主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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第52話

 教団内の一室で、籠りっきりで一心不乱に作業に没頭するスタイリッシュの姿があった。

動かすのは帝具〈パーフェクター〉を填めた両手のみ。

作り出されていく物は、人知を超えたオーバーテクノロジーの逸品。

しかし、スタイリッシュの目標は帝具と同レベルの物であり、今作成している物では、全く満足出来てはいなかった。

「あー、上手くいかないわねぇ」

手を高く上げて背伸びをする。

没頭していたためかなりの長時間、同じ体勢でいたため疲労が溜まっていた。

「少し睡眠を取ろうかし―――」

ベッドに横たわろうとした時だった。

スタイリッシュの第6感が何かを感じ取った。

「何かが、何かがこの教団内で行われているわ。あたしのリビドーをたぎらせる何かが」

今まで疲れていたのが嘘のように、スタイリッシュは何かに引っ張られるように部屋を飛び出した。

スタイリッシュは風の如く走り抜け、迷うことなく目的地にたどり着いた。

ノブが潰れ、罅が入り、外れかけ、がたついている扉の部屋。

何があったのか想像も及ばない程の姿になった、哀れな扉の有り様。

主水の部屋だった。

しかし、スタイリッシュはそのようなことにかまうことはない。

何故なら、部屋の中からスタイリッシュのみが感じ取れる妖艶な空気が感じられるのだから。

様子みとばかりに、スタイリッシュは扉に耳を傾けた。

「あっ、あっ…気持ちイイです主水さん」

「気色悪い声を出さないでくださいよラン」

「も…申し訳…ありませ…んっ…主水さんのテクニックが…素晴らしくて」

普段聞くことのないランの乱れたあられもない声に、スタイリッシュは思わず息をのんだ。

(きっとランと主水が絡んでいるのね!この部屋にあたしの望む快楽の世界が!)

妄想が力となり、たぎる心を抑えられず、スタイリッシュは迷わず扉を開け放った。

「あたしも仲間にはいるわーー昇天させてーー!!」

―――――

 約一刻前の昼下がり、主水は部屋でまったりと、シズクはその横で働いていた。

「シズク、いいか?」

「何でしょう主水さん」

シズクは既に主水に心を開き、『様』付けから『さん』付けに変わっていた。

「前までかかあにさせられていたことがあったんだ。今までなんとなくしていたんだが、無くなった瞬間無性にしたくなってな。させてくれねえか」

「私でお役にたてるなら」

何をとは聞くことなく、頷くシズク。主水を信頼し、酷いことはされないと思い込んでいるためだ。

たった少しの時間ではあるが、二人の間には、親子ほどの信頼関係が結ばれていた。

「じゃあそこに横たわってくれ」

主水の要望に、シズクは従い、メイド服が皺にならないように横になった。

―――

「もう主水君ったら。皆集まってるのにどうしたんだろ」

「キュウキュウ」

セリューが広場に現れない主水に痺れをきらせて、主水の部屋まで迎えに来ていた。

セリューもコロも同じように腕を組ながら。

主水の部屋の前についたセリューは、ノックをしようと軽く腕を上げた、その瞬間、

「アッ…主水さん…痛いです…」

「すまねぇな。小さくて加減が出来なくてよ」

妙に色っぽい声と、ギシギシとベッドが軋む音が室内から漏れてくる。

(えっ!?ちょ、ちょっと今の声なに!?主水君何してるのよ!!)

セリューはパニックに陥り、更には血の気が引き、状況を探るため、また嫌な想像をかきけすために、扉にへばりつき、聞き耳をたてる。

頭の中では、以前主水が言ったあの言葉が駆け巡り悪夢が蘇る。

――

「ウェイブをからかうのは楽しいわね。でもそろそろ仕事もしないとね」

 チェルシーは化けたままの姿で、飴を口の中で転がしながら、教団の宿舎内を歩いていた。

角を曲がり、イェーガーズの面々が陣取っている部屋が続くため、警戒心は怠ることはない。

そして、長い廊下の中間辺りで見た光景に、僅かに戸惑いを受ける。

(あれはセリュー…主水の部屋を盗み聞きしている!!それも真剣な顔で)

目に入ったのが、セリューが主水の部屋に聞き耳をたて、それを心配そうに見つめるコロの姿だった。

(もしかして主水がバレたの。いや主水がそんなへまをするとは思えないし。まずは確認しないと…)

チェルシーは覚悟を決めるとセリューに歩み寄った。

「イェーガーズ様。こんなところでどうかなさったのですか」

「………」

セリューはチェルシーの問い掛けに、返事もせず微動だにしない。

中の音を聞くのに集中しているために聞こえていなかった。

(何、シカト)

チェルシーが少しイラッとしたその時、

「ア……アン…す、すごいです…」

室内から淫靡な声が微かに漏れてくる。

(な、何なの今のイヤらしい声!?何をやってるのよ主水!!)

チェルシーもいてもたってもいられず、セリュー同様、扉に耳をつけた。

――

(隊長にお暇をもらったので、こんな時間ではありますが、主水さんとウェイブを誘って、お酒でも酌み交わせたら)

日頃の労をエスデスが労い、ランに僅ながらの時間を与えたため、ランが一升瓶を持ち、主水の部屋に向かっていた。

「おや、あれは…」

ランの目に入ってきたもの、それは、セリューとメイドが主水の部屋の扉にへばりつき、聞き耳をたて盗み聞きをし、その二人を静かに見守るコロの姿だった。

セリューは顔に影が射し、メイドは顔を蒸気させ、真剣に聞き入っている。

「そんな所で何をしているのですか?」

「………」

「………」

集中力を研ぎ澄ませた二人に、声は届くことはなかった。

「聞こえていないですか。コロは分かりませんか」

「キュウゥ……」

寂しげな表情を浮かべるコロ。

(一体何が二人をここまで惹き付けているのでしょうか。無粋ではありますが私も)

ランも耳をすます。

「主…水…さん…気持ち…いいです…こんなの…初めてです…アッ」

「そうか、ここがいいのか、もっと良くしてやるよ」

(こ、これは……)

室内から聞こえる淫らな声。あられもないシズクの声と、それを嬉しそうに攻め立てる主水の声。

ランの頬を冷や汗が伝う。

(マズイですね。このままでは気心が知れた仲間をまた一人失うことになってしまう…しかし、主水さんももう少し用心しなくては、壁が薄い部屋でことに及ぶとは…)

イェーガーズの中でも作戦参謀にあたるランは、主水の今置かれた、崖っぷちの命の危機を救うべく思案にくれる。

しかし、ランであってもこの修羅場を乗り切る術が見つからない。

ランはその性格から、綿密に揺らぐことのない予定を建て、行動していたために、女性関係で失敗したことはなかったからだ。まして修羅場などはありえなかった。

(さて、どうしたものか…)

ランが悲嘆にくれたその際に、セリューがゆらりと幽鬼の如く立ち上がった。

「もんどくんったらいったいなにしてるのかなー」

声は明るいが、言葉に抑揚はなく、まるでお経のように平らく、また形容し難い、おぞましいオーラを放ちながら、ハイライトが消えた瞳でドアノブに手を伸ばす。

手がノブに触れた直後、グシャッという音が辺りに響き、ドアノブたった物の欠片が地面に落ちる。

「かるくふれただけなのに、やわいノブだね。もうつかいものにならないや…まあいいか、わたしのじゃまをするとびらもいらないよね」

躊躇することなく、腕を振り上げるセリューを見て、ランとチェルシー、そしてコロは震え上がり、後退する。

二人の頭の中に警鐘が響き渡る。ここにいるだけで命に関わるぞと。

「も~ん~ど~く~ん」

友達を呼ぶように声をあげながら、セリューは拳を振り抜いた。

轟音を上げながら繰り出された拳は風を切り、扉を吹き飛ばす。

蝶番ごと吹き飛ばされた扉は、部屋の先にある窓を突き破り、外に吹き飛んだ。

「なにがおこった!」

「えっ!?」

声をあげる主水とシズク。

セリュー、チェルシー、ランが見たものは、三人が考えていたようなものではなく、ベッドに横たわるシズクをマッサージする主水の姿であった。

「あれ……違った。でもうん、そうだよね。主水君がそんなことしないよね」

「予想と違うわね」

「安心したような、残念なような」

訳が分からないと茫然とする主水とシズクの前で、三人が真実を知り、自分勝手に感想をもらす。

「説明してもらいましょうか…」

荒れ果てた自分の部屋を見回し、主水は眥を上げ威圧するように三人に問い掛ける、丁寧な言葉が一層主水の凄みを引き立てた。

三人はひきつった笑いを浮かべ、全てを話した。

―――――

「皆さん私をどういう風に見ているのですか」

「…………」

主水は呆れたように深いため息をつき、シズクは顔を真っ赤にして両手で顔を覆い、悶えていた。

「では、主水さんは以前よくしていたマッサージを無性にしたくなったと」

「そうですね。無理やりやらせられていたのがいつの間にか慣習になったみたいで」

りつに尻にしかれていたことがついに慣習にまでなっていたのかと、苦笑いを浮かべる主水。

何度か役にたつこともなかったわけではないが。

「シズクにはしてあげましたし、皆にもマッサージをしてあげますよ、そこに横になってください」

―――――

そして、今

「アアアァァアァ!!効くわ、すばらしいわぁ!新しい世界がみえるわぁ!」

スタイリッシュが天にも昇るような、恍惚の表情をしてベッドの上で悶えていた。

酷使し腰に疲労が溜まっていたためその効果は絶大だった。

三人は複雑な表情でそれを見ている。

(なんか穢らわしい…)

(エグイわ…)

(見てはいけないものを見てしまったような気がします…)

 

 その後、主水はイェーガーズ内のマッサージ係として実権を握った。

 




よく見かけたテンプレですがお許しください。
何分次回暗くなる予定なので、明るい話をと思った訳で。
必殺本編内でもりつのマッサージをしていた姿を思い出し、書いた所存です。

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