ある朝鬼畜異世界姫に腹パンされて「私を守りなさい!」と言われた話   作:ぽんじり

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長編なので初投稿です。よろしくお願いします。
六話から戦闘があります。

いつかの話と今の話。


異世界姫

 夢を見る。

 世界を救った、ある男の物語。

 爛爛と輝く一振りの剣を手に、あらゆる障害を打ち払う。

 無駄のない、見とれるほどの剣技。

 

 その一振りで、千の敵を屠り。

 その一振りで、万の人々を救った。

 

 決して消えない、人類の希望(輝き)

 

 人々は彼を「勇者」と呼んだ。

 

 けれど、終わりはやってくる。

 魔王という人類最大の敵を倒した彼は、ついにその輝きを失った。

 俺は死に体となった彼の手を取り涙を流す。

 

      ――いや、違う。

       泣いているのは俺じゃない。

 

 そこで俺は漸く気がついた。

 これは誰かの記憶なのだと。

 勇者とともに戦った、彼の仲間。

 

 (彼女)の涙は止まらない。

 

     ――ふと、視界にもやがかかる。

       夢の目覚めが近い。

 

 (彼女)は最後の力を振り絞り、ある魔法を発動させる。

 

 それは世界を渡る魔法。

 

 荒れ果てたこの地ではなく、どこか緑豊かな地で彼を眠らせたいという最後の願い。

 主の手を離れた魔法は、その願いを忠実に実行する。

 (彼女)と彼を取り囲む、幾層もの魔法陣。

 

 ――瞬間。

 

 目を焼くほどの強い光が視界を塗りつぶす。

 それと同時に、意識が浮上する感覚。

 視界のもやはどんどんと濃くなっていく。

 薄れゆく(記憶)の景色。

 意味などないと分かっていても、願わずにはいられない。

 

 ああ、どうか彼女の願いが叶いますように。

 

 二人のたどり着く先。

 

 その結末を、俺はまだ知らない。

 

 

 

 

「……さい。ねえ、……る? ……く……なさい」

 

 目覚ましの代わりに聞こえて来たのは、透き通るような女性の声。

 

「うーん……。朝かぁ?」

 

 俺は寝ぼけた頭でうめき声とも聞こえる声を出す。

 どうやら誰かが俺を呼んでいるみたいだ。

 

 詩織が起こしに来てくれたのか?

 

 そんなことを考えながらも、俺のまぶたは一向に開こうとしてくれない。

 

「眠い」

 

 学校があるのは分かっているが、俺の体は全力で起床を拒否している。

 

「ちょっと、……まで……つもり?」

 

 詩織は俺の体を布団越しに揺さぶってくる。

 その声には、少し苛立ちが見え始めているように思える。

 

 だが妹よ。

 どうか許してほしい。

 いくら可愛い妹の頼みでも、無理なものは無理なのだ。

 特に今朝は一段と眠い。

 詩織には悪いが、後5分ほど寝かせてもらおう。

 

「後5分、5分だけ。そしたら起きるから」

 

 そう言い残し、俺は布団を頭まで被る。

 そんな俺の態度を見て機嫌を悪くしたのか、詩織はさらに声を荒げた。

 

「いい加減にしなさい! いつまで私を待たせるつもりよ! 早く起きないと、そのまぶた引きちぎるわよ!!」

 

 そう言って、詩織は俺の体にまたがるとバシバシと容赦なく俺をたたき出した。

 

「え!? 怖っ! 引きちぎるってなに!?」

 

 予想外の脅し文句に、俺の意識は一気に現実へと引き戻される。

 

 俺が寝ている間に、妹はすっかりバイオレンスになってしまったようだ。

 というか、詩織ってこんな声だっけ?

 

 バシバシ

 

「いてっ、いたい、痛いってば!」

 

 俺を襲う一方的な暴力は、段々と苛烈さを増していく。

 

 バシバシ、ボコッ!

 

「ぐはっ!」

 

 鋭い一撃に思わず漏れ出たうめき声。

 

 「ボコッ」ってなんだ! 「ボコッ」って!

 今の絶対グーだったよな!?

 兄を起こしに来た可愛い妹がするスキンシップを越えてるぞ!

 

 俺はたまらずかぶっていた布団を下げて目を開ける。

 

「分かった! 分かったから。今起きるよ。だから、朝からお兄ちゃんをボコボコにするのはやめ……えっ?」

 

 その瞬間、覚醒し始めていた俺の頭は再び機能を停止した。

 

「――」

 

 意味が、分からない。

 

 目の前には、信じられない光景が広がっている。

 

 俺の体にまたがり、鋭い拳を放っていたのは詩織ではなかった。

 詩織よりも小柄な女性。

 けれど、少女と呼ぶには目の前の存在は気品があり過ぎた。

 髪染めとは訳が違う、輝くような金色の長い髪。

 見たことのない、けれど一目で高価だと分かる異国情緒満載の服装。

 しかも、ファンタジー路線ときた。

 

 そんな、まるでゲームの世界から飛び出してきたかのような現実離れした美しい女が、俺をベッドの上で見下ろしていた。

 

「ようやくお目覚め? まったく、肝心の勇者がこんな様子じゃこの先が思いやられるわ」

 

 目の前の女は突然そんなことを言ってのけた。

 

 勇者? この先?

 

 こいつは一体なにを言っているんだ。

 てか今さらだけど、どこから俺の部屋に入って来た?

 これって不法侵入ってやつだよな?

 まあ、仮にそうだとしても目の前の存在に法律がどれくらいの効果を持っているのか定かではないが。

 

 非現実的すぎる状況に、一周回って冷静になる思考。

 まだ夢の中だと言ってくれた方が、幾分か信じられる。

 

 けれど、そんな現実逃避的思考は、彼女が放つ存在感と重さと痛みで真正面から打ち砕かれる。

 

「――」

 

 俺の沈黙を、話の続きを待っていると解釈したらしい彼女は言葉を続ける。

 

「どうやら、私の姿を見て状況が理解できたようね」

 

 いや、分からな過ぎて何もできないだけです。

 

 俺の心のツッコミは、当然スルーされる。

 

「それじゃ、改めて正式に宣言させてもらうわ」

 

 そう言うと、彼女は一枚の紙を取り出す。

 

「聞きなさい。フローレス家第15代当主ステラ・フローレスが、ここに血命契約の履行を命ずる。初代勇者が結んだ我が一族との契約に従い、勇者の血を引く者よ。私を全身全霊をかけて守りなさい!」

 

「は、はぁーーーーーー!?」

 

 この日。

 ここから始まる物語を、俺は生涯忘れることはないだろう。

 

 終わったはずの勇者の戦いは、世代を超えて動きだした。

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