主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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第85話

「へえ、今日来るのか」

喜色の声をあげたシュラは口許を三日月のように吊り上げた。

それまでのシュラは、イゾウが殺され、チェルシーに逃げられと、大きな自分の責任となる案件に頭を悩ませていたが、それがまるで嘘のようにテンションをあげていた。

「はい。革命軍からの指令が届いた日から考えて間違いないでしょう」

彦三頭巾という亡者を表す頭巾、つまり

黒づくめの頭巾で頭と顔を覆い、瞳だけが露出した状態の人物が淡々と答える。

異様な見た目故に、無感情の声がより不気味さを引き立てる。

「以前のチョウリの時といい役にたってくれるぜ」

シュラはチョウリの一件を思い出す。

チョウリが奥の手の証言者を手にいれたことをオネスト大臣及びシュラに伝えたことと、その証言者を見つけ出しシュラに引き渡したのは目の前にいるその人物だった。

チョウリは有能であり、革命軍に加入させる訳にはいかないと、日頃からマークしていた為にできたこと。

しかしながら、その人物も自分の主と共に革命軍に間者として属しているため、革命軍の為と偽りながらチョウリをマークしていたのだが。

「だがよ、今回はこんな回りくどい仕方じゃなくてよ。直にナイトレイドのアジトを教えりゃあいいのによ」

「さすがにナイトレイドのアジトまでは重要機密事項であり、深くまで入り込んでいる我が主でも分からないようです」

「チッつかえねぇな」

シュラは先程とは裏腹に舌打ちをし不満を露にした刹那、その人物は懐から懐剣のような小型の刃を抜きシュラの喉に突き付ける。

「我々はオネスト大臣の間者であり、あなたの駒ではないのですよ」

「わ、分かった、分かったから、離れろ!」

依然として変わらぬ声色には怒りの色は表れているとは感じられないが、凍てつくような殺気が込められており、また、直に伝わる冷たい刃の感触が恐怖を引き立てた。シュラはその殺気と死を実感させられる感触に恐怖し、怖じ気づいた。

そんなシュラを見てその人物もシュラから離れ、懐から何枚かの紙を取り出す。

「現時点でのナイトレイドのメンバー七人の詳細です」

「ナジェンダ、アカメ、レオーネ、マイン、ラバック、タツミ、チェルシーか………こいつは逃げやがったアマか。他は大体面が割れてるな。だが新たに分かったやつもいる」

シュラは六枚の資料に目を通すと一度舌舐めずりをする。

まるで美味しそうな料理を目の前にしたように。

「どいつも旨そうだ。捕まえたら味見しないとな」

テンションと共に沸き立つシュラJr、しかしそれを意にも介さずその人物は踵を返し、

「では革命軍に戻りますので」

とシュラに告げシュラの自室を後にした。

「おっし狩りに行くか!」

シュラは意気揚々と自室を後にした。

◆◇◆◇◆◇

「ラバックさんとタツミさん。似合ってますよ。可愛いです」

「そ、そうかな」

「俺も自信あったんすよ」

帝都を探索する指令を受けたラバック、タツミ、スピアが帝都の仮のアジトの貸本屋に集まっていた。

そして、ラバックとタツミは、筒がなく探索を進めるために女装して姿を変えていた。

それを見てスピアは似合っていると賞賛し、タツミは照れ、ラバックは気取ってポーズを取っている所であった。

「そんなことよりスピアさんも白いワンピース似合っていて可愛いですよ」

「そ、そんな……」

タツミのスキル年上キラーが通常通り発動し、スピアにクリティカルヒットする。

タツミへの警戒心をスピアも持っていたはずだが、その防御すら容易く貫通した。

頬を染めたスピアがモジモジしながら視線を落とす。

その側では、

「タツミ、テメー彼女いながらスピアさんまで落とすきかよ!!」

血涙を流しながらタツミの胸ぐらをつかんで文句を言うラバック。

「ま、まて、まて。俺はそんなつもりはない」

「うるせえ!何でいつもお前ばっかり!!」

止め役がいないため、そのような不毛な争いがしばらく続いた。

ーーーーーー

「ってことで、帝都の探索が終わったらこの地に集合だ」

ラバックは一枚の地図を開き帝都近郊の山を指した。

その地点は険しく、また危険種が出たり、盗賊が潜んでいたりと、警備隊すら恐れて近寄らない場所なので、まず人が来ることはない。

故に、情報の交換が出来る場所としてそこを選んだのだ。

「分かった」

「分かりました」

「おっしじゃあ行くぜ!!」

二人が了承するのを見てラバックが締めたーーーーはずだった。

「ラバックさん。今は女の子なのですから言葉遣いには気をつけてくださいね」

花開くような可憐な笑みで言われたラバックは、しばし言葉を失う。

「……いい…」

「どうしたんだよラバ」

呆けたように佇み何か小さく呟くラバックに声をかけるタツミ。

誰が見ても危ない状態に見える。

「いったいどうしたんだよ!!」

タツミも心配になりラバックを揺り動かす。

「いやな、レオーネ姐さんに鉄拳制裁食らうのもなかなかいいんだが、やっぱり美しいお姉さんのスピアさんに優しく叱られるのは格別なんだよ」

「はいはい」

タツミは一つ深いため息を吐くとラバックをその場に置いて、スピアと共に探索に向かった。

ラバックに変な性癖が生まれた瞬間だった。

◇◆◇◆◇◆

「世界は俺を中心にして回ってやがるぜ」

シュラは建物の屋根の上からある人物と、資料を見比べてほくそえんだ。

なにもかもが自分の思い通りになるなと。

「俺の目には女装なんて関係ねぇぞ。それより実物はよりいいぜ。大人になりきっていない青臭さ漂うあの風貌。そしてなにより生意気そうなの面なのも調教しがいがありそうでいい。早く俺自身の帝具でヒィヒィ言わしてやりたいぜ」

(あれ、依然兄貴から感じたのと同じ感じが)

シュラの野獣のような視線を受け、タツミは身震いをして辺りをキョロキョロと見回した。

 そしてこの事態は他の所にも波及していた。

ーーーーーー

「隊長どうなされました」

突拍子もなく不機嫌さが顔に表れたエスデスにランが問い掛ける。

久々の帝都への帰還と、イェーガーズのメンバーとの久しぶりの再会に際して何か問題があるのかと危惧してのことだ。

「分からんがとてつもなく不愉快な感じがした。私の大事な物に手を出されそうなな。まあ私の大事な物に手を出したら、拷問『無間地獄』コースを数万回死ぬ直前の状態で心底味わわせてやるがな」

(隊長の大切な物に手を出す命知らずな者などいないと思いますが)

どす黒い殺気を撒き散らすエスデスに、冷や汗をながしながら、ぎこちない笑みを無理矢理に浮かべてランは心の中で呟いた。

エスデスの直感が現実になりかかってはいたが。

ーーーーーーー

「なんだか分からんがブルッときたぜ……武者震いってやつか。楽しくなってきたぜ。だが、まだだ。やつの話ではあと一人いるはずだ……揃った所を人気のねぇ所で狩りに出る!」

シュラは屋根を飛び移り距離をおき、タツミを尾行した。

◇◆◇◆◇◆

 タツミはその後も帝都での聞き込みや探索を行い、何らかの収穫を得たのか、帝都郊外の集合場所にやって来ていた。

(自ら人気のねぇ所に来やがったぜ)

全てが自分の思い通りに進んでいることに、シュラの口許が緩みっぱなしになっていた。

しかしながら、シュラは以前己の慢心故にセリューに負けたと後悔していたため、その時に学んだことから、極力慢心することを抑えていた。

性格上完璧にとはいかないが。

「タツミもう戻ってたか」

離れた所で気配を消し様子を伺っていると、タツミと合流する一人の青年の姿が。

(やつは……ラバックか。これでメンツが揃いやがったな。行くぜ!)

シュラは全力でタツミとラバックに肉薄するが、タツミとラバックは突然の襲撃に反応が遅れる。

「お前たちが行きたかった宮殿内に招待してやるぜ!シャンバラ!!」

シュラの帝具シャンバラが輝き、陰陽五行図が浮かびあがり、タツミとラバックが飲み込まれ姿を消した。

「やったぜ!今頃俺の配置しておいたやつらが捕まえているはずだ!これでオヤジも認めてくれるはずだ!そしてさの後は、捕虜にしたやつらと………今日は徹夜で楽しめそうだな」

シュラは上手くいった、そして今朝の失態も帳消しになったと高笑いを響かせた。

そして思い描くはタツミとの拷問交じりの禁断の世界。

しかし、そんな妄想を打ち破るように声が聞こえた。

「あなたは………!!」

「あっ?」

シュラが薔薇色の妄想を中断させられたことに苛立ちを感じながらも、声がした方に振り返る。

こんな場所に来るやつがまだいたのかと。

「シュラ!!」

「あん。誰かと思やチョウリの娘じゃねえか。まだ帝都に居たのかよ」

タツミとラバックと合流するために集合の場に帰ってきたスピア。

しかし、その場にいたのは、二人ではなく予想外の人物シュラだった。

スピアの顔が怒りに染まる。

今まで何度夢に見たことか、父の敵として討つことを。

その自分の父チョウリの仇のシュラが現実に目の前に現れたのだ。当然のことである。

しかし、シュラは意にも介さずヘラヘラと嘲るような笑みを浮かべる。

「私は父の敵を討つ為にナイトレイドに加入したのよ!!」

スピアは吹き荒れるほどの殺気をみなぎらせながら背中に背負っていたワンピースとは不釣り合いな布に包まれた帝具〈アダユス〉を抜き開放し、以前見せた脇構えをとる。

「やつの資料にはなかった情報じゃねえか」

おいおいといった感じでシュラは、頭を掻きながら一つため息を吐く。

しかし、次の瞬間表情を一転して嬉々としたものとする。

「いいぜ。来いよ!俺は前にお前を見た時からやりてえと思っていたんだ!宮殿でのメインディッシュの前に味わわせてもらうぜ!!」

ペロリと舌舐めずりをすると、シュラも以前の失敗を繰り返さないためにも油断なく構えをとった。

スピアにとっての敵討ちが幕を開ける。

 

 

 

 

 




原作11巻突入です。
はたして12巻が出るまで引き延ばせるのか、もしくは完全なオリジナルになるのか不安です。

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