異世界ギルド『あさかわ』   作:ヘルメットのお兄さん

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書き過ぎました。


4 吸血鬼、アルカディオス 30年目

 冒険者ギルド『あさかわ』、もう気付けば30年目である。ギルドとしてはまだまだ小規模で未だに酒場のままだが随分と仲間が増えた、そんなある日酒場の奥で資料整理していた俺に不穏な依頼が舞い込んできたのだった。

 

「吸血鬼の討伐?」

 

「うん、グリード王国の近くに大規模な森林があるじゃない? あそこに突然大きな城が現れたんだって」

 

 俺に報告してくれるのはカナデの娘であるカエデだ、母親と違ってかなりお転婆で各地を旅しては度々戻ってきて特殊な依頼を取ってきたりもする、それが今回だ。

 

「しかしどうしてギルドはお前に依頼をしたんだ? 吸血鬼一人、他のギルドでもB級なら討伐できるだろうに」

 

 B級と言うのは他のギルドで一般的に使われているランクの事で、A~Eまであるらしい。因みに俺達は基本転生者しかいないのと酒の席のノリのせいでランクはB~SS級、トップがURになっている、ソシャゲかよ。

 

「それがね、もうすでに五回はA級の討伐隊が派遣されたんだけど全滅。唯一の情報が魔物使いが送ってきたペットからの情報だけなんだって」

 

「それ本当に吸血鬼か? A級が手も足も出ないなんて最早魔王とかだろ」

 

「私は魔王とか知らないし、それでそのペットからの情報が、銀色の髪を持った長髪の男で、可能性だけど恐らく血に関する魔法を使うみたい」

 

「魔法だと? 魔術じゃなくてか?」

 

 アストラでは魔術と魔法が存在する、魔術とは簡潔に言えば「属性の適性と必要な魔力さえあれば誰でも再現できる技術」の事、適性と手順さえ合っていれば老若男女問わず誰でも同じ結果がもたらされる。しかし魔法は違う、理論も過程も滅茶苦茶、理解できるのは起こった結果のみ。魔法使い以外誰も再現できない技術と呼んでいいのかすら怪しい規格外な技を魔法と言う。

 

 ギルドの中にも一人だけ魔法を使える奴はいる……そう、様々な加護を与えられている転生者達ですらたった一人しか魔法使いはいないのだ。それを使う吸血鬼という事は……

 

「それがマジだったらA級でも無理な訳だ」

 

「そう、このままだと森にいる魔物にも影響が出そうだから私を通してあさかわにも依頼が来たの」

 

 依頼を受けること自体は問題ではない、しかしやるなら本気で挑まなければならなさそうだ。

 

「……よし、俺がちょっと呼んでくる。少し待っていろ」

 

 俺は席を立ち現在ギルドで飲んでいる奴らに声をかけていく、そうして30分後……

 

「よし、もう一度確認するぞ? 今回の依頼はグリード王国付近の森に出現した城に棲む吸血鬼の討伐だ、どうやらそいつは魔法を使う可能性があるらしい」

 

「魔法? 魔術じゃないのか?」

 

「ユーフ、俺も同じ質問をしたから安心しろ。マジで魔法みたいだ」

 

 真っ先に疑問を放ったのは褐色の肌に銀色に輝く鎧を着た赤い髪の女性、ユーフ・リンダ。グラトニー王国の元騎士団長で転生者だと知ってからは色々あって引き抜いた、今は冒険者達の指南役をしてくれている。

 

「なんで僕まで……めんどくさい……」

 

「それはなサミュエル、お前が武器開発に勤しんで日光に当たらなすぎるからだよ。吸血鬼より引きこもってんじゃねえか」

 

 愚痴をこぼしながら人の前でポーションを飲む青白い顔をした細身の男がサミュエル、こいつは色々やらかしていて技術開発担当と称して実質ギルドに捕らえてる。おかげでギルド内の文明レベルが跳ね上がっているため少し心配だ。

 

「吸血鬼か……某の刀が通用する相手ならいいが」

 

 そして竜人武人のザザ、それとカエデを加えた四人が今回のメンバーだ。

 

「あれ? マスターは行かないの?」

 

「この前レインに大量の書類があるって怒られてな。その代わり……これを着けてくれ」

 

 俺はカエデにのある指輪を渡すとカエデは顔を赤くする。

 

「これってけっこ「先に言うけど俺、元とはいえ妻帯者だからダメ」……言ってみただけだし……」

 

「で、それはサミュエルに作らせた通信機器名付けて『リンクリング』だ、使い方は魔力を流して耳に近づけるだけ。だよな?」

 

「あぁ……理論上はグラトニーからエンヴィまでつながる筈だぜ……名前に不満はあるけどな……」

 

 カエデはリンクリングを薬指に嵌めると早速使ってみるようだ、俺のリングに反応がある。

 

「そう、そうやって使うんだ。それじゃあ全員に配るから明日の8時、俺がグリードまで転移術で送る。解散ー」

 

 

 

 

 

 

「マスターもつれないんだから、私だってもう大人なのに」

 

 私は街を歩きながら指輪を眺める、薬指に嵌めた指輪は装飾は無くてもとても綺麗で、それがなんだか本物の結婚指輪みたいに見えてくる。

 

「ただいまー」

 

「お帰りなさい、カエデ」

 

 私はこの街に帰ると必ず一度は家に戻る、なにせおお母さんさんが最高の料理を作って待ってくれているのだから。

 

「カエデ、今度のお話を聞かせてくれる?」

 

「今度はね、グリード王国に行ってきたの。それでね……」

 

 お母さんは私の話をじっと聞いて頷いてくれる、冒険の話を聞いている時のお母さんはとても楽しそうでこの時間が今の私の一番好きな時間。

 

 でも今日は冒険の話をすると神妙な顔をしていた、私は何か気に障る事があったのかと顔を覗き込むがお母さんはすぐに笑顔を向けてくれる。

 

「お母さん、その……やっぱりもう結婚しないの? その……ずっとこの家に一人だと寂しくならない?」

 

 私はお母さんがギルドでの最古参だという事をマスターや他の冒険者から聞いていた、それは誇らしかったけど冒険者を辞めてしまったお母さんを私は……父のせいだと思っている。

 

 私は父親の顔を知らない、いや……正確には写真では見た事があるが私が産まれる前に亡くなったらしい、正直、私の中で父親と言う存在はザザさんやマスターのような人なんだろうと思っている、あとは……ギルドの皆とか……

 

「大丈夫よ、時々あなたが来てくれるだけでとっても嬉しいわ。それにギルドの皆も来てくれるしね」

 

 そう言っていたお母さんは、ほんの少しだけ寂しそうな顔だった。

 

 私は話を切り上げる様にお母さんの作るスープを食べ始めるとお母さんはまた笑顔になった、私はその笑顔が、なんだか少しだけ無理をしているように感じた。いつもと変わらない笑顔の筈なのに。

 

「そうだ、カエデに渡したいものがあるの」

 

 食後、食器を片付けている私にお母さんがそんな事を言って来た。

 

「渡したいもの?」

 

「ええ、少し待っていて」

 

 お母さんは自分の部屋に戻ると暫くしてから猫を模った髪飾りを渡して来た。

 

「可愛い……けどこれ、どうしたの?」

 

「おお母さんさんの手作りなの、レインさんから教わったのよ?」

 

 ────正直、驚いた。お母さんは決して器用ではない筈だ、しかしこの髪飾りは上手く私の特徴を捉えていた。

 

「作るときにお母さんの思いも込めたお守りでもあるの、きっと似合うわよ」

 

「ありがとう、……どう? 変じゃない?」

 

 私は早速髪飾りを着けてみる、着けてみても違和感は無い、鏡の前に移動して思わずポーズをとってみる。

 

「うん、とっても可愛い。皆も褒めてくれるんじゃないかしら?」

 

「……えへへ」

 

「さぁ、私はもう寝るわね、寝坊したら駄目よ?」

 

 私の額に口付けをするとお母さんは寝室へ行った。……最近のお母さんは寝るまでの時間が早くなっている、病気などではないらしいが……

 

 自室に入ると装備だけ外してベッドへ寝転ぶ、私は明日の討伐の事を考えている間に深い眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────―あー、あー、よし、繋がってるな。それではこれより依頼の開始だ、何かあったら報告してくれ』

 

「了解」

 

 私は通信を切ると改めて装備の点検をする、私はお母さんと違って弓は使えない。代わりにザザさんの魔術を組み込んだ手袋から投げナイフを生み出して投げる、これが私の武器だ。お母さんの血を継いだ私は肉体強化が向いているらしく、投げナイフ一本でワイバーンの鱗くらいなら無理矢理貫ける、基本的には中遠距離で立ち回るつもりだ。

 

「城までは僕の車で行くぞ……振り落とされんなよ……」

 

 サミュエルが手に持っていた鞄を置くと変形し始め一台の車になった、サミュエルの発明らしくこれが初めてお披露目された時は転生者の人達が特に興奮していた、なんでもとらんすふぉーむだとか。私は良く知らない。

 

 初めて乗るバンに私は内心興奮していると5分後、早くも気持ちは冷め始めていた。

 

「……おい、もっと安全に運転できないのか?」

 

 ユーフが額に青筋を浮かべていた、気持ちはわかる、とにかくこの車揺れるのである。おかげでお尻が痛くなってきた。

 

「仕方ねぇだろ……そもそも基本的な用途が舗装された道を走る為に在るんだ……こんな森の中走るように設計されてないんだよ……」

 

「だったら最初から悪路用のタイヤを造ればいいだろう!!!」

 

「ケースサイズまで抑えるのにこれが限界だったんだよ……グダグダ言うなよ……」

 

「ぐぎぎ……! ザザ殿? 貴方もこの揺れは嫌では無いですか!?」

 

「────―某、以前ろぼっとという絡繰りの話を聞いてから年甲斐もなく興奮していたが……幾つになっても夢は持つものだな、とても良い」

 

 ユーフは諦めたみたいだった、彼女は魔術属性が貴重な光属性だが、それでもこういった状況をどうにかする魔術はないらしい。

 

 お尻を痛めながら揺れる事30分、ようやく着いたお城は一言で言えば歪、だった。例えるならば幼い子供が小さな椅子の上で無理やり積み木のお城を作ったような……とにかくバランスが滅茶苦茶だった。

 

「痛た……ここからは私が先導する、カエデ、奇襲の警戒を頼んだ」

 

「わかった、任せて」

 

 ユーフを先頭に私達は城の入り口に突入した、入った所でサミュエルが通信を行った。

 

「あー……マスター……? 城ン中入ったぞ……」

 

『ああ、どんな様子だ?』

 

「まるでお伽噺の城みてぇだな……何もかんもが歪みまくってやがる……それか熱だしたときに見る夢みたいだぜ……」

 

『そうか……俺からは何とも言えん、しばらく判断は任せる。危険な状況になったら連絡を入れてくれ』

 

「あいよー……」

 

 サミュエルは通信を切った、そして私達にマスターの言葉を伝えると改めて前進を始めた。

 

「妙な気配がする……」

 

「ザザさん?」

 

「まだ断定はできぬが……とにかく不快な気配がする、ユーフ、そちらの扉だ」

 

「わかりました、入るぞ……」

 

 ザザさんが指した先の扉をユーフが開ける、私とザザさんが武器を構えながら入るとそこは倉庫の様な場所で、大量の樽が置かれていた。

 

「倉庫……? いや、どちらかというとこれは……」

 

「まるでワイナリーだな……僕も匂いでわかる……ここにある樽は殆どワインだ……」

 

「某の気配はこれだったか……?」

 

 ザザさんが納得がいっていない様な顔をして唸っている、私は警戒を僅かではあるが緩め倉庫の中を探索すると奥の方に樽ではなくガラスの瓶が置かれている事に気づいた。

 

「あれ、こっちは樽じゃないね……この辺りはみんなガラスにワインが入ってるみたい」

 

「樽が足りなかったのか? ……しかしワインなど久々に見たがこんなにどろどろとしていたか……?」

 

 ユーフも首を捻るがこれ以上探索しても何もなかったので私達は別の扉に移動する事にした、それから大体1時間程だろうか、かなり上層まで登った箇所にあった部屋で私達は5人の冒険者に出会った。

 

「おや? 君達も冒険者かい?」

 

「私達はあさかわの冒険者だ。その角の生えた熊の紋章、スロウスギルドの一団か」

 

「あさかわ? ……悪いけど浅識でね、聞いたことが無いな。それより僕たちは6回目だけど君達は7回目かい?」

 

「6とか……7とか……何の事だ……?」

 

 サミュエルの反応にあれ、と相手の冒険者は頭をかいた。そしてああと手を打つと

 

「その反応は別口みたいだね、既にこの城に五回の冒険者が挑戦したのは知っているかい?」

 

「うむ、某達は書類上ではあるが聞いている」

 

「この五回の冒険者は全員別のギルドなのさ、グリードギルド、ラストギルド、グラトニーギルド、ラスギルド、エンヴィーギルド……で、次は僕達スロウスギルドって訳さ」

 

「どうして順番に……? その、普通は一つのギルドで独占するものでは?」

 

「話すと長くなるけど良いかい?」

 

 私達は頷いた、聞いておいた方が良い気がする。

 

「そもそもの依頼は吸血鬼の討伐では無くただの城の調査だったんだ、突然現れたからね、この奇妙な城。だけど、最初にグリードギルドの精鋭達が全滅した時に他のギルド達は悟ったのさ、元から怪しかったがこれは唯の城では無いってね、それで他のギルド達と協力して何とか吸血鬼がいるって事だけはわかった。本来ならこのまま大規模な討伐隊を組む予定なんだけど……いくら何でも情報が無さすぎたんだ。少しでも討伐隊の編成を万全にする為にそれぞれのギルドが順番に調査隊を派遣して吸血鬼の情報を集めるのさ、つまり生贄って訳」

 

「い……生贄って、そんな」

 

 突然出された単語に私は思わず口が出てしまう。

 

「僕達を見てごらん、これが強そうな装備に見えるかい? 消耗を抑えた生贄だよ、だけど僕達が前に出ないとこれ以上の犠牲が出る。君は僕達の命と家族の命なら家族を取るべきだろう?」

 

「そ……れは……」

 

「それじゃあね、次は城の外で会おう」

 

 私は何も言えず彼らは先に進んでしまった。サミュエルが報告も含め一度休む提案を受け入れた私達はザザさんが持ってきたおにぎりを食べる、塩が効いていて美味しい。

 

「……思ったんだけど、私達、樽ばっかりの倉庫に行ったじゃない」

 

「? そうだな、確かガラスの瓶もあった」

 

「あのガラス、やっぱり違和感があるよ。ワインはマスターが飲んでるのを見た事あるけどもっとこう……水っぽかった」

 

 私の言葉にユーフは思う所があったのか考え込んでしまった。

 

「……血、かもしれないぜ……なんせ吸血鬼の城なんだからな……」

 

「……嫌な事を言うな、だとしたらあれだけの血が溜まるほど冒険者が殺されているという事になる」

 

「僕も嫌だけどあり得るんだから仕方がねぇだろう……? ま、確認する気は無いけどな……だるいし……」

 

「マスターも言っていたがお前は一度鍛えるべきだ、いつか歩く事すらできなくなるぞ」

 

「そん時は義足にでも変えるさ……」

 

 その時、扉の先で悲鳴が聞こえ私達は全員戦闘態勢に着いた。

 

「……お喋りは中止だ、サミュエル、マスターと連絡を」

 

「あいよ……」

 

 ユーフを先頭に扉を開け、先に進む、悲鳴が聞こえたのは二つ程の先の部屋だった。今までとは比べ物にならないくらい広く奥には大きな椅子がある……まるで玉座の間だ。そしてそこに居たのは────―

 

「おや……今日は客人が多い、君達も冒険者かな」

 

 銀色の長髪、そして僅かにしか洩れていない魔力が逆に実力の高さを感じさせる。間違いない、こいつが依頼の────

 

 ふと、血の臭いが鼻をつく。今まででも何度も嗅いだ臭い、だけどこれは凄く不快なにおい臭いだった。臭いのする方向に視線を移すとそこに居たのは見た事がある五つの肉と血の池だった。

 

「な────―貴様……殺したのか」

 

 私とほぼ同時に気づいたのかユーフが険しい顔で吸血鬼を睨みつける、奴は視線を死体に向けると私達に戻した。

 

「あぁ……突然襲われてね、私は争いごとは嫌いなのだが仕方がなかったのだよ」

 

「────―無造作に四肢をもぎ、一つ一つを槍に刺して!! 争いが嫌いだと!!??」

 

「あぁ、嫌いさ。彼らは私が一人殺しても決して闘志を収める事は無かった、なら無用な争いを避けるためには恐怖を与えるべきなのだよ。心を折ればそれ以上戦う事は無いのだから」

 

「外道が────貴様の様な奸物に慈悲は無い!! 今すぐ冥府に堕ち罪を悔いよ!!」

 

 最も先に動いたのはザザさんだった、無刀から不意を衝く様に接近し叩き切るように魔力の刀を振り下ろした。速度も威力も十分なはずだったが……

 

「何……血の長剣だと──―っ!」

 

「魔力で作った刀を使う竜人か、冒険者より見世物小屋で働いた方が稼げるのではないか?」

 

 吸血鬼が手に持っていたのは真紅に染まった武骨な長剣だった、吸血鬼は片手でザザさんの刀を防ぐと弾く様に蹴り飛ばし10m以上はあった筈の私達の所までザザさんは吹き飛ばされた。

 

「名乗るのが遅れたか、私はアルカディオス。気軽にアルとでも呼んでくれたまえ」

 

「ザザ殿!! くっ……カエデ、サミュエル!!」

 

「ああ……」

 

「わかってる!」

 

 吸血鬼……アルカディオスが油断している隙にユーフが囮となる為接近し始め、サミュエルが銃を取り出し構え、私が側面に回り投げナイフを構えるが私が走り出した瞬間目の前を高速で何かが貫いた。

 

「なっ……赤い槍……!?」

 

「ほう、君達は先ほどの犠牲者よりも実力がありそうだ。ならば敬意を表し教えてあげよう、私の戦い方を」

 

 そう言ったアルカディオスが指を鳴らすと血の池となっていた死体の傍に溜まっていた血が全て空に浮いていた、空の血は形を変え鋭い雨となり私達に降り注いだ。

 

「嘘っ……! これが魔法!?」

 

 私は全力で体を捻って床を蹴り柱の一つに身を隠した、僅かに見えた仲間を見るとユーフは盾でサミュエルを庇う様に防ぎ、ザザさんは血の雨を切り落としているようだった。このまま奴に一撃与える隙を伺っていると気づいてしまった、これは()()()()()()()()()事に。

 

「そこに盾など無いぞ?」

 

 突然、目の前にあった柱が()()()()()

 

「ッ!?」

 

 咄嗟に身を投げ出す様に横に飛ぶと直前までいた場所に血の雨が刺さった、私は立ち上がりながらナイフを投げるが魔力で強化しているとはいえ半端な姿勢での投擲は奴の体に触れる事すら敵わなかった。

 

「サミュエル! 自衛できるな!!」

 

「はぁっ……!? おい……っ! 僕を置いてうわっ!」

 

 ユーフがしびれを切らし盾を構えたままアルカディオスに向かって突っ込むとアルカディオスは血の剣を振り下ろす、しかし

 

「む……魔力が途切れたか……魔術殺しの呪い(まじない)が組み込まれているな、その盾」

 

「あぁそうだ! 貴様の剣も血も効かないと思え!!」

 

 そのまま剣を横に振り奴の体を斬れると思ったが、刃は間に滑り込ませた腕を僅かに沈ませるだけに留まった。

 

「何だと……ぐあぁっ!?」

 

「太刀筋も良い、武器も優れたものだ……だが君の魔力が足りない、まるで幼子のようだ。不足している魔力を技術で補っているようだがそれでは私に剣は届かない」

 

「なんという膂力……ただ吸血鬼という名に胡坐をかいているだけでは無いな」

 

 アルカディオスは盾を強く殴りつけ、ユーフは響く衝撃に思わず盾を落としてしまう、膝を僅かだが曲げた瞬間顎を穿つ様なアッパーがユーフを吹き飛ばし追撃の血の雨がユーフを襲う。

 

「ユーフっ!」

 

「私はいい! ザザを軸に奴を倒せ!!」

 

 即座に転がるように雨を避けるユーフに私達は動きを変える、サミュエルが銃を乱射すると初めてアルカディオスが大きく避けた。

 

「チッ……予想はしてたけど音速だぞ……! 近距離で避けるかよ……」

 

「ザザさん! 援護します!」

 

 私が魔力を手袋に込めるとナイフが生み出される、その数同時に20本、落ちる前に全てを奴の体めがけて投擲する。

 

「手数は素晴らしい、だが直線的なのがいただけない」

 

 私の投げたナイフは横から殴るように血の雨が叩きつけられその勢いを殺されてしまった、しかし時間は稼いだ。

 

「はぁっ!!」

 

 ザザさんの刀がアルカディオスの剣とぶつかる度に砕け散る、だがその度新たな必殺の刀がザザさんの手から生み出される。

 

「手ごたえが無い斬り合いとは面倒な事、君の魔力もよく持つものだ」

 

「某の刃が貴様に届いた時、某は貴様の命を切り落としてやろうぞ!!!」

 

 下から上へと斬り上げた刀がついにアルカディオスの剣を飛ばし体制を大きく崩させた。

 

「むっ……!」

 

「覚悟っ!!」

 

 そのままザザさんの刀が奴の首を狙い……

 

「────―何?」

 

 ……外した? 刀を振り抜いた姿勢のザザさんは困惑の表情でアルカディオスを見ている、私も自分の目を疑った、明らかに距離が離れている。しかし奴は一切動いていなかった筈、しかし間合いが一つ分ほど離れている……

 

「ならば何度でも斬りつけるのみ!!」

 

 ザザさんは刀を振るう、振るう、振るう。全てが達人の一撃であるにも関わらず、前に踏み込みながら斬りつけているにも関わらず、届かない。僅かに疲れからか動きが鈍った瞬間、アルカディオスの一振りがザザさんの鱗を切り裂いた。

 

「がっ────」

 

「ザザさん!!」

 

 直前で飛び退いたおかげで浅く斬っただけだったが直後ザザさんの表情は険しいままだった。

 

「く……まるで地平線を走っているかのような……その場で足踏みをしているようだ」

 

「気づいたかね? そろそろ種明かしと行こうか」

 

 するとアルカディオスが一度柏手を打ったその瞬間、私達全員────アルカディオスを含め──の距離が密着と言っていい程まで近づいた。

 

「!? っ」

 

 思わず私とザザさん、ユーフが飛び退くがすぐに壁に背中を着ける事になった。いや、よく見たらなんだか部屋全体がかなり狭くなっている。

 

 一人動かなかったサミュエルは冷静に周りを見ると息を呑むように呟いた。

 

「そうか……お前……空間を弄ってるな……?」

 

「そこの男は察しが良いな、私の()()は空間を操る事が出来るのだよ、あの城の外見は魔術で作り出した幻影だがね……本来は唯の小屋さ」

 

 私は戦慄した。空間を操るだって? そんな技はどの文献でも聞いたことが無いし見た事も無い、正しく規格外の魔法使い……

 

 アルカディオスが手を打つと空間は先ほどと同じ広さにまで戻る、あまりの出来事に私達は動けずにいると奴は血の剣を生み出し私達の前まで悠々と歩いてくる、それはまるで勝者が行う凱旋を見ているようだった。

 

「さて……私の力を知れたのは君達が初めてだ、しかし残念ながら……ここで死んでもらおう」

 

 奴が歩いてくるのを止める事は出来る筈なのに、誰も動かない、いや、動けないのだ。私達の足元を絡めとるように血が纏わりついている。

 

「さらばだ冒険者達よ、その命を散らし歴史の欠片となるが良い」

 

 その時、アルカディオスの身体を吹き飛ばす様に魔術の奔流が放たれた。

 

「何……! まだ動ける者が居たか……!」

 

「やっと座標特定出来たぞおい、空間操作とかふざけやがって」

 

 そこにはスーツの上から白いローブを羽織り、甲部に水晶が埋め込まれた黒い革手袋を着けたマスターの姿があった、右眼は光り輝きいつものような飄々とした態度が抜けている。

 

「マスター!」

 

「マスター……? 成程、君が彼らの親玉か、しかし自ら現れていいのかね? 親玉なら玉座に座り彼らの首を待つのが良かっただろうに」

 

「はっ、そういう煽りは血気盛んな若いヤツにでも言うんだな。おっさんは常に冷静沈着なんだよ転生者」

 

「なっ……!? マスター、それは本当なのか!」

 

 ユーフが驚いたようにマスターに話しかけるが、マスターは右眼を指して答えた。

 

「あぁ、証拠はわかるな? それよりお前、なーんか怪しいんだよな?」

 

 マスターの言葉にアルカディオスはハッと笑う、マスターを見下しているかのような表情だ。

 

「怪しい? 私からしたらスーツにローブなど羽織っている君の方が怪しいがね……とにかく君に何が出来る? 見た所魔力量は少し優れた冒険者と変わらない、それでは私に勝てないよ」

 

 アルカディオスの挑発にマスターは鼻で笑う、そして手の動きで私達に指示をする。『突撃』のサインだ、いつでも動けるように構える。

 

「そうかな、なら俺の魔術……魔法もどき(pseudo magic)を見せてやるよ!」

 

 そしてマスターが両手を横に広げ、魔術陣が生まれた瞬間私達の足元を絡めとっていた血が消える。

 

 それに気づいた瞬間、私はナイフを投げ、サミュエルがハンドガンを構えユーフとザザさんがアルカディオスに斬りかかった。

 

「はあああぁぁぁ!!!」

 

「血の魔術が……!?」

 

 大きな動揺を見せたアルカディオスは血の剣を生み出そうとするが、剣は現れること無くザザさんに肩を斬られ奴は大きくのけ反った。

 

「がああぁぁッ……! 貴様……何をした!?」

 

「これ集中力いるんだよ! お前の質問には答えられん!」

 

 私は魔術が使えなくなりながらも吸血鬼としての身体能力で立ち回るアルカディオスを見ながらマスターの魔術を思い返す。

 

()()()()()()()()()()()……私も一度しか見せてもらった事がないマスターの切り札だった、マスター曰く理論上は全ての魔術属性の適正があり、且つそれなりの魔力量を持っている人間なら誰でも再現出来るから魔術として区分しているけど……マスターのこの魔術は難易度が桁違いに高く未だに誰も再現出来ていない、だから限りなく魔法に近い魔術。

 

 その効果は周囲のあらゆる魔力に干渉して発動を止める、更に言えば魔力を使おうとすると術者は相当な負荷がかかるらしく魔法すら妨害できるとか。

 

 アルカディオスはザザさんとユーフの連携にうっとおしそうに爪を振るう、剣を無くしても尚奴はしぶとく戦っていた。

 

「こいつ……まだこんな速さを隠してたか!」

 

「なに、某達が捕らえられん程ではあるまい!!」

 

「それもそうだな……そこだっ!」

 

 隙を見たユーフがアルカディオスの足を踏みつけると態勢が崩れた、そこに生まれた大きな隙を見逃す程ザザさんは優しくなかった。

 

「ぐああぁぁぁぁ!!!」

 

「やったか!?」

 

「「あっ」」

 

 ザザさんの言葉に思わずと言った感じでサミュエルとユーフが声を上げるが、袈裟斬りをまともに受け肩から大きな傷跡を残したアルカディオスは膝をついた。もう動けないのか魔力も操らず肩で息をしている。

 

「ふぅ……マスター、早急に止めを刺す。良いな?」

 

「いや待て、拘束にとどめてくれ」

 

 魔術を解いたマスターは妙な事を言い出した。

 

「何を、こいつは既に多くの冒険者の命を奪って来た。まさか転生者だからと言って罪を許す等とは言わないよな?」

 

 ユーフが鋭い目でマスターを睨む、その目に動じる事無くマスターはサミュエルに指示を出すとサミュエルはロープを取り出して拘束する。

 

「呪い付きの縄だぜ……無理に抜け出そうとすると強烈な痛覚が襲う……」

 

「良し、それでユーフの問いだが……奥の部屋に行くぞ」

 

 ザザさんがアルカディオスを担ぐと私達は奥の部屋に向かう、そこに居たのは真っ暗な部屋に一人佇む椅子に座った老婆だった。その姿は枯れ木の様にしわがれ、手を空に伸ばそうともがいていた。

 

「これは……」

 

「お前を操っていた黒幕だな、何者だ?」

 

「……」

 

「どうして……こんな状態なの?」

 

 私が聞いてもアルカディオスは何も答えず、マスターは何故か訝しげな表情をしていた。

 

「……」

 

「マスター? どうした、やけに渋い表情だ────―」

 

 サミュエルが顔を覗き込もうとした瞬間、マスターは老婆を光の魔術で首を貫いた。

 

「き……きさまっ!! がっ────」

 

 アルカディオスが激昂し縄を千切ろうと力を込めた瞬間サミュエルの縄の呪いが発動しアルカディオスは激痛により意識を失った。

 

 ユーフは突然のマスターに奇行に声を荒げていた。

 

「マスター一体何を!」

 

「落ち着け、アルカディオスの目を見てみろ」

 

 今にも胸ぐらに掴みかかりそうなユーフを抑えているとサミュエルが気を失ったアルカディオスの目を開いて見せた。

 

「目の色が変わっているな……確か赤色だった筈だぜ」

 

 見てみると確かに赤い目をしていたアルカディオスは今は青い目をしていた。

 

「こいつを操っていたのがこの老婆だったみたいだな」

 

 そう言いながら動かなくなった老婆の服を剥ぐと背中を見せて来た、そこにあったのは既に消えかけている魔術陣だった。

 

「これは……」

 

「こいつは……支配の魔術陣だな、本来は床とかに書いて風化なんかで削れたりしない限り対象を術者に従わせるものだが……自分自身に刻んだ事で魔術陣への魔力補給や隠蔽の手間を省いたんだろうな」

 

「よくわかるな……」

 

「魔術は使えなくても覚えておいて損はない、サミュエルも勉強ぐらいはしておきな」

 

「しかし……何故操っていたんだ? こいつは」

 

「ふむ……そういえばこいつずっとどこかに手を伸ばしていたな……」

 

 マスターは老婆が手を伸ばしていた先まで歩くと何やら箱を手に取ってきた。

 

「こんなものがあった、開けてみるか?」

 

「爆弾とかじゃないよな?」

 

 箱を開けると中には赤子が入っていた。

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すまなかった」

 

 ここはギルドあさかわ、意識を取り戻したアルカディオスに起きた事を説明すると彼は物凄くショックを受けたようだった。

 

「あれは私の母だ……あの人の指示を聞くことが喜びだと感じていたが……私は、操られていたのだな」

 

「貴殿が数多くの冒険者を殺めたのは事実、しかし操られていた以上貴殿も被害者の一人であろうな」

 

「お前はこの赤子について何か知ってるか?」

 

 マスターが眠っている赤ん坊をアルカディオスに見せると彼は驚いた表情をした。

 

「な……この子は……私の妹だ」

 

「妹? はー、随分と若い……」

 

「いや……この子は生まれてすぐ父に捨てられていた筈……何故母が……」

 

「は? 待て、捨てられていただと?」

 

 ユーフの言葉にアルカディオスは頷く。

 

「あぁ……この子は光の魔術適性があったんだ、私達吸血鬼にとって光の魔術は忌むべき魔術……すぐ私の父は私と母が寝てる間に森の奥深くへ捨てたんだ」

 

「酷い……」

 

「……そういえば、妹が捨てられてから、私は母のいう事が正しく感じていたな……思えばあの時から私は支配を受けていたのか」

 

「……いや、若い理由と見つけられた理由はなんだよ……」

 

「ああ、それは……恐らく母の魔法だ。母は時を止める魔法を使っていた、この子を探すのもきっと何年も止まった時の中で探していたのかもしれない……」

 

「待て待て、時を止める魔法だと? お前らの家系魔法使いだらけなのか?」

 

「どうだろう、少なからず母は使っていたが……とにかく時を止められていたのだろう、昔見たままな姿だ」

 

 アルカディオスは赤子を抱いていると決心したような顔でマスターに向き直る。

 

「頼みがある、私はもう罪人だが君達は違う。どうかこの子を育ててはくれないだろうか……!」

 

「え、嫌だけど」

 

「ちょっマスター!?」

 

 私は思わずマスターに振り向いた、いくらなんでもノータイム過ぎる。

 

「その子はお前の家族だろうが、お前が育てなくてどうする」

 

「し、しかし私の手はもう汚れていて……罪人の妹などと言われては……」

 

「それはそうだ、だけどお前の手は償う事が出来るだろ」

 

 その言葉にアルカディオスはハッとなる。

 

「お前は冒険者を殺してしまったことを後悔してるし、第一お前も被害者側ではあるから俺は償っていいと思うぞ。あとな、家族がいないって辛いんだ。母も父もいないその子にはもうお前しかいないんだよ」

 

「私しか……」

 

 目が覚めた赤子はアルカディオスをじっと見るとその手をアルカディオスの鼻に触る、その手はとても柔らかく、何故だか彼には輝いて見えた。

 

「……()()()()、私をここに置いてくれないだろうか。何でもする、そして償わせてくれ」

 

「OK、転生者。ギルドあさかわはお前を歓迎しよう、トップが言うんだから間違いねぇさ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルお兄さま、こちらをどうぞ」

 

「ありがとうアゼリア、しかしバレンタインに毎年等身大の私型チョコを作るのはやめてくれないか?」

 

 バレンタインデーの今日、アルの妹アゼリアのいつものチョコレート騒動を見ながらミルクチョコをかじる。

 

「駄目ですか……? お兄さまにたくさん食べて頂こうと作ったのですが……ごめんなさい、御迷惑をおかけしましたか……?」

 

「そんな事は無い! 是非食べさせてもらおう!!」

 

「……マスター、あの二人今年もやってるぜ」

 

「ああ、ゴードンか……昔はアゼリアも大人しかったんだけどなぁ……いつからあんな策士になったんだろうか……」

 

「昔っていつだよ」

 

「150年くらい前」

 

「昔過ぎないか?」

 

 バーカウンターに甘い香りのするアルが一人増えた今日、俺は出会った頃のアルを思い出して笑みを溢す。

 

「随分と笑えるようになったじゃねぇか、あいつも」

 

「マスター!! チョコを作ったから食べてくれ!!」

 

「カナデ、俺は実験台じゃあないんだ、だからその青色のチョコを置くんだ。待て、話せばわかる。待て、な?」

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