主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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大変遅れて申し訳ありません。
期末テストが近づいておりそちらの勉強に忙しかったので。言い訳にしかなりませんが……
今回から原作とは解離した完全なオリジナルの話になるため、クオリティーは下がると思いますがお許しください。
12巻が発売されるまでには終えることになると思います。



第92話

「まだなのかアカメ」

「あと少し」

疲れた表情で茂みをかき分け道無き道をアカメに続き進む主水に、表情を変えずに答えるアカメ。

 主水がナイトレイドのアジトを出た際には一人であったが、アカメに尋ねた場所が分かりづらいということで、自分の都合も合わせてアカメが主水の目的地まで堂々してくれることになったのだ。

 また、その目的地が人里離れた山の奥地ということで道無き道を進んでいたのである。

 かれこれ一時間以上は進んでいたが。

「ねえ主水」

「なんだ?」

「主水はどこで殺しの技術を学んだの?」

主水は唐突だなと思いながらも、目的地につくまでのいい暇潰しだと話始めた。

「俺の殺しは厳密にいえば教えられたもんじゃねぇ。それまでに修得していた剣術で殺しに使えるものを選択して使っていただけだ」

主水は染々と過去を思い出すように話す。僅かに影を浮かべながら。

奥山神影流、御嶽新影流、小野派一刀流、一刀無心流、心形刀流等々の剣術を類い稀なる才で免許皆伝まで至らしめ、八州一の居合いの腕と噂され、剣術の究極の一刀も修得した。 

それは全て国を良くしようと若く熱い志を持っていた時のことであり、今ではそれを殺しに使うことになろうとは思いもしなかったことだろう。

「そうなんだ。だから私が見たことがない戦い方だったんだ……」

アカメがポツリと溢した言葉に、世界が違うからだがな、と主水は思いながらも

それで通しているため、何も言うことはなかった。

「それで、なんで聞きたかったんだ?」

「私は主水の強さを知りたくて」

主水は理解した。

アカメにとっては強さというのは殺しを行いながら成長させる物と考えていたために、殺しの技術と聞いてきたのだと。

遠回りに感じたのもそのためだったのである。

「俺の強さ」

「うん。ナイトレイドの戦いはこれからさらに激しさを増してくる。あのエスデスとも剣を交えることになると思う。当然命をかけた戦いだから無事には済まないと思う。でも私は皆を守りたい。そのためにもっと強くなりたいんだ」

主水の目から見てもアカメの強さはすでに人知を超えており、かなりの高見に至っている。

しかし更に高見を目指す姿は、若き日の自分を見ているような気がしていた。

幾多の剣術の流派を己のものとしながらも、満足せず更に他の流派を修得していったあの頃の自分を。

また、いまならその気持ちもわかる気がした。

主水は、普段は身の保身の為なら仲間をも殺すといった態度ではあるが、実際には何度も仲間を救うために命をかけていたこともあったからだ。

「目的地についたら少し時間がある。アカメの弱点は分かっているから教えてやるよ」

「本当に主水!」

「ああ」

アカメは喜びいさんで主水の手を取ると、走り出した。

主水自身は苦笑いを浮かべていた。

今までこれほど仕事人仲間と深く関わることはあまりなかったからだ。

ーーーーー

「主水あれだよ」

アカメにひかれて辿り着いた開けた所で、指差した先に小さな小屋があった。

「あれか」

「うん。私たちのナイトレイドがよくお世話になってる鍛冶屋のマサさんが住んでいるんだ」

「鍛冶屋の政だと!!」

「!」

突然大きな声をあげる主水に、なにか不味いことでも言ったかなと疑問符を浮かべるアカメ。

「悪い……なんでもねぇ」

(田中様の似たタカナ様に、右京亮本人、さらには政……いくらなんでもまさかな…有り得ねぇだろ…)

主水は以前の仕事仲間を思い描きながらも、有り得ねぇとかぶりを振って、考えを打ち消した。

「こんにちはマサさん」

「おう久し振りだなアカメ」

主水をその場において、アカメは声をかけると、小屋の中から答えが返ってくる。

まさに、何度も主水が聞いていたあの声が!

小屋の扉が開かれ現れた人物。

「政!!!」

「はっ!八丁堀!!!」

顔を会わせた瞬間二人は動きを止めた。

◇◆◇◆◇◆

「はぁ…ついてしまいましたか………」

上空から滑空し着陸体勢をとるエアマンタの背に乗るタカナは、眼下に広がる大きな建物を見ながら辟易するように呟いた。

ナイトレイドのアジトを出たタカナはエアマンタに乗り革命軍の本部に戻ってきたのだ。

強い決意を持って………のはずだった。

しかし、早くもその決意も揺らぎかけていた。

その弱い精神によって。

なよなよと悩んでいる時であった。

「お待ちしておりましたタカナ様」

エアマンタが降り立つ場所から僅かに離れた所から、駆け寄る男の姿が。

「ああ、ミゾロギさんですか」

ミゾロギとは、タカナが警備隊に潜伏していたときに、部下として働いていた時に何かと役にたったため、地位と金子で率いれた男である。

自分は帰らずに革命軍の本部に行かせていたのだ。

決して自分が本部に帰りたくなかったからではない……だろう。

「憂鬱ですがナイトレイドの皆のために頑張りますか。でミゾロギさん、調べはついていますか」

「はい。ここに」

ミゾロギは一冊の資料をタカナに手渡す。

タカナがペラペラと中を見ると、詳細に内容がまとめられている。

「さすがミゾロギさん。どこかの誰かとは大違いですね。では参りましょうか」

タカナは資料を流し読みながら革命軍本部と目される建物とは反対の方に歩いていく。

しばらく歩き、ポツリと存在する枯れ井戸の蓋を外すと、掛かっている縄ばしごき手をかけ、慣れた感じで降りていく。

「この感覚も久し振りですね」

地上とは違い暗く冷ややかな空気にどこか感慨深く呟く。

「しかし、革命軍でもかなり高い身分のタカナ様が表玄関ではなく、こんな陰気な裏口を使うなんて誰も想像できませんね」

「しょうがないですよ。私は隠された存在で知るものは革命軍でも一握りの者だけなのですから。行きますよ」

タカナは言葉とは裏腹に重たい足取りで歩き始める。

ミゾロギはそんな諦めの悪いタカナにあきれながらも、明るい未来のため、文句も言わず黙って後に続いた。

 井戸の底から伸びる真っ暗で一寸の光りさえも存在しない横穴を歩く二人。

ミゾロギは危なげな足取りで歩き、タカナは溜め息を吐きながらも、危なげなく歩いていく。

革命軍の本部に入る際には必ずこの裏口を通っていたため、最近使用していなくとも体はしっかりと覚えているためだ。

 しばらく歩くと僅かに光が見えてくる。

「つきましたね……」

横穴の突き当たりにタカナは着くと、光が差し込む上部を見上げ掛かっている縄ばしごを登り器用に光が漏れる天井部分の扉を開け、出口となる革命軍の自室にたどりついた。

「はぁ。この部屋も久し振りですね」

何度ここに来てから口にしただろうかと頭の片隅で思いながらもつい口に出してしまう「久し振り」という言葉に、タカナはひっそりと苦笑いを浮かべた。

 タカナは徐に自室の机に近づくと指を走らせる。

よく嫌味な姑がするような姿である。

「かれこれ二、三年の時が経っているのに埃1つないなんて」

「いつ気まぐれなタカナ様が帰還なされてもいいようにしておきました」

タカナが振り返ると、年の頃は20歳前後の、美しい流れるような金髪を持ち、その美しい髪にも全くひけを取らない凛とした整った容姿の女性が疲れた表情で立っていた。

「これはこれはレチェリィさん。お久し振りですね」

「遅いお帰りですね…」

表情1つ変えずに白々しく答えるタカナに溜め息が止まらないレチェリィに、後から上がってきたミゾロギも同情を禁じ得なかった。

「任務を終えたのちどこで何をしていらっしゃったのですか」

「まあ色々とあったのですよ。レチェリィさんも私がいないあいだ私の変わりを務めてくれてありがとうございました」

革命軍でのタカナの秘書的な立場のレチェリィはタカナが帝都警備隊に潜入している時に、その代理として仕事をこなしていた。

そのためタカナは恭しくお辞儀をしたのだった。

「と、挨拶はここまでにして、ミゾロギさん報告をしてくれませんか」

タカナの命をかけた革命軍内部の大掃除が幕を開けるのであった。

 

 


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