異世界ギルド『あさかわ』   作:ヘルメットのお兄さん

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4月1日だけど嘘じゃないです


7 赤子の転生者、ユキノ 180年目

 その日は、なんとなく外を歩いていた。

 

 ギルドも大きくなり数日ぐらいは俺が居なくても問題なく運営が出来るようになってから俺の出番が減った、ゴードンもカイルも最近は忙しそうだから構ってくれないし正直暇してた。

 

「なんか面白い事無いかね、ヴァイン君よ」

 

「さ、さぁ……僕はなんとも」

 

 ヴァインはユーフが亡くなった後、思う所があったのか騎士に戻ったがこうして時々冒険者として新人の育成を手伝ってくれている。昔の仲間がいてくれるのは嬉しい事だが正直仕事とか良いのだろうか。

 

「そういえばお前の精霊たち、今日は姿が見えないけどどうしたんだ?」

 

「あぁ……ディーネはサミュエルさんの所で研究の見学をしてますしイフはギルドの女性陣とショッピングに行ってます。後の二人は騎士団で訓練中ですね」

 

「大分人間社会に馴染んでるな」

 

「そうですね、皆強かです」

 

「にしてもショッピングか、俺もたまには……」

 

 ヴァインと街をぶらついているとふと、薄暗い路地裏に視線が止まった。

 

「マスター? どうしました?」

 

「いや、今なんか……魔眼が反応した」

 

「え、では転生者ですか? しかし最近はあまり姿を見ませんでしたが……」

 

「とにかく行ってみるか、行くぞヴァイン」

 

 俺とヴァインが路地裏に行くと、幼い泣き声が奥の方で聞こえて来た。

 

 鳴き声の場所まで辿り着くと、籠の中にまだ産まれて間もないであろう銀の髪を持った赤子が大きな声で泣いているのがわかった。

 

「赤ん坊ですね……誰がこんな所に……」

 

「……転生者はこの子か、取り敢えずギルドまで連れて行こう。ケセドの奴に診せれば何とかなるだろ」

 

 そうしてギルドに戻ると少なくない人数がこの子に注目した。

 

「戻ったぞ、ケセドはいるか?」

 

「マスター、どうしたんだよその子供! まさか知らない間に結っこ!!?」

 

 かかと蹴りでゴードンを黙らせると医者のケセドのいる医務室まで連れて来た。

 

「どうしたマスター……赤子か。アンタの事だ、どこかで拾って来たんだろう? 診察をするからそこに座れ」

 

 ケセドはドワーフの医者で転生者だ、この世界では病気の治療は殆ど自然治癒に任せるしかなかったがこいつが来てから病気に対する対抗策が増えた。強力な人材の一人だ。

 

「ふむ……随分と健康だな、今は気温も低めだし赤子の体ではすぐに冷える筈だが……発見が早かったのか?」

 

「じゃあ取り敢えず大丈夫って事か?」

 

「ああ、すぐにどうにかなってしまう事はあるまい……それはそうと、転生者なのか?」

 

「ああ、目が反応したんだ。間違いない」

 

「ほう……しかしそれなら違和感があるな」

 

「違和感?」

 

「俺は数えられる程度ではあるが赤子の転生者を診てきた、そいつらは皆意識がはっきりしていて自分の現状を理解している……だが、この子の反応は赤子の反応そのものだ、転生者特有の聡明さを感じない」

 

 俺はその言葉に上手く返事が出来なかった、つまりケセドの言っていることが正しければこの子は転生者ではなく、本当にただの赤子という事になるが……魔眼では間違いなく転生者な訳で……

 

「……よし、久しぶりに神頼みでもするか」

 

「……神頼み?」

 

「まあ、ちょっと行って来るわ」

 

 そしてギルドの中にある部屋の一つ、サリエルの小さな像が奉られている小さな部屋で俺は膝をつき祈る。

 

 すると景色が変わり、真っ白い空間に現れる。

 

「久しぶりですね、レンジ」

 

「どーも、今日は聞きたい事があるんだ」

 

「あの赤子の事ですね」

 

 サリエルは椅子を生み出し座ると俺にも座るよう促す。

 

「よっと……そう、ちょっと気になるからな。ただ俺達を怖がって子供の振りをしているだけならいいんだがな」

 

「……あの赤子は、確かに転生者ですが……前世がほとんどありません」

 

「ほとんど?」

 

「あの子は、地球で生まれてすぐに事故で亡くなっています。前世と合わせても1歳にも満たないでしょう」

 

「…………そうか、あの子の親は? アストラと地球どっちもだ」

 

「地球の両親は共に亡くなってしまっています、アストラでは……性奴隷の子、ですね……ある奴隷が身ごもった後捨てさせられています。父親は処刑され、母親は……今はどこにいるかすらわかりません、少なくともラスにはいないですね」

 

「聞くんじゃなかった……はあ、あの子は、何か加護とかあるか?」

 

「そうですね……あ」

 

「どうした?」

 

「こちらを……親の意志というものは強いものですね」

 

 サリエルは俺に一枚の紙を渡す、そこには「縁の加護」とだけ書かれていた。

 

「縁……」

 

「この加護は私達が与えたものではありません、あの子の親が与えたものです」

 

「俺に会えたのも縁だって?」

 

「加護の力は本物みたいですね」

 

 ふふ、と俺を見て笑うサリエルに俺は頭をかくと椅子から立ち上がる。

 

「もし両親の魂を見つけたら伝えといてくれ、あんたらの子供は俺達が守ってやるってな」

 

 そして景色が切り替わると俺はギルドの酒場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 そして五年後、ユキノと名付けた赤子はぐんぐんと成長し……

 

「待つのだユキノ! 某の尻尾は尖っておる!! 触れてはならん!」

 

「ユキノちゃん! お兄さまの作ってるのはお酒です! 飲んじゃだめです!」

 

「待ちなさいユキノ!! アゼリアの髪は食べ物じゃない!」

 

 物凄くお転婆に育っていた。

 

「マスター、ユキノの奴またカナデ二世と喧嘩してるぞ……」

 

「またか……カイルがいるから怪我はしないだろうが……」

 

「ますたー!! かなでがゆきののおもちゃとった!!!」

 

「わたしのぬいぐるみをさきにとったゆきのがわるいんだ! わたしはわるくない!!」

 

「あーほらわかったから……ユキノはぬいぐるみを返しなさい、カナデはおもちゃを返してあげなさい」

 

 俺がユキノを、急いでこちらへきたカイルがカナデを抱き上げると二人は俺達に抱きかかえられながら手を伸ばし威嚇し合っている。

 

「ごめん……マスター、目を離した隙に……」

 

「謝るな……俺もちょっと油断してた」

 

「むー!!!」

 

「い──!!!」

 

 ユキノには勉強も教えている、とはいえまだ五歳、簡単な文字が読める程度に教えているがどうにも難しい。

 

「じゃあこれはなんて読むかな? ユキノちゃん?」

 

「いちご! ばいんのせーれーがよくたべてる!」

 

「よくできました、次はこれ、読めるかな」

 

「悪いなヴァイン、教師の真似事させて」

 

「いえ、これくらいなら大丈夫ですよ。しかしユキノちゃん、すくすく育ちますね。もう五年ですか」

 

「エルフの時間間隔で五年って短いだろうな」

 

「マスターももう同じくらいでしょう? もうお爺ちゃんじゃないですか」

 

「心はいつまでもおじさん止まりだよ」

 

「ばいん! まじゅつってなに!」

 

「おっと! 魔術はね……」

 

 

 

 時には身を守る為訓練もしていた。

 

「よし……まずはあそこの木まで走るよ……先に着いた方に飴あげる……」

 

「ゆきののほうがはやいからあめはゆきののね!」

 

「わたしのほうがはやい! あめはわたしのだ!」

 

「これって訓練か?」

 

「子供にとっては、毎日運動する事が訓練だ。最も、怪我をしたら本末転倒だがな、すぐに俺の所に連れて来いよ」

 

「ケセドも運動したらどうだ? ドワーフの癖に細い腕してんだからよ」

 

「悪いがマスター、これでも軽自動車程度なら持ち上げられる。それに手先の器用さは衰えやしない」

 

「はいはい、医者の不養生にはなるなよ」

 

 

 

 

 そうして更に五年が経とうとした時、事件は起きた。

 

「レイン! ユキノが居なくなったって!!?」

 

「は、はい……一緒に寝ていたんですが朝起きたら居なくなっていて……」

 

「アル! 夜中ユキノ見てないか!!?」

 

「私は見ていない、だがユキノがギルドから出る前資料室にいた痕跡を確認している」

 

「痕跡?」

 

「ああ、あの子の両親についての資料だ。恐らくだが……探しに出て行ったとしてもおかしくはない」

 

「お前ら!! ユキノを探せ! ()()を見たって事はプライドの可能性が高い、そこ中心に探すぞ!」

 

 そして俺達は行方不明のユキノを探す為、ギルド総出で出撃した。

 

 

 

 

 

 

 始めは、ともだちの発言が発端だった。

 

「ユキノのお母さんってだれなの?」

 

「え?」

 

「ユキノっていつもギルドにいて、お父さんやお母さんにあったことがないからどんなひとなのかなって」

 

 カナデがこう言ってから、ずっとあたしの頭の中には両親の存在が浮かんでいた。顔も知らない、あたしの両親。

 

 最初はギルドの皆が家族だっておもったけど、ケセド先生からきいた話だとかぞくとは別に「うみのおや」がいるらしかった。

 

 だから資料室にいった時、一枚の紙に目に留まった。

 

「ユキノの両親について……」

 

 その紙は普段使わない日本語で、それに漢字だらけでほとんど読めなかったけどこれだけはわかった。

 

『プライド王国で両親らしき存在を確認、ユキノには秘匿させる』

 

 プライド王国にあたしの両親がいる事、そしてどうしてかあたしに隠している事だけはわかった。

 

 行き方だけはギルドの扉で行けるから大変じゃなかった、でもそこからあたしの両親を探すのは大変だった。

 

「……? こっち、何かある……」

 

 あたしは時々、何かに引っ張られるように動く事がある。それはあたしが自分の意志で動いているのは確かだけど、無性にその方向が気になる事がある。

 

 そうして歩いていると、そこは薄暗い路地裏だった。怖い顔をした人や腕や足が骨ばって見える人が倒れていたり、体の奥底から嫌な感情が湧き出て来た。あたしはそれでも進んでいくと、路地の行き止まりにあたった。

 

 何もなくて、戻ろうかと思った時、隅の方で血を吐いて倒れている人がいた。その人は銀色の髪をしていて、くすむ前は綺麗な色だったんだろうなって思う。

 

「……あの……だいじょうぶですか?」

 

「……誰? ……ごめんなさい、もう眼も見えないの……」

 

「えっと……どうして……血を吐いてるんですか?」

 

「とっても若い声ね……私の体はね、沢山の病気に侵されていて、もう長く無いの……でも、お金も無いから治療も出来ないのよ」

 

「じゃ、じゃああたしの友達にお医者さんの先生がいるからその人に……」

 

「だめよ……迷惑をかけちゃうでしょう……? それにね、私は奴隷なの……奴隷はお店を利用する時は、所有者に請求がいくんだけど……あたしの主人は払う気が無かったみたいなの」

 

 倒れている人の顔色が段々と悪くなっていく、あたしが声をあげて体を揺するが反応も鈍くなっていく。あたしはなぜだかこの人を助けないといけないって感じてしまった、今助けないと後悔するってわかっていた。どうしてかはわからないけど街に飛び出そうと駆けだそうとすると目の前を怖い顔の人があたしを取り囲んだ。

 

「嬢ちゃんよ……ここはスラム街だぜ? 一人でいたら悪い奴らにさらわれちまうぜぇ?」

 

「あっ、そっか……ごめんなさい、教えてくれてありがと……きゃっ!?」

 

 わざわざ教えてくれた人にお礼を言って通り過ぎようとしたら腕を掴まれて持ち上げられた、あたしが暴れようとしてもびくともしない。

 

「びっくりした……お前どんだけ悪意を知らないんだよ……」

 

「兄貴ぃ、こいつ幾らで売るんですか?」

 

「銀髪は珍しい、裏の奴隷商にでも売れば数千万はくだらねぇぞ」

 

「はっ放して! 早く戻らないといけないのに!」

 

「あ? もう戻る必要なんてねぇよ、お前の居場所は地下になるんだからっ!!?」

 

「あっ兄貴ぃ!? 誰だてめぇ!!!」

 

 あまりにも急な出来事であたしは怖くて堪らなかった、これからどうなっちゃうんだろうなんて思い、目の前が滲んだ瞬間、あたしを持ち上げていた男は吹き飛ばされあたしは誰かに支えられた。

 

「全く……親を探す気持ちは結構だが一人で行くのは感心しないな、相変わらずお転婆な奴め」

 

「あ、先生……」

 

「何だお前!! ドワーフか!?」

 

「親じゃねぇが……保護者その一だ、この子を攫いたいなら俺を殺してから攫うんだな」

 

「あぁ!? ふざけやがって、俺様をただのチンピラだと思うなよ!!」

 

 怖い男は手から火の塊を作るとそれを先生に飛ばした、あれは基礎の魔術だった筈だ。

 

 先生はそれに対して避ける事もせず真正面から受け止めた、あたしは思わず目を瞑る。

 

「へへっ……避けもしないとは油断した……な!?」

 

 眼を開けたら先生はやけどの跡も無く、全くの無傷だった。

 

「ドワーフは特に火に対し頑強なのは知らないのか? まあ俺は他の同族と比べてもひ弱だが……」

 

 先生は素早く男に近づくと男の腹を強く殴った、先生の二倍はある男は体をくの字に曲げると白目を剥いて倒れてしまった。

 

「あ、兄貴! クソっ」

 

「えっ、きゃあっ」

 

 あたしはもう一人の男に手を取られるとそのまま捕まってしまった。

 

「動くなよ、少しでも動けばこいつの首かっ切ってやるからな!!」

 

「……人質をとるのは結構だが、その子はおすすめはしないぞ」

 

「はぁ? 何言ってやがる、さっさと両手を上げて膝をつけ……?」

 

 男は最後まで言葉を言う事が出来なかった、あたしが振り向くとそこには鬼の形相をしたマスターが笑顔で立っていた。

 

 マスターは男の手を掴み持ち上げていたが男の両腕はひしゃげいけない方向に曲がっていた。

 

「ユキノ……俺は何で怒ってるかわかるか……?」

 

「ご……ごめんなさい……あ、マスター! 先生! 後で沢山怒られるから、助けてほしい人がいるの!」

 

「……! 案内しろ」

 

 あたしがそう言うとマスターと先生は顔つきが変わりあたしを抱えておくに走り出した、あたしは案内をするとすぐにあの女の人の前にたどりついた。

 

「いたよ! 先生!」

 

「その声……戻ってきたの……? 駄目よ、私に関わったら……」

 

「患者は黙っていろ、診察するから安静にしていろ」

 

 先生はどこからか……確か、聴診器とか言うのを取り出すと女性に押し当てた。

 

「……心臓に異音は無い、血の色からして胃の方か……これ以上はギルドで治療するぞ、ここに居てもまともに治療などできん」

 

「よし、転移するぞ。直接医務室でいいか?」

 

「いや、一度消毒しておきたい、ギルド前にしてくれ」

 

「わかった」

 

 マスターが何か書かれた紙を地面に投げ捨てると紙は光り輝き次に目を開いた時はギルド前だった。

 

「よし……五秒待て」

 

 ケセドがポケットの中から一枚の紙を女性に貼り付けると紙に書かれた魔術陣は女性の体を淡い光で包み込んだ。

 

「いいぞ、このまま医務室に連れていく」

 

「ユキノ、安心しろ。この人はちゃんと助けてやるからな」

 

 そう言ってあたしの頭を撫でたマスターの顔は、凄く穏やかだった。

 

 

 

 

 

 結果だけ言うとあの女性は無事だった、ケセドが言うにはギルドで治療できる程度の病気しか持っておらず、十分対処できたそうだ。今は治療魔術をかけて安静にさせているらしい。

 

 その報告を聞いたあたしは安堵し、今ギルドの執務室で正座をさせられていた。

 

「さて……ユキノ、何故今正座させられているかわかるか?」

 

「あ、あたし子供だからわかんない……」

 

「確かにお前は子供だが同年代よりは賢いと思ってるんだがな?」

 

「な、なあマスター。ユキノも反省してるしもういいんじゃ……」

 

 ゴードンが助け舟を出してくれた、あたしはゴードンを見て顔を輝かせるとマスターがぴしゃりと止めた。

 

「駄目だ、ユキノが今回行った行為は間違いなく人助けと言える。だがそれは俺達がユキノを発見できて、その上でケセドが近くにいたからこそなんとかなった。それは決して褒められた事じゃない」

 

 マスターの言葉にゴードンは口をつぐみ、一歩下がると黙ってしまった。

 

「いいかユキノ、お前は力が無い、きっとお前はこれからも人を助けようとするだろうな、目の前に困った奴がいたらそれが誰だろうと助ける、だけどな、今のお前は助けちゃいけないんだ」

 

「ど、どうして」

 

「さっきも言ったが、お前には力が無い、それはお前が危険に巻き込まれるだけじゃなく、助けようとした人すら危なくなるかもしれないんだよ」

 

「……」

 

 その言葉がひどく胸に刺さり、あたしはマスターの顔が見れなくなった。

 

 その日の夜、あたしはギルドの屋根の上で星空を見ていた。

 

「よ……っと……ふぅ。全くこうも軽々と登れるのは血筋なのかね……よぉ、ユキノ」

 

「あ、ゴードン……」

 

「良い夜じゃねぇか、なのになんで泣いてるんだ?」

 

 言われてからあたしは、自分の頬が濡れている事に初めて気づいた。

 

「……あたしは、どうして弱いのかな」

 

「どうしてだって?」

 

「あたし、あの女の人が倒れてた時、何もできなかったの。治す方法も知らないし、助けを呼ぶこともできなかった……あたしは何が出来るんだろう」

 

「何も出来なくて当然じゃねぇか?」

 

 ゴードンがはっきりと言う、あんまりにもはっきりと言うからあたしは思わず睨みつけてしまった。

 

「いやいや、お前はまだ10歳なんだ、その頃は誰だって無力だよ。俺だって少しは剣が触れたけど、それだけだ。特に地球の方じゃお前の頃の歳の時は割り算も出来ない程に馬鹿だったからな」

 

「……」

 

「だが今の俺は誰かを守れる、その自信があるし実力も持ってる。それだけの時間と努力をしてきたからだ。お前は単純に、時間と努力の時間の部分が足りないだけだよ」

 

「じゃあ……あたしは大人になるまで何もできないの?」

 

「ちょっと違うな、出来る事はある」

 

 ゴードンはそう言うと何冊かの本を渡して来た、表紙には算数やら語学やら色々と書いてある。

 

「なにこれ」

 

「勉強だ、知識ってのは誰もが得られる平等な力だ。お前はまだ10歳だ、なら、今のうちに何でもいい。とにかく色んな事を覚えて知識で戦うんだ」

 

「知識で……?」

 

「そうだ、例えばケセド先生の医療も凄く多くの知識があるから人を治せる、マスターだって色んな知識があるからこのギルドを運営してくれているんだ。お前はそんな戦い方を覚えるんだ」

 

「でも……今更あたしが覚えても追いつく事なんて……」

 

「追いつけるさ、お前の周りには助けてくれるギルドの皆がいるだろ?」

 

「あ……」

 

 あたしがハッとしたように顔をあげるとゴードンは既に屋根から降りようとしていた。

 

「もう子供は寝る時間だ、夜空を見るのもほどほどにな」

 

「あっあのさ……」

 

「お前が助けた女が何者か知りたいのなら、それこそ勉強するんだな。少しだけなら手伝ってやるよ」

 

 そうしてゴードンは屋根から消え、あたしはしばらく星空を見た後、自室で本を読んでいたら気づけばベッドで泥の様に眠っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

「マスター、これでよかったか?」

 

「ああ、ありがとう」

 

「しかしよマスター、こういうのはマスター直々に行くものじゃないか?」

 

「……いや、俺は飴と鞭の鞭だからな、甘やかすわけにはいかないからな。ほんと」

 

「あんた娘の話になると小心者になるよな」

 

 

 

 

 

 

 

 そうして凡そ10年後……エンヴィー国のある事務所にて

 

『──―はい、それじゃあこの資料を保存しておいて。そっちの書類はもうデータ化したから処分していいわ……え、連絡? ええわかったわ、5分以内に返事しておくから』

 

「……しかしなぁ、知識で戦えと言ったのは俺達だけど、まさか探偵になるとはな」

 

 俺とゴードンは独立したユキノの事務所を反対にある喫茶店から覗いていた。

 

「マスター、ユキノの仕事って儲かってるのか? 正直この世界で探偵業務なんてギルドの方に来そうな気もするが……」

 

「案外来ているらしいぞ、この前手紙が来たんだがコツコツ名を売ってそれなりに有名になれたらしい」

 

「へぇ……しかし大丈夫なのかね、未だに荒事は得意じゃないだろ?」

 

「時々ギルドに護衛依頼は来るし……それにカナデがいるさ、休日は頻繁にユキノに会いに行ってるしな」

 

「ふうん、カナデ二世、仲良かったしな」

 

「幼馴染ってのは貴重な存在だ、ずっと仲良しな事は喜ばしいよ」

 

「おっと……こっち見てないか?」

 

「マジか? だったらそろそろ帰るか……」

 

 

 

 

 

 そして同時刻、ユキノ探偵事務所では────

 

「あ、遊びに来たぞ。ユキノ」

 

「あら、カナデ。生憎今は粗茶しか出せないわよ?」

 

「構わないさ、私も今日は何も持ってきていないからな」

 

「そう、それなら少し話さない? 仕事も一段落したし、あた……私も消費しちゃいたいお菓子があるのよ」

 

「それなら頂こう……しかし、この事務所も随分と物が増えたな」

 

「誰かさんのお陰でね、それよりどう? お父……マスターは」

 

「素直にお父さんでいいんじゃないか? マスターも口では言わないが会ってユキノが言い間違える度に嬉しそうにしてるぞ」

 

「……マスターで良いわよ、あの人は相応の立場があるのだから」

 

「……何と言うか、親子共々似て来たな」

 

「何よ、そのお茶菓子没収するわよ」

 

「はは、悪かった。仕事は順調か?」

 

「そうね、失敗もあるけどなんとか暮らしているわ。それに……過保護な人もいるからね」

 

 ちらりと──―反対側の店を見たユキノはそのままお茶をすする。

 

「わ、私の事か?」

 

「そうね、貴方も含まれてるわね……そうだ、貴方の方こそ仕事はどうなのよ」

 

「ああ、最近は一人で依頼を受ける事もあるんだ。父上との訓練も1時間は耐えるようになった、少しは様になっている自信があるぞ」

 

「それってカイルさんに手加減されてるんじゃない?」

 

「そんな事は……無いぞ! 父上も最近は槍を使う様になってきたんだ。少なくともそれだけの実力はついたはずだ」

 

「そう、それなら私も守ってもらおうかしら」

 

「勿論、友達だからな! その代わり難しい事はユキノに任せる!」

 

「……私の方が負担が大きそうね」

 

「……あ、そうだ。今はどんな仕事をしているんだ?」

 

「依頼人の情報は無暗に公開するものじゃないわよ」

 

「う、それもそうだな……」

 

「そうね……大事な人探しとだけ言っておくわ、どうしてそんな事を聞くの?」

 

「じ、実はな? ユキノの仕事を手伝いたいんだ……」

 

「はぁ? ……いえ、それは嬉しいけど貴方はギルドがあるでしょ?」

 

「そ、それが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、そういやカナデ二世の事思い出したがこの前あいつ何したんだ?」

 

「何って?」

 

「いや、この前カイルに正座させられて凄い静かに怒られてたから」

 

「ああ、深くは言わないでおくが依頼でちょっと大きめの失敗してな。流石に危なかったから謹慎も兼ねてユキノの所に行かせた」

 

「そりゃ大変だな」

 

「ユキノの仕事はあまり暴れるような事は無いからな、それにカイルに依存してる所もあるから……自分で考えるって事を覚えた方が良い」

 

 

 

 

 

「────わかったわ、それならしばらくはここで働いていいわよ」

 

「ほ、本当か!」

 

「ただし、貴方も少しは事務仕事というものを覚えてもらうからね」

 

「え、わ……私はユキノを守る事が仕事だから……」

 

「そんな事そうそう来ないわよ、知識は力。私やマスター程とは言わないけど少しは勉強した方が良いわよ」

 

「お、お手柔らかに頼む……」

 

 ユキノにズバリと言われたカナデは、少し萎れていたそうな。

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