主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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超級危険種よりも手強い夏休みの宿題と格闘中です……。


第26話

 タツミは体勢を低くし、右手で剣を逆手に持ち、強い踏み込みから、最高速でダイダラに向かって走り出した。

相手のダイダラは、重量級の武器ベルヴァークを扱う為、このスピードで斬り込めば、避けることは出来ないとタツミは踏んでいた。

しかし、ダイダラは少しも怯むことなく、余裕の笑みを浮かべている。

「地獄を巡らせてやるぜ!!」

後一歩でタツミの剣の間合いに入るという所だった。

それまで微動だにしなかったダイダラが、ゆったりとベルヴァークを担いだ。

「その威勢のよさ。すっげえぶっ壊しがいがある!!」

叩きつけられるような気当たり。

一般人であれば、それだけで、気を失う程のものだ。

即座に、タツミは本能的に危険を感じとる。

このまま進むと斬られる。

タツミは瞬時に床に手をつけ、急停止する。

刹那、タツミの前髪を掠り、ベルヴァークがもし急停止していなければ、タツミが踏み込んでいただろう場に、深々と突き刺さっていた。

吹き荒れる爆風のような衝撃波でタツミの小柄な体は吹き飛び、元の位置に戻される。

「音で弱った体でよく避けたじゃねえか」

自分の攻撃を避けられたというのに、不快感を表すどころか、寧ろ嬉しそうに、笑みを浮かべる。

「そりゃどうも」

平然と言ってのけるタツミだが、頭の中は混乱状態だ。今のたった一瞬の攻防で、相手の強さを思い知らされた。

今まで戦った相手を遥かに越えた力を有していると。

タツミが仕掛けるか、はたまた仕掛けないか、ダイダラの様子を伺いながら、間合いを取る。

何も展開が動くこともなく、刻一刻と時間が過ぎていく。

タツミの頬を大粒の汗が伝い、顎から床に落ちる。体感としては、その緊張感から、一瞬一瞬がかなりの長さに感じられるが、実際は然程時間は経ってはいない。

 全く動く素振りのないタツミに対し、焦れたのはダイダラであった。

「来ないならこっちから行くぞ!」

ダイダラはベルヴァークを掲げ、左右に分かれる柄を両手で掴み、左右に引っ張る。

すると、1つのベルヴァークが二挺に分かたれた。

一挺の両刃の斧が、二挺の片刃の斧になったのだ。

(マジかよ、一挺でもかなりの速度の振りだったのに、二挺になったことで、さらに速度アップかよ)

タツミの緊張感が増した直後、ダイダラは大きく右手を振り上げ、一挺のベルヴァークを投擲した。

空気を切り裂きながら、轟音を轟かせ、タツミに襲いかかるベルヴァーク。

「おっと!」

必死に体を反らす。

顔の前を通貨するベルヴァークが巻き起こす風がタツミを打つ。

「まだだぜ」

ニヤリと笑うダイダラに、嫌な感じを受け、振り返ると、半円軌道を描き、再びベルヴァークが迫っていた。

「くっ!」

持ち前の反射神経で屈んでベルヴァークをかわすが、僅かに対処が遅れ、かすった。しかし、ベルヴァーク自体の攻撃力の高さから、深い傷が。

「無駄だぜ。投擲されたベルヴァークは飛び交っている間は捕捉した相手を追尾するからな」

ダイダラの言う通り、ベルヴァークは何度となく、タツミを襲う。

腰を捻りかわし、後方へ飛んでいく様を見た直後タツミは一考して、ダイダラに向けて走り出した。

自分に向けて追いすがるならば、相手の目の前で、かわし、相手にぶつければいい。

追尾型の攻撃攻略の常套手段である。

しかし、タツミは二つのことを失念していた。

1つ、飛び交うベルヴァークには柄があり、自分にぶつかる前に止めることが出来ること。

2つ、ベルヴァークは今追尾しているものだけではないということを…

 タツミは気づいていないが、2つ目が大きく起因し、ダイダラは嬉しさで、おぞましい笑みを浮かべ、溢した。

「経験値いらっしゃい」

気づいた時には遅かった。

獲物を補食する肉食獣の眼差し。

絶対的な強者である熊が、川を泳ぐ鮭を豪腕の一振りで仕留めるように、ダイダラは徐にベルヴァークのもう一挺を振り上げ―――振り下ろした。

タツミは、後方に大きく吹き飛んだ。

「バカかてめえはああ!」

ベルヴァークによってではなく、突如現れたブラートの鉄拳によって。

「相手は手慣れたようすで待ち構えていただろうが!どう見ても必勝体勢!そこに突っ込んでいってどうする!!」

「あ、兄貴…」

垂れる鼻血を押さえながら、タツミが顔をあげると、頼りになる兄貴、ブラートが陽光に照らされ、まるで後光が射すようにそこに立っていた。

「なに呆けているんだタツミ」

今まで保っていた極度の緊張感は、ブラートが現れた安心感で、切れていた。

それだけ、タツミはブラートを信用し、その強さを身をもって知っていたのだ。

「てめえ、やけに元気だな…スクリームは効いてねえのか」

スクリームの音色によってタツミはふらついてはいたが、ブラートにはその様が全く見えないので、ダイダラは違和感を覚える。

何度となく音色を聞くと、耐性ができ効果は薄くなるが、ブラートは初めて聞いたはずであるはずだと。

ブラートは小さい笑みを浮かべる

「そういう演奏だったのか、なら効かないはずだぜ」

ブラートの纏う雰囲気が一変する。

辺り一帯がブラートの支配領域と化していく。

「俺の体に流れる熱い血はよ……他人に鎮められるモンじゃねえんだよ!!」

目視できる程のオーラがブラートを中心に吹き荒れる。

気圧されたダイダラだが、スクリームの音色に対抗したカラクリがわかったのか、フンと鼻を鳴らしてブラートに話しかける。

「自分の体を抉ってまでしてスクリームの洗脳に対抗しやがるとは」

ブラートの右足に血が滲む。

例えブラートであっても、帝具であるスクリームの力に対抗するにはこうするしかなかったのだ。「ナイトレイドのブラートだ。ハンサムって呼んでいいぜ」

「エスデス様の僕、三獣士ダイダラだ」

ダイダラは隙なく、ニ挺のベルヴァークを構える。

「タツミ、お前は俺の戦いをしっかり目に焼き付けておけ」

ブラートは振り返ることはせず、その大きな背中で語る。

タツミは声を上げることすらできず、ただただ静かに首を縦に振るのだった。

ブラートもそれを察知したのか、床に手を当ててありったけの声で叫ぶ。

「インクルシオオオオ!!!」

ブラートの背後に鎧が現れ、ブラートの体が包まれる。

穢れのない白一色の鎧。

タツミの目にはそれが眩しく見えたであろう。

ブラートが鎧を纏うと同時に、

「経験値がたっぷりもらえそうだぜえええ!!」興奮しきったダイダラ。ただダイダラ一人ではない。どこから現れたか、リヴァとニャウも警戒していたからか、即座に現れ三方向から襲いかかる。

ダイダラ以外に仲間がいたことに気づいていなかったタツミが叫ぶ。

「兄―――」

瞬間、ブラートが消える。

直後ニャウの腹部にラリアットがもろに入り、吹き飛び積み荷に突っ込み、ニャウに打撃が入ったと思われた時には、リヴァの背に強烈な蹴りがめり込み、壁に叩きつけられる。

二人が吹き飛び、轟音を奏でると同時に、ダイダラが真っ二つに分かたれた。

「―――貴」

タツミが兄貴と言い終わると同時に戦闘は決していた。

「タツミ…見ていたか?これが前に言った周囲に気を配るってやつだぜ」

ダイダラだけでなく、気配を消したまま突如現れたリヴァとニャウにも対応し一瞬で終わらせた。ブラートの強さが示された戦いである。

戦場に立つのはインクルシオを纏ったブラートだけであった。

インクルシオとは凶暴な危険種を素材として造られた鎧の帝具。呼び出すと鉄壁の鎧が自動的に飛んでくる。纏った者の能力を増幅させる。

突出した力を持つブラートが纏うことで、計り知れない力を持つ戦士が生まれのである。

 

 




ダイダラを強く見せたかったのに、どうやっても噛ませになってしまう…

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