異世界ギルド『あさかわ』   作:ヘルメットのお兄さん

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3 旧き竜人、ザザ 2年目

 冒険者ギルド『あさかわ』、早いものでもう一周年である。とはいえ未だに正式な冒険者はカナデ一人で、貰って来る依頼は俺とカナデで受けているのだが……

 

「どうして転生者が見つからねぇんだろうな」

 

「この一年、結構依頼を受けましたけど転生者に会いませんでしたね」

 

 レインが思わず言葉を溢すとカナデも続く。

 

「でも、こんなものじゃないんですか? マスターが言うには記憶を持って生まれ変わるのは神様の管轄から魂が外れてしまうからなんですよね」

 

「その筈なんだが……にしても全く会わないのはおかしいような……?」

 

「私しか冒険者がいないのでギルドもずっと酒場風のままですしね……」

 

 そう、いずれは大きくしていきたいが少なくとも今は改築する理由が無いのだ。そしてそんな余裕もない。

 

「今日は依頼も来ないし早いけどギルドを閉めるかな……」

 

 そうして俺が立ち上がると、突然俺の右眼が輝いた。

 

「うおっ!?」

 

「マスターの目が!!」

 

「という事は近くに転生者が……?」

 

 俺の目はすぐ近くに転生者がいる事を示していた、俺は思わず息を呑みあさかわの扉に注目しているとギルドに足を踏み入れる人が現れた。

 

「すまぬ、こちらで水は売っていないだろうか……某、長旅で水も飲んでおらぬので」

 

 それは、知識だけでは知っていた竜人(ドラゴニュート)という種族だった。全身は燃えるように赤く頑強な鱗に覆われ、竜の名に相応しい顔付きと角を持ち人間とは一線を画していた。……服は腰布一枚のようだが、これが普通なのだろうか。

 

「……もし、聞いておられるか?」

 

「あ、あぁ……レイン頼む」

 

「は、はい!」

 

 慌てて水を用意しにその場を離れるレインを見送ると俺は竜人に座るよう促した。

 

「はい、お水です」

 

「かたじけない……んぐっ……ふぅ……」

 

 一度に水を飲み干すと竜人は綺麗なお辞儀をしてきた。

 

「某は竜人、ザザと申す。酒場にてお代も払わぬまま頂けるとは、此度の恩、忘れのうござる」

 

「ああいいよ、うち酒場では無いけどな」

 

……マスター、マスター

 

 小声でカナデが俺に話しかけてくる、俺は首を傾け耳を貸すと

 

なんだか、凄くお侍さんみたいな喋り方ですね……

 

「なんと!? そこな御仁、侍を知ると申すか!?」

 

「ひゃいっ!?」

 

 喰ってかからん勢いにのけ反るカナデだったが俺が間に入る。

 

「あー、すまないがザザさん? あんたもしかして日本人?」

 

 俺の言葉にザザは口を大きく開け唖然──と言った表情をすると、大きな涙を溢した。

 

「うわっ!」

 

「おお────―おぉ!! まさかかような異国で同郷の者に出会うとは……」

 

「少し待ってくれ、違和感があるんだがあんた何時の生まれの人間だ?」

 

「某は天正8年に生まれ申した」

 

「天正……って何ですか?」

 

 レインは当然知らないとしてカナデも知らないか……というか待て、天正だと? 

 

「天正って言ったら安土桃山時代じゃねぇか!? っていう事はあんた本物の武士なのかよ?」

 

「うむ……しかし某は所謂商人の出……刀も未熟であるが……」

 

 

 まさか遥か過去の人間が転生するとは思わなかった……まさかカナデがイレギュラーでザザの方が良くあるなんてないよな……? 

 

「あー……ザザは驚くかもしれないけど、俺達が生まれたのは平成って言って……大体……400年くらい未来なんだよ、だから正直な所、生きた歴史にあった気分だ」

 

 その言葉にザザはより一層驚いた様子だった。

 

「なんと……! お主達は未来の人間だと申すのか……! で、では寛永13年からの出来事は知っておるか!?」

 

「寛永13年……ええと……1613年からか……確か次の年に島原の乱が……」

 

 それからしばらくの間、レインとカナデには悪いが俺とザザは日本の歴史話に花を咲かせた(というより時代の擦り合わせを行った)

 

「なんと……今の世は人を乗せ空を飛ぶ絡繰りがあるというのか……なんという技術……!!」

 

「そろそろいいか……?」

 

「はっ! ……すまぬ、つい。ここまで話し込んだのは今世では初めてやも知れぬ。出来る事ならばこの竜人のザザ、お主達に着いていきたい!」

 

「それなら、冒険者になってみないか?」

 

「冒険者……口入れ屋の事か」

 

「それより少し荒事に偏った感じか?」

 

「ふむ……ならば某も冒険者とやらになろうではないか!! このザザ、お主達の力になってみせよう!」

 

 熱い、熱い男だ……というか物理的に熱い。

 

「おっと……! すまぬ、興奮すると火を噴いてしまうのだ」

 

「竜人ってすげぇな……」

 

「でしたら折角ですので明日、この依頼を受けてみませんか?」

 

 レインは一枚の依頼書を持ってきた、内容はオークの巣の掃討。難易度は高いが最悪カナデが居れば大丈夫だろう。

 

「明日か! 行動が速いのは良きことよ! それでは某は町外にて休むのでまた」

 

 そう言ってギルドを出ようとするザザを思わず止める。

 

「待て待て、野宿するつもりか?」

 

「某、今世では刀国の生まれにて、この辺りの通貨は持ち合わせておらぬ」

 

「うーん……それなら今日は泊まるか? どうせ部屋は余っているし……」

 

「しかしそこまでしてもらう訳には」

 

「依頼で活躍してくれたら良いからさ、気にすんなよ」

 

「……あいやわかった、某、此度の依頼、確実に遂行してみせよう!」

 

 そして次の日、レインに見送られた俺達は依頼されたオークの巣喰う洞窟前に来ていた。巣の前では二体のオークが槍を持って門番をしている

 

「今回はここのオークの巣を潰す依頼だけど……」

 

「私は今日は待機ですか?」

 

 短弓を持ったカナデが構えているが手で制す。

 

「ああ、ザザの実力を知っておきたいからな」

 

「任されよ、真の剣客に劣れど某も一端の武士(もののふ)、面妖な魔物にももう慣れた!」

 

 意気揚々とオークたちの前に躍り出たザザだったが、何も持たずに出て行った。

 

「えっ!? おいザザ!?」

 

「そういえばザザさん、武器を持ってませんでした!」

 

 オークは分厚い脂肪のせいで見た目以上に頑丈だ、特に打撃とは相性が悪い。というか完全に丸腰で刀の話は何だったんだよ! 

 

 俺達の内心とは裏腹にザザはオーク二体の前に立ち、オーク達もそれに気づいた。オークは最低でも2m、大きい個体では3m近くはある魔物だ、ザザもかなり長身ではあったがあくまで人間の範囲内、オークからしたら子供と変わりがなかった。

 

「某はザザ。恨みはなけれどその命、貰い受ける」

 

 不遜な侵入者が現れた事にオーク達は憤り、槍を向けるがそれを意に介さずザザは、まるで見えない刀を構えているかのように手を腰に添えていた。

 

「『我が剣技────徒や疎かにしてならず────』」

 

「! あれは……詠唱!?」

 

「マスター、ザザさんの手の辺りから魔力が集まっています!」

 

「『我が剣技────決して咎を晴らす為に非ず──―』」

 

 ザザの周囲に膨大な魔力が集まり、本来物質として存在しない魔力に無理矢理形が作られていく。

 

 ザザの膨大な魔力に気づいたオーク達は今すぐ目の前の敵を止めなければならないと悟ったのかその巨体に似合わない速度で槍を突き出すが既に遅かった。

 

「『我が剣は────己を越える為に在り──―!!!』」

 

 既に刀は抜かれ、オーク達の体は自分の命が終わっていた事に気づく事は無かった。

 

「我が銘無き剣に偽り無し──―」

 

「かっけぇ」

 

「マスター語彙が……」

 

 いや、あれは凄いわ、宝〇じゃん。俺は門番のオーク達を倒し、魔力で出来た刀が霧散し始めたザザに近寄り肩を叩く。

 

「凄いなザザ! 昨日言ってた刀は未熟とか何だったんだよ!」

 

「凄いですザザさん! 刀がバシュンって出てかっこよかったです!」

 

「有難う、この刀は今世で学んだ創造魔術とやらを某なりに応用したものだ。……しかし、某の技はまだまだ未熟で前世では一度として木剣の打ち合いで勝てた事が無いのだ」

 

「いやだとしたらどんだけ魔境なんだよ桃山時代」

 

「嘘ではない、事実某は魔力を用いて今の動きが出来たが嘗て同氏だった男は今の某より優れた剣を振れたであろうな」

 

 流石に誇張だと信じたいが嘘を言っている様子も無かった、乱世が怖くなってきた。

 

「とりあえず……依頼を続けよう、巣を全滅させる事も依頼に入ってるからここからはカナデと俺も協力する」

 

「あいわかった、某が先陣を切ればいいのだな」

 

「そうだな、カナデなら誤射する事は無いだろうから安心してくれ」

 

「はい! 頑張ります!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザザおじさーん」

 

「ザザおじいちゃんおんぶしてー」

 

「ははは、順番だぞ愛い子供たちよ」

 

「……なあレイン」

 

「なんでしょうマスター」

 

「ザザの奴、最近増々子煩悩になってきてないか?」

 

「そうですね、30年くらい前から依頼より冒険者の子供たちの世話をしている時間の方が長くなってますね。ご自身は結婚されてないのでどちらかと言えば託児所ですが」

 

「託児所と言うには雰囲気が酒臭いだろ、ここ酒場だし」

 

「む、カイルよ。カナデがぐずりだした、やはりこの子は其方の方が良いようだな」

 

「……わかった、おいで、カナデ」

 

「……」

 

「どうしたんですかマスター、カイルさんをじっと見て」

 

「いや、何……アイツの子孫がカナデって名前を付けられたのを本人が知ったらどんなリアクションをするのかなって」

 

「そうですね……カナデさんの事ですし相応しくないとか言って恥ずかしがりそうです」

 

「やっぱり?」

 

「ザザさん! 今日も来たぜ! 俺と打ち合いしてくれ!!」

 

「来たかゴードン、某の馬ごっこが終わったら相手しよう」

 

「ごーどんだ!」

 

「きょうもそらとんでー」

 

「あれは吹っ飛ばされただけだしちょっと油断しただけだ!! もう飛ばねぇ!!」

 

「子供相手にムキになるなよ……ザザ、俺が子守り変わるから行ってきてやれ」

 

「おおマスター、それならばお願いしよう。──ゴードンよ、次は10撃は耐えてもらおう」

 

「望むところだぜ!!」

 

「……賑やかになりましたね」

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