主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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前回より短いですが、なんとか一週間以内に更新できました。


第104話

「なんだありゃあ!?」

自然と溢れたその言葉が離れた場所で見守る天閉の何が起こったのかという疑問と驚愕を明確に示していた。

 帝国の二大将軍とナイトレイドの戦いの火蓋が切られたと巻き上がる砂塵から理解した後、突如辺りから巨大な氷柱が地面から突きだしドーム状になり全てを包みこんでしまったのだ。

完全に予想外のことである。

(まさかイェーガーズの野郎これを予想して俺にあんなことを……)

 しかし、その光景を見ていて自分が主水に渋々させられたことに納得がいくのだった。

◇◆◇◆◇◆

 氷の牢獄とも称すことができる決戦の場をとてつもない威圧感が支配する。

その場にいるだけで戦うことの決意が揺らぐかのように脚がおのづと小刻みに震えてくる。

明確な死への恐怖と、まるでのし掛かってくるような圧迫感、息をするのさえ難しくなる。

ナイトレイドのメンバーは気圧されかけていた。

このような化け物と正面きって戦おうとしていたのかと。

「恐れるな!我々も強くなったんだ。そして、やつらは連係することはない。我々は逆に連係して戦えばいいのだ。仲間を信じてな。アカメ、タツミ、エスデスを頼む。レオーネ、マイン、私と共にブドーを相手するぞ!」

皆を勇気付けるようにナジェンダが檄と指示をとばす。

皆はナジェンダを振り返るとナジェンダは軽く口許に笑みを浮かべ小さく頷いた。

皆はその笑みに勇気付けられ、同じように頷くと気合いを入れ直しアカメは村雨を構え、タツミはインクルシオの鍵を抜く。

一瞬顔をしかめたが、仲間に悟られぬよにインクルシオを発動させ身に纏う。

レオーネもライオネルで獣化しステータスを大幅に強化し、マインはその後方にパンプキンを構え、二人と合流したナジェンダは義手を具合を確めるように鳴らした。

「たしかに私たちは連係などせん。しなくても十分に強い上にブドーとは最終的に拳を交える予定だからな」

「…………」

猛禽類のような鋭い瞳で視線を横にいるブドーにとばすエスデスだが、ブドーはそれをさらりと受け流す。

「行くぞナイトレイド。我が主に抗うこと地獄において悔いるがよい」

「!!」

ブドーのいた場に砂煙が立ち上り体に雷を纏ったブドーが砲弾のような勢いで走り出すと即座にレオーネに肉薄していた。

鈍重そうに見える見た目とは反しそのスピードは恐ろしいものがある。

「断罪する!」

「早っ!」

ブドーの拳が、纏う雷が唸りをあげてレオーネに襲いかかる。

しかし、レオーネも事前にナジェンダからブドーのスピードに気を付けることを聞いていたことと、獣化しているため並外れた反射神経を得ていたことを生かし体を屈めてかわしきる。

「良くやったレオーネ!」

「ぬっ!」

レオーネの屈んだ所にブドーの拳が空振りすると、ブドーの目の前にナジェンダの鉄の拳が迫り、顔面を捕らえた。

レオーネが屈んでかわすことを読んでナジェンダがロケットパンチを放ったのだ。

「ナジェンダそれが貴様の全力か?」

鉄の拳が顔面を捕らえたはずであるがまるで何もなかったかのようにブドーが拳を払いのけつつ問い掛ける。

「ブドーお前にこれぐらいでダメージが与えられるとは思っていない。今だマイン!!」

「ええ!」

二人との戦いでできたブドーの隙をついたマインがブドーの側面に入り込み、構えたパンプキンの砲口が光る。

「これがお前たちの狙いか!」

「そうよ。ここまで近づけば避けられないしその危険性から威力も上がる。喰らええええぇぇぇっっ!!」

「うおおおおお!!」

網膜を焼くほどの激しい閃光がブドーの体全体を捕らえ、ブドーの咆哮をかき消しつつ澄んだ氷の天井まで一直線に軌跡を刻んだ。

ーーーーー

「葬る!!」

ブドーが走りだすのとほぼ同時にアカメがエスデスに向かい低姿勢で地を滑るように襲いかかる。

「来るかアカメ」

冷たく切れ長の瞳が一層細められる。

端整な美貌が愉悦に綻ぶ。

アカメの村雨の鋒が僅かに下段に沈み、アカメが地を踏み締める。

(真っ向から来るか。面白い)

エスデスはその桁外れの動体視力でアカメの僅かな違いも逃すことなく捕らえ、即座に対応すべく細剣を引く。

アカメの攻撃を避けることはせず、合わせ力で圧倒する。

絶対なる強者の戦い。

 アカメが地を蹴るのに合わせその長大な細剣を振るう。

その剣速は凄まじく、目視することも叶わぬほどで振るわれる細剣だが、アカメの村雨に触れることはなかった。

「ほぅ」

僅かにエスデスの口許から感嘆の言葉が漏れる。

 アカメは真っ向からぶつかる素振りを見せ誘導しつつ、瞬時に変化しエスデスの後ろを取ったのだ。

 今までの戦いの中でアカメは必ずといっていいほど全力で一刀にかけていた。

しかし、その弱点を主水に指摘されたことから戦い方を変化させたのだ。

そのことを知らぬエスデスは、それに合わせての対応をしたことが裏目に出た。

「終わりだエスデス!!」

下段からアカメが切り上げるーーーーはずだった。

「うっ!?」

絶好の好機、エスデス相手にもう訪れることはないと言えるほどの機会であるのに村雨が動かない。

アカメが村雨に視線を向けると、地面から伸びていた氷の鎖が村雨に巻き付き動きを拘束していた。

「意表をついたつもりだろうが、私のほうがお前より先を見ていたということだ」

エスデスは振り向くことなくアカメに裏拳を打ち込むが空をきる。

手応えがなかったことに僅かに視線を送るとそこにアカメの姿はない。

アカメはすでに村雨を地に向け氷の鎖の拘束をほどき離脱していた。

 これも以前であれば相手を殺すことに注視することでなんとか攻撃しようとし、まともに反撃を受け、戦闘不能に陥っていてもおかしくないことであった。

「エスデス!!」

「タツミ」

僅かに視線が反れたのを見逃さなかったタツミがインクルシオの副装品の槍でエスデスを穿つ。

エスデスの体が僅かに波打った。

「やったか」

「さすがタツミだ。私の心臓を狙うとは。しかしなタツミ、私の心臓はとっくにお前に射ぬかれているぞ」

穂先を素手で掴みつつエスデスはタツミに語りかける。

まるで恋を囁く乙女のように。

「はっ」

タツミはびくともしない槍を鉄棒のようにしエスデスに蹴りを放つ。

しかし、エスデスはそれさえも読みきり細剣を地面に突き立て、容易くその足を掴んでいた。

「いい蹴りだ。成長したなタツミ」

「くっ」

体を捻りもう片方の足で蹴りを放つがそれもあっさりと首を反らして避けられる。

「物理的に愛を語り合おうか」

「はっ!」

「おっと」

隙をつき村雨で斬りつけるアカメだが、タツミを手放し軽やかなステップで後方に間合いをとる。

「無粋なヤツだ。私とタツミの愛の語らいを妨げるとは」

妖艶な笑みを浮かべるエスデスに二人に絶望が走る。

二人は息を乱しているのに対し、エスデスは息一つ乱していないのだ。

「ぬうっ」

そんなエスデスの横に先ほどパンプキンの直撃を受け吹き飛んだはずのブドーが並ぶ。

黒い甲冑にはたしかにダメージが見えるが、ブドー本人は全く傷ついた様子すら見られない。

「力を抜いているからそういう目にあうんだぞ」

「たしかにナイトレイドを甘く見すぎていた」

「ならばヤツラと同じように力を合わせてみるか」

「戯れ言を」

エスデスは不敵な笑みを浮かべると手のひらを向ける。

「皆避けろ!!」

はっとしたナジェンダが大声をあげる。

アカメとタツミ、離れた所にいるナジェンダ、マイン、レオーネが一直線に並んでいたのだ。

 皆が飛び退いた刹那、エスデスの掌から噴き出した強烈な白い冷気が走り地面が凍結し、

「~~~~~」

地面に転がっていたシュラが真っ白な氷像と化す。

絶対零度の波が一瞬において熱持つ人間さえも芯まで凍結させたのだ。

「ぬうッッ!」

ブドーが大きく腕を引き、豪快に拳を振り抜く。

その拳は音速を超え、産み出した爆風のような衝撃波が凍結した地面を抉りつつ突き進む。

地面は大きく抉れ、氷像と化したシュラは粉々に砕け散る。

生前していたことは醜かったが、散り際はキラキラと輝き美しかった。

そのまま衝撃波は走り続け前方の氷の柱を破壊した所で爆音のような空を穿つ音が鳴り響いた。

「なんて力だ……」

「パンプキンでも壊すことが出来なかった氷柱が一発で………」

ナイトレイドのメンバーが顔をしかめる。

目の前で見せつけられた桁違いの力の片鱗。

力を合わせられたら生存確率は0になるのは火を見るより明らかだ。

「やはりお前とは合わんな。私の檻を破壊しおって。やはりお前とは拳を合わせることしか考えられん」

「くだらん」

エスデスは地面に手をつき、破壊された氷柱を再び生成する。

ブドーはつまらなそうに地を一蹴りしナジェンダ、マイン、レオーネの元に向かう。

「先程の非礼を詫びよう。次は手加減抜きでいくぞ」

「!!」

圧倒的な圧力が空間を軋ませるのか、陽炎が立つように空間に歪みが発生していた。

ナイトレイド対二大将軍の第二ラウンドが始まる。

 


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