ぼっち・ざ・ろっく・おぶ・ざ・ひーろー! 作:あいむ
前回のあらすじ
ついに始まったひとりのバイトに巻き込まれ、湊音も彼女と一緒にバイトをすることに。
七転八倒しながらも何とかバイトを乗り越えた2人だったが、その後ひとりは体調を崩してしまった……とさ。
今日は星乃くんの面接の日だ。
あたしは誰もいないスターリーのフロントで面接が終わるのをただ待っていた。面接に関してはお姉ちゃんが1人で行っている。
本当はあたしもその様子を見たかったんだけど──
「これは仕事なんだ。お前は入ってくるな」
って言われた。まあ言ってる事は分かるんだけどさ、お姉ちゃん勘違いされやすいし、なんて言うか…………下手したら勘違いされて圧迫面接っぽくなっちゃうじゃ無いか不安なんだよね。
でもお姉ちゃんはツンツンツンツンツンデレ〜だから一応は大丈夫だと思うけど……、なんて言うか……あたしも星乃くんの事はよく知ってる訳じゃないから心配になってしまう。
しばらく椅子に座って待っていると、面接に使ってる部屋の扉が開いた。
「失礼します」
星乃くんは丁寧にお辞儀をして扉を閉めた。そのままスターリーを後にしようとしていた。
ここはひとつ、驚かせてみようかな〜と思ったあたしは彼の背後に周り声をかけることにした。
「お〜い、星乃く……」
「やらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかした」
「お……おーい」
出てきた星乃くんはあたしに気付いていないのか1人でブツブツ同じことを繰り返していた。
「星乃く〜ん……聞こえ「ヒッ!!」うわ! びっくしりした……」
肩に手を置くと体が大きく跳ねる。……これ、そんなに驚く程だったかな?
「あ、伊地知さん……」
「えっと……、大丈夫?」
「え……あ、はい大丈夫です」
あたしに気がつくと平常心を取り戻したかのように振舞っていた。
「突然呼び止めちゃってごめんね〜。」
「いえ、大丈夫ですよ」
「ところで……面接どうだった?」
「えっと……まあ、後はなるようになるって感じですかね……。あはは……」
ふむ。何やら歯切れが悪い。面接で何かあったのだろうか。
「とりあえず、場所変えよっか」
〇 〇 〇 〇 〇
「はい、お茶」
「あ、ありがとうございます」
あたしと星乃くんは初めて出会った公園へと移動した。
募る話もあるし、星乃くんは面接直後という事からもあの場では話しにくい事もあるんじゃないかと思いスターリーから離れることにしたのだった。
「あ、お金……」
「いいよいいよ。面接お疲れ様って事で」
「ホントすみません」
「……それで、どうだった? もしかして……お姉ちゃん、何か言っちゃった?」
「いえ、そういう訳では無いんですが……」
それから、星乃くんは面接での事を簡易ではあるが教えてくれた。
~~~~~~
『じゃあバイトの志望動機を言って貰える?』
『はい! 僕自身、音楽に関しては素人ではありますが以前こちらのライブを見た際にライブをしてる人たちを見て、僕自身強く興味を惹かれるところがあり……、えと……、バンドやライブハウスについてもっと知りたいという思いが強くなったからです』
『へえ。じゃあ、どんなバンドに惹かれたとかあるの?』
『は、はい。獄ROCKってバンドが好きです』
『獄ROCKって……また意外な所を着いてきたな』
『そ、そうですかね……』
『ちなみにライブを見た事ってある?』
『いえ……、人混みが苦手で……勇気を出してチケット取ろうとした時も大体抽選外れちゃって……』
『あ……そう……』
それからというもの、簡単な受け答えを中心に音楽に関する質問を入れながらの内容が続いた。
~~~~~~
「うーん……、とりあえず普通そうだけど……なにか問題があったの?」
「いや、問題っていうか……店長さんの表情が質問を繰り返す度に険しくなってたからもしかして芳しくないのかと……」
「いや〜、そんな事はないと思うよ?
………多分」
「多分?」
うーん、これはなんて言えばいいのか……。
予想通りの展開って感じだけど、お姉ちゃんは昔バンドを組んでた事もあり音楽に対する拘りは強いからなにかありそうな気もしない。でも、お姉ちゃんはさっきも言ったけどツンツンツンツンデレ〜だからなぁ……。
これは、どう言えば良いものか……。
「まあ、まだダメだって決まった訳じゃないし! ほら! 元気だして!」
とにかく、今は彼を励ますことにしよう。
そう思い、横を見るとお茶をガブ飲みしていた。そして間髪入れずにむせていた。
「それはそうと星乃くんって楽器の経験ってあったりする?」
雰囲気を切り替えようとあたしは別の質問をした。
「えっと……昔、姉ちゃんの影響で鍵盤はやってたんですけど……」
「もしかして……キーボード?」
「ま、まあ……そんなところですかね?」
「へえ〜。じゃあ結構弾けるの?」
「いや、割と前に辞めてそれ以来弾いてないんでだいぶ忘れてますね」
「そうなの?」
「はい」
キーボードを弾ける、と聞いてあたしは勝手な期待をしたけれどそれは直ぐに砕かれた。キーボードはバンドでは「あまり目立たないパート」的な意味で認識される事が多く、需要度は低いらしい。でも、キーボードは演奏の空白をカバー出来て曲によっては重要なパートともなる。だから星乃くんが良ければ……と思ったけどそうも行かなそうだ。
まあ、こんな事言ってるけどあたしが勝手に期待しただけなんだけどね。
「じゃあ星乃くんら歌って上手いの?」
「ど、どうなんでしょうか……? 多分素人に毛が生えた程度だと思いますし……」
そして、次の質問にも目を逸らしながら答えていた。
「そっか~。……はぁ、ボーカルどうしようかな……」
「伊地知さんは……やらないんですか?」
「いや〜、あたしは歌下手だし……」
「後藤さん……はあんな感じだったし……、あ、山田さんは……」
「リョウ曰く『フロントマンまでやったら私のワンマンでバンドを潰してしまう』だってさ」
「どっから湧くんですかその自信……」
これには流石の星乃くんも苦笑いだった。
「元々ギターボーカルやる予定だった子がいたんだけどね……」
「もしかして、なんか本番前にどっか行っちゃったっていう……」
「そ。今どこで何してるんだろうね〜」
あたしは遠い目をしながらその子の事を思い浮かべた。
「すみません、なんかお役に立てずに」
「ううん、星乃くんが気負う事じゃないよ。あ、そうだ! ぼっちちゃんって学校でどんな感じなの?」
「後藤さんですか? えっと……クラス違うからあんまり分からないんですけど……気付いた時には1人でいるって感じですね」
「成程。やっぱりそんな感じか〜」
「ほんと今思うと後藤さんと仲良くなれたのって、余程運が良かったか縁が強かったかのどっちかとしか思えませんよ」
今度は星乃くんが遠い目をしながらそう呟き、あたしは苦笑いをしていた。
「まあ、もしダメだったとしてもスターリーには遊びに来てよ。歓迎するからさ」
「あ、ありがとうございます」
「そうだ、折角だしロイン交換しない?」
「え? ロインですか?」
「うん。よく考えたら星乃くんとは交換して無かったし、これも何かの縁って事で」
「は、はい」
その日はこんな感じで日暮れまで簡単な話を続けた。
あたしは、星乃くんも一緒にバイト出来たら面白そうだな〜とは思ったけど後はお姉ちゃんに判断を一任するしかない。
……まあ、大丈夫じゃないかな?
根拠は無いけど、あたしは心の奥でそう感じていた。
〇 〇 〇 〇 〇
あれから3日が経った。
結局、星乃くんの採用についてはお姉ちゃんは何も話してくれ無いままだった。
「(う〜ん、そろそろ決まる頃だと思うんだけどな〜。星乃くんからも何も来てないし……)」
そう考えていたら、ピロンと着信音が鳴った。
相手は星乃くん、直ぐさまトーク画面を開いて、そこに綴られている文章を見た。
『突然の連絡失礼します。
この度は正式にそちらでバイトさせて頂く事になりました。
至らぬ所もありますが、改めてよろしくお願いします。』
その1文を見てあたしの顔には笑みが浮かんでいた。
『採用おめでとう!
これからよろしくね。頼りにしてるから!』
彼にはそう返信した。
相変わらず真面目というか、不器用というか……。
ま、ぼっちちゃん共々あたしが面倒見てあげないとね〜。
それはそうとして……
「お姉ちゃん?」
「あ? どうした?」
「星乃くんの採用のこと、教えてくれて無かったでしょ」
「あ……、悪い。忘れてた」
あたしはお姉ちゃんにロインの画面を見せつつ、不満げに言うと「そういやそうだった」と言わんばかりの反応が帰ってきた。
「はあ……、星乃くんから連絡来なかったらあたし何も知らないままだったんだけど? そういう事はちゃんと教えといてよ!」
不満を顕にすると、お姉ちゃんは明後日の方を向きながら「悪いって言ってるだろ……」って零していた。
「兎に角、明日から入ってもらうから教育係は頼むぞ」
「はーい」
お姉ちゃんの言葉に返答し、あたしは自室へと戻った。
「てな事があってさ〜」
「店長さんらしいですね」
次の日、早めに下北沢に来ていた星乃くんと偶然合流し愚痴をこぼした。
「全く……そういう大切な連絡はちゃんとしてって言ってるのに……」
「あはは……。……あと話変えるようで申し訳ないんですけど1つ聞いても良いですか?」
「どしたの?」
「その大量のエナドリどうしたんですか?」
星乃くんの視線はあたしの両腕に抱えられた大量のエナドリに向いていた。
「これね〜。なんかぼっちちゃんから『EDMガンガンにかけてリョウさんとエナジードリンク片手に踊り狂いながらバイトしててください』ってロインが来てたんだよね。なんの事かわかる?」
「いや……今日後藤さんとは自分がお昼ご飯食べたら別れちゃったので……。すみません。」
何やら星乃くんは課題の提出があり、ぼっちちゃんとはあまり話をしていないらしい。
「星乃くんってお昼ご飯はいつもぼっちちゃんと一緒に食べるんだ?」
「いや、いっつもって訳では無いんですけど……お気に入りスポットが一緒故がそこでしょっちゅう会うので……」
「へえ〜」
「あ、ドリンク持ちましょうか?」
「いいの? 助かる〜」
彼の好意に甘えて、エナドリを半分持ってもらった。全部持っても構わないとは言ってたけど流石にそこまで押し付けるのは気が引けたのでこうなっている。
全く……リョウも少し持ってくれれば良いのに。半分持ってくれ〜って頼んだら「私はベースより重いものは持てない」って言うもんだから……。いや、よく考えるとエナドリってベースより軽いじゃん! しかもしれっと1本だけ取って飲みながらどっか行ったし!
リョウに対する不満と星乃くんへの感謝が交互に頭を移動する中、あたしは見慣れたピンク色の髪の子……ぼっちちゃんを見つけた。
「星乃くん、あれぼっちちゃんだよね?」
「そうですね。あのピンクジャージは間違いないと思います」
星乃くんにも確認を取り、あたしは駆け足でぼっちちゃんの方へと向かって行った。
「ぼーっちちゃーん! よく分かんないけどエナドリ沢山買ってきたよ〜!」
近づくとそこに居たのはぼっちちゃんだけでは無かった。
もう1人の赤い髪の子が………って
「ああっーー! 逃げたギターーッ!!」
ぼっちちゃんと一緒に居たのは、初ライブのあの日、突如として姿を消した