「やりすぎたんだ。お前は。今に見てろ。あんたの兄貴に伝説の超人兵士、怒りを抑えられない男、我儘暴走少女、殺し屋コンビ。全員がお前を倒す」
神であるはずのロキを見下すように、トニー・スタークは言い放つ。だが、ロキにとってそれは強がりにしか見えなかった。
「ハハッ、強がりだな。だが残念、もうすぐ軍隊が来る。この星とは比べ物にならないほど強い、そしてお前たちよりも大勢の軍隊が」
「違う、勘違いするな。僕らが狙うのはお前だ。絶対に、お前だけは倒す」
静けさを知らないタイムズスクエアを中心に人の波によって埋め尽くされる光景は、ニューヨークの日常そのもの。
そこで暮らす人々は慣れ親しんだ喧騒に身を任せ、観光客は新たな名物になったスターク・タワーに入っていくアイアンマンに目を輝かせ、知人たちへその情景をどう語ろうかと心を躍らせる。
そんな平穏は突然、壊された。
スターク・タワーの上空に突然、現れた虚空へと繋がる穴。そこから飛び出した謎だらけのエイリアンの襲撃を止める術をニューヨークの人々は持ち合わせていなかった。
チタウリと呼ばれるエイリアンたちは重力に縛られた人々を嘲笑うように、身一つでニューヨーク上空を我が物顔で飛び回る。彼らから次々と放たれる攻撃は差別なく、平等にニューヨークの人々へと降りかかった。
破壊される街並み。それを見て、市民はただ逃げ惑うほかない。
故郷を守らんと必死に警官が銃を向けるも、彼らが持つのはハンドガンが精々。押し寄せるチタウリ兵の超技術にはまるで歯が立たず、ただ蹂躙されるほかない。
そんな地獄に一機のクインジェットが現れた。
ロキに洗脳され、いいように扱われた復讐に燃えるホークアイことバートンに駆られる戦闘機は、この事態の主犯の元へとチタウリ兵たちを薙ぎ倒しながら最短距離で向かう。
そんな機内でスティーブはイリヤに釘を刺すように言う。
「いいか、イリヤ。僕は君が戦うのには反対だ。決して前には出ず、バナー博士が来るまで後方支援に徹するんだ」
「分かったわ」
クインジェットに乗る際の約束。イリヤはスティーブの言うことに従うこと。
その条件の確認に素直に頷くイリヤ。そんな彼女のようすにナターシャはボソリと呟く。
「絶対分かってない」
「何か言ったか?ロマノフ」
「いいえ、何も!」
そんな会話が繰り広げられる機内をよそに、クインジェットはソーと戦いを繰り広げるロキを銃撃。が、人間の兵器は彼の肉体に歯が立たず、ロキの杖から放たれた攻撃一発で墜落。
そうして残骸となったクインジェットを出て地上へと降り立ったロジャース、ナターシャ、バートン、そしてイリヤ。
当然ながら墜落したクインジェットは目立った。しかも先ほどまで同胞を薙ぎ倒していた存在。チタウリ兵たちはジワジワと包囲網を縮め、出てきた彼らを仕留めるときを今か今かと待ち望む。
そんな絶望的な状況も、彼らからすれば慣れ親しんだ非日常。
WW2でヒドラを相手に常に最前線を駆けた兵士。S.H.I.E.L.Dとして中東では敵の絶望的な包囲下を生き延びたエージェント。
幾度となく死線を潜り抜けた彼らがこの程度で絶望などするはずがない。
ロジャースは攻撃を盾で弾きながらチタウリ兵を殴り飛ばし、ナターシャは素早く懐に入り込み制圧、バートンはチタウリ兵が武器を向けるよりも早く、矢を構え、狙い、放つ。
それは最早、芸術のように美しく、数学の解答書のように無駄のない戦闘だった。僅か一分に満たない戦闘時間で、包囲していたチタウリ兵たちを一掃すると、ロジャースはすぐさま行動を次へと移す。
「まずは市民の救助だ。イリヤ。君は──」
できれば戦わせたくない。
例え彼女が戦うことを望み、その力があるとしても。少女が戦場にいていい理由にはならない。
そんなロジャースの思いは少女自身によって踏みにじられた。
瓦礫の散らばる、罅割れたアスファルト。ひっくり返り炎上する自動車が後片付けを忘れた遊び場のように転がる、荒廃した都市。
そこに武器も持たず、戦闘服も着ず、頭上でクルリクルリと回る銀の小鳥を侍らし、佇む少女。
その異様な光景は銃を構えるチタウリ兵たちをも戸惑わせる。だが、その足が止まることはない。ジワジワと3体のチタウリ兵が動きのない少女へと迫る。
そうして彼らは入り込んでしまった。彼女の間合いに。
ヒュンッ──
何かが空を切る音が一人のチタウリ兵の耳に入る。しかし彼が、何が起こったのかを理解するよりも前にその意識は闇へと落ち、身体は地面へと崩れ落ちる。
突然、ぐちゃりと地面に崩れ落ちた同胞を目の当たりにして呆然とするチタウリ兵に小鳥たちは慈悲を与えることはない。まるで餌を啄む鳥のように小鳥たちは次々とチタウリ兵に襲い掛かり、そのイリヤの髪色と同じ銀の身を血に染める。
それは僅か数十秒の蹂躙劇。
侵攻者である彼らの打ち捨てられた死骸の間を悠然と歩く少女に、ロジャースはかける言葉を見つけることができなかった。
「こうなると思った」
「おい、なんだあの娘は。魔法使いか何かか」
見え透いた結果にナターシャは呆れ、その光景を初めて見るバートンは驚きの声をあげるが二人ともその手は独立しているかのようにチタウリ兵たちへの攻撃を続ける。そんな彼女らのようすにロジャースもなし崩し的に戦いへと身を投じていく。
その後方。
幸運にも、そこのニューヨーク市民は逃げ去ったか既に物言わぬ躯に姿を変えていたため、彼女の存在がこの戦いのあと、公にはならなかった。そしてその凄惨なあとは瓦礫に隠され、気づけばニューヨーク襲撃被害の陰へと追いやられることとなる。
チタウリ兵たちは仲間の躯を十数体、地面の染みにして気づき始めていた。
この小さな個体が、自分たちの脅威であると。そして認識がそうとなれば、やることは決まっている。
バヒュン、バヒュン
とチタウリ兵の持つエネルギー兵器特有の音が次々と鳴り響く。
地球にはない兵器から放たれる青いエネルギー弾が、イリヤのその小さな体目がけて。
だが、エイリアンの攻撃が少女に届くことはない。
一方イリヤが操る3羽の小鳥は主人の影響か、見た目にそぐわない凶暴さで次々とチタウリ兵に襲い掛かり、チタウリ兵の攻撃から身を挺して主人を守る。
そんな泥臭く、土と汗、そして血に塗れた戦いが繰り広げられる地上とは打って変わって空中。アイアンマンが絶え間なく襲い来るチタウリ兵を苛烈に、しかしどこか優雅さを持って撃墜し続ける最中、新たな脅威が彼の前に現れていた。
「なんだあれは」
スタークの口から久方ぶりにユーモアなしの驚嘆が漏れる。
虚空から現れた、巨大な金属で覆われた生命体。リヴァイアサンと呼ばれる魚のように空を泳ぐそれは、身一つで戦うアベンジャーズの面々が見上げるしかないほどの存在感をまき散らす。
ソーも合流し、目につくエイリアンたちをようやく一掃したときだった。やっと一息をついたときだった。
まるでニューヨークを守らんと戦う者たちに絶望を押し付けるように、2匹、3匹とリヴァイアサンは虚空から姿を現し、続々とリヴァイアサンの背からチタウリ兵が飛び出す。
それはこれまでアベンジャーズが倒した数を優に超える。
最早、数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどのチタウリ兵が地上を、建造物の壁を跋扈し、先ほどまで空中を支配していたアイアンマンはあまりに巨大なリヴァイアサンを前に火力不足という結果を叩きつけられ、撃破から陽動へと動きを変える。
だが、戦場の神は平等だった。彼、もしくは彼女の天秤はチタウリ兵たち側へと傾いた途端、つり合いを取り戻す。
リヴァイアサンの登場で合流したスタークを除く面々の耳に場違いなバイクのエンジン音が入る。
その乗り手の姿は見窄らしかった。
その男は優れた頭脳こそあれど、肉体は一般人のそれに過ぎなかった。
だが、その男は焦がれるほどに待ち望まれていた。少し特殊な力を持った少女から。
「やっぱり来てくれると思ってた。バナー」
「間に合った、とは言えないみたいだけどね」
地上は破壊の後で埋め尽くされ、空を見ればチタウリ兵とリヴァイアサンが飛び交うニューヨーク。
確かに彼は出遅れた。だが、まだ完全に手遅れというわけではない。
バイクを降りた彼はイリヤと慣れ親しんだ軽口を叩くも、続く言葉が出てこない。
そしてそれはイリヤも同じだった。ここにきて傍若無人と勝手気儘を地で行く彼女は珍しくも言葉に詰まっていた。
ここまでロキへの怒り、フューリーへの嫌悪感、バーサーカーへの渇望で忘れていたバナーへの感情。それが再会の場になってイリヤの心に浮かび上がる。約束を破った負い目が。
気まずい沈黙を先に破ったのは年の功があるブルース・バナーだった。
「僕が悪かった、イリヤ」
ここに来るまで何度も口の中で転がした言葉は本人の予想より滑らかに、しかし情報を欠落させて彼の口から零れ出た。
「え……あ、うん。私も……ごめんなさい、約束守らなくて。それにバーサーカーも。私が下手なことしなければ離れ離れにならなかった」
「…………」
「…………」
あまりにもたどたどしい謝罪を交えた会話。それはまるで牛歩のようで、後ろで二人の会話を見る面々にはもどかしさを感じさせるものだった。
そんな会話を嫌ったのか、イリヤは無理やり声を張り上げる。
「それじゃ行きましょ!バナー」
「待って、イリヤ!」
空元気のイリヤの声を遮って、バナーは大声をあげる。そのあまりの珍しさにイリヤは目をしばたたかせて、彼の次の台詞を待つ。
そんな彼女を前にバナーは自分を落ち着かせようと呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと口を開く。
「一度、はっきりさせておこうと思うんだ」
「僕はハルクを認めたくなかった。君が何と言おうと、彼は僕の人生を滅茶苦茶にした。ついさっきも色んな人を傷つけた」
「分かってたさ。君がハルクに会いたがっていることを。僕が彼を閉じ込め続けることを快く思っていないことを」
そして一気に零れ出すバナーの本音。共にいた2年間、一滴も零れることのなかったそれに聞き手に徹していたイリヤは居心地の悪そうにそわそわする。
だがバナーは彼女の様子に気づくことなく、矢継ぎ早に言葉を続ける。一度でも止まると駄目だと、少しでも冷静になったら言葉が止まってしまうと分かっていたから。
「僕は君に言っただろう。その能力は使っちゃいけないって」
「現に君はこんな危険な場所にいる。その能力に目をつけられて」
「あぁ違う。僕が言いたいのは、そういうことじゃなくて、つまり──」
そうして一頻り言葉を吐き出したバナーは、最後の一滴を絞り出す。
老人の助言に背中を押されながら。
「──仲直りがしたい。君と」
ブルース・バナーは今、確かに一歩を踏み出した。行きがかりではなく、別れることに怯え続けるのではなく、今度こそ少女と本当の関係を築くために。
「僕はもう、君を頭ごなしに止めない。イリヤ。君と本当の意味で対等になりたい。だから約束してくれ。誰に利用されるでもない。君自身の意思で、ハルクと共に戦うと」
「うん、分かった。約束よ、バナー」
そしてバナーの確かな誠意にイリヤは答える。否、彼女は答えなければならない。
それは矜持。バナーが自分の思いに答えてくれたのだ。だというのに自分が断ることなど、あってはならない。
そしてこれは彼女自身への責務でもある。
目は口程に物を言う。その覚悟は彼女の眼差しにしっかりと宿っていた。
それを見たバナーはフッと笑い、口元を綻ばす。
「よかった、安心した」
「……ありがとう、バナー」
恥ずかしがるように目を伏せるイリヤ。彼女のいつもより少し小さな声の感謝は大人たちから見ればどこか微笑ましさがある。
だが顔を上げた少女に数舜前まであった年頃の面影はなく、続く言葉を言い放つ。
「それじゃあお願い」
言わなくても分かるだろう。
その意図をひしひしと感じられる、傲慢ともとれる無遠慮な頼み。
だがそれは今までと違う、信頼を含んだ頼みだった。
あぁ、自分はなんて馬鹿な男なのだろう。
バナーは自らを卑下する。笑みを浮かべた彼女から放たれるたった一言に、贄になる自分にかけられた言葉に信頼が込められていることに、こんなにも胸を躍らせる自分を。
そうしてバナーは理性の手綱を静かに手放す。
それは今までのような突発的なものでない。完全にバナーの意思で彼の身体は上限の心拍数を超えて、意識はもう一人の彼へと移り始める。
「ねぇイリヤ。僕の秘密を一つ、聞いてくれないか」
「なに?」
消えゆく意識の中、バナーは自分の最後の秘密を曝け出す。
誰に強制されるでもなく、自らの意思で。
「僕は怒るとハルクになると言ってきたけどね……僕はいつも怒ってる」
次々と理不尽な試練を与えてくる世界に。守ると誓った少女を守り切れぬ不甲斐ない自分に。その感情を次の彼への燃料として残し、バナーの意識は希薄になり、彼の肉体は変化を始める。
ブチブチと僅か数時間前に出会ったばかりのシャツは膨張する肉体を前にその役目を早々に終え、緑の肉体が姿を現す。
肉体の主導権を握ったハルクは、その大きな図体にも関わらずどこか申し訳なさそうにイリヤを見る。まるで怒られるのを怖がる子供のように。
だが、当の本人はそんなことを意に介さない。
「行こう、バーサーカー。今度は、二人で」
二人で。
その言葉にハルクは顔を綻ばせる。子供が見れば、泣き出しそうな迫力ではあるが。
「仲直りは終わったか?だったら今から連れてくるお客様の歓迎を頼む」
そして見計らったようなタイミングで通信機から聞こえてくる、軽い口調のトニー・スターク。しかし彼の口調とは裏腹に、状況は最悪だった。
摩天楼の隙間を縫うように飛ぶ彼を、大口を開け喰らおうとビルも橋もお構いなしに食い破って迫りくる一体のリヴァイアサン。その装甲は新たなスーツの武装で断トツの切断力を誇るレーザー・カッターですらかすり傷がやっと。
いつもの自分ならどうしただろうか。
トニーはふと状況に相応しくない物思いに耽る。
誘いこんで建造物ごと圧し潰すか。それとも装甲のない内部からの攻撃か。はたまた周りの被害を顧みない大規模攻撃を行うか。
そんな回り道ばかりが頭をよぎる。
そう、自分はすでに最適解を見つけている。それが最適解だと確信している。
自分以外の誰かに、アベンジャーズ最強の男に倒してもらうという最適解を。
そしてそれは、トニーだけではない。このニューヨークに集った皆の、最後は自分の力しか頼れなかった者たちの選択肢に、初めて他者が、アベンジャーズと名付けられたチームが浮かび上がる。
そうしてトニーが頭上を通り過ぎたことを確認したハルクは動き出す。両足を広げ、握りしめた右の拳をゆっくりと、まるで何かを溜めるように体の後ろへと運ぶ。そして停止した。
そんな奇妙な光景を意に介さずに、大きな口から不揃いな牙を見せつけながら、獲物を喰らわんと破壊の限りを尽くし続けるリヴァイアサン。
暴君は気づかない。自分が断頭台に首を差し出す死刑囚と何ら変わらないことを。
そしてリヴァイアサンの口がハルクを飲み込もうとした瞬間、トンッとその巨体にしては明らかに軽い動きでハルクの身体は宙へ浮き、リヴァイアサンの頭上を陣取る。
そしてその脳天に一発、右の拳骨を叩きこんだ。
ドンッという音と共に放射状に広がる衝撃波と拉げるリヴァイアサンの頭蓋。力任せに変えられた頭部の圧力によって眼球は飛び出し、その他の器官も我先にと近場の逃げ道である口、耳から飛び出す。
たった一撃。それがニューヨークの空を暴れまわった暴君を地へと叩き落した。
だが、まだ止まらない。
頭部を地面に縫い付けられたことで、速度を出していたリヴァイアサンの巨体は強制的につんのめり、倒れ込む。
ハルクの後ろに、守るべき少女の方に。
だがそれを彼のもう一方の拳が打ち砕く。
リヴァイアサンの頭蓋から右の拳を引き抜くと、滴らせた血をそのままに今度は飛び上がる。そして左の拳を一閃、リヴァイアサンの脊椎へと叩きこむ。
その一撃は、再びリヴァイアサンの肉体を抉り、リヴァイアサンを完膚なきまでに破壊しつくす。
それは本来なら有り得ないこと。
チタウリにとってリヴァイアサンは戦術級の戦力であり象徴的存在。それを単騎によって撃破されたことにチタウリ兵たちは戦慄する。
だが彼らもまた、止まることはない。数多くの同胞を屠り、そして今リヴァイアサンを倒した彼らこそが命令を果たすうえで最大の障害であると、チタウリ兵たちは理解し、次々と鬨の声を上げる。
アベンジャーズを囲うように四方八方から響く異星人たちの咆哮。
その数には絶望的な差がある。だがそれが、ここにいる理由も、戦う理由も、何もかもが同じになった彼らの諦める理由にはならない。
「さて、それでどうする。キャプテン?」
「あの通路が閉じるまで敵を押しとどめる。それで誰か、閉じ方に心当たりがある人は?」
「「「「「「…………」」」」」」
当然ながら帰って来るのは沈黙。トニーは四次元キューブの専門家ではないし、知っている可能性のあるもう一人は現在、意識不明。
だがそんな状況にバートンが一石と投じる。
「ちょっと待ってくれ、キャプテン。ロキを倒せばいいんじゃないか。俺としてもお礼の一発は喰らわさないと腹の虫が収まらない」
「ロキはアスガルドで裁く。あまりボコボコにされても困るぞ」
「僕はもう一発喰らわしたから一先ずは大丈夫かな」
「バーサーカーはまだ何にもできてないんだけど」
「バーサーカー君はヘリキャリアをぶっ壊したからな。もう1カウント取ってるぞ」
「あなたが2カウント目になる?」
「皆、ちょっと待て。ロキを倒せば軍団を指揮する者がいなくなる。被害が拡大するぞ」
あまりにも血気旺盛な会話にロジャースが止めに入る。そこには確かな根拠がある。
故に理性がある者は、ロジャースの話に納得し矢継ぎ早に飛ばされる彼の指示に従って動き出す。
ソーは虚空で待ち伏せしての迎撃、アイアンマンは遊撃、ホークアイは全体の状況把握と援護、ロジャースは地上で戦闘と市民の避難、ナターシャは虚空の穴を閉じるべく工作。
各々の役割を果たすべく、戦場へと散らばるアベンジャーズ。
「ハルク、それにイリヤ」
最後に残った二人をロジャースは呼ぶ。
アベンジャーズの面々で唯一戦争の経験があり、かつて自ら最前線で味方を鼓舞し続けたアメリカの象徴。その所以が二人の琴線に触れる。
「暴れろ」
そしてその短い一言に二人は示し合わせたように笑う。
「行くわよ!バーサーカー!!!」
バーサーカーの肩に乗るイリヤから発せられた、待ちきれないと言わんばかりの弾んだ声が瓦礫の街で響き渡る。
それを合図にハルクはググッと膝を曲げて力を溜めた数舜後、その場から二人の姿が掻き消える。そして二人に吼え声を上げていたチタウリ兵は、その肉体を壁へとめり込ませた。
ここまでアベンジャーズの面々に蹂躙されてきたチタウリ兵だが、彼らは決して弱くない。
地球よりも発展した技術に裏打ちされた兵装に壁を四肢でよじ登れるほど恵まれた肉体。
彼らの鎧は動きを妨げない機能性と拳銃程度の弾丸なら掠り傷で抑える耐久性を完備した一級品。それは地球上の軍隊に対し、明らかに優位に立てる代物。
その鎧が役割を果たすことなく守るべき肉体ごと圧し潰される。
それを認識した隣のチタウリ兵はすぐさま銃を向ける。がそれよりも早く、ハルクの拳が彼をビル壁へとめり込ませる。
速さ、筋力、肉体強度。そもそもの肉体のスペックが違いすぎた。
近接戦は無謀。
ならばと距離を取れば、すぐさま少女の小鳥が自分たちを啄もうと襲い来る。
少女を狙おうにも、激しく動き回る巨体の肩の小さな的を当てるのは至難の業。
運良く当てることが出来たとしても、その攻撃は小鳥に防がれ、ただただハルクの怒りを買うのみ。
それは完全な悪循環。否、離れていても驚異的なジャンプで気づけば目の前まで来ているハルクは、悪循環を際限なく拡大させる。そこからの脱出は最早チタウリ兵の自力では困難。
一方イリヤたちの動きに疲労による陰りはなく、この蹂躙劇がいつまでも続くかのように思われた。
だが、状況は変わる。
他ならない、首謀者ロキの手によって。
本当はもうちょっと書くつもりだったけど、一万字超えたので次話に持っていきます。
スパイダーマンの新作すごかったですね。