主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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アカメ最新刊の12巻でまさかあんなに呆気なくイゾウが逝ってしまうというのは予想外でした。
まあ、アカメが強いというだけのことかもしれませんが。


第95話

 ジメジメとした空気、カビ臭い臭いが漂い、地面を打つ水音のみが響く静寂の中、薄暗い空間で地に伏していたタカナは目を覚ました。

「ここは…………どこでしょうか?」

タカナは体を起こすと目を擦りながら辺りを見回しながら呟く。

いったいここはどこなのかと。

 目につくのは、閉塞感を強いられる無機質な石壁に囲まれ、開けた場には幾つかの鉄の棒が立ち並ぶといった場所。

これだけ見て場所が分からない者もいないだろう、ということでタカナも自分の居場所は理解した。

 しかし場所は分かったとしても、ここにいる理由が全く思い出せない。

いくら記憶を遡っても思い出されるのは、先程まで裏切り者を討つべく行動していたのではなかったのかということだけ。

少し前までの記憶がかなり曖昧になり、まるで靄がかかっているような状態になっている。

「タカナ様。目を覚まされたんですね」

突如隣からかけられた声にタカナは振り返ると、そこには憔悴とした顔のミゾロギの姿が。

「ミゾロギさん。あなたまで。どうして私たちはこのような牢屋に」

「忘れてしまったのですか…………確かにショックが大きいとは思いますが……」

歯切れ悪く答えるミゾロギ。

ミゾロギは全ての答えを知っているようなので答えるようにタカナは促す。

曖昧になっている記憶を取り戻すために、そしてミゾロギが言うショックとは何かを思い出すために。

「全てお話ししますね」

虚ろな死にかけの目でミゾロギはここに二人が行き着くまでの経緯を話し始めた。

◇◆◇◆◇◆

(おっ茶柱が!良いこと………沈みましたか……)

タカナが気を落ち着け一喜一憂し茶を啜っていると、待っていた二人が執務室に帰ってきた。

ミゾロギは情報収集を、レチェリィはタカナの代わりに書類を提出に出かけていたのだった。

「待ってましたよ二人とも」

「裏切り者がわかったのですか?」

入ってくるなり立ち上がり興奮気味に声をあげたタカナに対し、その姿で理解したレチェリィが問いかける。

「そうですよ。分かったんですよ!」

大きく頷き、満面のドヤ顔を浮かべるタカナに、レチェリィは困ったように苦笑いを浮かべ、ミゾロギは尊敬の眼差しを向ける。

「で、誰なんですか?」

「ナリカワです!」

「さすがタカナ様!!」

「そうでしょう!」

称賛するミゾロギに、タカナは大きく胸を反らし自慢げにしている。

しかし、レチェリィは冷静に尋ねた。

「ナリカワが裏切り者という証拠はなんなのでしょうか?」

タカナを信用していないわけではない。

しかし、革命軍の幹部を証拠もなしに決めつける訳にはいかない。

もしも、そのようにしてしまえば、タカナの革命軍での立場がなくなる。

いやそれ以上に、革命軍の結束が揺らぎかねない。

故に、その確固たる証拠をタカナにレチェリィは尋ねたのだ。

「よくぞ聞いてくれました。私が実際にナリカワと話してみると、ナリカワはラバックさんとタツミさんが捕まり、シュラを交換のカードとして捕らえたことを知っていたのです。ここで1つレチェリィさん、幹部会ではどのように今回の件が報告されたか話してくれませんか」

タカナは口許を上げてレチェリィに問いかける。

レチェリィは気味が悪いと苦笑いを浮かべながらも幹部会の報告を思い出し答える。

「確か、ナイトレイドのメンバーの二人、ラバックさんとタツミさんが捕まり、交換相手を捕らえたと……」

「でしょう。分かったと思いますが、ナジェンダは交換相手の名前は明かしていないのですよ。私が革命軍内部にスパイがいるということを言い含めておいたので」

「そういうことですか」

「ええ、分かってみると簡単なことですが、客観的に見ることの難しさを知りましたよ。私はその件に関わっているので全てを知っていて、その上で話を聞くので、相手も同じと考え聞いてしまった。なので最所は気づかなかったのです」

タカナは自嘲ぎみに苦笑すると、気を入れ直し口を開いた。

「では、お二人とも行きますよ」

「どこにナリカワはいるのですか?」

「探せばどこかに居るでしょう。往生際悪くされると不味いので外に出ているといいのですが。まあ上手くは行かないでしょうが……」

タカナとミゾロギが話す横で、レチェリィが軽く手を上げた。

気づいたように。

「はいレチェリィさん」

「ナリカワなら、私が書類を提出しに行った際に見ました。確か森の方角に向かって歩いていたはずです」

「これは好都合です。お二人とも行きますよ!」

タカナは腰に細剣を挿すと走り出し、タカナに続いてミゾロギとレチェリィも続いて走り出した。

◇◆◇◆

 革命軍本部の近郊に存在する森は、木々が鬱蒼と繁っており空気は清々しいが、日をあまり通さず、醸し出す薄暗さが不気味さを際立たせていた。

「裏切り者が好みそうな場所ですね。ひっ!!」

「野うさぎですよ…………あれ、なにかありますよ」

レチェリィが指差した先に、薄暗いためしっかりとは見えないがなにか横たわるものと、僅かな光を受けて光るものが。

 タカナは警戒しながら近づく。

「これは!!」

タカナはそれを確認し唖然とした。

 横たわるものは、胸を一突きされ絶命した夜嵐のキンペイの亡骸であったのだ。

 革命軍の幹部として、そして警備隊体長として死体には慣れているはずではあるが、タカナは例外として慣れてはおらず、恐る恐る胸に突き刺さる剣に手を伸ばしかけたその時だった。

「なにがあった!キンペイ様!!」

どこからかタカナの声を聞き付けた革命軍の兵士たちが茂みの中から現れたのだ。

(これは不味いことになりましたね)

タカナは冷静にこの状況を乗り切るためにレチェリィに視線を送る。

 革命軍の一般兵はタカナのことを知らない。

故に、認知されているレチェリィに説明してもらおうと思ったのだ。

「レチェリィ様この者たちは」

「キンペイ様を殺害した狼藉者です」

「え!?」

希望を絶望に、信じられない言葉が無表情のレチェリィから発せられた。

 タカナとミゾロギは何が起こったのか理解出来ず、唖然と佇んでいた刹那、レチェリィがタカナとミゾロギの懐に一瞬で入り込むと同時に、タカナとミゾロギに激痛が走る。

 二人の鳩尾に鞘の半ばまで走ったレチェリィの双剣の束がめり込んでいたのだ。

「捕らえなさい」

「はっ!」

前に崩れ落ちていくなかで、目の前が暗くなっていく二人の視界の中振り向くこともなく、歩き去っていくレチェリィの姿が小さくなっていった。

「よくやってくれましたレチェリィさん」

無表情のレチェリィを迎えたのはニヤニヤした笑みを浮かべ木陰から姿を現したナリカワであった。

「簡単な仕事でしたよ。ナリカワ様が仰っていたように私が執務室に帰るとタカナは気づいていましたから。あとはここに誘導するだけだったので」

「単純なタカナの行動を読むのは簡単ですね。では、このあとはタカナを幹部会の裁判に突きだし、もう一人の我々帝国の障害となるヤツをタカナと共謀していたということで排除すればオネスト大臣も喜んでくださる。クックックック」

笑いを堪えられないといった様子でナリカワは歪んだ笑みを浮かべ、笑い声をもらす。

 その下卑た笑い声は、薄暗い不気味な森に怪しく轟いていた。

◇◆◇◆◇◆

「…………思い出しました………」

タカナは寂し気に呟いた。

 今まで妹のように接してきたレチェリィが裏切ったのだ、そのショックは計り知れないものがあったのは言うまでもない。

 そのショック大きさ故に、残酷な現実を直視できず、防衛本能から逃避するために自ら記憶を曖昧にしていたのだ。

「タカナ様、これからどうなるんでしょうか?」

「恐らく、殺さなかったのは私たちを幹部会の裁判に突きだすため……そして幹部会でも何かをやらかすつもりですよ」

「でも必死に反論して、ナリカワの悪事を暴露すれば」

ミゾロギの答えにタカナは静かに頭をふった。

「私がキンペイを殺した場面を見たとナリカワだけでなく、レチェリィさんにも証言されたらそれで終わりです。それにナリカワならば、反論すらもさせない策をたてているはずです……」

「そ……そんな……」 

ミゾロギはタカナの残酷な予想に崩れ落ちた。

 将来は王権を取った革命軍の中で、立身出世をすることを実現させるために、帝国を裏切ってまで加入した革命軍で、命を失うことになるのだ。

絶望から、溢れる涙を押さえることは出来なかった。

 二人が無言で項垂れていると、カツカツという足音が段々と近づいてくることに二人は気づいた。

 足音は二人の牢屋の前で止まる。

「キンペイ様を殺害した二人前に出ろ!!」

革命軍の騎士服に身を包んだ男が二人、タカナとミゾロギに命令を飛ばす。

 もしもタカナが武器を持っていたならば、この逆境も覆せたかもしれないが、素手であり、さらにはこの騒動と無関係な騎士を傷つけるわけにもいかないため、二人は静かに従った。

 ただ、タカナもなにもせずに死ぬ訳にはいかない。

 命を懸けた最後の抵抗を革命軍最高幹部会でする腹積もりで力強く歩み始めた。

 


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