まさか1000人を超えられるとは、想像もできませんでした。
本当にありがとうございます。
主水がセリューとコロン、マインとシェーレが戦う場にたどり着く約10分前に話は戻る。
―――――
夜の闇を走り抜ける二つの影。
マインとシェーレが、チブル暗殺を成功させ、帰路についていた。
だが、ある意味二人にとってこれからが正念場であった。
チブル暗殺はマインの射撃能力からしたら大した問題ではない。
しかしながら、その後、その射撃音を追って、主水が警戒しろといったセリューが来る前に、逃げきらなくてはならないということに、大きな問題があったのだ。
「あと少しね」
「そうですね。ここを抜ければ」
あと少しという所で二人に迫る影が。
「見つけたわよ」
突如現れた人影が、二人に襲い掛かる。
「マイン、私の後ろに」
シェーレが見事な反射神経で反転し、〈万物両断〉エクスタスを掲げ、防御体勢に入る。
直後、シェーレの手にとてつもない衝撃が。
「ぐっ…」
殺しきれない衝撃に、シェーレの体は浮き、後方まで吹き飛ばされる。
「シェーレ!」
「よそ見している暇はありませんよ」
「!」
マインがシェーレに気をとられた僅かな隙に、セリューはすでに、マインの懐に飛び込んでいた。
(ヤバい。まともにあの攻撃を受けたら)
セリューは拳を腰まで引き、溜めた力を爆発させるように拳をつき出す。つき出された拳は螺旋を描きながらマインに迫る。
刹那、マインの〈浪漫砲台〉パンプキンが網膜を焼き尽くす程の目映い閃光を放ち、火を吹いた、最大限まで引き上げられた威力の射撃の反動で、マインはセリューの拳を回避し、飛ぶように後退し、難を逃れた。。
「大丈夫シェーレ?」
「ええ大丈夫。でもあの敵は話に出た」
普段であれば忘れているかもしれないことだが、今回に限っては覚えていた。
それほど、作戦ないでも、強調されていたのだった。
「多分ね。でもあの様子じゃあ逃げられそうにないわね」
視線の先のセリューは構えをとり、軽くステップを踏み、コロもすでに巨大化し、筋肉質の腕も生やし、臨戦体勢に入っている。
「殺るしかないでしょ!」
シェーレが前衛に立ち、マインが後衛になる。
「私は帝都警備隊セリュー·ユビキタス。あなたたちに殺され悲しむ人を減らすためにも、ここで死んでもらいます」
主水が一番危惧していた、戦いの幕が切って落とされた。
何人も食い殺した口を開き突っ込むコロ。
マインの射撃により足が止まった所で、シェーレがエクスタスを掲げ交錯する。
月夜に舞う巨大な腕、しかし、切り抜けた先にセリューはいなかった。
セリューは既に、マインに肉薄していた。
コロを盾にして進み、シェーレとコロが交錯した際に、コロを踏み台とし、飛び立ち、羽のように宙を舞い、マインに迫っていた。
「私のバンプキンは危機になるほど威力が増すのよ!」
威力が増した、射撃が放たれるが、セリューは舞いを舞うかのようなステップを左右に踏み、紙一重に避けながら前進する。
「マイン!」
シェーレが援護に向かおうとするが、超速再生により、傷がいえたコロの怒涛の攻撃により足止めをくらっていた。
「正義の鉄拳!!」
振りかぶった拳が放たれるその刹那を狙い、カウンター気味にマインがパンプキンを横凪ぎに振るう。
「!」
まさかの反撃。
近接戦闘ができないと思われていたマインの、斬激。
頬に切り傷がつき、血が頬を伝う。
しかし、それだけだった。
「嘘でしょ!?完全に不意をついたはず!」
「エイプマンに比べると、攻撃が緩いよ」
バックステップで横凪ぎを避け、転じて踏み込んで、眼前に迫った。
そして螺旋を描きながら放たれたコークスクリューブローがマインに叩き込まれる。
本能的に上げたマインの腕を破壊するだけに留まらず、さらには胸を抉った。
「――――」
吐血し、肺に圧がかかり、空気を吐き出したために、声をあげることもできず、マインは吹き飛び、地を何度かバウンドして、動かなくなった。
「マイン!!」
コロの怒涛のラッシュを果敢にかわしていたシェーレだが、マインが吹き飛ぶ姿を見て、気がそれ隙が出来る。
コロがそれを見逃す弾もない。
大振りだった打撃を、小さくし、スピードを上げラッシュを放った。
シェーレであれは、それぐらいの差など、ものともせず普段なら対応できたであろう。
しかし、マインに気を取られたために、対応しきれなかった。
五月雨のように降り注ぐ打撃が一発、二発とエクスタスの防御をすり抜ける。
威力は下がったとはいえ、コロの豪腕から放たれる打撃に、シェーレが何発も耐えられるわけもなかった。
(私が殺られたら、マインも)
崩れ落ちそうになりながらも、踏みとどまる。強靭な精神力のなせる業である。
シェーレは倒れる訳にはいかなかった。親友が危機に陥っているのだから。
倒れて当然の怪我を負っている筈なのに、エクスタスを杖のように地面に突き立て、辛うじて立っている。
「コロ、終わらせてあげなさい」
コロが襲い掛かる、
(この一撃に賭ける!)
立っていることさえやっとであるはずのシェーレ、しかし、火事場のバカ力とでも言うのだろうか、あらん限りの力で踏み込み、エクスタスの刃が月下で輝いた。
コロは口を起点として、頭部を横に分かたれた。
「殺った!」
「殺ってないわよ」
冷えきったセリューの言葉が、シェーレの希望を打ち砕いた。
生物型帝具はコアを破壊されない限り、倒すことはできない。シェーレは焦るあまり、そのことを忘れていた。
コロは頭の上部が無いまま、背後にいるシェーレに裏拳を放つ。
すでに防御をする力もないシェーレは、まともに裏拳を受け、華奢な体は宙を舞い、地に伏した。
もうシェーレは意識がないはずでありながらも、マインを求めて地を這う。
這った跡には、流れた血の道が出来上がる。
「皆に伝えなくちゃ」
セリューは懐から呼び子を取り出すと天に向かって、吹いた。呼び子の音はセリュー達の勝ちを宣言するかの如く、夜空に響き渡った。
セリューは呼び子のこだまが止むと、
「安心していいわよ。あなたたちは同時に殺してあげるから、悲しむこともないし、あの世にも一緒に行けるわよ」
と慈悲に満ちた顔で呟くと、拳を振り上げ、コロは再生された、鋭い牙が幾重にも並ぶ口を裂けんばかりに開いた。
ここまでが、主水が訪れるまでの10分間に起こった出来事である。
◇◆◇◆◇◆
「セリュー!!」
主水は叫んだが、その叫びは届かなかった。
(俺は二人を救えないのか!駄目だ目の前で殺されそうな仲間を放っておいていいはずがない!!)
もうすでに手遅れであるのは、誰の目にも明らかである。
しかし、主水は諦めなかった。
その強い意思に呼応するように、〈一網打尽〉アレスターが輝いた。
(俺に活路を導き出してくれるってえのか)
腰に挿したアレスターの柄を掴む、
(なんだこれは)
主水の頭に直接的に情報が流れ込んでくる。
(分かったぜ)
主水はアレスターで空を一閃した。
振りきられるはずのアレスターの鋒が空間に亀裂を刻む。
「奥の手〈空間封印〉」
亀裂が広がった範囲の全てが止まる。
そこに存在していたはずの、鼓動、息吹き、自然の営み、全てが停止し、訪れる真の静寂。
『無』の世界が広がっている。
「クッ…早くしねえと…」
奥の手の副作用、全身に走る痛みと、倦怠感を無理に抑え込み、主水はマインとシェーレに駆け寄り、二人を抱え、走り出した。
(長くは続かねえ行けるとこまで行くぞ)
主水は二人をギリギリで救えた安堵を覚えながら、夜の闇を駆け抜けた。
主水の表情に明らかに苦悶の色が表れていた。
額には脂汗が滲み、呼吸も荒くなっている。さらには全身に走る痛みも強度を増していた。
「限界か……封印解除」
それまで辺りの闇を振り払うかのように、照らしていたアレスターの神々しい輝きが失われた。
それと同時に、体に走っていた痛みも、嘘のように、無くなっていた。
しかし、体を襲う倦怠感は、依然として残り続けた。
―――――
「貸本屋…開けてくれ」
壁に寄りかかるように、身を預け、戸を叩いた。
帝都のラバックの住まいの貸本屋に、主水はなんとか辿り着いたのだ。
「誰だよ」
鍵を開ける音が聞こえ、戸が開かれる。
すでにラバックが仕事から戻っていたことに、主水は気が安らいだ。
「主水の旦那と……マインとシェーレじゃねえか!!しかもひでえ怪我を負って!」
「貸本屋、二人を頼む。俺は戻らなくちゃならねえ…」
主水は二人を驚き目を丸くしているラバックに託すと、ふらついた足取りで、来た道を戻っていった。
――――――
「奥の手の代償は、寿命だけじゃなかったのかよ……」
月光を頼りに、来た道を戻りながら、主水は恨めしそうに呟く。
主水がアレスターに伝えられた奥の手の代償とは、一秒ごとに一日分の寿命が短くなるというものだった。
主水の寿命は、江戸で亡くなった時の年齢。
それだけで、これほどの負担が、体に降りかかるとは考えていなかったのだ。
目の前が次第にぼやけてくる。
主水は二人を運びきったことによる、安心感から、緊張の糸が切れ、その場に倒れ込み、意識を失った。
ぶっちゃけ御都合主義です。死亡フラグを覆すには、御都合主義でなくてはできませんでした。
しかも、奥の手があの方と同じ。畏れ多いことです。
言い訳ですが、これも後々の事を考えての事とだけ言わせてください。
後一つ、必殺について質問なんですが、主水が相対した歴代の敵で一番強かった相手は誰でしょうか?私はおぼろげな記憶で、主水を含めて三人で倒した相手がいたような気がしたんですが、名前を忘れてしまい、記憶にないことと、私の知識だけでは絶対的に足りないので、必殺の先輩方にお教えをいただきたいです。
次回の物語に使用したいので、よろしくお願いします。