ぼっち・ざ・ろっく・おぶ・ざ・ひーろー! 作:あいむ
結束バンドの初ライブに何かを感じた湊音は、休日を利用して再びスターリーへと赴いた。しかし、生憎の休館日であり、山田リョウの手引きにより新宿LOFTへ2人は向かう。
そこで再びライブを見た彼は、結構バンドのライブとは違う感覚を味わったのだった。
ついでに交通費やリョウにラーメンを奢った事により、彼の財布から野口が何人かサヨナラしたのだった。
いつもと変わらない日常。平凡な毎日。だけど何処か退屈にも感じる、そんな時間が流れた。
そんなある日、俺は後藤さんから例の場所へ呼び出された。
『今日のお昼休み、何時もの場所で一緒にお弁当を食べませんか。話したいことがあります。』
こんな手紙が下駄箱に入っていた。
いや、一瞬ラブレター的なもんかと思って期待しちゃったよ。でも送り主が後藤さんって分かったら、その線は外れた。だって後藤さん、ラブレターとか絶対出せないタイプだもん。
そんなこんなで何時もの場所で2人でお弁当を食べていた。
「それで、話って何?」
「あっ、その………」
何かを言いたげだった後藤さんに話を促すと彼女は目を逸らしながらもその口を開いた。
「ああああの! バイトを上手くサボるコツって何か無いですか?!」
「え?」
「それか明日までに上手く風邪を引く方法ありませんか?!」
「いや、ちょっと……」
「も、もし良かったら私の代わりにバイトに行ってくれませんか!? お願いします!! お弁当の唐揚げ全部差し上げますので……」
「ターイム!!」
思わず両手でTの字を作り、後藤さんを落ち着かせる。今回はいちごミルクキャンディーを持ってきて無かったのでやや強引にいかせてもらった。
「とりあえず後藤さん、状況を飲み込めないから説明をお願いします」
その言葉を皮切りに後藤さんが事の経緯を教えてくれた。
「つまり、後藤さんはバイトが嫌でなんとか休む口実を作りたいって事?」
「えっと……嫌と言うか……その、やっぱりバイトは怖くて……」
「でも伊地知さんたちが一緒何ですよね? あの人たちいい人そうですし問題無いのでは?」
「それはその……そうなんですが……」
うーむ、どうにも歯切れが悪い。いやそれは元からか。
「良かったら今日は俺も付き添いましょうか? 出来ることがあればお手伝いしますので」
「あっ、はい……お願いします」
「じゃあ驚かさないように伊地知さん達に連絡……って俺、連絡先知らなかった。……後藤さん、お願い出来ます?」
「えっ……、あっ、ハイ」
とりあえず後藤さんに事情の説明を頼み、後はなるようになるしか無い……と言った所だろうか。
あっ、そういえば……俺、後藤さんともロイン交換してないような。これを機に聞いてみるか? いや、後藤さん頼まれたら断れなさそうだしなんか無理に頼んでるようで申し訳ないかも……
「あああああの!」
「は、はい!」
「私たち、友達……ですよね?」
「えっと……そうだと思います」
「じゃ……じゃあ友達としてロインを……」
「は、ハイ、押忍」
まさかの後藤さんの方から交換のお誘いが来るとは……。驚きつつも画面を操作してロインを交換した。
「(そういや女の子と交換するのって初めてでは?)」
そう思いながら後藤さんを見ると震えながらニヤケていた。なんか気持ちがわかる気がする。ロインでリア友の欄が増えるとなんか嬉しいよね。
改めて思うと後藤さんと交換出来たってことはこれで俺と後藤さんは正真正銘の友達って事になるのか?……というか友達って根拠がいまいち分からないけど……まあ、なんか気分がほっこりするし良しとしますか。
「よし、じゃあ後は放課後のバイトですね!」
「………アッ、バイト……」
「ちょ、また溶けてる! 俺も出来る限りサポートしますので! ね!?」
さて、問題のバイトはこんな感じで大丈夫なんだろうか。
〇 〇 〇 〇 〇
そして、バイトの時間がやってきた。
「後藤さん、行けそうですか?」
「うう……、やっぱり無理です……」
後藤さんはいつものムードに入ってしまい、中々扉を開けられずにいた。
「よし、じゃあ俺が開けますので後藤さんは後に続いてください!」
「えっ?……ちょ、ちょっと待って……」
「大丈夫です。タイミングは後藤さんに合わせますので覚悟が決まったら3、2、1で行きますよ!」
「あ……あわわ……」
俺は後藤さんを見ながらドアノブに手をかける。後藤さんは戸惑いながらも俺のパーカーのフードを軽く引っ張っていた。しかし、その目は閉ざされており覚悟が決まったのかは分からないが先ずは開けて見ることから始める事にした。
「行きますよ……?」
3
2
1
「ゼ……」
「そこのおふたりさん、チケットの販売は5時からですよ」
「は……ひっ!!?」
「グエッ!?」
後ろにいた女性に驚き、後藤さんが俺のフードを思いっきり引っ張った事でカエルが潰れたような声を出してしまった。
「あっ……そのあのえっと……」
「まだ準備中なんで……って、そいつ大丈夫なの?」
「えっ……? あっ……、ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」
後藤さんが気付いた時には時すでにおす……遅し。俺は泡を吹いて倒れる寸前だった。
数分後、なんとか持ち直した事で店長さんに中に入れて貰うことが出来た。
「で、ホントに大丈夫なの? 思いっきり泡吹いてたけど……」
「あ、大丈夫です。鍛えてますから」
「いや鍛えてもそうはならないだろ。それはそうとその子、まだあの状態だけどいいの?」
「えっと……、後藤さん? 大丈夫ですからね? ほら、ちゃんと生きてますので。その証拠にちゃん足もありますから……」
「フォローすべきとこ、そこ……?」
後藤さんは土下座をしたまま動かなかった。とりあえず俺は何ともないのでこの体勢をどうにかしてもらわなければ……。
「んで、なんの用だったの?」
「えっと……この子が今日バイトみたいで」
「あー、なんか虹夏がそんな事言ってたな。……お前もバイト?」
「いえ、彼女が下北沢慣れてなくてひとりじゃ不安だから付き添いで来ました」
「ふーん。……にしてもそっちの子どこかで……」
「ごごご後藤ひとりです……」
後藤さんは怯えながらも自己紹介を済ませると店長は眉間に皺を寄せように見つめてきた。いや何? なんか怖いんですけど……。
「てか、お前段ボールに入ってライブしてたギターじゃん! 確かマンゴー仮面……だっけ?」
「いや、なんすかそのあだ名」
「まっ、マンゴー仮面です!!」
「「え? マジでそんな名前なの……?」」
「そんな訳無いでしょ! 変なあだ名付けないでよお姉ちゃん!」
声の方に視線を向けると伊地知さんと山田さんがいた。
「おおおおねっ………に、虹夏ちゃんのお姉様……!?」
「前に説明したよ? ほら、スターリー来る時に」
「あっ……」
何やら後藤さんは忘れてた模様。というかあの時、なんか1人でボソボソ言ってたしもしかして……ちゃんと聞いて無かった?
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ〜、そんなに緊張しないで! ね、お姉ちゃん」
「ここでは店長と呼べ。後、私情を挟むな」
「ひいっ」
わお、言い方キツっ。ほらまた後藤さん萎縮しちゃったよ。
「じゃあぼっちちゃんと星乃くん、業務内容教えるからこっち来てくれる〜?」
「了か………ん? 俺も?」
「え? ぼっちちゃんから『星乃くんも一緒にバイトやってくれる』って聞いてたんだけど……」
伊地知さんはそう言いながらロインの画面を見せてきた。そこには後藤さんとのトーク画面が映っていて、伊地知さんのセリフと1字1句違わない文字が綴られていた。
「あの、後藤さん……これは一体……」
「あっ……えっと……、星乃くんが手伝ってくれるって言ってたので……」
「うん、大体わかった」
俺が「俺も何か手伝いますので」的なことを言ったのを「バイトを俺もやる」と捉えたのだろう。……言葉足らずだったかな。
「まあ……これも何かの縁ってことで俺もお手伝いさせて頂きますよ。良いですか?」
「え? ……お前もバイトすんの?」
「良いじゃん! ちょうど人手不足だったし、お姉ちゃんも力仕事がキツイ〜って言ってたじゃん!」
「それとこれは別だ」
店長さんは何やら反応が著しくない様子。もしかして男子禁制のバイトだったりするのか……?
「あの、もしかして男性お断り的な感じですか?」
「いや大丈夫大丈夫! 男性のバイトも1人いたから! ちょっと前に辞めちゃったけど」
「そ、そうですか……」
そんな話をしてると店長さんはため息を付きつつ、こちらに視線を向けて口を開いた。
「で、お前はどうしたいの?」
店長からの問いかけにより、その場は静寂が支配された。
「………俺もここでバイトさせて頂けませんか?」
しかし、俺の口からはあっさりと答えが出ていた。自分でもビックリするくらいに。
「……とりあえず今日は臨時で入ってくれ。正式に取るかは後日面接するから履歴書持ってこい」
「ありがとうございます!」
先ずは仮雇用と言ったところだろうか。とにかく、お店に迷惑をかけないように頑張らなければ。
「あれ? ところでぼっちちゃんは?」
「え? さっきまでそこに……」
「ここ」
俺が伊地知さんと後藤さんを探し始めようとした時、山田さんがテーブルの下を指さした。そこを覗き込むと後藤さんは体育座りをして入り込んでいた。
「……何やってんの?」
「すみません、暗くて狭いところで一息つきたくて……」
「はやっ!!」
うん、そういう空間ってなんか落ち着くよね。でも今は仕事しようよ後藤さん。
「と、とにかく! 先ずは掃除から始めよっか! ぼっちちゃんは……あたしが教えた方が良いかな。じゃあリョウは星乃くんに教えてあげて」
「うむ、任せたまえ。厳しくいくから覚悟といて」
「が、頑張ります……」
てな訳で、俺たちの初バイトが始まった。……正確には俺は仮なんだけど。
清掃に関してはそんなに苦では無かった。テーブルや椅子を隅っこに退かし、フローリングを履いてモップをかける。後は元に戻してテーブルなどのアルコール消毒。4人もいればすんなりと終わってしまった。
「よし、じゃあ次はドリンクと受付かな。ぼっちちゃんはあたしとドリンクやろっか。星乃くんはリョウに受付教えて貰ってね」
「「は、はい」」
それからは後藤さん・伊地知さんチームと俺・山田さんチームに別れてのお仕事開始。
前回の1件から山田さんに対しては、頼り半分不安半分といった印象が強かったが仕事を教えて貰うことに関しては余計な心配だったみたいだ。覚える事がそれなりにあるからか、割と疲れはする。
「ところで湊音」
「はい?」
「楽器やる気はない?」
「あ〜、えっと……」
「因みに私のオススメはベース。今なら安くしておくよ」
「因みにいくらなんです?」
「3300円の3回払い」
「テレフォンショッピングでも始めました?」
もしかしてお金の工面しようとしてます? あとベースのこと全然知らないのでこれが高いのか安いのかもよく分からん。
「それともう1つ言っておくことがある」
「なんです?」
「これから忙しくなるよ」
時計を見るともうすぐ5時。スターリー開店の時間。それだけで山田さんが言っていた事がわかってしまう。
ま、わかったところでやるしか無いんだよな。
それから1時間ほど経っただろうか。
山田さんの補佐をしながら作業をしているとライブが始まり、ステージの方からは賑やかな音が聞こえた。
そんな時、店長が現れた。
「あ、店長さん、お疲れ様です」
「ん、お疲れ」
「店長、どうしたの」
「いや、受付変わってやるから勉強も兼ねてライブ見てこい。今日の出演バンドは実力ある奴多いから得られるものはあると思うぞ」
「わかった。それじゃあお言葉に甘えて」
「ん。あ、それとお前は残れ」
「了解でーす。……え?」
山田さんに続き俺もライブを見に行こうと思ったら店長に呼び止められた。
久しぶりにスターリーでのライブ見れると思ったんだけどなぁ……。まあ、メンバーじゃないし後藤さんの付属品みたいな感じだからなのかなぁ……。しょうがない、今はバイトに集中しよう。仮にも雇われの身だし。
で、店長と一緒に受付にいるのだが……。
「(何この空気)」
気まずい。ただこの一言に尽きる。
あれ? 俺この台詞、このストーリー始まってから何回言った?
「星乃湊音だったよな」
そんな中、口を開いたのは店長だった。
「え? あ、ハイ」
「お前さ、兄弟いる?」
「え? あ、姉が1人います」
「もしかして美来って名前だったりする?」
「え? なんで知ってるんですか……」
星乃美来、確かに俺の姉ちゃんの名前だけど……。
「あたしの後輩なんだよ、アイツ」
「マジっすか」
まさかの予想外の事実に驚愕する。いや、バイト先の店長と家族が知り合いだなんて誰も思わないじゃん。
「……あいつ元気にしてるか?」
「あ〜、最近連絡取ってないですからね……。まあでも元気だと思いますよ?」
「そっか。なら良いんだ」
俺の姉は大学を出てから一人暮らしを始めて、ファンションデザイナーになるべくどこかのお店で働きながら勉強をしている。基本的にアクティブと言うか……思い込んだら一直線なところがある為、色々と心配になる人物である。
全く、今頃どこで何をしてるんだか。
「そういやお前さ、あの子とは付き合ってんの?」
「え?」
「ぼっちちゃんだっけ? なんか距離が近かったように見えたけど」
「いや、気のせいじゃ無いですか? 強いて言ってもお互い友達って感じですし」
俺がそういうと店長は「成程」と素っ気なく返してきた。
「で、お前は本気でここのバイトやりたいって思ってんの?」
「えっ?」
「一応言っとくけど虹夏やぼっちちゃんに言われたから、って言うんなら止めとけ。断りにくいって言うのなら───」
「それは違います」
気がつけば、店長の言葉を遮っていた。店長は黙ったままこちらに視線を向けるが、俺の口からそれ以上の言葉を発することが出来なかった。
「……まあ、その辺は面接で聞かせてくれ」
そんな中、店長はそう言って黙り込んだ。
「で、お前この間確かライブ見に来てたんだっけ?」
「え? あっ、はい」
「気になるんだったらお前も見に行って良いぞ」
「良いんですか?」
「特別な。呼び止めて悪かった」
そう言われ「ありがとうございます」とだけ言うとライブが見える場所に向かった。
因みに向かった先では後藤さんが半笑いというか、硬すぎる笑顔でお客さんに飲み物を渡していた。
〇 〇 〇 〇 〇
「今日はお疲れ。気をつけて帰れよ」
「お疲れ様でした」
「お、お疲れ様です……」
その後、無事バイトは終わった。
俺と後藤さんはそのまま帰宅。山田さんは何やら残るらしい。
後藤さんは恐らく今後もこのバイトをやっていくんだろうけど、俺はわからない。店長が面接を後日取り付けてくれたので、そこからリスタートって感じだからね。
「あ、ぼっちちゃん! 星乃くん!」
「「は、はい」」
「──また明日!」
にかっと笑って伊地知さんはそう言った。
また明日。
後藤さんにそれを言うのは分かるけど俺にも……?と思ったがこれが社交辞令的な意味で無いことを祈ろう。
「後藤さん、初バイトどうでした?」
俺が後藤さんに話を振ると彼女は肩をビクッとさせてこちらを向いた。もしかしてだけどバイトの緊張がほぐれて油断していたのだろうか。
「え、えと……、……疲れました」
「ですよね……」
「で、でも……意外とやっていけそうな気がします……」
「そうですか」
後藤さんはいつもの様に俯き気味だったものの、その表情はどこか前を向き始めた様な気がした。
「──へっくしゅ!」
その時、後藤さんが大きなくしゃみをした。
「大丈夫ですか?」
「・・・・・・」
「後藤さん?」
「──だ、大丈夫……です……」
「緊張が解けて疲れが来ちゃったんですかね……? 後藤さん、確か電車でしたよね? とりあえず駅まで送りますよ。今日は早く寝た方が良いと思います」
「あ、ありがとうございます……」
とりあえず途中のコンビニで温かい飲み物をプレゼントし、駅まで見送った。
そしてこの後日、後藤さんは風邪を引いたらしく3日ほど学校に姿を見せなかった……。