主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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スマホ更新になり、更新スピード、文章量低下申し訳ありません。


第69話

 アジトの中は、静寂に包まれていた。

聞こえるのは外から響く虫の音だけ。

また、明かりは、アジトの外から見た時に、三階から光が漏れておりその他は闇に包まれていた。

そして見たまま、一階部分には、窓から入る月明かりしかない。

「行くぞ」

ナジェンダが、皆に小声で告げると、皆無言で頷き、ナジェンダの後に続いた。

 中は薄暗くとも慣れ親しんだアジト、難なく三階部にたどり着き、明かりが漏れていた部屋を目指す。

足音を消しながら進むと、ある部屋かすら明かりが漏れ、なにやら鼻歌のようなものが聞こえる。

確実に暗殺者ではないと思われるが、警戒は解かずに、半開きの扉に近づく。

(私の部屋か…)

ナジェンダは、自分の部屋を覗くというあり得ない状況に、辟易しながらも、慎重に中に視線を向けた。

「な、なんだこれは!!」

自分の部屋の変わりように、ついつい声が漏れた。

部屋全体が、ピンク一色に染まっていたのだ。

「ボス!」

レオーネが慌ててナジェンダの口を押さえるが遅かった。

「やっと帰って来たんですね。待ちくたびれましたよ」

ナイトレイドの皆が帝具を構えるなか、叩きを持ち、マスクをつけ、エプロンを着けたタカナが姿を現した。

皆が臨戦態勢に入っているのを、ナジェンダは手で制す。

「皆すまん。コイツは私の知り合いだ。迷惑を掛けた」

「なんだそうだったのか」

頭を下げるナジェンダに、一同は安堵するが、一人だけ気が気で無いものが。

(ボスの知り合い!?知らねえぞこんな男)

ラバックである。

ラバックは、ナジェンダが帝国軍の将軍時代から、付き従ってきたが、タカナについては知らなかったのだ。

だが、それはラバックにとっては大きな問題ではなかった。

一番の問題は、少しナヨナヨとしてはいるが、なかなかの美形の男であるというところが、問題だった。

焦るラバックを知ってか知らずか、

「皆は体を休めてくれ。私はコイツと話があるんでな」

と暗に、ナジェンダは人払いをした。

「はい」

皆が出て行くなか、一拍子遅れるラバック。

そんな最中、

「そこの緑のあなた?」

タカナがラバックを呼び止めた。

「なんすか?」

ぶっきらぼうに返事をするラバック。

「まあ何て返事の仕方なのかしら。まあこれから指導すればいいことだし、今回は見逃してあげましょう。あなたはこの部屋の二つ目先の空き部屋にいる女性を連れて来てくれませんか」

口調は丁寧ではあるが、態度は尊大で、デカイため、少しラバックはイラつき、それが表情に出た。

しかし、ラバックは単純だった。

「すまないなラバック。頼めるか」

見つめるようなナジェンダの視線受けたラバックは、喜色満面の表情で飛び出していった。

「魔性ぶりは変わりませんね」

「うるさいぞ」

ラバックがナジェンダの部屋から出た時だった。

「キャアアア!!」

「うわああぁぁ!!すいませんでした!!!」

絹を引き裂くような若い女性の声と、平謝りして、部屋から飛び出し、へたりこむタツミの姿が。

「どうしたんだタツミ?」

あまりの慌てように驚いたラバックがタツミに歩み寄る。

「ラバック、俺が部屋に戻ろうとした時、隣の空き部屋から音がしたから見てみたんだよ」

「んで」

「そしたら女の子が着替えをしてたんだ」

「!!」

ラバックは目を見開いた。羨ましさからくる怒りの衝動からだ。

内心(主人公特有のラッキースケベかよ!!)と怒りを滲ませ歯軋りをしたが、逆に(今なら堂々と覗ける!ナジェンダさんからの大義名分があるんだ!!)拳を握りしめ、即座に行動に移した。

鼓動を弾ませ扉に近づくラバックの背後を閃光が通り過ぎた。

「私という可愛い彼女がいながら、どこぞの女の部屋覗くなんていい度胸してるじゃない!!」

般若のような形相をしたマインが、パンプキンの銃口をタツミに向けながら、ジリジリと歩み寄る。

逆にタツミは後退りしながらワタワタと弁解をするが、全く通用しない。

タツミとマインは、キョロクから、帝都への帰りの道中に、マインから告白をし、それをタツミが受け入れて付き合っていた。

(バカップルが)

羨ましさからラバックが心の中で吐き捨てていると、

「待てタツミーーー!」

逃げるタツミを追ってマインがパンプキンを乱射しながら追っていった。

余談だが、持ち主の精神エネルギーを弾とするパンプキンのこの時の威力は、危機的状況の時より上だったという。

「失礼します」

胸の鼓動を高めながら、ソロリとラバックが扉を開けると、ラバックの動きが止まった。

そこには、期待していたものはなかったが、見とれるだけのものがあった。

仄かな月明かりに照らされ幻想的な光景の中に、まるで妖精のような女性が。

月明かりに照らされた、肩にまでかかるほどのサラサラと流れるような美しい髪は、キラキラと輝き、白くきめ細やかな肌、薄い長襦袢を着ているため、月の光によって浮き上がる陰影が、スタイルの良さを表している。

年の頃20歳前後ほどで、大人の女性の美しさを感じたが、ピンク色の借り物と思われる長襦袢が大きいのか、ブカブカで、袖があまり、手が隠れている様子と、うっすらと頬に朱がさしている様は可愛らしさを感じさせた。

「あ、あなたは?」

急に現れ、動きを止めたラバックに、スピアは驚き尋ねた。

「きみを呼んできてくれって頼まれて」

しどろもどろながら、端的に答えた。

スピアの姿に見惚れても、ナジェンダの言い付けだけは、しっかりと果たす。

「ありがとうございます」

スピアは丁寧にお辞儀をすると、椅子にかけてある上着を羽織り、部屋を出ていった。

(美人だったなぁ)

出ていったスピアの姿を思い返して、心の中で呟いていた。

◆◇◆◇◆◇

「失礼します」

ノック後に挨拶をして入って来るスピアを見て、

「来てくれましたねスピアさん」

タカナは笑顔で迎え、まるで自分の部屋であるかのように、近場にある椅子に座るように促した。

そのような、タカナの姿を見ても、ナジェンダは小さく溜め息を吐くだけで、文句は言わなかった。

多分、慣れているのだろう。

「貴女をここに呼んだのは、これからどうするかを、貴女自身に決めてもらうためです」

「これから?」

「ええ、このまま誰も貴女を知るものがいない別の地に行き、平穏に暮らすか、父上の無念を晴らすか」

タカナが真面目な口調で話す言葉を聞き、スピアはピクリと体を僅かに揺らし、ナジェンダは黙って聞きいっていた。

タカナの思惑を理解して黙って聞くことにしたのだろう。

「お父上は、前者を望んでいるとおもいますが、貴女の人生は貴女が決めるのですよ」

「………少し考えさせてください」

「ええ、体を休めながらゆっくり考えてくださいね」

スピアは厳しい現実を突きつけられ、ひ表情を無くしたまま、部屋を退出した。

「スピアお嬢様にしたら辛いだろうな」

「ええ、父親を失いその悲しみが癒えぬまに、すぐにこれからのことを考えなくてはいけないのですからね」

今まで多くの悲しみを乗り越えてきた二人にとってみても、スピアの置かれた状況には、同乗を禁じえなかった。

「ところで、お前がここにやって来たのは、スピアお嬢様を私たちに預けるためにやって来たのか?」

「それもありますが、それだけではありませんよ。以前した約束を果たしにきたのですよ」

「以前の約束か……」

ナジェンダの脳裏に、浮かぶ光景。

スサノオが追い詰めたセリューを、タカナが庇い、逃がした時に約束したこと。

「後日償いをしますよ」

そのことを、タカナが言っているということは、容易に想像出来た。

「ええ、貴女方の敵であったセリューさんを、私が以前ザンクに殺されそうになった時に助けてくれたお礼に助け、その償いにとしたあの時の約束です」

「でどのように償うつもりだ?かなり大きい貸しだぞ?」

真剣な表情で問い掛けるナジェンダに、タカナは自信満々といった感じで提案する。

「私がナイトレイドに加入してあげます。感謝なさい」

「な、なに!!」

想定外の答えにナジェンダは驚愕の声を上げると同時に、頭の中で、計算を始める。

たしかに、タカナがナイトレイドに加入すれば、戦力が飛躍的に上がり、更には今では不可能と思われていた人員補充が可能になる。

となれば、有無も言わせず承諾しそうなものだが、大きなリスクがあったのだ。

 以前、革命軍本部での出来事。

「全く、肉ばかり食べて、体に悪いですよ」

「部屋の掃除ぐらいしたらどうです。埃が残ってますよ」

「女性の部屋とは思えない殺風景な部屋ですね。私の部屋を見習ったらどうです」

「そんな男勝りな性格だから行き遅れるのですよ」

等々、ネチネチとまるで姑のような対応してきたのだ。

精神的なストレスが酷かった。それがタカナ加入への迷いへと繋がっていたのだ。

 ナジェンダの中でも結論が出ず、しばらくの有余を得るために、話を代える。

「タカナお前は革命軍本部には戻らないのか?」

「戻るつもりはさらさらありませんよ」

タカナはあっけらかんと言いはなった。

まるで、当然の事のように。

「何故だ?」

タカナも革命軍の幹部とはいえ、本部の指示には従わなくてはならない。

しかし、タカナはそれすらしないと言うのだ。

疑問と共に、静かな怒りがナジェンダに込み上げていた。

「革命軍本部に裏切り者が居るからですよ」

僅かに二人の間に静寂が訪れる。

ナジェンダはタカナの言っていることが理解できなかったからだ。

しかし、その一時的な静寂の中で考え、理解すると、声を荒げ、激昂した。

「ふざけるな!!志を同じくする革命軍の同士の中に裏切り者がいるだと!!」

ナジェンダはいかり怒りのまま、タカナに食って掛かった。

今まで共に命懸けで戦ってきた仲間を冒涜されたと感じたのだろう。

しかし、そんな剣幕のナジェンダを見てもタカナは、たじろぐことなく、冷静に話続ける。

「貴女の言い分はもっともです。しかし、私も確証があって言っているのですよ」

「ではその確証とやらを話してもらおうか」

ナジェンダは冷めやらぬ怒りを圧し殺して、タカナに話すように促した。

文句を言うのは話を聞いてからでもと思ったことと、タカナが確証があるとまで言ったことが、ナジェンダが自分を抑えることに至った理由である。

「おほん、では話ますが、話の前提として、貴女は私の革命軍内での扱いはご存知ですよね」

「当たり前だろ。何年の付き合いだとおもっている!」

タカナの革命軍内での扱いは、幹部としても、特殊なものだった。

幹部でありながら、帝都に潜入しての任務故に、タカナの名は軍の名簿にすら記名されず、尚且つ、軍の内部でも一部の者しか知ることのない、特殊な立場であった。

その僅かな知り合いの一人であるナジェンダは、当然とばかりに頷いたのだ。

「そうですね。ならばこう言うだけで、通じると思います。私が帝都警備隊隊長を追われたのは、私が革命軍のメンバーと知られたからです」

「!!」

ナジェンダは、絶句した。

タカナが述べたことが、端的に、革命軍の内部、それも上部に裏切り者のいるということを表していたからだ。

「言うまでもないことですが、私の素性を知るものが、捕まったという情報は入っていないことからも、裏切り者がいるのは確実です」

僅かな希望もタカナによって切り捨てられ、ナジェンダもタカナの言うことを信じるしかなかった。

「ということで、革命軍本部では、自由に動けないだけでなく、命を狙われる可能性があるので、信じられる貴女が治めるナイトレイドに加入することにきめたのですよ」

「はぁ仕方ないか。革命軍内部ではお前の方が僅かに地位は高いが、ナイトレイド内では私がリーダーだ。指示には従ってもらうぞ」

「ええ、構いませんよ」

したり顔で承諾するタカナを、大丈夫だろうかと、ジト目で見ていたナジェンダだが、戦力が増えたことにはかわりないと、ポジティブに考え、リスクには目を瞑ることにした。

「では明日皆にお前を紹介するから、今日は空いている部屋で休んでくれ」

「もう部屋は頂いていますからお気遣いなく」

タカナは踵を返すと、後ろ手にてを組んで、胸を張り、ピンク色に染められたナジェンダの部屋を後にした。

(この部屋は明日にタカナに元にもどさせるとするか)

ナジェンダは頭をかかえ、目に優しくない色に染めあげられた部屋を、茫然とながめていた。

 




スピアの年齢が分からないので、20歳前後にさせてもらいました。
チョウリの発言で、行き遅れ的なものもありましたが、時代によっても違ってきますので。
まあ20歳前後で、行き遅れならば、ボスは……あれ?誰か来たようなので、それでは。

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