主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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第75話

 人気が無く、豪華ながら無機質な印象を受ける廊下を歩く一人のメイド。

その容貌は、凛とした気の強さを感じさせる美しさを醸し出しているが、表情には、それとは対照的に張りつめた緊張感がありありと表れていた。

 様々な掃除用具を持つ手は僅かに震え、手に汗握る様からも、メイド仕事に赴くメイドとは思えない光景である。

(待っているみんなのためにもやり遂げないと)

メイドは決意を固めるように、胸の前で拳を握り締め軽く息を吐き、目の前の扉をノックした。

「失礼します」

「…………」

中からは返事はないが、メイドは仕事を果たさなくては成らないため扉を開き部屋に足を踏み入れた。

 昼だというのに、室内はカーテンが閉めきられているため暗く、また窓も閉めきられているため空気が濁っている。

 そんな室内の片隅にあるベッドは、毛布が丸くなり小刻みに震えている。

 一般的な宮仕えのメイドがこの様を見たのならば、部屋の主に気を効かせ出ていくのが相場かもしれない。

しかし、このメイドはそれとは逆の行動にでた。

 ベッドに歩みよりながら、束ねた髪から一本の針を取り出す。

束ねられていた髪がほどけ、決め細やかな髪が清流が流れるようにさらさらと波打つ。

「お掃除に参りました」

メイドが口許に微笑を湛え針を構えた刹那、毛布がはね上げられる。

「予想通り来なさったようだな。あのクズも囮にはつかえるみたいだな」

「主人に向かってそれはなかろう左京亮よ」

ベッドから舞い降りた左京亮が、瞬時にメイドを取り押さえると、部屋の外から草を加えたイゾウが苦言を呈しながら室内に入ってくる。

「なにをなさるのですか!?私はただシーツのほつれを直そうと」

メイドは左京亮に腕を取られ、絨毯に顔を押し付けられた状態ながらも、必死に誤解を解くように弁解する。

「そんな意見は通らねえよ。ここに入った瞬間おめえは詰んだんだ。なあイゾウ」

「左様。この部屋は女人禁制メイドが入ることは禁じられておる」

「私は今日から雇われたメイドで、そのようなこと知らなかったのです」

「この部屋での仕事は指示はされぬはず。それよりも、これがなによりの証ではござらぬか」

イゾウがメイドから一本の針を取ら上げ、掲げた。

「裁縫用ではござらぬな。血の臭いが染み付いておる」

「議論の余地はねえな。拷問室にご案内」

左京亮は口端を三日月のように歪めると、メイドを拷問室に連行した。

◇◆◇◆◇◆

 拷問室に連行されたされたメイド、帝具〈ガイアファンデーション〉を取り上げられ、姿がチェルシーのものとなっていた。

そのチェルシーの瞳は、死を覚悟した者の眼差しをしていた。

 殺し屋は、捕まればどのような苛烈な拷問を受けようとも仲間のこと、組織の秘密全てを黙して語らず、出来るのは死を迎えるのみそのことをチェルシーは深く理解していた。

 しかし、チェルシーもまだ20歳の女性だった。

 頭に過る後悔

(タツミ、マインごめんね……)

自分自身のことではなく、仲間への謝罪だった。

 チェルシーは、ナイトレイド加入後何事にも真剣に取り組み、また純粋なタツミに惹かれ好意を抱くようになっていた。

 しかし、タツミはキョロクへの遠征中に、マインの好意を受け入れ恋人となる。

 心の中には僅かな蟠りがなかったとは言えない、だがまた一方でチェルシーは、マインならしょうがない、お似合いの二人だと、蟠りを越えて二人を祝福していた。

 そんな中での、帝都帰還後のワイルドハントの暗殺。

マインを庇ったが為にタツミは大変な怪我を負い帰還する。

 殺し屋であれば、いつ死んでもしょうがない、日頃から冷静に考えていたチェルシー。

しかし、最近では、いやナイトレイドに加入してから考えが変わっていた。

(殺し屋なら死んで当然。でも、僅かでもあの二人が、仲間が、生還できる可能性がふえるなら)

そういう思いからチェルシーは自分にしか出来ないシュラ暗殺を志願し、請け負ったのだ。

「この娘がシュラを狙ってまんまと罠に引っ掛かったのですね」

拷問室に吊り下げられたチェルシーを見て肉をクチャクチャと頬張りながら大臣オネストは左京亮に尋ねる。

顔は嫌らしくまた醜い笑みで歪んでいる。

(こんな間近にいるのに何物出来ないなんて…)

悔しさからチェルシーは瞳を閉じた。

「ええ、この帝具でメイドに化けていたようです」

左京亮は大臣に見せるようにチェルシーから没収した帝具〈ガイアファンデーション〉を机の上に置いた。

「よくやってくれました左京亮。シュラは今どこにいますか?」

大臣はガイアファンデーションを手に取ると、左京亮にシュラの居所を問う。

今までであれば、室内に引きこもっていたので聞くまでもないことであったが、最近ではリハビリも兼ねて、無理やら部屋から引きずり出して働かせていたためのことだ。

 しかしながら、シュラに愛想をつかせていた大臣オネストは、あまり気にはせずにいたため、どこで働いていたのか分からずそれを聞くに至った。

「今なら第二拷問室にいるかと」

「そうですか。呼んできていただけますか」

「はっ」

控えていた係の者が、大臣の命を受け走った。

「なかなか乙なことをお考えですね」

「父親としての愛ですよ」

ーーーーーー

 第二拷問室では、歴戦の拷問官さえも目を背ける凄惨な拷問が、シュラによってなかなかのイケメンの男に行われていた。

「オラオラさっさとゲロっちまえよ。まあ俺としてはもう少し楽しみてえから粘ってくれたほうが嬉しいがなぁ」

「アッーーーーー!!言います!言わせてください!!」

シュラは頬を蒸気させ、口許を三日月のように歪め自分のいきりたつモノを男に突き立て、快楽を貪り腰を打ち付けつつ尋問をしていた。

女性恐怖症になってから、シュラはそちらの方向に目覚めていたのだ。

「ああっ聞こえねぇなあ!!」

「アッーーーー!!言わせてください!!」

男は苦痛と屈辱に顔を歪ませながらも、必死にシュラに懇願するが、シュラは愉悦を貪りながら、聞き流す。

シュラの動きがフィニッシュに向かい激しくなる。

「やめてください!!」

身の危険を覚えた男は悲痛な叫び声を上げるが、シュラが聞くはずもない。

直後、拷問室の扉が開け放たれ係の者が入ってくる。

「お楽しみの所申し訳ありません。シュラ様、オネスト大臣がお呼びです」

「オヤジがか…チクショウあと少しで逝けたのによう」

シュラは、大臣(オヤジ)には逆らえないとモノを納めると、オネスト大臣の元に向かった。

 残された拷問を受けた男は、死んだ魚の目をしていたことは言うまでもない。

ーーーーーー

「オヤジ来たぜ………ヒッ!!」

「またですか。これ以上私を失望させないで欲しいですな」

吊り下げられたチェルシーを見て女が!とばかりに震えるシュラを見て大臣は、呆れ返る。

「オネスト様仕方ないのではないかと…未だに心の傷は癒えてはいないでしょうし」

シュラを弁護する左京亮ではあるが、口許には圧し殺せない微笑がウッスラと浮かんでいる。

左京亮は今後のオネストのすることを理解しているがための笑みである。

「ええ、だからこそです。失望していてもあなたは私の息子です。故にその心の傷を治してあげようと思いましてね」

「ほんとかオヤジ!!」

シュラ自身も早く治したいと思いながらも、友人で名医のスタイリッシュでさえ匙をなげた症状。

諦めかけていた所に救いの手がサシノベラレタために、シュラは藁をも掴む思いですがりついた。

シュラの様子を見たオネストは、不適な笑みを浮かべる。

「簡単なことです。もう一度女をいたぶり自分のほうが女より上位な存在と理解出来ればその症状も治るでしょう。故に、この女にどんな方法でもかまいません。全てを喋らせ、その後に始末してください」

「俺がその女を…」

「ええ」

内心では出来ると思うのだが、身体は震え、足が進まない。

セリューがシュラの心に刻み込んだ傷は深かった。

「なにを怖がっているのです」

オネストは徐に拳を振り上げると、躊躇なくチェルシーに叩き込んだ。

「うぐっ!!」

「こんなことをしても反撃出来ないのですよ」

オネストは何度か殴り付けていると、シュラの瞳にかつて存在していたギラついた光が蘇りつつあることに気づく。

「キャッ!?」

オネストはチェルシーの服を掴むと強引に引き裂いた。

露になるスタイルの良い見惚れるほどの体。雪のように白い決め細やかな肌。

「さああなたが好きだった女体ですよ。ことが終われば好きにしていいですから頑張りなさい」

オネストはそれだけ言うと左京亮を伴い拷問室を後にした。

 残されたのはシュラとチェルシーだけであった。


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