イリヤ in MCU   作:抹茶アイス大好き

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あけおめー


怪物の隣にて

「なるほど、狙いはバナーね」

 

「何?」

 

「ロキはハルクを目覚めさせる気よ。バナーをラボから出さないで。ソーも呼んで」

 

先ほどまでのナターシャの狼狽は影を潜め、ロキの嗜虐的な笑みは困惑へと変わった。

そんな彼にナターシャは微笑み言い放つ。

 

「ありがとう、おしゃべりさん。協力してくれて」

 

 

 

 

 

 

 

 

「試作モデルって何!?」

 

ようやく終わったジャービスによるS.H.I.L.Dへのハッキング。

次々と展開された資料の見出しに、トニーは訳が分からず驚きの声を上げる。

その疑問にフューリーが言い訳するよりも早く、正しい答えが第三者の手によって分かりやすく確かな形で示された。

 

「それはキューブの力を利用した兵器だ。悪いね、僕が先に見つけた」

 

ガタンッと机上に無意識に荒々しく置かれた金属体。

それはトニー達には見覚えのないものだ。だがロジャースの記憶には、はっきりと焼き付いている。

 

これは武器だ。

四次元キューブのエネルギーを利用した、かつての仇敵であるヒドラが造った兵器だ。

 

半世紀以上も前に造られた年代物。それがシールドの手によって保管されていた。埃一つ被らないほど大事に。

そして今、シールドは四次元キューブを死に物狂いで探している。

 

ここまで要素が揃えば、誰だってこう考える。

 

シールドはヒドラの真似をしようとしている。

四次元キューブを取り返した後、兵器を造る気なのだ、と。

 

「我々はキューブのデータを集めていただけだ。軍事目的というわけでは──」

 

「おい、ニック。それは何の嘘だ?」

 

何とかフューリーが絞り出した嘘もシールドの機密情報を覗いているトニーの前では無意味だった。トニーが態々体を動かしてロジャースたちに見せた画面には明らかにミサイル系統の兵器が表示されていた。それもご丁寧に弾頭に四次元キューブのパワーを使っていることを図付きで説明した、素晴らしい資料だった。

 

「世界は変わってないようだな」

 

ロジャースはフューリーに詰め寄り、それをバナーは冷たい目で見つめる。

彼の理性の糸は限界まで張り詰めていた。いつ千切れてもおかしくないほどに。

 

そんな空気のラボにロキの企みをいち早く見抜いたナターシャが警告を聞いたソーを引き連れて現れる。

本来なら心強い味方であるはずの彼らだったが、この場では火に油を注ぐだけだった。

 

「イリヤ、博士を別の場所に移動させるのを手伝ってくれない?」

 

「場所を変えようって?いいね、そうやって彼女を利用する気か」

 

何とか場を宥めようとするナターシャに嚙みついたのはバナーだった。

彼は怒っていた。この状況に陥ってしまった、自分の選択に。

 

ナターシャは世界を救うためだと言った。

違った。

S.H.I.E.L.Dは四次元キューブの力を利用しようとしている。

 

ハルクに用はなく、ブルース・バナーに用があると言った。

違った。

彼らはハルクを利用する気だ。

 

 

イリヤを守れなかった。

 

彼女の力をいつまでも隠し通すのは不可能だ。それを分かっていながら彼女を連れだした。自分の我儘で。

そもそも自分は彼女に必要だったのか。あの時誘ったのは間違いだったのか。

 

インドで人のために仕事ができて調子に乗ったのか。甘い蜜にまんまと誘われた結果がこれだ。

 

 

嫌だ。分からない。分かりたくない。考えたくない。

黙れ。逃げるな。愚か者が。

 

 

逃避と自責がバナーの心を切り裂き感情のコントロールを失わせる。

その心の混沌を丁度いいタイミングで来て、自分に場所を移してはどうかなどとのたまうナターシャに皮肉と共にぶちまける。

 

そんなバナーを皮切りに、各々が次々と口を開いては互いに傷つける言葉を放つ。

 

彼らの衝突は止まらない。

ここにいる理由も、戦う理由も、何もかもが違うのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博士号を七つ持つブルース・バナーも、天才エンジニアであるトニー・スタークも、S.H.I.E.L.Dの頂点に立つ謀略家も気づけなかった。

 

逆反射パネルで肉眼は勿論、衛星からも完全に姿を消したヘリキャリア。進路も秘匿されており、発見は困難を極める空の要塞。

しかし、いかに鉄壁を誇ろうとトロイの木馬が入り込んでいるとなれば、それは砂で作られたも同然の欠陥品になり下がる。

 

誰もがロキの杖はただの武器だと思っていた。よく分からない何かが先端についていて、それが仲間たちを洗脳する機能の付いているだけだと。

 

天才たちでも思いつけなかった。

四次元キューブがガンマ線を発し自らの位置を知らせているようにロキの杖もまた、己の位置を知らせていることに。

 

 

 

 

 

一機のクインジェットが、ヘリキャリアへの着艦を試みていた。

 

『着艦リストにありません。積み荷を申告してください。どうぞ』

 

『武器と弾薬です。どうぞ』

 

着艦許可を求めるその機体が載せているのは、確かに武器と弾薬だ。付け加えて言うのなら、それで武装している戦闘員とロキに洗脳されたホークアイだった。

 

敵は着実に迫ってきている。

だがヘリキャリアの誰もがそれに気づかず、頼りの存在たちすらも口論に夢中だった。

 

そうして一本の矢がホークアイから放たれた。

一見すると見当違いな方向に放たれたそれは、はるか上空の強風を見事に乗りこなし狙い通りの場所へと突き刺さる。

鏃はピッピッとカウントダウンの電子音を数回鳴らすと──

 

ヘリキャリアのエンジンを吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

イリヤは運が良かった。

 

ロキの杖による影響も合わさり、秩序のない言い合いを始めた大人たち。

その姿はインドの貧民街にいた、喧嘩を始める一歩手前の酔っ払いのようにイリヤには映っていた。となればその後の展開は当然知っている。

 

これから始まるのは見るに堪えない下らない喧嘩。バナーを見捨てるのは少し心が痛むが、巻き込まれるのは御免被る。

 

そう考えたイリヤは、徐々に距離を縮め文字通り顔を突き合わせようになった大人たちとは逆に、部屋の端に隠れて様子を見守る気だった。

 

瞬間────

 

凄まじい衝撃と共に噴出した爆炎がラボにいた面々を襲う。

エンジンの爆発によって生じた爆炎は通気口を辿り、この研究ラボへとたどり着いていた。

 

ナターシャとバナーは吹き飛ばされ、残骸と共に階下へと落ちていき、他の面々も床に叩きつけられうめき声をあげていた。部屋に残されたの者たちも爆発の衝撃から抜け出せない中、立ち上がりが早かったのはトニーとロジャースだった。

 

「スーツを着ろ」

 

「そうだな」

 

先ほどまでの険悪さをかなぐり捨て、トニーとロジャースはすぐさま部屋を飛び出す。

それに続いてフューリーは煤けたコートを翻して二人に続く。

 

「イリヤ、博士を止めろ」

 

フューリーは部屋の隅で物陰に隠れて被害をやり過ごしたイリヤを目ざとく見つけ、そう言い残すと事態の対処のために部屋を飛び出す。

そうして千切れた配線が火花を散らす室内に一人残されたイリヤ。

 

「私、あなたの部下じゃないんだけど」

 

ポツリと呟いた彼女のぼやきは誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ッ」

 

一瞬、飛んでいた意識が戻ってくる。

ぼんやりとした頭を振って覚醒させ、ナターシャはすぐさま自分の現状を把握する。

 

頭から出血はなし。

胴体を打ち付けたものの骨折等の致命的なケガもない。足は残骸の下敷きになり、中々抜け出すことができないが足自体は無傷。

それを確認し、何とか足を引っ張り出そうと周囲へ目を走らせたナターシャは、自分の顔から血の気が引いていくのを嫌というほど感じ取った。

 

うめき声を上げ、蹲る男。

それがただの男ならどれだけよかっただろうか。

 

ブルース・バナーの心拍数はとうに上限を超えていた。

膨張する体はミチミチと服から悲鳴をあげさせる。

 

背筋を這いあがる悪寒にナターシャは必死になって足を瓦礫の下から引きずり出そうと足掻く。しかし脱出することは叶わず、悪あがきもお構いなしにブルース・バナーはその姿を変える。

 

 

怪物がそこにはいた。

 

 

寝ぼけ眼なのかヨロヨロとよろめきながら寄りかかった拍子に鋼鉄製のボンベがアルミ缶のようにへし曲がる。

静かに、ただ呼吸を繰り返し佇むだけの怪物。ナターシャの本能が今すぐ逃げろと泣き叫ぶ。

しかしナターシャは喚く本能を捩じ伏せ、ただひたすらに音を消す。目の前の存在に気づかれれば命がないことを、彼女は痛いほど感じ取っていた。

 

そんな静まり返った暗闇の中、突然トンッと軽い異音が怪物とナターシャの耳に入る。

その異音の発生源に向いた二人の視線の先には一人の少女がいた。

 

「イリヤ!!」

 

怪物に気づかれることを厭わず、ナターシャは少女の名を叫ぶ。自分の命と少女の命。

彼女の高潔な魂はその天秤を少女へと傾けた。

 

真実を知らぬ彼女の行動は残酷にも無意味だった。

遅れながらも降り立った少女はナターシャを一瞥すると、ハルクに向かってゆっくりと歩み寄る。怪物は自分に近づく少女に気づくと、無作為に動かしていた体をピタリと止めて少女を見る。

 

 

大きく、分厚い緑の肌に覆われた手。

最も細いはずの小指ですらイリヤの両手には収まらない。

それを小さな手のひらで握りしめると、イリヤは愛おしそうに頬に当てる。

 

そこは二人だけの世界だった。

 

イリヤは懐かしさに身を任せ、バーサーカーとの触れ合いに全神経を注ぐ。

そうして感じるのは静かに佇む彼の業火のような怒り。

 

これまで1年近く、バーサーカーはバナーの中に閉じ込められたままだった。

ずっとイリヤは会えなかった。自分を助けてくれた存在に。

バーサーカーに触れるイリヤには痛いほど彼の感情が流れ込む。その激情はイリヤの中にあったバナーとの約束を簡単に押し流した。

 

「イリヤ?」

 

何をしているのか

 

残骸から抜け出したナターシャの問いかけにイリヤはゆっくりと振り返る。

その時のイリヤの表情をナターシャはよく知っていた。それは今まで何度も見てきた顔だ。

勝利を確信し取るに足らない格下を見下ろす、支配者の目。

 

宝石のような赤い瞳は細められ、興奮のせいか頬を赤く上気させた端正な顔に浮かぶ、歪んだ笑顔。

 

「どうするバーサーカー?」

 

不気味なほど静まり返った暗闇で、少女の声が静かに木霊する。

イリヤの問いかけに、怪物は手近の残骸を掴むと腕を振りまわし吼える。

 

その分かり切っていた答えにイリヤは喜色満面の表情を浮かべ、今にも踊り狂ってしまいそうなほど上機嫌な声音で叫ぶ。

 

「えぇ、そうね、そうよね!ぶち壊しましょう!何もかも、邪魔するものは全部!私たちで!!」

 

その声が合図だった。

 

ナターシャは今度こそ本能に従い、全力でその場から駆け出す。と同時に彼女の背後で身も凍るような恐ろしい破壊音が響き始める。

だがそれすらもハルクにとってはウォーミングアップだ。

 

そしてイリヤは自分の髪を()()、引き抜く。

 

かつてバナーはイリヤに言った。

その力は特別なものだ、多くの人間がそれを求める、と。そしてバナーはイリヤを縛った。彼が力を使わないよう、その存在を隠すように。

 

だがバナーはイリヤを見誤っていた。

イリヤにとってこの力は呪いだ。自らを城に閉じ込めていた男の遺した言葉が、永遠とイリヤの心に残り続けている。

 

自分が何なのか。

あの城で得ることが終ぞ叶わなかった答えを見つけるために。

その手段に、この力こそが鍵になるとイリヤは確信していた。故に、その力を自分の中にいつまでも使わずひた隠しにするなど論外だった。

そうして今、彼女の力は成長を遂げた。引き抜かれた髪は二羽の小鳥へと姿を変え、イリヤの周りを回る。

 

それを見届け、怪物は動き出した。

少女を肩に乗せ、己の背後に残骸をまき散らしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警報音の鳴り響く艦橋で、フューリーは何とか平静を保ちながらヘリキャリアの現状を眺めていた。

船の命綱たるエンジン一基の破壊、敵対勢力の侵入、ハルクの暴走。

 

特に最後の一つに関しては、動揺を何とかひた隠しにしているのが現状だった。

 

イリヤは間に合わなかった。バナー博士の変身を止めることができなかった。

しかし、フューリーはあることに気づく。

 

「上に向かっている?」

 

ハルクが残り三基の生命線に突撃していたのなら、フューリーはなりふり構っていられなかっただろう。だが、実際はどうだ。

 

ハルクの前情報のわりには少ない破壊規模──それでも財務担当が悲鳴をあげる被害──でヘリキャリアは何とか空に留まっている。

そしてその元凶は船体上部、すなわち甲板へと一直線に向かっている。まるで船の重要部を避けるように。

 

「君なのか。イリヤ」

 

自分を見上げる、一人の少女。バナー博士の連れ子だという少女の顔が脳裏に浮かび、突拍子もない考えがニック・フューリーの頭をよぎる。

 

だが──

 

「いや、今はそんな場合じゃない」

 

彼はそれを片隅へと追いやり、進路を変えようにも方位磁石が壊れて方角が分からないなどと泣き言を抜かす部下を怒鳴る。

 

「太陽を見ろ、太陽を!今は何時だ。理科の授業を受けてなかったのか!?」

 

その言葉に慌てて動き出す部下を横目にフューリーは指示を続ける。

膠着状態から一転、盤面が激しく動き出した今、ここが彼の正念場だった。

 




ということで、本作ではハルクと一緒にイリヤを暴れさせます。
最初は爆発で気を失わせるつもりだったけど、こっちの方が面白そうだったので変えました。ただし思い付きで舵をきったので、プロットが無意味なものに変わりました(計画性のないアホ)。
こっからの展開どうしようかと悩んでいるので、次は更新遅れます。
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