主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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第114話

「コスミナ、小僧(タツミ)と小娘(マイン)を、シュザンはーーーー」

 

「アカメえええぇぇぇ!!」

 

ドロテアの指示が飛ぶ前に、シュザンは一陣の風となって、袴をはためかせながらアカメに突っ込んで行った。

ドロテアは一瞬茫然とシュザンの背中を見ていたが、即座に我に返り八重歯を覗かせつつ口許を緩めた。

 

(スタイリッシュの洗脳はかなりの効果じゃのぉ)

 

◇◆◇◆◇◆

 

「ちょっとドロテア。この子主水に対する怨みや怒りだけしかないじゃない。確かに個体としてはかなりのモノを持っているけれど、100%の力は主水にしか出せないわよ」

 

機械に繋がれベッドに横たわるシュザンを一瞥した後に視線をモニターに移す。

モニターに映し出される数字に視線を一巡させつつ頬に手を当てて首を傾げた。

まるで困ったように。

 

「そうなんじゃよ。そのシュザンは友であったザンクを機械化されることに至った原因である、主水にしか目を向けてなくての」

 

「あ~~~らそうだったの」

 

半目でジトッとした視線をスタイリッシュに送るドロテアと、その冷ややかな視線を冷や汗を流しながらなんとかかわすスタイリッシュ。

ドロテアが要因の一つはお前にあるという意味での視線を重々承知の上での行動である。

 

「はぁ、分かったわよ。この怨みが主水だけじゃなく、ナイトレイドーー主にアカメにもいくようにするわよ」

 

「出来るのか?」

 

ため息を吐きながら妥協点を提案するスタイリッシュに、これ幸いとドロテアは笑顔で答えるただし、疑問つきで。

その様子を見てスタイリッシュは歪な笑みを湛えると、シュザンが繋がれている

機械を操作し、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「こちらにも役にたつなんてねぇ。一石二鳥か・し・ら」

 

「どれどれ………またもやこれを使うのか」

 

モニターを背伸びして覗きこんだドロテアもスタイリッシュ同様不敵な笑みを浮かべる。

 映し出されるはザンク対アカメの雪原での一戦。

 アカメがザンクを斬り葬った一戦だ。

 

「これをどうするんじゃ?」

 

「シュザンの脳に送って現実にこの光景を見ているようにするのよ。そうすれば………」

 

言わなくても分かるでしょといった風に言葉を止め口角を上げて微笑を浮かべたスタイリッシュであった。

 

◆◇◆◇◆◇

 

「好きにするが良い」

 

ドロテアの視線の先で既に戦いは始まっていた。

 

砂煙や瓦礫を蹴散らし粉塵を巻き上げつつタツミとマインに猛進するコスミナ。

 

「こうなりゃ俺が」

 

「コスミナを殺しきれなかったのは私の失態。だから私が片付けるタツミは見てて」

 

背中に背負ったインクルシオの鍵に手を掛けるタツミを制し、コスミナにパンプキンの銃口を向ける。

 

(引き付けて)

 

パンプキンの威力を最大限生かすためコスミナを引き付ける。

リスクとリターンが表裏一体の帝具パンプキンを最大に生かすための戦法。

 

「グオオオォォ」

 

もはや獣と化したコスミナが、よだれを撒き散らしながら大口を開けてマインを一飲みにしようとする。

 

(間合いに入った、ここよ!)

 

 パンプキンの銃口が火を吹いた。

苛烈な閃光を放った銃弾は迫るコスミナの眉間を撃ち抜いた。

眉間には大きな風穴があき、撃ち抜かれた先から血液と脳髄が吹き出す。

 以前の戦いでは心臓を撃ち抜いたがそれでも生存していたために、一撃で仕留めるために、今回は頭を撃ち抜いたのだ。

 

「やった」

 

「グアアアアッッ!」

 

「うそ!?」

 

止まらない勢い。

コスミナの爆進は止まらない。

 

(なんで頭を撃ち抜いのに)

 

目前に迫る鋭い牙を並べたコスミナの巨大な口。

マインも即座に横に跳びかわしにかかるがマインを獲物として捕捉しているコスミナは逃さない。

加えて、パンプキンの威力を高めるためにギリギリまで引き付けたのが仇となっていた。

 

「残念じゃったのお。コスミナにはお主たちには分からないじゃろうが、賢者の石というものが組み込まれててのぉ。大抵のことでは死なんのじゃ」

 

「いいのかネタバレしちまってよ」

 

無い胸を張り話すドロテアに苦言を挟む左京亮。

相手に情報をばらすことの愚かさを知っているための苦言である。

 左京亮は相手が確実に罠にかかり死にかけるまではばらさず演じきるタイプである。

 

「どうせ死ぬんじゃしかまわんじゃろ」

 

ドロテアの話が終わる前にコスミナの大口が閉じられた。

マインを含めマインの立っていた場も地面も抉れ消えていた。

 

「ほらな死におったじゃろ」

 

「どこがだ」

 

疲れたように頬杖をつく左京亮は、ドロテアに促すように視線を滑らす。

 

「なんじゃと!?」

 

左京亮の視線を追い向けた視線の先には以前のような純白ではなく、禍々しい生前の超級危険種を彷彿とさせるインクルシオを纏ったタツミがマインを抱き立っている姿が。

 

「ありがとタツミ。それとゴメンね」

 

「かまわねぇヨ」

 

 タツミはマインを優しく降ろすと、身を翻しコスミナに突っ込んだ。

 

「俺のマインに触ルンじゃねエ!!」

 

所々獣染みた唸り声を含ませ具現化した副装品の槍〈ノインテーター〉を振り上げ、轟音を轟かせ振りきった。

 

「グギャァァァ……」

 

タツミが過ぎ去ると同時に突風が巻き起こり、血液を吹き上げコスミナの頭部の上半分が吹き飛んだ。

 

 

「ニシシシシ」

 

「気味悪い笑い方だな……」

 

遠方で見つめているドロテアはコスミナが体勢を崩しても、なお余裕の表情を崩さない。

それを呆れた目で見る左京亮。

 

「その余裕の表情を今すぐ叩き潰してやるよ」

 

「なんじゃ?」

 

指を鳴らすレオーネが猛獣のような鋭い視線をドロテアに向け臨戦態勢を整え立っていた。

 

「妾と遊びたいのかえ?」

 

子供なりの無邪気な笑みを浮かべるドロテア。

年相応に見える笑みだが、そこに含まれる邪悪さは隠せない。

 

「血が獣臭そうじゃが、妾もちょうど退屈していた所じゃ。来るが良い」

 

「子供でも私は容赦しないよ」

 

レオーネはドロテアに向けて言いつつも、ヤル気なくだらけきった体勢でキセルをふかしている左京亮を気付かれないように軽く視野に入れる。

 

「姉ちゃん安心していいぞ。俺に利益が無い限り手は出さないからよ。それがドロテアが殺される瞬間であってもな」

 

「くっ」

 

まるで、その心境を思惑を見透かしたようにレオーネに言葉を投げ掛ける左京亮。

 以前の戦いで、赤子の手を捻るがごとく倒されたことで、左京亮を最大級に警戒するようになっていた中での行動を、感づかれないように行ったのに容易く見抜く感知力。

 レオーネはまるで心臓を鷲掴みにされ命運を握られているかのような嫌な感覚を再度刻み付けられる結果となった。

 

 冷や汗を流しながらも、左京亮参戦が無いことを幸いにも確認出来たため、ドロテアに集中し、地を蹴りあげドロテアに一直線に突っ込む。

帝具ライオネルにより獣化したレオーネが両手を振り下ろす。

 しかし、ニヤリと不敵な笑みを浮かべたドロテアは避けることもせず、軽く両手を上げると、その両腕を受け止め組み合った。

 

「なに!!」

 

 力には自信があり、更には帝具ライオネルで強化された腕力を真っ向から受け止めるドロテアに驚愕が隠せないレオーネ。

 

「ヌッフッフッフッフ。妾はこのようなキュートでいたいけな見た目でもワイルドハントの中で一、二を争う腕力を持っているのじゃ」

 

腕を組み合ったまま拮抗した二人を中心に地面に亀裂が走る。

 

「若いのぉ」

 

ドロテアは押し合いの拮抗した中、力を抜き半歩下がる。

 

「なっ!」

 

力比べに熱くなっていたレオーネの体勢が崩れ、力が抜ける。

 

「これじゃから脳筋は」

 

ドロテアはレオーネを振り上げ地面に叩きつけた。

 

「そのまま地べたに這いずって仲間の最後を見るがいい」

 

 

 

「アカメエエエエエ!」

 

「はっ!」

 

アカメとシュザンは何度も帝具村雨と刀を翻し切り結んでいた。

 首斬り役人として一撃で首を落とすために磨かれた剣の乱れなき軌道は、機械化された中でも衰えることはないが、アカメはその剣捌きさえも難なく捌ききる。

 

(この剣の軌道は主水に似ている)

 

冷静に見定めるアカメ。

シュザン以上の力の剣術での戦いを稽古とはいえ体験しているアカメにとってシュザンはもはや敵ではなかった。

 二人の刀が同時に振り下ろされ鍔迫り合いとなる。

 火花を散らし重なる刃をシュザンは振りきった。

 力ではやはりシュザンの方が上でありアカメは間合いを開けられる。

 シュザンは刀を大上段に構え肩に担ぐように構えを取る。

 首斬り役人特有の必殺の一撃。

苦しむことなく一撃で首を落とすことのみに特化した一刀。

シュザンは一歩踏み出すと同時に刀を振り下ろした。

 

(早い!でも主水の振りに比べれば)

 

振り下ろされる刀を紙一重で横っ飛びにかわす。

黒髪が舞い、頬に一直線に刀傷と血液が滴る。

 

「ぬっ!」

 

一刀を避けられ僅かに表情を歪めるが、刀を返し切り上げる。

アカメは体勢を整えその切り上げに合わせるように村雨を振り下ろす。

 再び合わさる刃をアカメは村雨で螺旋を描き巻き込みはね上げた。

 以前主水との稽古で扱われ村雨をはね上げられた巻き技。

 アカメは何度も練習を積み習得していた。

 シュザンの刀は宙を舞い、大きく開かれた胴を間髪入れずアカメは切り裂いた。

 

(やはりか)

 

手に伝わる痺れるような感触と甲高く響く金属音。

 予想通りに金属化されたシュザンの肉体。

 しかし、アカメの剣術も数段レベルが上がっているために一撃でシュザンの装甲に大きな傷をつけていた。

 

(あと一度で)

 

村雨を返すが既にシュザンは刀を手に取り後方に下がっていた。

 

「アカメハカナラズコロス!」

 

シュザンは体に力を入れると、体に纏っていた装甲が音を立てて落ちていく。

 自らの剣がアカメにかすることしかなかったことにより、装甲をなくし、防御を棄ててでもスピード特化にチェンジした。

 

「コロオオオオォォスッ!!」

 

大上段に構えながらのなりふり構わずの特攻。

アカメもそれを受けて立つと低い姿勢から滑らかな動きで走り出す。

 

「葬る!」

 

村雨が紫電の剣閃を、シュザンの刀が銀色の軌跡を刻み交錯し、すれ違った。

 

「うがあぁぁああ」

 

シュザンは肩口から血液を散らして方膝をつく。

次の瞬間、胸が赤く発光し、肩口から入れられた袈裟懸けに刻まれた刀傷は泡立ち再生されていく。

しかし、斬りつけたのは村雨であり、そこから走る呪毒は体全体に走りシュザンの息の根を止めた。

 

「機械化され怒りのままに来たのが運のつきだ」

 

 アカメの言葉が端的にこの戦いの分岐点を示していた。

植え付けられたアカメへの怒りに我を忘れ、その剣術を生かすことなく力押しになったことにより生じた隙が、アカメとの間にさらに大きな力の差を生み、勝負を決めることとなったのだ。

 それは戦闘力にしか目を向けなかった学者的な視線を持つスタイリッシュやドロテアの失策であったと言える。

 

 

「なんとシュザンをいとも簡単に倒すとはのぉ」

 

ドロテアは一瞬驚いた表情を見せるが、すぐに平静に戻り指をならした。

 辺りにパチンという音が響くと土が盛り上がり、わらわらと昆虫のような見た目の改造された男達が現れた。

 

「アカメ対策を施したものたちじゃ。行くがよい」

 

ドロテアの指示を受けた男たちは群がってアカメに襲いかかった。

 

(コイツらが主水が前に言っていた刀遣いには厄介な敵か……肉片を纏わりつかせて斬れなくするという。だが対処法は分かっている)

 

アカメは姿勢を正し、珍しく正眼の構えを取り男たちを迎え撃った。

 

「乱れなき剣線を描けば村雨が封じられることもない」

 

左右から同時に襲いかかってくる男たちを寸分も乱れなき剣線を描き男たちを一瞬にして葬りさった。

 

「主水の言っていた通りに全くつかないな。後は残りの隙を土中で伺っているやつらも残らず葬る」

 

アカメは鋭く殺気の籠った視線を投げ掛けた。

 

「やるようになってんじゃんかあの嬢ちゃん」

 

「ぬうっ」

 

ドロテアが憎々しげに顔をしかめた刹那、

 

「回復する時間をありがとよ」

 

声と同時にレオーネは、地に伏した状態から地を蹴り、ドロテアに殴りかかる。

しかし、ドロテアは小柄な体を生かし、僅かな動きで回避した。

 

「しぶといのぉ。じゃが、妾の実験の献体としてはうってつけじゃのぉ」

 

ドロテアも指を鳴らして八重歯を覗かせた。

 


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