ぼっち・ざ・ろっく・おぶ・ざ・ひーろー! 作:あいむ
前回のあらすじ
逃げたギターこと喜多はひとりたちの説得により、再び結束バンドのギターボーカルへと帰還した。
ここから新生結束バンドの伝説への1ページが刻まれようとしていた……とさ
ある日
STARRYの中
山田さんに
出会った
晴れやかな空のし〜た〜
雑草を〜食〜べ〜て〜た〜
「いや、何で?」
突如こんな事を言われても「訳が分からないよ」となった皆さん。皆さんの頭は正常です。
現に俺もなってます。
「この間郁代の多弦ベース買い取ったらお金が底を尽きた」
「またですか」
前にラーメン奢った(というより奢らされた)時も似たような事言ってなかった?
てかちょっと待て郁代って誰だっけ?
郁代……いくよ………
あ、思い出したわ。喜多さんの下の名前だ。
「あ、星乃くんもう来てたんだ」
山田さんに続き、伊地知さんもSTARRYへと到着したようだ。
「いや〜、ごめんね急に呼んじゃって。ぼっちちゃんと喜多ちゃんは?」
「2人ならスタジオで練習してますよ」
「へえ〜。あれ? 星乃くんも一緒に来たんだよね」
「ああ……ちょっと御手洗に行ってました……」
先程まで後藤先生の指導の元、喜多さんのギタートレーニングをしており、俺も興味がてらその話を聞いていたのだがトイレに行きたくなってしまい席を外していた。
「それにしても2人とも熱心だね〜」
「ですね」
俺と伊地知さんがそんな話をしていると山田さんはお構いなくスタジオの扉を開けていた。彼女に続く形でスタジオの方へと足を運んで2人の練習の光景を再び拝見……
「むむむむむむむむむむむむむむむむむむむつむむむむむ!!!!!」
出来ず、見れたのは全力で首を横に振り続ける後藤さんの姿だった。
いや、何やってんの?
「ねえ喜多さん、これどういう状況? 俺が居ない間に何があったの?」
「いいねそれ。新しいギターパフォーマンス?」
「え? 先輩これ好きなんですか? じゃあ私も!」
「しなくていいよそんな練習!」
俺の困惑を山田さんがぶった斬り、喜多さんが後藤さんのようにヘドバンしようとし、それを伊地知さんが止める……。
うん、だから何なんだこの状況。
「はいはい! これからミーティングだから皆集合!」
伊地知さんの号令と共に皆はスタジオから出ていった。
あれ? 俺、また何も状況把握出来てなくね? というかミーティングって何? 伊地知さんからは「今日STARRYに来てね!」って言われただけだし。ミーティングってバンドについてだよね? それともバイトについて? 前者だったら俺いらないんじゃ……。あ、これあれ? お茶とか出して的なそれとも買い出し? いや、伊地知さんに限ってそんなに荒い人使いする事は……いやでも……
「ほら! 星乃くんも天を仰いでないでおいでよ!」
「……ウス」
とりあえず伊地知さんに呼ばれたから行くか。
〇 〇 〇 〇 〇
「はい! それでは第1回結束バンド、バンドミーティングを始めます! 拍手!」
〇月△日
無事喜多さんが結束バンドに再加入した事で新生結束バンドとなった4人。今日はその記念すべき初ミーティングだ。
俺はモップを持って天を仰ぐ。やはり友人が笑顔であるというのはいい事だ……
「って、なんで星乃くんはモップ持ってるの?」
「え? 今日休日出勤って事じゃないんですか?」
「ウチそんなブラック企業じゃないよ!?」
その後、モップを片付け俺もミーティングへと加わった。
いや、俺いるの?
「その顔は『俺必要なの?』って思ってる顔だね」
「え?」
「だんだん星乃くんの事もわかってきたよ〜」
え? けっこう結構ポーカーフェイスしてたはずなんだが? 伊地知まさか読心術でも取得してる?
「いやいや、そんなエスパーみたいな力無いから!」
「いや、しれっと地の文読んでませんか?」
「それに後藤さんと喜多ちゃんの友達でバンドのマネージャー……? サポーター? ……いや、違うな。とにかく、せっかく一緒にSTARRYで働く身だしこういう所で結束深めていこうよ! 客席から見てる人の意見とかも欲しいし!」
「結束バンドだけに」
「リョウ、五月蝿い」
リョウさんのギャグはさておき、伊地知さんは寛大なようで俺のこともちゃんと受け入れてくれてるようだ。
そこまで言われたら……断る訳にもいかないだろう。
「コホン。では気を取り直して……今回の議題はこちら!」
伊地知さんが出したボードには『より一層バンドらしくなる為には』と書かれていた。
「折角メンバーも集まったし、まずはバンドらしさを追求していこー!って感じで」
「バンドらしさ……」
「いやまあね、練習あるのみってのは分かるよ? でもそればっかりって言うのも……ね?」
「例えば……5人揃ってゴレ〇ジャー!的な?」
「え? まあ……そんな感じ?」
はい、イキって成果上げようとしたらいきなり恥を晒しましたとさ。見てよ伊地知さんのなんとも言えない反応。穴があったら入りたい。……あ、ちょうどいいところにすっぽりハマれそうなゴミ箱が
「ちょちょちょ! 星乃くん無言でゴミ箱に入ろうとしないで! 伝わったから! 星乃くんが言いたいことは伝わったから!」
「湊音、だいぶぼっち色に染まったな」
「あっ……私のゴミ箱……」
ちょうど上半身がゴミ箱にハマったところで伊地知さんが必死に止めてきた。にしてもこのゴミ箱意外と居心地いいな。
「えーっと……まあ形から入ってみるのもひとつのてという事で!」
「つまりファッションやメイクと一緒ですね」
「そういう事! と言う訳で、早速だけどグッズ作ってみたよ!」
そう言ってテーブルに出されたのは……
「これって百均に売ってるコンセント束ねるヤツじゃないですか……」
「結束バンド?」
「え? これそんな名前だったの?」
「えっ……、知らなかったの?」
「いや、今までコンセント束ねるヤツとしか呼んでなかったので……」
速報
星乃湊音氏、ここに来て初めてコンセント束ねるコードみたいなやつの名前が結束バンドである事を知る。
「でもライブでこれ付けてたら雰囲気出ない?」
「いやそれ結束バンド巻いてるだけですよね?」
「え? 可愛くない? いろんな色あるよ。ほら!」
そう言って再びテーブルに置かれたのは桃色、黄色、青、赤の結束バンドだった。
「星乃くん、大丈夫だよ! ちゃんと白もあるから!」
「有難いけど1人だけ百均感がすごいっすよ!」
「よし、物販で500円で売ろう」
「ぼったくりだ!!」
いや、最早値段はともかく伊地知さんがボケに回ったら収集つかない! 早く戻ってきて!
「サイン入りは650円」
「安い! 買います!」
「やめなさい!」
喜多さん、山田さん絡んだら絶対マルチ商法とか引っかかるでしょ
「とりあえず他に意見がある人いる?」
「はい! イソスタで宣伝とかどうでしょうか! 私よく写真上げてます!」
「よし! じゃあ喜多ちゃんはイソスタ大臣に任命!」
おお〜、なんかさっきとは打って変わってテンポよく進むなぁ。やっぱり伊地知さんはボケに回っちゃダメだ。
「あとは……ファンクラブの設立とか?」
「あ〜、あの月額960円で動画見放題や限定配信やります的な」
「会費は1万円」
「そーそー、そういう良心的なお値段なら手が出しやす………ん? 今なんと?」
「会費は1万円」
「……因みに内容何するんすか?」
「会員特典として限定握手会や年に一度のたこ焼きパーティー。因みに材料はファン持ちで」
「山田さん、それはファンクラブじゃなくて新手の詐欺です」
まあそんな分かりやすい詐欺に引っかかるスカポンタヌキなんて今どき高校生でもいな……
「安い! 入ります!」
いたわ。山田さん絡みだと速攻でカモになっちゃう人。
「それバンド内でお金巡回するだけなんじゃ……」
「うん、喜多ちゃんもメンバーだからね?」
珍しく後藤さんが喋った。しかもまともなこと言ってる。
その後は伊地知さんが場を仕切り直てくれたお陰で何とかなった。
「後藤さんは何か意見ある?」
喜多さんが後藤さんに問いかける。後藤さんは陰キャ特有の不測の事態への弱さが発動してしまい「えと……その……」的な感じになっていた。
「大丈夫! ぼっちちゃんにはオリジナル曲の作詞っていう重要任務があるからね!」
そんな時、助け舟を出したのはまたしても伊地知さんだった。
……ん? 作詞?
「後藤さん、作詞出来たんですか?」
「えっ? えと……」
「ぼっちちゃんが作詞で、リョウが作曲だよ!」
ほーん、これは中々珍しい組み合わせ。にしても後藤さんの作詞かぁ……。なんか気になる。
「後藤さん、凄い役目任されてて凄いわね!」
「え? えへへ……まあ作詞なんてちょちょいのちょいですよ〜。うへへ……大ヒット間違い無しの歌詞書いちゃいますね〜ふへへ……」
「後藤さんってすぐ調子に乗るのね!」
喜多さーん、確かにそうかもだけど言い方がストレート過ぎませんかね?
「大ヒットの曲……か」
そんな中、俺たちはボソリと呟いていた山田さんの言葉に気付いていなかった……。
〇 〇 〇 〇 〇
その後ミーティングはそれなりに進み、ある程度時間が経ったところで今日のところは切り上げとなった。
俺と後藤さんは先にSTARRYを出て帰路に着いていた。最近は後藤さんを駅まで送ってから俺も自宅に帰還するのが何時もの事になっていた。
「……ところで後藤さん、さっきから難しい顔してどうしたんですか?」
何時もよりも暗い顔をしてブツブツ呟いていた後藤さんに声をかけたが反応は無い。一応、肩を叩いたらめちゃくちゃビビられて反応されはしたんだけど。
「後藤さん、大丈夫?」
「あっハイ。驚かせてすみません……」
「……もしかして作詞で悩んでる?」
そう聞くと図星だったのか「えと……」と目を逸らされた。
「素人の俺が言うのもなんだけど……そこまで難しく考えなくても良いんじゃないんですか? 先ずは自分の書きたいイメージから言葉を連想すれば自ずと出てくると思いますよ?」
「……え? もしかして、星乃くんも作詞やったことあるんですか?」
「へ? あ……いや……昔ちょっとね……」
とりあえずここははぐらかせて貰おう。これに関しては触れられたくない。
「あっ……でも喜多さんが歌うとなるとやっぱり明るい歌詞の方が良いですよね……」
「うーん、どうだろ? 別に絶対そうじゃなきゃいけない訳じゃないと思いますが……」
普段めちゃくちゃ明るい曲歌ってるアーティストが突然シリアスな曲歌うとギッャプ生まれるパターンもあるけどこの場合はどうなんだろ?
「とりあえず俺も何か手伝える事あったら手伝いますので言ってください」
「あっありがとうございます!」
「……参考までに俺の知ってる盛り上がる曲何曲か送りましょうか?」
「ぜっ是非お願いします!」
食いつくように懇願してきた後藤さんに答えるべく、3曲程データをLINE越しに送信した。
ロック調の曲と……ある歌い手の聞いてると元気が出る曲、それとキワモノではあるがパーティー気分になる曲も入れといた。
さて、これが上手く転がってくれると良いが……。
駅の改札に消える彼女の背中を見ながら、静かに健闘を祈った。