主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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 大分遅れてしまいました。
期末試験だったり、夏休みの宿題だったり、オリジナルストーリーが浮かばなかったりと。
言い分けばかりで申し訳ありません。


第93話

 タカナ、レチェリィ、ミゾロギの三人が机を囲んで座るタカナの執務室は緊張感に包まれた様相を呈していた。 

そんな中で、ミゾロギが勿体ぶった様子であからさまな咳払いをし報告を始めた。

「今回調べた所によると、怪しい者は二名に絞ることができました」

「さすがミゾロギさん。ドヤ顔するだけのことはありますね。この短期間でそこまで絞ることができるとは」

革命軍には構成員だけでもかなりの人数が所属している。

たしかにその中でタカナの存在を知る数少ないものに限ることができたとはいえ、どの幹部も手練れ揃いであり、その猛者の中から怪しい者を見つけ出せただけでも大手がらであり、タカナは称賛した。

「レチェリィさんにも手助けしつもらったんですがね」

ミゾロギは表情を崩しレチェリィに視線を送るとレチェリィはニッコリと微笑みを浮かべる。

(やはりこの二人はたいしたものですね)

自分で見いだし育てた二人の成果にタカナの頬も緩んでいた。

 しかし、タカナも革命軍の幹部。

いつまでも表情を緩めている訳にはいかなかった。

「ミゾロギさん。その二人とは誰ですか?」

「最有力は元々名うての殺し屋でボス自らが仲間に率いれたという〈夜嵐のキンペイ〉という男です。かなりの腕で『なんだかなぁ~』という呟きを残して仕事を完遂するという恐ろしい男です」

タカナならば知っていることは当然承知でタカナの表情を見ながら詳しく述べるミゾロギ。

「夜嵐のキンペイですか……」

タカナはその名を呟き表情を歪めた。

(何を考えているのか分からない上に、全く場の空気を読まない発言をし場を冷えきった状態に変えるあの独活の大木ですか……)

タカナの表情を見た二人は(やっぱり嫌っていたんだな)と溜め息をついた。

キンペイという男は、潔癖気味のタカナとは全く逆の性格をしていた。

がさつで大雑把という。

「はぁ、まあいいでしょう。あの男が裏切り者であれば容赦なく処断できますしね。で二人目は誰なんですか?」

「あ、二人目はですね」

タカナのおぞましい笑みに竦み上がっていたミゾロギと困ったような複雑な笑みを浮かべたレチェリィだったが、先を促されたことによりミゾロギは冷静さを取り戻し続ける。

「革命軍きっての情報通で、神出鬼没な会計監査役のナリカワです」

「次はナリカワですか……」

再び深く息をはくタカナ。

今にも頭を抱えそうになっている。

(ノッペリした顔でキンペイと違った意味で何を考えているのか分からないあの男ですか。こちらが困っていると絶妙なタイミングで現れこちらが欲している情報を提供する男。便利ではありますが何か裏がありそうな)

なにか物憂げな表情を浮かべ考え込むタカナだったが、それを察したように言葉を止めたミゾロギを一瞥すると、口を開いた。

「その二人に目をつけた理由はなんですか?」

待っていましたとばかりに、ミゾロギは意気込み説明を始める。

「両者ともに必ずなにかが決まる大きな会議の後にどこか人知れず出ていくのです。そして必ずその会議で決まったことが裏目に出ます。つい最近では、タカナ様が一番よくご存じですが、ナイトレイドに探りを入れるように指令がでたのちに、その指令を受けた二人が筒抜けであったように捕まるという結果に相成りました」

「………黒のようですね」

タカナはミゾロギの報告を聞き軽く頷くと徐に立ち上がる。

静かに報告を聞いていた時とは違い、何かを思い立ったような様からミゾロギとレチェリィは次の行動を見守っているおいると、タカナは億劫そうな感じで二人に告げた。

「このまま話を聞いていても埒があきませんので当人に直接あってきます」

「お待ちーーー」

踵を返し部屋を後にしようとするタカナにレチェリィが待ったを掛けようとするが、タカナは意にも介さず執務室をあとにした。

「……タカナ様は完全に気配を消せますので大丈夫だと思いますよ」

「そうですが……」

気まぐれなタカナに振り回される二人であった。

◇◆◇◆◇◆

「久し振りですねぇ」

タカナは後ろ手に手を組みながら、感慨深げに呟く。

かれこれ数年帝都の警備隊に潜入していたため、なんとも言えない思いで変わらない革命軍のアジトを歩いていた。

すると、

「その後ろ姿タカナ殿ではありませぬか」

渋く重低音の効いた丁寧な口調で呼び止められた。

(完全に気配は消していたはずなんですがねぇ)

少々困惑気味に振り返ると、黒い羽織袴を着て、静かな雰囲気を纏う良い姿勢で立つ一人の男が。

「これは麻右衛門殿ではありませぬか」

タカナは親しげな笑みを浮かべ挨拶をする。

 山田麻右衛門、以前東方で処刑人兼帝具御試御用という役職につき、日々罪人の首をはね、また山田家特有の全帝具を扱えるという家系柄東方の王に仕えていた男である。

 しかし、ご多分に漏れず東方も帝都同様腐敗しきっており、そんな原状を憂いながらもなにもできずに主に仕えていた。

 しかし、そんな彼の転機となる事件が起こる。

処刑人という役を全うするなかで、罪なき者を切ってしまったのだ。

 誠実な麻右衛門は、仕事であり上からの指示であったとはいえ、自分の犯してしまったことを深く悔い、贖罪から役職を辞し、民の為にその身を役立てることにした。

 そのような中で、民を思い、平和な世界を作り上げるために決起し、仲間を集めていた革命軍のボスと出会い、意気投合した上で革命軍に招かれた。

 罪人と言えども苦しませることなく旅立たせるという役職柄、常に鍛練を欠かさず戦闘力は折り紙つきで、戦場では傷を負ったことは一度もなく、ブドーやエスデスと戦える唯一の男として革命軍の切り札と目されている人物である。

 普段は寡黙であり、質実剛健を体現した様で、対応は丁寧な侍であるが、戦いとなると眼孔鋭く、その眼孔で見据えられた者は恐怖で射竦められ、為すすべなく豪剣で切り捨てられる未来が待つという、全ての敵に恐れられた男である。

「いつ帰っておられたのですか?」

「つい先程です。少し野暮用がありまして……」

タカナとしては麻右衛門を信用してはいたが、蟻のいっけつということもあり得るので言葉を濁した。

 麻右衛門は洞察力にも優れていたので、タカナの思惑に気づき、

「なにかあったらお呼びください」

と追及することなく、丁寧に挨拶をして去っていった。

ーーーーー

「これはこれはおかまのタカナ殿ではありませぬか。久し振りにあってもかわらぬおかまぶり。なんだかなぁ」

「私のどこがおかまっぽいというのですか!失礼ですね!」

タカナは青筋を立てながら反論し振り返ると、探していたキンペイがなにくわぬ表情でタカナを見下ろしていた。

 タカナは意表をついて出だしをとり、隙をつき言質をとる思惑だったがそれも簡単に覆された。

「大変だったようですなぁ。革命軍の幹部と身バレして逃げ帰ってくるとは」

「うぬぬぬ……」

「死ななくてよかったですなぁ」

正論をはかれ、何を言えばと思案している内にキンペイは去っていった。

(してやられた)

タカナが気がついたときにはキンペイの姿はそこにはなった。

ーーーーー

(ナリカワからは上手く聞き出さないと)

「これは珍しい顔が。だれかと思えば帝都に潜入していたタカナ様ではありませんか」

(キンペイに続いてナリカワまで突然に)

「お久しぶりですねナリカワさん」

ペースをつかむべく冷静に、そして表情を変えず振り向き返す。

「そういうば、知っていますか。帝都近郊にアジトを構えているナイトレイドのメンバーの二人がどうやら捕らえられたようですなあ。しかし、幸か不幸か逆に大臣の息子のシュラを捕らえたという。これは上手く使うしかありませんなあ」

「どこでそれを知ったのですか?」

「今日の幹部会でナジェンダからの報告が来たのでそこから。だから噂ではないんですよ」

「そうですか」

「はい。私はまだ会計の仕事がありますのででは」

ナリカワは飄々とした様子で去っていった。

(あまり情報はえられませんでしたが。二人の話からはなにか違和感を感じたのもたしか。すこし帰って考えましょうか)

 タカナは思案顔でトボトボと執務室に引き返した。

◇◆◇◆◇◆

「まさか八丁堀まで死んでここに来ているとは思わなかったぜ」

「それはこっちのセリフだ」

政は炉の光に照らされながら、主水はその様子を見ながら笑いあう。

気心が知れた仲間というのが二人の心にも余裕を与えていた。

「だが因果なものだな。政、おめえを殺したやつと同じ名前のアカメの帝具を手入れすることになろうとはな」

「それは言いっこなしだ。赤目とアカメは違う。アカメはいい娘だぜ。自分の過去をしっかり受け止め、過去の贖罪をしているんだからな」

「ああそうだな……」

主水は失言だったなと苦笑いを浮かべる。

政が死を迎えるにあたった敵が地獄組という集団の頭領の「赤目」という男だったのだ。

「政、もう仕事人は辞めたのか?」

「ああ、もう地獄か新しい世界かはしらねぇが、因果はきれたと思っているからな。それに最後の仕事の際に秀に言われたんだ「もう手を血で濡らすな」とな。だから今では山に籠って鍛冶屋をしているんだ。まあ、殺しの道具を手入れしているんだから、まだ因果は断ち切られてはいないのかもしれないけどな」

「そうか……」

主水は複雑な表情で政の言葉を噛み締めるように聞いていた。

 長く仕事人仲間をして、共に多くの修羅場を乗り越えてきた政が仕事人を辞めたということに、なにか思わないことはなかったのだろう。

 二人の間に沈黙が訪れた時だった。

「マサさーーん」

「おっ誰か来たみたいだぞ」

「ああ、いつも野菜を持ってきてくれているアニーちゃんだ」

それだけ言うと政は外に出ていった。

相変わらずモテるなと主水も溜め息をはくのだった。

「主水ーー」

「アカメが呼んでるし俺も行くか」

主水は政に借りておいた刃引きが施された刀を手にアカメの待つ元に向かった。

 




キンペイは必殺に登場した阿藤快さん演じる夜嵐銀平で、ナリカワはそのまま激突に登場した成川をモデルにしております。
共に怪しさや悪人面が印象に残っているので。

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