ミドガル魔剣士学園。
王都にある、この国の貴族が通うことになる学校だ。
ミドガルは魔剣士がかなり力を持っている国であり、優秀な魔剣士を代々輩出しているすごい学校なのだ。
そして、この私、サイカ・テスコも、なんと特待生として入学することになった。
まあシドくんと違って、剣に関しては実力を隠していたわけではないし、当然といえば当然なのかもしれないが。
そして、そのシドくんなのだが。
廊下で出会った時に、手を振って話しかけてみたら。
「僕みたいなモブに君みたいな幼馴染がいるってなったら少し目立っちゃうだろ!」
と言われてしまった。
実際彼の友達からは「おい、なんだあの可愛い子知り合いか!?紹介してくれよ!」とか「あんな可愛い幼馴染がいるなんて、僕ならもう色々しちゃってますよ!」とか言われた。
なんか申し訳ないな……。
ということで入学してからはシドくんとそこまで話すこともなくなり、なんとなく疎遠な感じになってしまった。
……まあ私可愛いしな。成長してスタイルも良くなった。
イプシロンに裏切り者とでも言いたげな目で見られたけど。
まあ向こうも……なんだっけ、ヤセとサツマ?みたいな友達ができたみたいだし。
私も一人、友人ができた。
「アレクシア、おはよう」
「おはようサイカ、今日も朝練?精が出るわね」
「うん、まあせっかく寮に入れたんだし、使える時間は使わないと」
ということで、私の友人、アレクシア・ミドガル。
なんとミドガル王国の第二王女。どう考えても私みたいな貧乏貴族なんかと釣り合わないとっても高貴なお方なんだけど……。
「そうそう聞いて?屋台のおばちゃんがまた新しいメニューを開発したらしくて、それがすっごく美味しくて……」
「あんまりそんなものばっか食べてたら体壊すよ?」
「いいのよ、毎日薄味の料理ばっかなんだからちょっとくらい食べたって」
なぜか、呼び捨てにすることを許され、普通の世間話をするような関係になった。
特待生とはいえ、一部の中では一番身分が低いであろう私が一国の王女と仲良くするなんざ本当に、本当にイレギュラーで、なんなら毎日のように周囲の他の生徒から嫌味言われたりするんだけど……。
「また今度一緒にいきましょうね、サイカ!」
「いいけど、本当にほどほどにしなよ?体壊したら心配するんだから」
なんかすごい懐かれちゃったんだよなあ……。
まあ色々あったのだ。色々。
別に明確にいじめられているわけではないし、一度アレクシアが言ってくれたおかげでだいぶそういうのも減ったので、釣り合わない王女様のお友達をやっているのだ。
……それに、国の要人と仲良くなって付き合うのもちょっとスパイっぽいじゃん?とか思ったり思わなかったり。
私が初めてサイカを見た時の感想は、「胡散臭い」だった。
優等生で、努力家で、見た目も良くて、おまけに人当たりもいい。
特待生として上級貴族たちの中に紛れることになっても、変に媚びへつらうこともなく。
全くと言っていいほど欠点のない完璧人間。
人の本質は欠点に出る。
だから、サイカという少女のことは、とてもじゃないけど信じられない。
それが、私とサイカの出会いだった。
特に、私はサイカの剣が気に食わなかった。
圧倒的なまでの凡人の剣。
才能のかけらもない人間が、努力で天才に追い縋ろうとする無様な剣。
私よりも確かに剣は上手だった。
一部の中でも上位、下手すると高学年でも通用するほどの使い手の彼女の剣、それでもまだ凡人でしかない剣が、私の未来を暗示しているようで。
まるで私と鏡合わせのような。
そんな彼女が、私は心底苦手だった。
用事で遅くまで学校に残っていた日。
私は、練習場で剣を振るうサイカに出会った。
「こんな時間まで練習して立派ね。……そんなに努力して楽しい?」
思わず、皮肉が口をつく。
いつもの私らしくないと思いつつ、ついには思っていたことを吐き出してしまった。
天才に縋るために努力して、それでも追いつけなくて。
そんな意味のない努力になんの意味があるのか。
自分自身でも努力を続けながら、ずっと心の底に思っていた疑問。
「え?はい、楽しいですよ」
「……え?」
だから、帰ってきた返答に、私は少しぽかんとしてしまった。
努力が、楽しい?
……いや、違う。これもどうせ嘘だ。そうに決まってる。
そうじゃないなら、この私の苦しみはどうすればいいというのだ。
「なんというか……追いつきたい人がいるんです」
「追いつきたい人?」
「はい。あの人は、剣も、それ以外も何もかもが完璧なんじゃないかってくらいで。でも私は、それが彼が努力してきた証拠だってわかってるんです。だから私も努力して、少しでも彼に近づきたい。横に並び立てるようになりたいんです。努力すると近づいてるって実感できるから……ってごめんなさい、変なこと言っちゃって」
「……どうして、そんなに頑張れるの?どれだけ頑張っても、届かないかもしれないとか思わないの?」
動揺せずにはいられなかった。
だってそれは、私と一緒で。
だから思わず聞いてしまった。
「んー……」
そしてサイカは、少し考えてから答えた。
「……多分、私結構負けず嫌いなんだと思います。私の悪いところです」
……そんな。
そんな理由で、私のずっと抱えていた悩みを……。
「……ぷっ、ふふ、ふふ、ご、ごめんなさ、ふふ、あはは」
「えっ、私なんか変なこと言いました?!」
「いえっ、なんか悩んでたのがバカらしくなっちゃって、ふ、ふふ」
ひとしきり笑ってから、私はサイカに聞いた。
「私も、一緒に練習してもいい?」
「……はい、いいですよ」
少しだけ、ほんの少しだけど。
同じような人がいるってわかったら、少しだけ自分の剣が好きになれた気がした。
「ねぇ、そろそろこの前言ってた『彼』について教えてよ」
「……それは、秘密で……」
「えー、ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃない、その人のこと好きなの?」
「だからそーいうのじゃないって」
「本当かなぁ……?」
アレクシアと、いつも一緒に練習している練習場へ向かうために玄関へ向かう。
すると。
「あれ……告白の申込の手紙ね。めんどくさいけど振らないともっとめんどくさいのよね……。先に練習場に行っててくれる?すぐに行くわ」
「わかった、人気者は大変だねぇ」
「ゼノンもどうにかしないとだし……まあ、とりあえず振ってくるわ」
そして、数10分後。
練習場で剣を振るっていた私に、アレクシアがこういった。
「シド・カゲノーって人と付き合うことになったわ」
「……えっ?!」
剣が手をすっぽ抜けて行った。
何やってるんだ、あいつ……。
別にアレクシアは凡人の剣を好きになったとかそういうわけじゃなくて、同じようなこと考えて、姉のことを考えないで見てくれる凡人の友達ができたからちょっとコンプレックスが解消されただけです。
それでも姉へのコンプレックスはまだ残ってるので、その辺を解消するのはシドくんの仕事なんじゃないですかね。