主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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今までで一番更新まで時間がかかってしまい申し訳ありません。


第113話

「うっ………」

 

ボヤける視界が次第に鮮明になり、白い天井が映り、触覚が自分が今布団の上で寝ているということを伝えてくる。

 以前もこのようなことがあったなと、主水は苦笑いを浮かべた。

 そしてあの時と同じならばと確認のために周囲を見回すと、自分がヘソクリを隠すためのみに購入した掛け軸が壁に掲げられ、メザシに似た魚を炙るために使った火鉢、帝都の古道具屋で見つけた将棋版のようなものが目にはいる。

 

(今度は自分の部屋か)

 

今自分が寝ている部屋は、見慣れた小物や、愛用の物があることからナイトレイドのアジトに存在する自分の部屋だと認識した。

 

(あの時は警備隊の医務室だったか)

 

 以前の記憶を呼び起こしていると、視覚の次は嗅覚が反応した。

自分の男臭い部屋に存在するとは到底思えない甘い良い匂いを感じ取ったのだ。

 

(体が痛えな)

 

 重い感じがして軽く痛みが伴う体を反転させるのはやめ、首のみを動かし逆方向に視線を送る。

 そこにもデジャブのような光景が。

腕を枕にし突っ伏して眠るチェルシーの横顔が。

 どこか疲れたような、辛そうな寝顔であり、また頬にはうっすらと涙の跡が残っている。

 

(心配をかけちまったか……)

 

何かを掛けてやらなくてはと主水が痛みを押し体を起こそうとした時だった。

 

「う、う~ん」

 

どこか悩ましげに艶のある声を上げ目を擦りつつチェルシーが目を覚まし、体を起こした。

そして、徐に視線が合い見つめ会う形になる二人。

 

「も……主水……!!」

 

「そそられる寝顔だったぞ」

 

未だに寝ぼけ眼のチェルシーに何か企んだような笑顔を浮かべからかうように話す主水。

一瞬の間を置いた後、眠気が吹き飛んだように瞳を大きく開くチェルシー。

瞳は潤いを増し、

 

「し、心配したんだからっ!」

 

「あだだだっ」

 

主水の言葉も無視するかのように涙を溢しながら主水の胸に飛び込むチェルシー。

主水はエスデス戦の傷が完治していないため、その痛みに悶えつつも、何とも言えない温かいものを感じていた。

 

◇◆◇◆◇◆

 

「そうかそんなことが」

 

落ち着いたチェルシーから主水は意識を失った後の事を聞いていた。

 事は主に二点。

 ブドーとの死闘を生き抜いたタツミは、ブドーと同等の力を手に入れるために帝具インクルシオとある意味契約的なものを結び力を得たために、インクルシオに体を食われかけているということを。

 既に帝具専門の医師にはインクルシオを纏うのはあと四回が限界だと伝えられているらしい。

 二点目は事が動き出しているということだった。

 エスデスが生き残ったとはいえ、その傷は軽いものではなく、未だに眠り続けていることと、ブドーがシスイカンから離れていたことを合わせて革命軍の先行隊が進行を開始しているということだった。

 

「俺達は動かなくていいのか?」

 

「革命軍が帝都にたどり着くまでに帝国の幹部を暗殺することを望まれているわ」

 

主水は表情を引き締めて軽く頷くと、布団から体を起こそうと試みる。

しかし、体を走る痛みと、しばらく眠っていたために、筋力が落ち、また平衡感覚を失っているために立つことにさえ窮する事態となっていた。

 

「大丈夫?」

 

すかさず主水に手を貸しつつ声を掛けるチェルシー。

 

「すまねえな。情けねえ姿を見せちまったもんだ」

 

苦笑いを浮かべる主水にチェルシーは笑顔で答える。

その笑顔は何かを企んでいるような笑顔てはなく、心の底から浮かべているものであった。

 

「あれから三日間も眠り続けていたのだから仕方ないわよ。それにそういう主水の姿を見るのも新鮮で何か嬉しいし」

 

頬を染めて笑顔で主水を見詰めるチェルシーに、何かしら耐え難い衝動に突き動かされる主水。

 

(一回ぐらいならもつか…いやもたせる)

 

自らの体に問い掛けるというよりも、言い聞かせる主水。

体の痛みなど心を掻き立てる男の性には敵わない。

 

「チェルシー!!」

 

「えっ!も、主水!?」

 

先程までふらついていたとは思えない力強さで両肩に手を置く主水。

 

「い、いいよ……」

 

チェルシーも主水の意思を汲んだのか顔を更にトマトのように赤らめて、肯定の頷きを小さく返す。

チェルシーの体から強張りや力が抜けそのまま体が布団に………

覆い被さるように主水も………

 

「主水目を覚ましたようだな!」

 

急に扉が開かれ現れたナジェンダ。

二人と一人が見つめ会う形で動きが止まる。

 

「あ…………その……なんだ……一時間後でいいか?」

 

「「い、いや、今からで構わないです」」

 

体勢を治しハモらせつつ丁寧語で答える二人であった。

 

◆◇◆◇◆◇

 

「先程のことで明らかになったが、主水も元気になったようで良かった」

 

「「忘れてくれ(ください)」」

 

必死な二人に笑いが込み上げてくるナジェンダ。

だが、次の瞬間真面目な表情に変わり頭を下げた。

 

「主水すまなかった。感謝してもしきれないが」

 

わざわざイェーガーズを表立って抜け、エスデスを命を賭けて退け、更にはブドーの奥の手をかき消したことをナジェンダは言っていた。

 

「大臣を殺すために、金は貰ってたからな。そのついでだ」

 

さも当然のように話す主水に、ナジェンダは主水らしいと表情を緩め、チェルシーはクスリと微笑んだ。

 

「でだ。それを伝えに来たのか」

 

「いや、礼を言うのが一番の理由だが、他にも伝えたいことがる」

 

ナジェンダは軽く首を振ると、主水に了承を取ると煙草を吹かした。

そんなナジェンダを見て主水は何かを感じ取り先に口を開いた。

 

「タツミのことか」

 

「よく分かったな!?」

 

どのように切り出そうと悩んでいた所に先に主水に切り出され目を見開くナジェンダ。

 

「こういう稼業であれば自然とな」

 

「血も涙もない言い方になるが、ここからの戦いが一番苛烈になっていき、宮殿に乗り込むときに主力のタツミがいなくなってしまうのは革命軍にとってとてつもない損失になる。そうならないように皆でも話合って決めたことだが、負担を減らしてやりたいと思っている。さきの戦いでの一番の戦功者で、怪我が完治していない主水に言うのは躊躇われるんだがな」

 

「金さえ払ってくれりゃあタツミの仕事ぐらい請け負ってやるよ。イェーガーズの給料もなくなった所だからな」

 

「フフフ」

 

主水らしく素直じゃないとナジェンダは再び笑みをもらす。

しかし、次の瞬間、その表情は強張ることとなる。

 

「だがな、もしも、インクルシオに食われてこっちの身が危うくなった場合は構わず叩っ斬るぞ」

 

「………ああ」

 

形容しがたい凄味の効いた威圧感に戸惑いはしたが、想定していた主水の答えでもあったので、瞳を閉じて肯定した。

 

「で、今は皆は何をしているんだ?」

 

「ああ、革命軍の先行部隊と共に北方から帝都に進行を開始していた他部族が、二日前から連絡を取を取れなくてな。さらにはこの近くにまで迫っていた部隊とも昨日から連絡が取れなくなった。そのためアカメ、レオーネ、マイン、タツミで見に行ってもらっている」

 

「そうか…………!?ちょっと待て。レオーネは大丈夫なのか?」

 

主水の記憶では、レオーネはブドーの打撃を背中にもろに受け、生死の境に立たされていたはずだった。

 

「確かにレオーネは脊髄を含み背骨も全て粉砕され、臓器も幾つか破損していたが、今ではピンピンしているぞ」

 

「…………」

 

主水は言葉を失い、チェルシーは苦笑いを浮かべるだけだった。

 

◇◆◇◆◇◆

 

「とんでもない食欲だな」

 

「フフフ、三大欲求の内の二つ、性欲と睡眠欲が食欲に変わっておるからのぉ」

 

破壊された陣屋や、武器、死骸が転がり、火が所々上がる中、左京亮とドロテア、全身を改造されきったシュザン、死骸を貪り食う危険種のような姿をしたコスミナの姿が。

 コスミナは原型も残しておらず、身の丈三メートルを超し、下半身は蜘蛛、上半身は人間でありながら両腕共に蟷螂の鎌を繋がれた姿をしている。

 

「中々にデカイ部隊で大満足じゃ。すでに軽く2000人ほど食っておるからのぉ。そして、食事をする度に戦闘力が段違いに上がっておる」

 

「にしても見る影もないな。ただ、あんなになっちまいながらも、俺達に襲い掛からないのはまだ仲間意識があるのか、本能的に避けているのかだろうな…………っと、目的地に着く前に奴等に会うことになろうとはな」

 

左京亮が鋭い流し目を送った先には、アカメ、レオーネ、タツミ、マインの姿があった。

 

「先日から部隊の消息が潰え始めていたのはお前達のせいのようだな」

 

「ああ、妾たちがやった。まあ全てコスミナの腹に消えたがのぉ」

 

小悪魔じみた笑みを浮かべいけしゃあしゃあと述べるドロテアに、四人の怒りが燃え上がる。

 

「ヤル気みたいだな」

 

左京亮が立て掛けておいた巨大な薙刀に手を延ばした際だった。

 

「こやつらは、妾達でやる。左京亮は見ておるがよい」

 

「つまんねぇがまあいいか」

 

左京亮はその場に腰を下ろし静観を決め込む。

 

「葬る!!」

 

ナイトレイドとドロテア一行との戦いの火蓋が切っておとされた。

 


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