異世界ギルド『あさかわ』   作:ヘルメットのお兄さん

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5 ギルド拡張計画 40年目

 ギルドあさかわ、40年目である。俺こと浅川蓮司は少し不満が溜まっていた。

 

「……狭い」

 

「マスター、どうしたんですか?」

 

 レインが机に倒れ伏している俺を心配そうな顔で覗き込んでくる、俺は顔を上げると酒場を見渡す。

 

「もう結構手狭になって来たなって」

 

「あぁ……そうですね、冒険者も随分と増えたので椅子が足りずに立たざるを得ない人たちも出ていますね」

 

 そうなのだ、ちらほらと立ちっぱなしで雑談したり飲んだりと不便そうな人が増えている。

 

「これは……改築が必要だな」

 

 という事で、今回呼んだのは以下四人。

 

「────という事で、今回の議題はギルドの改築です。意見は沢山応募中です」

 

 まずはレイン、まあ秘書なので当然だが。

 

「私がこの場にいていいのか?」

 

 最近酒造りが上手い事をしったので従業員にシフトしてもらったアルカディオスもといアル。

 

「僕寝ていいか……?」

 

 最近少しづつ筋肉が増えて来たサミュエル、運動出来て偉いぞ。建築や科学的知識はこいつが一番豊富なので参加。

 

「あの……どうして私も?」

 

 最古参且つ引退した元冒険者のカナデ、久しぶりに来てくれたのでそのまま連れてきた。

 

「よし、じゃあこの五人でギルドを広くしよう。何か意見ある人ー」

 

「ん……」

 

「はいサミュエルくん早かった」

 

「大喜利かよ……? まぁ、僕は研究室が欲しいね……もうあんな倉庫は嫌だし……」

 

「候補には入れといてやるが後回しだな、次」

 

「はい」

 

 次に手を上げたのはカナデだった、もう60近いというのに未だに40代みたいな顔してんのはなんなんだろう。

 

「はいカナデ」

 

「えっと、そもそも予算はどれくらいあるんですか? それがわからないとなんとも……」

 

「あ、そうだった。レインお願い」

 

「はい、今年度のあさかわの全予算が凡そ3000万、その内改築に回すとなると。限界まで引き上げて800万には抑えてほしいですね」

 

「800万……私は家など買ったこと無いが多いのか?」

 

 アルが疑問を口にしたので答えようとしたら、意外な事にサミュエルが答えてくれた。

 

「増築という点だけ見れば問題ねぇが……あくまでもちゃんとした業者に頼んで……部屋一つ分だけ頼む場合になる……ギルドである以上一部屋増やすだけじゃねぇだろうし……確実に足りなくなるな……」

 

「……意外だな、サミュエル建築詳しいのか?」

 

「前世じゃ親父が資格マニアだったんでな……それに当てられて僕も色んな資格を持ってんだ……建築にも少しは知識があるぜ……」

 

「人間、特技の一つや二つあるもんだな……あ、すささせの魔法で部屋を造れないのか?」

 

 俺が提案するとアルは難しそうな顔をする。

 

「出来なくはないが……私の魔法は発動中私の魔力を消費し続けるのだ、10年前は……その、冒険者の血があったから維持し続けられたが今は一月持てばいい方だ」

 

「それでも一月持つんですね……あ、でしたら魔力を供給し続けられる様にすればいいのですよね?」

 

「む? そうだな、例えば……魔法陣を作りそこに魔力を維持させれば私が不在でも空間は作れる筈だ」

 

「簡単に言いますが、アルさんの魔法をまともに維持し続けられる魔力持ちなんてこのギルドにはいませんよ? 仮にいた所で負担が大きいので任せられませんが」

 

 レインの言葉も最もだった、やはりこの案は却下か……と思った時、ある一つの案が思いついた。

 

「そうだ……龍脈はどうだ? そこに魔力転移の陣を俺が貼ってギルドに移せば……」

 

 龍脈、もとは風水用語だが俺達は魔力が異常に濃い地点をそう呼んでいる。アストラは各地に龍脈が存在しており、その内の場所の一つを数年前カエデが突き止めていたのだった。

 

「成程……龍脈の規模によるが、試してみる価値はある。マスター、依頼で龍脈の探索を派遣しよう」

 

「え? 龍脈の場所なら知ってるけど」

 

「一つだけだろう? もしかしたら維持には一つでは足りないかもしれないからな、龍脈は幾つ確保してもいいだろう」

 

「頼んでおいてなんだけどお前の魔法マジで燃費悪いな」

 

「我流な上に魔法だからな、効率化出来たらいいのだが」

 

 

 

 そして依頼を出した一週間後、早い事にもう一つ目の龍脈が見つかったらしい。

 

「で、見つけた奴は……あぁ、ユーフの弟子じゃないか。どこにあったんだ?」

 

「はい! ヴァインです! プライド王国の僻地にある湖で非常に魔力の濃い箇所を発見しました!!」

 

 元グラトニー王国の騎士団長ユーフの一番弟子、エルフのヴァイン、ユーフが引退したのを知ってから追いかけて来たらしい。このギルドで数少ない現地人でもある訳だが転生者などについては説明済みだった。

 

「プライド……よくそんな所まで行ったな」

 

「実は僕、騎士だった頃に一度任務で来た事がありまして……あそこにいると安らぐのでプライド王国に来たときはよく通っていたんです」

 

「よし、まずはそこに行くか」

 

 そしてヴァインの教えてくれた場所に俺とヴァイン、それとユーフと共に来たが……

 

「おいおい……水が無いじゃないか」

 

「ヴァイン? 本当にここが湖なのか?」

 

「は、はい。その筈なんですが……」

 

 ユーフが訝しげに湖だった場所を見ているが確かに空気中の魔力が濃い、しかし湖は完全に干からびていた。

 

「このまま陣だけ張って帰る事は出来るが……」

 

「流石にこの状況を放ってはおけないだろう、マスター」

 

「だよな」

 

 とはいえ情報も何も無い今は難しい、一度プライド王国で話でも聞こうかと思った時

 

「……あ、隊長、マスター! あそこで声が聞こえます!」

 

「声だって? 人の気配は無かったが ……いや、ヴァインはエルフだったな。噂に聞く精霊の声か?」

 

「多分……実際に聞いたのは初めてですが……」

 

 話に聞いた程度だがエルフは精霊の声を聞き力を借りる事で自然の力を発揮することが出来るという、自然を歪ませ現象を引き起こす俺達魔術師とは反りが合わないと聞くが……

 

「こっちです……あ、いました!」

 

 そこには何もいなかったが俺は分かった、水の属性を持った魔力そのものが形を成している存在がいる。魔力を操る力が弱いユーフは分からないようだが。

 

「あの……どうして泣いているんですか? ……あ、ここの湖が……はい、はい……ええっ? わかりました、聞いてみます」

 

「声が聞こえないから電話応対見てるみたいだな……で、精霊はなんだって?」

 

「えっと……なんでも大きなスライムが突然現れて、ここの湖を飲み干されてしまったそうです」

 

「スライムが? ここの湖を吸収出来るほどのスライムなんて、そんな話聞いた事がないな……」

 

「それでマスター、お願いがあるそうなんですが」

 

「なんだ? 出来る範囲ならいいぞ」

 

「精霊が貴方の事を脅威として認識してまして……この湖に水を戻して欲しいと」

 

 ふむ、俺が脅威に見えるが湖を戻して欲しいと? 

 

「待て、脅威と認識してる奴に依頼するのか? というかなんで俺が脅威だと思われなくちゃならないんだよ」

 

「ええっと……精霊は自然の化身で? 魔術で自然を捻じ曲げる魔術師達が嫌いな様で……それでマスターは全属性を操れる上に強いじゃないですか、精霊から見たらが不快そのもののようです」

 

「……不服だが脅威扱い理由はわかった、じゃあなんで俺に依頼するんだよ」

 

「脅威ではあるけどマスターは話が通じそうだから妥協するらしいです」

 

「言いたい放題だな精霊ってのは……とにかく水があればいいんだな」

 

 俺は湖だった場所の中心に立つとそこら辺の木の枝で魔術陣を描き始める、どうせ一時的なものなのですぐ消えてもいい。

 

「……よし、後は魔力を流せば……」

 

 俺が魔術陣に魔力を流した瞬間、陣は起動し「扉」を呼び出す。扉は大量の水を吐き出すと瞬く間に湖を満たしていった。

 

「こ……これがマスターの魔術……」

 

「マスター、あれはどんな魔術なんだ?」

 

「ああ、簡単に言えば海から水だけを引っ張ってきた。余計な要素を取り除いているからマジの純水になってるぞ。後は時間が経てば普通の湖程度に汚れるだろ」

 

「魔術ってそんなろ過みたいな事できるのか……」

 

「まあ、暇さえあれば魔術弄って改良してるからな。こんなのも出来る。ただ難易度の高い曲芸みたいな事だから舞踊とか詠唱でやろうとすると10分くらい息継ぎ無しで紡ぐ事になるからやめとけよ」

 

 俺の説明に二人はドン引きしていた、まぁこの魔術陣も細かく描きすぎてクソ太い線で描かれた丸に見えるし、魔術に精通してない反応は仕方ない。

 

 さて、これで湖は一旦元に戻せた訳だが精霊の反応は……

 

「あ、感謝はしてますが凄い吐き気を訴えてます」

 

「頼まなければいいのに……」

 

「なんというか精霊が人の世に出ない理由がわかるな」

 

 とにかく今日の目的はギルドの増築の延長なので、精霊に許可を取ってから龍脈に魔術の陣を張る。今回はしっかりと専用の道具で描く

 

「これでよし、後はアルが魔法陣を起動すれば魔力はこいつを通して龍脈から供給される筈だ」

 

「前にも思ったが、マスターは魔法は使えないのか?」

 

「無理無理、魔法使いって要は運に愛された奴の特権みたいなもんだから。そいつの体に合った専用の魔術()()()()()()が魔法なんだよ、少なくとも過程を大事にしたがる普通の魔術師ほど魔法は使えないだろうな……あ、でも転生者は加護貰ってるからまだ可能性があるかもな」

 

「しかしマスターは魔術の妨害までやってのけているんだからできそうなものだが……」

 

「いやぁ、たとえ俺がアルに魔法の使い方を完璧に教えてもらったとしても俺は空間を操ったりはできないだろうな。そもそもアルは魔法の使い方を説明なんてできないと思うぞ、教えられてもいない技術を他人に教えるって凄い難しいからな」

 

「そんなものか……少し魔法に憧れていたんだがな」

 

 なんだか少し残念そうなユーフの頭を撫でるとちょっと強めに振り払われた。

 

「やめてくれ、私はもうアラサーだぞ」

 

「そんなこと言ったら俺80だぞ、お前たちは孫だ、孫」

 

「なら孫は甘やかさないで自立を促してやれ、というかマスターは娘がいたんだろう? もしかしたら本当に孫がいたんじゃないか?」

 

 その言葉に俺は固まった、そしてすぐにそれは無い事を思い出す。

 

「……いや、いやいやそれは無い。遠い未来……かはわからないが娘もこっちに来る事はわかってるからな。学生だから孫は無い、絶対無い」

 

 俺は焦った焦ったと息を吐くがユーフの顔は反対に暗くなっていた。

 

「あ……マスターの娘も若くして亡くなっているのか……すまなかった」

 

「あぁ、違う違う。娘は転生じゃないくて転移らしい、昔転生する直前に天使から聞いたんだよ」

 

「……天使も気になるが、転移だと?」

 

「あぁ、魔王が現れる時、勇者を召喚する国がいる筈だ」

 

「だが……そんな魔術聞いたこともないぞ」

 

「俺も無い、秘匿された相当高度な儀式かこの時代にはまだ開発されてないか……」

 

「あの……お2人ともそろそろ行きませんか?」

 

 ヴァインの言葉に頷くと俺達はギルドに戻る……所だったが

 

「え? なんでしょう……はい……え? い、いえ。僕は良いですが……ちょっと聞いてみますね」

 

「どうしたヴァイン、早くマスターの陣に乗るぞ」

 

「す、すいません。精霊が僕に着いてきたいと……良いでしょうか」

 

「えぇ?」

 

 驚いた、先程まで俺は、というか魔術師はかなり嫌われてそうだったのにそんな奴らの巣について行きたいとは。

 

「理由は聞いたのか?」

 

「その……ずっと自然の中にいるのも退屈だそうで、それと魔術師は嫌いだけど慣れて人間の所にいる事が出来れば同族に自慢できるかも、と」

 

「要はマウント取りたいって事だろ、……まぁいいが魔術師は多い、文句は言うなよ」

 

「はい……お礼を言ってます、え? 僕に名付けを?」

 

 どうやら精霊はヴァインに名前をつけて欲しいらしい、そういえば精霊としか呼ばず名前は聞かなかったがそもそも無かったのか。

 

「隊長、マスターどうしましょう……僕良い名付けができる自信が無いです……」

 

「名付けを頼まれたのはお前なんだ、お前が決めるべきだろう」

 

「俺も同意だが……そうだな、水の精霊なら水にまつわる言葉から取るのはどうだ?」

 

「な、成程……それじゃあ……えっと……水だから……ディーネで!」

 

 ヴァインが名見つけた瞬間、精霊のいる位置から大量の魔力が収束するのを知覚する。その魔力量に思わず目を細めると収まった頃には手の平サイズの小さな人魚……の様な女の子が居た。

 

「うわぁっ!?」

 

 その様子に俺はある現象を思い出した。

 

()()()だと!?」

 

「しゅ、種族化? マスターどうなっているんだ?」

 

「……普通、一部の魔物とか肉体を構成する上で魔力が()()の生物は成長しないんだ。だが何か大きな出来事が起こると新たな種族として生まれ変わるのを種族化と言う……が、原因はわからんし誰もその瞬間を見ないせいかあくまで机上の空論だった。だが本当に起こるなんてな……」

 

「つ、つまり僕が名前をつけたらディーネは種族化したってことですか?」

 

「多分な、ディーネは精霊である事に変わりは無いだろうがかなり高位の存在になっていてもおかしくないぞ、なんせ魔力で構成されているのにこうして普通に見えるし触れるからな」

 

 俺がディーネの頬を触るとディーネは嫌そうに俺の指を押し退ける。

 

「私達は貴重な瞬間に立ち会えた、という事か」

 

「でも、精霊なのはわかりましたけどこうして見るとどちらかと言えば妖精みたいですね」

 

「あー……ヴァイン、それあんまり言わない方がいいぞ。ディーネが頬膨らませてキレてる」

 

「えっ!? ご、ごめんなさい! いててっ氷の粒が」

 

 精霊と妖精は仲が悪いと聞いた事がある、精霊側は知能も低く人間と馴れ合う妖精が嫌いで、妖精は妖精で肉体も持てない精霊を馬鹿にしているそうだ。あくまでそういう話と文献で読んでいるがディーネの様子から真実なのかもしれない。

 

「よし、それじゃあディーネ。これから俺達のギルド……巣に帰るけどもう一度言う、魔術師が多いからって吐いたりするなよ」

 

 ディーネは頷くとヴァインの服に潜り込むように隠れていった。

 

「あ、あの~これはちょっと……」

 

「よし、行くぞ」

 

 こうして俺達は一つ目の龍脈を確保した、そして数日後の夜中……

 

「どうだ、アル? あれから5つ龍脈を見つけたができそうか?」

 

「ああ、十分だ。これなら私が居なくなっても少なくとも100年は魔法を持続させられる」

 

「ちょっと集め過ぎたか……?」

 

「どうだろうな、私やマスターなんかは既に不老の身だ。100年は案外早く過ぎ去ってしまうかもしれんぞ」

 

「……確かに、もうこっちに来て50年は経ってるしな……」

 

「そうだろう? ……ではマスター、レイン殿から設計図も受け取っている。これから拡張を始めるからギルド内の者を退席させて欲しい」

 

「ああ、わかった」

 

 そうして夜にも関わらず入り浸っている奴らに事情を話し、ギルドから出る事になった。そして待っているとカエデがやって来た。

 

「あれ、どうしたの皆? こんな時間にギルドの外で」

 

「お! カエデじゃないか、随分ギルドに顔を出さなかったが……五年程か? 久しぶりだな」

 

「やっほーユーフ、ちょっとこっちに用事があってね。それよりマスター、どうして皆外にいるの?」

 

「あぁ、実はアルに頼んでギルドを拡張しようと思ってな、さっき始めるから飲んだくれ共と一緒に外に出てるんだよ」

 

「ふぅん……確かに狭かったしね、ここ」

 

「ま、随分とメンバーも増えたからな。いい加減広くしようと思ってたんだ」

 

 それからカエデと雑談を……2時間だろうか、その頃にアルがギルドから出てきた。

 

「マスター、終わったぞ。ここのギルドの長はマスターだ、最初に入るといい」

 

「お、そうか? それじゃあ早速……」

 

 意を決して俺が扉をくぐると、そこにあったのは今までの二倍ほどの広さになった酒場があった。

 

「おぉ、随分広くなったな! これなら椅子を増やしても大丈夫そうだ!」

 

「でも、何個も龍脈を探した割にはあまり広くなってないような気がします……あれ?」

 

 労力の割にはあまり広くなっていないと何となく感じているヴァインは、部屋の左の方に見た事がない扉があることに気がついた。

 

「隊長、ここに扉なんてありましたっけ?」

 

「何? 本当だ、確かにここに扉など無かった」

 

「開けてみるといい、貴殿たちも驚くだろう」

 

 言われた通り2人は扉を開けると、そこには複数の扉が存在する部屋となっていた。扉は6つあり、それぞれ扉のデザインが異なっていた。

 

「こ、この部屋は……?」

 

「……あ、これあれか! マジで作れたのかアル?」

 

「マスター、あれとは?」

 

「実はな、他の国にギルド支部を作ろうとしてたんだよ」

 

「何だって?」

 

「遠出の依頼を受けた時、毎回ここに帰ってくるのは大変だろう? カエデを見てて特に思ったしな。それでアルやレインと相談して、ギルドに支部を作ろうと思ったんだ」

 

「な、なるほど……だがそれとこの扉にどんな関係が?」

 

「支部を造ると言っても俺達は他のギルドより人数が多い訳じゃない、わざわざスタッフを増やしても今はしょうがないからな。だから場所を作るんじゃなくて、扉をここに繋げてそれぞれの国に移動できる様にしようって訳だ」

 

私達(転生者)らしい言い方をするならば、ワープポイントとでも言うべきかな」

 

「ワープポイント?」

 

「ヴァインは馴染みが無いからな、私は何となくわかったぞ」

 

「私もわかんないー、転生者の人達って相変わらず変な知識はあるよね」

 

「今はまだただの飾りだが、近い内に他の国にギルドを置くつもりだ」

 

「アルさん、他に部屋はあるの?」

 

 カエデの質問に代わりに俺が答える。

 

「いや、後はいつもの倉庫ぐらいだ。後は追々必要な部屋から増やしていこうって話だな、無理に部屋を増やしても使う事がなかったら意味が無い」

 

「そういう事だ、さて……時計も3時を回る、私は今日の所は寝るとしよう」

 

「アルさんって吸血鬼だよね……?」

 

「吸血鬼が昼に起きては不味いかね? 私は太陽には強いから心配する必要などない」

 

「知ってはいるけど……なんていうか、吸血鬼的には昼夜逆転生活なんだろうなって」

 

「……心は人間のつもりだからな」

 

 アルはそう言うと扉を潜り行ってしまった。

 

「私達も帰ろうか? ヴァイン、今日は私の家に泊まっていくといい」

 

「えぇ!? そ、そんな恐れ多い……!」

 

「嫌か?」

 

「い、いえ……そういう訳では……」

 

「ならいいだろう? さぁ帰るぞ」

 

「お前らも帰れよ、酒が抜けてるやつは酔っ払い連れて帰れよー」

 

 そうして人が掃けて俺とレインだけになった頃、俺は椅子に座ると改めて広くなった酒場を見渡す。

 

「……なぁレイン、随分と大所帯になったと思わないか?」

 

「えぇ、喜ばしい事ですね」

 

「そうだな……最初……俺は娘に会って、いつか勇者にさせられるあいつを助けられたらと思って始めたけど……今はもう一つやらなきゃいけない事ができちまった」

 

「そうですか、よければ教えて貰っても?」

 

「知ってる癖に…………このギルドをでっかくして、俺の手の届く範囲迄でもいい、娘だけじゃなくて、できる限りの奴らを助けたくなっちまったんだ。無理だと思うか?」

 

「いいえ、立派だと思います。とても貴方らしいかと」

 

 その時、随分と、随分と長い間薄れていた顔がレインと重なって見えた。

 

「……美里」

 

「はい?」

 

「……あ、ああいや……なんでも無い。忘れてくれ」

 

 俺は席を立つと自室に戻っていく、その時のレインの顔がずっとあいつと重なって見えた。

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