この素晴らしい世界に竜の騎士を!   作:デンデ・テンゲン君

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導かれし勇者

 高く、高く、もっと高く。

 

 ダイとポップはわずかに残された魔法力を振り絞り、大空へと飛ぶ。

 

「くっ、結局こうなっちまったか。でももう手放してる時間はねぇ!」

 

 二人の腕には道化師のような恰好をした黒い服の不気味な人形が抱えられており、その両目は赤く点滅している。

 

 時は直前まで遡る、大魔王バーンを倒し魔王軍との戦いに勝利したダイと仲間たち。しかし、勝利の余韻に浸る間もなく死んだはずの死神(キルバーン)が現れ、その正体と目的を明かす。さらに、ダイ達を抹殺せんと最後の攻撃を発動、今へと至る。

 

 人形の顔の中心には黒い石が嵌め込まれている、これこそがキルバーン最後の切り札「黒の核晶(コア)」である。大きさは握りこぶしほどでありそれほど大きくはないが、それでも威力は絶大。過去にダイの父バランが戦った冥竜王ヴェルザーが一度使用したが、あまりの威力にその戦いの場どころか大陸そのものが消滅している。

 

 ダイとポップが飛翔呪文(トベルーラ)で飛んでいるすぐ横には巨大な柱がある、その中には人形のもの以上の大きさの黒の核晶が搭載されており世界に六本ある。爆発の範囲がわからない以上へたな場所で手放した結果その核晶が誘爆、さらに柱の核晶の爆発で他の五つも爆発するという事態になりかねない。可能な限り上空へと運んでいく、もうそれしか手がないのである。

 

 それで自分たちが死ぬとしても。

 

「お前となら悪かねぇけどな・・・ダイ!」

 

 それでも相棒のポップは勇者と運命を共にすることを満更でもないとダイに笑顔で言う。

 

 このまま遥か空へと昇って行った二人は、自分たちの命を犠牲に仲間たちと世界を救った。

 

 

 

 

 

 ・・・そんな結末をダイは望んだりしなかった。

 

「・・・・・ごめん・・・ポップ・・・!」

「えっ・・・っ!?」

 

 ダイはポップを蹴り落とした。

 

「なっ・・・なぜなんだよおぉぉっ、ダイッ!!!」

 

 落ちていくポップの叫びが空に響く。

 

(許してくれ、ポップ・・・!こうして・・・自分の大好きなものをかばって・・・生命をかけることが)

 

 雲の中を抜ける、その先には眩しい太陽がダイを照らしている。ダイはそこに自分の両親の姿を見た。

 ダイの母ソアラは最愛の夫バランを庇い、バランは息子ダイを守るためにその命を散らした。そして今度は大好きな仲間()を守るためにダイが。

 

(ずっと受け継がれてきた・・・俺の使命なんだよ!!)

 

 そのまま太陽に向かっていくダイを、巨大な閃光が包んだ。

 

「バッカヤロォォオォーーーッ!!!」

 

 

 

 

 

  こうして地上の勇者ダイは太陽の光と親友の叫びの中、消えていったのだった。

 

 

*****************************

 

 

 

 

 

 

 

(・・あ・・れ・・・)

(俺、どうしたんだっけ?)

 

「・ね・・」

 

(バーンを倒して、皆のところに戻って)

(それから、キルバーンが現れて、黒の核晶を・・・)

 

「ち・・・・き・て・」

 

(そっか、死んだんだな・・・俺)

(ポップやみんなは大丈夫かな。かなり離れたけど、もし爆発に巻き込ま)

 

「起きなさい!!」

「うわぁっ!」

 

 眠りながらも意識を取り戻したダイは、今までの事を思い出し徐々に覚醒しながら、ポップやみんなの安否を心配していた。

 しかしそれは突然の大声により、妨げられることとなる。

 

 突然起こされたダイは驚き跳ね上がる、その勢いのまま仰け反り座っていた椅子ごと倒れてしまう。

 

「いったた・・」

「やっと起きたわね。まったく、来たと思ったら寝てるし、何回声かけても起きないし、こんなのがホントに・・・まぁいいわ」

 

 ダイを起こした少女は小声で愚痴をこぼすと背を向けてすたすたと歩きだす。

 目の前で小言を言われているとも知らず、ダイは倒れた拍子に打った頭をさすりながら歩き去っていく少女に目を向ける。少女はダイとは対面の位置にある椅子に脚を組んで座り、退屈そうな表情で髪をいじっている。

 

「なにぼさっとしてんのよ、はやく座りなさい。始められないでしょ」

「え、えっと・・わかった」

 

 いつまでも床に座っているダイを椅子に座るように促す少女。状況が飲み込めないダイだったが、ここは素直に相手の指示に従う。

 椅子を立たせ座りなおしたダイを見た少女は、それじゃ、と話す雰囲気を作る。

 

「アンタ、自分がどうなったのかわかる?」

「黒の核晶を」

「そ、アレを空まで持ってって爆発に巻き込まれて死んだの」

 

 自分の身に何が起こったか、それを説明しようと黒の核晶を出したところでそれ以上聞く必要がないと判断した少女は、代わりに説明する。

 黒の核晶を知っていることについてダイは驚きの表情を浮かべるが、少女は隣にある机から一枚の紙を裏向きにしてダイに見せる。

 

「これには、ここに送られてくる人の情報が記されているの。名前とか死因とか、他にもいろいろ書かれてるんだけど・・・アンタには関係ないわね」

「っ!そこにポップやみんなの紙は!」

「ないから安心なさい」

 

 仲間たちの無事を確認し、胸の中にあった大きな不安を安堵の溜息と共に吐き出す。

 そんなダイを後目に少女は話を続ける。

 

「で、この死後の世界に来た人の魂を審査して天国行きか地獄行きかを決めるのが、女神サマである私の役目ってわけ」

「女神・・・」

「なによその顔、言いたいことでもあんの?」

「いや、ないけど・・」

 

 神とは思えないような言葉遣いと雰囲気を纏う少女、いや女神にダイは頭に疑問符を浮かべるが、彼女の有無を言わせぬ目つきにより黙らされることとなった。

 

「はぁ。まぁ、これからアンタが行く場所は、天国でも地獄でもないんだけどね」

「えっ、どういうこと?」

 

 死んだ者が天国に行くか地獄に行くかを決める、ついさっき言っていたことと違うことを語る女神にダイは困惑する。

 

「アンタがいた世界とは別、異世界に行って、そこの魔王を倒すの。」

「・・っ魔王!」

「そう、その世界は魔王の侵略で人口減少が進んでて、このままだと滅ぶの。で、それを阻止するために他の世界からアンタみたいに若い死者を送って、倒してもらうのよ」

 

 女神から魔王の存在を聞かされたことでダイの表情が強張る、さらにその世界が魔王により滅ぼされようとしていると聞き、ダイの顔は険しさを増す。

 真っ直ぐに見つめてくるダイを見て、女神は少し口角を上げる。

 

「『すぐにでも行かせてくれ』って顔してるわね」

「当然だよ、今こうしてる間もまた・・・!」

 

 ダイは魔王によってもたらされているであろう悲劇を想像し、拳を握り締める。すぐにでも飛び出しそうなダイに女神は待ったをかける。

 

「焦る気持ちもわかるけど、ちょっと待ちなさい。いろいろ話さなきゃいけないこととかあるから。」

 

 そうして女神はダイが異世界に行くにつれて知っておくべきことを話し始めた、魔法や言語、モンスター狩りを生業とする冒険者たちについてなど。

 

 

「・・・これが、アンタがこれから行く世界についてよ。質問は?」

「いや、大丈夫!ありがとう、えっと・・名前は?」

「じゃ、じゃあ準備が整ったから早速送るわね!一歩前に出なさい。」

 

 異世界についての情報を教えてくれた女神に対して感謝を述べるダイ、その時に名前を聞こうとするが、女神は会って初めて焦った表情を見せ、ダイを送り出す準備を始めた。名前を聞きそびれたダイだったが、すぐに頭の中の隅に追いやる。そうして女神の言う通りに動いたダイの足元に魔法陣が現れる。

 

「それじゃあ頑張りなさい、アンタが魔王を倒すことを期待してるわ。」

 

 女神が激励の言葉を贈ると、ダイの体が宙に浮き、昇り始める。見上げると、丸く白い光の穴があった。この先にはダイが見たことのない世界が広がっていることだろう。それはダイの心をワクワクで埋め尽くすには充分であった。

 

 最後にダイは短い間ではあったが、お世話になった女神の方を向いて手を振り、別れの挨拶を贈る。

 

「ちょっとの間だったけどありがとう。いってきます!」

 

 元気に手を振るダイに女神も手を振り返す。

 ひとしきり手を振り続けたダイは、光の穴に向き直り昇っていく。

 

 

 一度、ダイの物語は終わりを告げた。しかし、今度は別の世界でもう一度始めることになる。

 ダイはこれから起こることに胸を躍らせながら、光の中に吸い込まれていくのだった。

 

******************************

 

 

 

 

 

「ふぅ、これで第一段階クリアね」

 

 ダイが異世界に行ったことを見届けた女神は一人椅子に腰かけ、一つ息を吐いた。

 

「にしても、即興とはいえ上手いこと考えたものね、私」

 

 女神は先程取った紙を見る、そこにはダイのことなど一つも書かれていない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。それどころか、机の上の紙には死者の情報など何一つない。ではなぜあんな嘘を吐いたのか。

 

 ことの発端は彼女の同期である女神の、深刻な体調不良(二日酔い)による欠勤から始まる。本来ならその女神の後輩エリスに仕事が行くはずだったのだが、タイミング悪くエリスは別の仕事により天界におらず、受注不可。これによりその女神の仕事がこちらに舞い込んできたのだ。

 

 幸い彼女の分の仕事は少なく、問題はなかったのだが。『あと少しで終わる』というタイミングでコレだったのだ、同じ状況に遭ったことのある人ならば彼女の心中を察することが出来るだろう。

 

 基本的にやることは少ないものの、いつ来るかわからない死者を待ち続けなければいけない退屈な仕事であり、それ故彼女は暇つぶしのために下界の世界をザッピングしていたところ、とある世界に目がついたのだ。その世界こそがダイ達の世界である。

 

 宇宙で繰り広げられる巨人と人間の激闘、退屈を紛らわせるのにはちょうどよかった。また、ダイが勝利したことは、彼女がダイについて調べる動機にもなった。

 

 そして冒頭の展開が繰り広げられる中、彼女は一つの式が出来上がった。

 

            今まさに死のうとしている『若くて強い勇者』

                     ×

                ずっと救えないでいる世界

                     ||

                     出世

 

 この計算式が思い浮かんだ瞬間、彼女は今回の行動の決行を決意。が、ここで思いもよらぬ事態が発生する。

 ダイが死ななかったのだ。

 

 ダイの頑丈さに驚愕すると同時に彼女は落胆した、せっかくのチャンスが目の前で消えたのである。が、彼女はまたもや思いついた、否、思いついてしまったのだ。

 悪魔的、そう、悪魔的作戦を。

 

 バレれば間違いなく堕天(クビ)だが、もう彼女は止まることが出来なかった。

 

 

 そして、今に至る。

 

「今の転生システムの利用履歴を消して、これで真実は闇の中ね。」

 

 およそ女神が口にするものでないセリフを言いながら、彼女はほぼ確約された出世に胸を躍らせるのだった。

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