは一緒じゃないんだ」
「え? ぼっちちゃん……って誰ですか?」
「あ、ごめんね。ひとりちゃんの事。あだ名の方が良いらしくてあたしたちもそう呼んでるんだ」
「え? ………もしかしていじめ」
「違う違う違う!! 誤解されるかもだけど決していじめは無いから!! 信じて!!」
必死に弁解する伊地知さんを見てそのまま山田さんに視線を向けるとどうだろうか。なんと得意気にピースサインを出していた。まるで「私がつけました」と言わんがばかりに。
「まあ、後藤さんが良いなら何も言いませんが……」
「ぼっちは気に入ってるらしい」
気に入ってるんだ。どんな感性してんだあの子。それともただ純真だけなのか?
「おーい、虹夏ー。ちょっと……ん?」
奥の方から金髪の目付きの鋭い人が出てきた……ってあの人、この間の受付の人では?
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「あーいや……それよりそいつ誰?」
「星乃湊音くんだよ! この間言ったじゃん。ギターの子の友達だって」
伊地知さんのお姉さんだったのか……。なんか、ちょっと雰囲気似てるような違うような……目つきのせいか?
「……お前、どっかで見たことあるような」
「え? あ、前のライブの時ですか?」
「いや、それより前……思い出せないな……」
「それはそうとお姉ちゃん、さっきあたし呼んでたのって何だったの?」
「ん? ああ、ちょっと手伝って欲しい事があんだけど」
それより前に面識なんて無かった筈だけど……。伊地知さん(姉)が考えて混んでいる中、伊地知さん(妹)が話題を変えたことにより2人は奥へと入っていった。
「…………」
「…………」
いや、気まずっ。山田さんと直接話した事殆ど無いし、この人のイメージはさっきのせいで楽器とお金しか無いから話題が思いつかん。
「湊音」
そんな中、先に沈黙を破ったのは山田さんだった。
「好きなバンド、あるの?」
「え?」
「今日、ライブ見に来たんでしょ?」
あ、そういやそうだった。また忘れるところだった。
「えっと……ちょっとマイナーなバンドなんですけど『獄ROCK』ってバンドの曲はよく聴きます」
「へえ、獄ROCK知ってるんだ」
「え? 山田さんも?」
「聴いたことあるよ。実力はそれなりにあるけど名前で怖がられる事で有名」
「じゃあ曲が割とネタに走りがちって事は?」
「知ってる。だけど個性溢れてて面白い」
マジか。このバンド、割とネタソング作りがちだからガチのバンドマンからどう思われるのか不安だったけど反応良さそうで何よりだわ。
「最近、死亡フラグの歌とか出たんですけどそれがあるある過ぎて……」
「確かにあんな曲はあまり無いから記憶に残る」
それから、何とかそのバンドの話で繋ぎ止めることが出来た。
「じゃあ、『SICK HACK』は知ってる?」
「シック……なんか聞いた事があるような……無いような……」
「……今日、ライブ見たい?」
「え? あ、はい」
「よし、じゃあ行こう」
山田さんは立ち上がると俺のパーカーのフードを掴み動き始めた。いや、何この人意外と馬鹿力なの?
「あれ? リョウ帰るの?」
「うん、席を外す。それと湊音借りてく」
「え? ちょっと……その状態で!?」
リョウさんに引き摺られながらスターリーを出てどこかも分からない場所に向かう事になるのだが、普通に尻が痛いからそろそろ離して欲しいかな。
〇 〇 〇 〇 〇
それから何とか解放され、リョウさんに着いていくと新宿『FOLT』というライブハウスへと辿り着いた。
「もうすぐ始まる」
「あの、さっき言ってた……シクハクってどんなバンドなんですか?」
「『SICK HACK』ね。因みに事前知識として知って欲しいのがサイケデリック・ロック。これは1960年代に流行したジャンルでドラックによる幻覚を音楽として体言化したものでうんぬんかんぬん……」
「え? サイ……? ドラッグ? すみませんちょっと専門用語多くないっすか!?」
突如として目を輝かせながら語り始めた山田さんに困惑していると辺りが暗くなる。もうすぐ始まるのだろうか。
ステージにスポットライトが集中し、メンバーと思われる3人がそこに立っていた。なんか普通そうな人と金髪の女性と………うん? 後1人……ってまさか……
そんな事に思考を巡らせていたが、それは直ぐさまぶった切られた。
さっき山田さんが言ってたサ〇ゲー……サ〇ゼ……あれ、何だったっけ? まあそんな事はどうでもいい。
今、目の前で起きているライブに俺は釘付けになっていた。
普段聴くことの無い音。結束バンドのライブの時とも、ギターヒーローの動画を聴いた時とも違う感覚。怪しげで自分すら曖昧になりそうな気分になる。まるで狐や狸に化かされるような……
気を抜くと、持っていかれる。
俺は、そのライブから目が離せなくなっていた。
~~~~~
「どうだった?」
「マジやばいっす」
「お、一気に語彙力低下してる」
ライブが終わり、ライブハウスの外で山田さんと感想を言い合っていたが、ライブの衝撃によりこの有様である。元々バンドに関しては素人も同然なのにあんなライブを見せられたら言葉なんて出てくるわけが無い。
「……まあ、最後のアレはちょっとよく分かりませんでしたが」
最後のアレとはライブ終盤の事……
曲が終わってMC入ったかと思えば取り出したのは一升瓶。つまりお酒である。それを水分補給代わりに飲み干すといきなり客席に向かって吹きかけてきた。
次の曲はその酔った勢いで始めて、観客には何故か中指立て始めて、一言で纏めるとハチャメチャ。そして観客の顔を踏んづけ始める始末。しかもそのタイミングで隣に居た山田さんは最前列にいつ間にか移動していた。どうやら踏まれていたのは山田さんらしい。
『新宿ありがとーー!! カス共サイコーー!! 〈ピーーーーー!!〉』
挙句の宛に締めの言葉はこんな感じ。最後のはちょっと色々とマズかったので規制音声かけさせていただきました。
ホント何やってんだあの人。前よりヤバさ増してないか?そのうち警察のお世話になりそうで怖いんだが。
「でも何ですぐに外出るの? もう少し中いても良いんじゃない?」
「いや、まあ……人混みは苦手で……」
山田さんに聞かれてそれっぽい理由を答えた。早くあの場から撤退したい理由はあったが、人混みが苦手なのは嘘では無いので恐らくセーフ。
「……山田さん」
「何?」
「バンドって良いですね」
「よし、今度アルバム貸してやろう。初心者はまず………」
目を見れば分かる。この人、沼に沈めようとしてやがる……。オタクと言うのは普段はあまり喋らないが自分の好きなジャンルになると滅茶苦茶喋る。だからなんかわかるのだ。
「湊音」
「はい?」
「いい顔するじゃん」
山田さんは静かにそう呟いた。
「えっと……どういう意味ですか?」
「さあ?」
正直、その意味は分からない。結局はぐらかされたし。
自分が今どんな表情をしてるか。いつものように普通の表情をしてると思っているのだが、彼女にはそう見えてはいなかったのだろうか?
まあ、今回は山田さんに感謝した方が良いのは確かだと思う。あのライブで本気の音楽の鱗片に触れた様な気がしなくも無いが、知らなかった世界を知ることが出来たのは確かだ。
「それはそうと湊音」
「はい」
「ちょっと寄りたい所があるんだけどいい?」
「え? まあ構いませんが……」
その足で向かったのはラーメン屋。
扉を開けると「いらっしゃいやし〜」と気の抜けるような挨拶が飛び交った。前にラーメン屋に入ったのは何時だっただろうか? 確かなにかの機会に父さんと入ったきりだっけ?
「このラーメン屋、前から気になってた」
「美味しいんですか?」
「らしい」
へえ〜と返しつつ案内されたカウンター席にて2人とも注文をした。
ラーメンは美味しかった。俺が頼んだのは醤油ラーメンだが、鶏ガラベースのスープに醤油の味がマッチしてたしお店自慢の太麺が良い味を出していた。チャーシューが厚切りだったのも高評価ポイントだったし、添えて合った味玉も美味しい。味玉ってなんかあると嬉しいよね。
「さて、本題なんだけど……」
互いにスープを飲み干したところで山田さんは口を開いた。
一体どんな事を言われるのか……。彼女の口から発された言葉は……
「私にはお金が無い」
「え?」
「だから奢って」
予想外の言葉に思考は止まった。
「えっと……構いませんけどマジで無いんですか?」
「うん、ビタ一文も無い」
「まさかとは思いますけど最初からそのつもりで来たんじゃ無いですよね?」
「……ここ数日、草しか食べてなくて」
俺がそう聞くと目を逸らされた。
この人、想像以上に頭のネジ飛んでるかもしれん。そのうち「私にはお金が無い。だからこれで払おう」とか言い出してベースの演奏始めるんじゃ無かろうか。
山田リョウさん。
ベースと音楽を愛し、常に金欠で、それ故か馬みたいな食生活をしてるハチャメチャな人。
この1日で山田さんの事がわかったような、余計わからなくなったような……。
ただ確実にわかっている事はバンドはまだまだ未知の世界であること、そして山田さんはちゃっかり替え玉とライスを頼んでいたので俺の財布から野口が2人別れを告げたこと。それだけだ。
ちょっと間隔空いちゃいましたね。でもその分今回長めになりました。
完全オリジナルって中々難しいですね。因みに今回出てきた『獄ROCK』に関しては元ネタになってるバンドがあるのですが、長くなるのでそれはまたの機会に。
リョウさんのキャラもちょいちょいこんなので良いんかとは悩んだけど私にとっての山田リョウはこんな感じって事で。
後、しれっと湊音と何かしらの関係を匂わせる描写があったようなきくり姉さんに関してはそのうちって事で。
では、これまで高評価をくださった方々
☆9
si-gaさん、黒蛇二等兵さん
ありがとうございました!
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