イリヤ in MCU   作:抹茶アイス大好き

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戦い

目新しい破壊痕を見せつける城の正面玄関。

そこに二人の人影が姿を現す。

 

片や緑の巨人、片や小柄な少女と全く釣り合いの取れていない背丈。

しかし、なぜだかそれは妙に馴染んだ姿のように感じられるものだった。

 

巨人の高々と飛び上がった状態からの着地で舞い上がった白い雪。それはまるで純白の舞台幕。

 

それを捲って現れた二人を迎えるように、城のホールに男はいた。

というより、男は彼女が来るのを待っていた。

 

「待っていたよ、イリヤスフィール。何やらオマケがいるが、なるほど。そいつが警戒線に反応があったやつか」

 

ハルクの腕から降りたイリヤは、聞き慣れない男の猫なで声じみた優しい声にゾワリと鳥肌の立った腕をさすりながら男に向けて言い放つ。

 

「私はこの城に帰って来たんじゃない。私は自由になりに来たの。あなたを倒してね」

 

明らかな宣戦布告を告げる少女に男は笑う。

 

「なら数十年ぶりのリベンジマッチだな」

 

その言葉を合図に男の後ろに侍る十数人の黒服たちが銃をこちらに向け照準を合わせる。

それに対しハルクは身構え、イリヤはいつでも髪を引き抜けるよう待ち構える。

 

そんな様子のイリヤに男は問いかける。

 

「鳥は出さないのか?」

 

「何を?」

 

思わず聞き返すイリヤに、男はかぶりを振るうと語り掛ける。

 

「まだ未熟か……鳥だ。できるだろう。髪の毛を操れるようになったのならできるはずだ」

 

「やり方は分かるはずだ。お前の身体はそう作られている」

 

「銀色の鳥だ……あの女は髪を変形させていた。いつもやらせただろう。あれの続きだ」

 

矢次に言葉を重ねる男。

 

罠かもしれない。

 

そんな疑念をイリヤが抱くのは当然のこと。

しかし今、男がそんな罠を張る理由があるのか。

何よりバーサーカーがいる。

 

その自信が男の言う通りにするよう、イリヤを後押しする。

 

「集中しろ」

 

耳に入るしつこい男の声に、舌打ちしたくなる思いを胸に留め目を瞑る。

 

意識を自分の体の中へと向け、雑念を黙らせる。

吹雪く冷たい風もバーサーカーの息遣いも消えていく。

 

 

出来るだろうか。いや、出来る。

記憶に新しい思い出が想起される。

下らないと内心呆れていた老爺の助言。必要なのはイメージ。

小さく、純真無垢で、汚れない白い翼。

 

 

手は勝手に動いた。

 

 

プツリと小さな音がなる。

そして何度も見たように、髪は先端から動き出す。

ヒュンと空気を切る音と共に線は曲がり、捻じれ、絡み合う。

そして、いつもならそこで終わりだったはずの行為は初めてその次へと至る。

 

「あぁ、ああああああああああ!!それだ!!それだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

男が絶叫する。

それに含まれるのは僅かな驚嘆と嫉妬、そしてそれらを全て打ち消さんとするほどの歓喜。

 

ただの一本の髪の毛が創り出した一つの形。

イリヤの隣に浮く白銀の小鳥は一見彼女とは無関係に見えて、彼女が主であることを証明していた。

 

男の叫び声に、イリヤとハルクは顔を顰める。しかし、そんな些細な変化に男は気づかないほど気を高ぶらせたまま、戦いの火ぶたを切り落とす。

 

「あのデカ物を殺せ!イリヤスフィールは生け捕りにしろ。キズ一つつけるなよ!」

 

その命令に黒服たちは次々と銃口を向けると一斉に引き金を引く。

 

イリヤを狙うなと言う命令。

だが、男の命令を理解してなお万が一に備えハルクは動く。

弾がイリヤに当たらぬよう、ハルクはその巨体を十全に使い肉壁となる。放たれた弾丸はハルクの体に当たるも傷をつけることはなく、弾かれて大理石の床を削る程度のことしかできない。

 

そうして十数秒続いた射撃音が止まる。

かつての白く美しい姿を失い、黒く爛れた大理石の床の上に立っているのは、顔を怒りで歪ませるハルクだった。

 

ゆっくりとイリヤを守る姿勢を解くハルク。一方、ハルクが動いたことで周囲が見えるようになったイリヤは、黒服たちを指さしハルクに声をかける。

 

「あいつらを倒して、バーサーカー」

 

イリヤの願いにハルクは吼える。その叫びに含まれるのは怒りだけではなかった。

 

今までハルクが力を振るう時、バナーはそれを止めようとしていた。それは、ハルクが周囲の人や物を傷つけてしまうのを恐れたがためのことだった。

だが、今回は違う。バナーも怒っていた。こんな年端の行かない少女に、非道なことを行った男に、その部下たちに。

 

そしてハルクもまた、いつもとは違った。

自分の後ろには、初めて自身に全幅の信頼を寄せる少女がいる。

彼女は自分を恐れない。利用しようともしない。

 

ただ、信じている。

人々から怪物と恐れられ、罵られ、石を投げられ、嫌悪され続け、半身の自分すらも存在を抹消しようとしてきた自分を。

 

ただ自分が、ハルクが──そう、バナーではない──助けてくれると少女は信じている。

その自分に向けられた信頼がハルクを異常なまでに高ぶらせる。

 

今、バナーの体で常に対立しあっていた二つの人格は手を組んだ。

1人の少女を助けるために。

 

大理石の床を蹴り、黒服たちへと殴り掛かるハルク。

集団に一人で突貫する愚策。

しかし、そもそも黒服たちの持つ銃程度ではハルクのダメージにはならない。それを分かっているが故のハルクの行動はこの状況において、最適解であった。

 

腕の一振りが突風を、足の一踏みが地割れを起こす。

人の形に押し込められた天災が、黒服たちの前に顕現していた。

 

しかし次の瞬間、城に大きな炸裂音が響く。銃声とは明らかに違う音が耳に入った直後、先ほどまでとは明らかに格の違う衝撃がハルクの体を襲う。

 

たたらを踏むハルク。

その姿に驚いたイリヤが音の鳴った方向を見るとそこには城のどこに隠していたであろう、砲口から煙を上げる大砲が二人を見下ろすようにあった。

 

それに威嚇するように唸り声を上げるハルクに、すぐさま次弾を撃ちこもうとする黒服たち。ハルクは大砲を潰そうとするも、突貫したがゆえに自らを包囲されており黒服たちが肉壁となり辿り着くことができない。

 

そこでイリヤが自身の隣に滞空させた小鳥を動かす。

 

小鳥は空を切りながら大砲へと迫る。

当然、黒服たちにもその光景は見えており手の空いていた者は小鳥を迎撃すべく銃を撃つ。だが小鳥はそんな彼らを嘲笑うかのように移動速度に見合わぬ機動力を見せつける。

そして、丁度砲弾が詰められたばかりの薬室に体当たりした。

カァンとどこか軽い音と共に砲身に穴が開き、そこから徐々に明るい光を放出され始め──

 

 

爆発

 

 

続けて飛び散った火の粉は近くに積まれていた砲弾にも引火し、次々と爆発が連鎖する。

巻き起こった爆風がイリヤの髪を巻き上げ、一瞬遅れてひしゃげた砲身がその髪を掠めながらイリヤの後ろへと飛んでいく。

イリヤはそれを身じろぎ一つ、瞬き一つせずその先を見つめる。

 

自分の恐怖の対象だったものが、為すすべなく消えていく。その光景を脳裏に焼き付ける。

 

最早戦いの大勢は決まった。

黒服たちにハルクの有効打を与える武器はない。

 

それを感じ取ったイリヤは、戦うバーサーカーを置いて先に進む。目指すは城の奥、あの男が去った先。

あの男とは、絶対に自分が決着をつけなければならない。

 

バーサーカーに任せたい。自分が戦わなくてもいい。

 

そんな思いがなかったわけではない。

でも、それは城を逃げ出す前の自分と同じだ。

 

もしもあの時メインホールに行かなければ、もしもあの時外に走り出していなければバーサーカーとは出会わなかった。

 

私があの時、決断したから今がある。

お城の中で王子様の助けを待つお姫様になんてならない。

私はもう、期待しない。

 

痩身の男の後を追ってメインホールから去っていくイリヤ。

 

それを見たハルクは黒服の最後の一人を殴り飛ばすと、イリヤを追いかけようと慌てて走りだす。

ところが、そんなハルクの目の前に新たに現れた複数の人影が立ちふさがる。

 

「ドオォ…ケェェェェェェ!!」

 

不格好な、しかし間違いなく本物の威嚇の声を上げるハルク。

そして勢いそのままに先ほどの黒服たちと同じように乱入者たちを薙ぎ倒そうとする。だが、その人影たちはハルクの突進を軽々と避け、持っていた成人の身長ほどはあろうかという巨大な斧をハルクに振るう。

 

無論、ハルクの肌に傷をつけることは叶わない。しかし、衝撃は通用する。

体の軸をずらされ反撃の拳を空振りしたハルク。

黒服たちを蹂躙した暴風のごとき拳は躱され続け、着実にハルクの怒りのパラメーターが上がり続ける。眼は血走り始め、比喩表現抜きで人を殺す眼力と共に人影を睨む。

 

しかし人影の顔を見たハルクは目を見開きその動きを鈍らせる。

そこには、どこかイリヤを思わせる面影をもつ女たちの姿があった。

 

 

 

 

 

 

ハルクが女たちに足止めされる最中、イリヤは一人で男の後を追う。

しかし、その差は縮まるどころか逆に広がっていく。いかにイリヤが走ろうと所詮は10歳程度の少女の走り。さらにはケガも治りきっておらず、万全とは言い難い状態で成人した男に追いつけないのは道理だが、イリヤは城の構造を熟知している。

 

そして、この先が行き止まりであることに気づいたイリヤは内心ほくそ笑む。ところが、いざその行き止まりの場所へたどり着くと、そこには新たな道が出来ていた。

 

 

「地下室……?」

 

 

その光景に、イリヤの過去の記憶が疼く。

 

あぁ、そうだ。

私は一度、この階段を下りたことがある。

 

黒服の抱えた荷物が気になったときに、彼らの後をつけて見たはずだ。自分とよく似た、赤の他人というには明らかに自分との関係を思わせる容姿をした少女たちの死体を。

 

下へと伸びる階段。先は暗く、視界は悪い。

その暗闇が、先ほどの戦いで高揚していた気分に冷や水を浴びせる。

高ぶった心臓は落ち着きを取り戻し、イリヤは若干の緊張と共に暗闇へと踏み出す。

妙に長く感じる十数段の階段を降り、かつて在りし日の自分が歩いたのであろう廊下を進み続ける。

慣れない靴が妙に響く音を立てる。

ぼんやりとした明かりが並ぶ薄暗い道を白銀の小鳥が照らす。

そんな廊下の終着点、明りを放つ部屋へ向かう。

警戒しながら部屋に入るイリヤだったが、明度の変化に目が追いつかず思わず目を瞑る。

そうして何度か瞬きを繰り返し、ようやくはっきり映った視界がイリヤの入った部屋を映す。

 

ガラスで出来た、人ひとり入ってしまいそうなほど大きな水槽が、空っぽのままいくつも並んでいるせいで窮屈に感じる部屋。

そんな部屋の奥に男はいた。武器を持っていない。丸腰だった。

 

「追いついたわよ」

 

「俺を殺すのか?」

 

「当然でしょ」

 

問いかける男に、イリヤは無慈悲に言葉を返す。

だが、男の表情に変化はなかった。

 

男はただ、イリヤの答えに頷きながら彼女の背後に目を向ける。

 

「その女を倒したならな」

 

その言葉が放たれた瞬間イリヤに向かって、イリヤの背後に回り込んでいた人影が刺突を放つ。

僅かに聞こえた何かが動く音に何とか反応するイリヤ。

そんな出遅れた対応をする不甲斐ない主人を守るべく体当たりで槍先を逸らす小鳥。

 

小鳥と刃がぶつかり、鋭い金属音と共に火花が散る。

そこで、体勢を整えたイリヤが不意打ちをした下手人の顔を見る。

 

顔立ちは異なる。体つきに至っては大きく異なる。しかし、紅い瞳に白に近い銀の髪。

それはイリヤに自分の関係者であることを想起させるには十分なものだった。

そしてイリヤはその動揺を隠しきれるわけもなく、小鳥の動きは繊細さを失う。

しかし、相対する女はそんなことを気にせずイリヤを攻め立てる。

 

何度も自身に迫る凶器を何とか小鳥に嚙み合わせ受け止める。

再び鍔迫り合いの状況に陥り無機質な目で自分を見つめる女にイリヤは話しかける。

 

「なんであの男の命令を聞くの!?」

 

イリヤにとって当然の疑問。イリヤは男の命令に心の底から従ったことなど一度もない。

もしも彼女にも自分と同じ思いが少しでもあるのなら。

そう期待を込めて叫ぶが、それは無情にも切り捨てられる。

 

「命令を聞くのは当然のこと」

 

表情も変えず、淡々と紡がれる言葉。イリヤと同じ紅い瞳に感情はなく、女は小鳥を振り払うとイリヤに迫る。

 

イリヤを守る小鳥は間に合わない。

そこでイリヤは空いていた左手で、髪を引き抜きなんとか再び小鳥を創り出そうとする。

だが──

 

「クッ」

 

失敗する。

引き抜いた髪は形作る前に女の攻撃を受け霧散する。

イリヤは衝撃を抑えきれず、転ぶように倒れこむ。しかし、時間は稼いだ。

迫る槍を小鳥が寸でのところで受けとめ、戦況は再び元に戻る。

 

そんな二人の戦いを男は後ろでジッと見ているだけ。

その静けさがあまりにも不気味でイリヤの意識に居座り続ける。

 

あの男を殺す。でなければ私に自由はない。

けれど、それよりも目の前の相手。

目の前の女を……──

 

 

──……殺さなきゃ。

 

 

何度目であろう、白銀の小鳥と槍がぶつかり互いに弾かれる。

女は槍ごと大きく後ろへ滑り、小鳥は今までと違い大きくイリヤの後ろへと回る。

女はそれをチャンスと見、腰を落とすと追撃をかけるべく槍を掲げ一息にイリヤのもとへと突進する。

 

それに対し、ぐいっと大きく回った小鳥は反動を生かして一気に加速する。

今まで見せなかった小鳥の動きに女は対応することができない。

 

そうして銀の小鳥は女の柄空きの胴を貫いた。

 

朱に染まった小鳥は、胴を貫いた勢いそのままに身に付いた汚れを落とす。

一方、イリヤまで残り僅か数歩という距離まで迫った女は、胴を貫かれた衝撃で槍を手放していた。

 

そうして手放された槍は、偶然にも傍観者へのもとへと向かう。

男がそれに反応などできるはずもない。

女の手を離れた槍は男の左腕を根元から断ち切る。

ドンッと音と共に床に突き立つ槍の隣で、驚きの表情を浮かべた男はすぐに表情を歪めると声にならない叫び声をあげる。

 

「──ギャアアァ!……アァ……ウゥゥ」

 

声にならない叫びと共に腕のあった場所を抑え、うずくまる男。

 

「ゴホッ」

 

一方、腹に穴が開いた女は口から、そして貫かれた穴からにじみ出すどす黒い朱の液体が白い服を汚す。そして力を失った腕がだらりと下がると、その腕に引きずられるようにして床へと崩れ落ちた。

パタンと床に座りこむように力を失った体は指の一つも動かず、糸が切れた人形のように顔を俯かせヒューヒューと擦れた呼吸を繰り返す。

 

「ごめんなさい」

 

蚊の鳴くような小さな声で懺悔するイリヤ。

しかし、それに対し女が答えることはなかった。

そうして、僅かに女の生存を示していた呼吸音も途絶える。

 

それを確認したイリヤは小鳥を連れゆっくりと男に近づく。

 

自分を守る盾がもう何もない男は、腕があった場所から止め止めなく流れる血液を抑え痛みに顔を歪めて地面に這い蹲っていた。

口をパクパクと動かし痛みにもがき、それでも耐えようとするその姿。

 

そんな光景がイリヤは愉快で仕方なかった。

 

体中に管を突き刺された。四肢を拘束され、死なない程度に体を切り刻まれた。

そんなことをされ泣き叫んだ私を見下ろした、冷たい眼差し。

かつての二人の立場は今、逆転していた。

 

しかし、イリヤは動かない。

 

男が苦しむさまを見ていたい、というわけではない。無論、全くないと言えば嘘になるが。

ただイリヤは躊躇っていた。

 

「どうした……殺すなり何なり好きにしろ」

 

何もしてこないイリヤに男は言う。

 

そうだ。殺すんだ。何も、何も躊躇することはない。

もう恐れる必要はない。相手は丸腰。老い、やせ細り死にかけの体はとても戦えるようには見えない。

 

だというのに、決心がつかない。

情ではない。それは確かだ。

そう、これは

 

 

疑問

 

 

「私は──私は何なの?」

 

イリヤの口から零れ落ちたそれは、紛う方なき本心だった。

 

男はイリヤのつぶやきに目を見開くと、血の気が失せ青白くなった顔をイリヤに向ける。

 

しかし、イリヤの目に冗談の色はない。

それを認めると、若干の間をあけて男はゆっくりと口を開いた。

 

「お前は、アインツベルンの遺産だ」

 




ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー vol.3最高でした。
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