異世界ギルド『あさかわ』   作:ヘルメットのお兄さん

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8 危険人物記録:その1 複面のエゴ

 ある日、ゴードンが資料室で暇をつぶしている時、一冊の手書きの本を手に取った。

 

「なんだこれ、危険人物記録……?」

 

「あら、ゴードン。何を読んでいるの?」

 

「あ、ユキノか、久しぶりだな。この危険人物記録って何か知ってるか?」

 

「ええ、一応は知っているわ。一言で言えば、ギルドに関わりの深い問題児を纏めた本らしいわ」

 

「問題児……?」

 

「とはいっても私も詳しく知らないのよね、知っているのは人物の名前と何時いたのかくらいよ」

 

「ふうん……こういうのを見つけると気になるよな」

 

「ならザザさんに聞いてみる? あの人なら永く生きているし知っているかもしれないわ」

 

 

 

 

 

 ──―ザザの和室

 

「成程、それで某の所へ」

 

「気になったもので、良かったら教えてもらえませんか?」

 

「ふむ……それなら気になる名前を言えば某が答えようではないか」

 

「ありがとうございます、それじゃあ……このエゴという人の話を」

 

「奴か……ならばまずは奴との邂逅から話さなければならぬな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、あれはアル殿がギルドに入ってすぐの頃だったか……

 

 あの日は依頼があまり無く、皆暇を持て余していた。

 

「あ~~~~、依頼がこね~~~」

 

「何よもう、折角私が帰って来たのに皆ぐだぐだしちゃって」

 

「そう言ってやるなカエデ、マスターも他の皆も、この暑さに参っておるのだ」

 

「まあ確かに夏だからわかるけど……」

 

「むしろよくカエデは平気だな……熱くないのか?」

 

「実はこんなネックレスを貰ったのよ、首に下げてるだけで冷気が漂うから涼しいわよ」

 

 カエデは首に下げていた青いネックレスを見せびらかす。

 

「……なあレイン、うちに錬金術師とかいなかったっけ」

 

「いませんね、ついでに言うと細工師もいません」

 

「はぁ~人手不足は終わらないな……」

 

「もう、しょうがないな……道中に氷菓子を売ってるお店があったから私が買ってあげるよ」

 

 その言葉にぐでんぐでんになっている全員が起き上がった。

 

「待った待った! 流石にこの人数分は買えないよ、誰か一緒に来てくれない?」

 

「それなら私が行こう、私はまだ動けるからな」

 

 鎧を脱いでラフな格好になったユーフが立ち上がるとカエデとユーフは氷菓子を買いに外に言った。

 

「はぁ……つうかマジで暑いな、これだけ暑いと農家も不味いんじゃないか?」

 

「確かに……作物にも良くはなさそうだな」

 

「うわ、アルお前ちょっと灰になってるぞ……」

 

「ただいまー!」

 

「え、もう戻ってきた?」

 

 思ったよりも随分早く、カエデが帰ってきたことに多くのメンバーが驚いていた。

 

「あれ? お前ユーフはどうした?」

 

「なんか選ぶのに夢中になってたから先に戻ってきちゃった、はい皆の分!」

 

「お、ありがとう。じゃあこの赤い色のアイスを……苺かな?」

 

 各々がカエデの買って来た氷菓子を手に取り一様に口に含んだ、そして次の瞬間……

 

「かっっっっっらっっ!!!!???」

 

「うげぇ!! にっが……!!」

 

「こ……これ……舌に異常に張り付いて……!!」

 

「くひひひひっ!!!」

 

 まるでいたずらが成功した子供の様な笑い声をあげて転げ回るカエデにギルドの全員が怒りと困惑が混じった表情をしていた。そして突然玄関が開いたかと思うと

 

「ただいまー、結構時間かかっちゃった!」

 

「やはり一度に人数分買うのは悪手だったな……ん? お前達、何故固まっているんだ?」

 

()()()()()()()()がユーフと共に戻ってきた。

 

「は……?」

 

「か、カエデ殿が二人?」

 

「え? 二人って何……うぇ!? 私がいるぅ!?」

 

「あっ、バレちゃった?」

 

 転げ回っていたカエデ? は突然ぐにゃりと粘度の様に姿を変形させると中世的な顔をしたマジシャンの様な恰好をした少年……? 少女……? が立っていた。

 

「なっ……だ、誰だお前!」

 

「ぼく? ぼくはねぇ……エゴ! ドッペルゲンガーのエゴって呼んでいいよ? くひひっ!」

 

 変わった笑い声を出すエゴはまたぐにゃりと変形すると今度はユーフと瓜二つの姿になる。

 

「う、うわっ! 今度は私に!」

 

「ぼくはねぇ? なんにでもなれるんだ! 君にも……君にもね!」

 

 更に変形すると今度は蓮司の姿になった。

 

「うげっ……自分の顔が真似られるのって凄い嫌だな……じゃない、なんでそんな事してるんだよ」

 

「ぼくねー、誰かをいたずらするのが大好きなんだよね! ここに来たのはぐーぜん! 皆すっごい強そうだから遊びに来たんだー!」

 

「エゴとやら、人を欺き喜ぶとは感心せんな」

 

 ザザが前に出ると魔力の刀を創り出し構える。

 

「斬りはせん、痛い目を見たくなければ引くがいい」

 

「へー? 君強そうだね? じゃあ僕も……」

 

 ザザの姿に変形したエゴは動きを真似するように刀を創り出し、本物のザザに斬りかかった。

 

「なんとっ!?」

 

 ザザは刀を受け止め反撃に出るが奇妙な事にエゴもザザの斬撃を完璧に防いでいた。

 

「マジかよ、まさか力まで真似出来るってのか?」

 

「マスター! 私が援護しよう!」

 

 アルが水の入ったボトルを割るとそこから水が鋭利な武器となりエゴに襲い掛かる。

 

「お、おい! 殺すのは……!」

 

「くひひっ、それじゃ死なないよ?」

 

 エゴはザザと切り結びながらも最小限の動きでアルから繰り出される全ての水の刃を躱していた。

 

「くっ、これを躱すか!?」

 

「くひひ! それっ!」

 

「ぬおっ!?」

 

 突然エゴがザザを足払いで崩したかと思うとアルの姿に変形し、水の制御権を奪うと本物のアルを掠める様に水の刃を飛ばした。

 

「私の魔術を奪った……!? 一体何なんだ貴様は……」

 

「あ……アル! 服が!!」

 

「……む?」

 

 アルが反射的に取っていた防御姿勢を直すと、いつの間に切り裂かれていたのかはらりとアルの服が全て無残な姿にされ、下着以外何も着ていない状態にされてしまった。

 

「み……見るなっ! マスター! せめて、せめてアゼリアには見せないでくれ!!」

 

 一瞬で霧に変化するという初めて吸血鬼らしい力を見せたアルはエゴにまんまとやられたのだった。

 

「くひひひひっ!! あー面白い! やっぱりここに来たのは正解だったね! それじゃ皆、まったねー!」

 

 ひとしきり笑ったエゴは元のマジシャンの様な姿になるとギルドの外へ出て行ってしまった、後に残ったのはすっかり溶けたアイスと嵐が訪れたかのような困惑したギルドメンバーたちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──―それからも度々エゴは現れては某達に悪戯を仕掛けて来てな……どうにも奴も長寿な様で未だに古参のギルドメンバー達は困っているのだ」

 

「……あ!! もしかしてこの前俺が落とし穴に落ちたのってそのエゴのせいか!? 落とし穴にすっげぇぬるぬるする液体入ってて最悪だったんだが!」

 

「私は会いたくないわね……」

 

「まあ、奴も頻繁に顔を出すわけでは無い。喉も乾いたであろう、今茶でも出そうか」

 

「ありがとうございます」

 

 ザザは戸棚からお茶を取り出すと二人に振舞い、二人は何の迷いも無く飲んだ。

 

 次の瞬間()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

「待て! それを飲んではいかん!」

 

「くひひ……」

 

「うっ!? にっ苦い!?」

 

「ぶへぁっ!!? これ麵つゆじゃねぇか!?」

 

 吐き出す二人に目の前のザザは笑い出し、ぐにゃりと変形するとマジシャンの様な姿をしたエゴになった。

 

「くひひひひっ! 引っかかったねー! 二人とも!」

 

「あ、貴方がエゴ!?」

 

「嘘だろ全然気付けなかったぞ……!!」

 

「某の姿を真似おって、今度は何をしに来た!」

 

「そんな怒らないでよザザ~、マスターをからかいに来たついでなんだから大目に見てよー」

 

「待て!」

 

 ふわりと浮き上がるとエゴは和室から出て逃げ出しそれを追いかけるザザ、後に残された二人は口の中に残る後味に苦い顔をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────時は遡り、とある日

 

 今日もあさかわの人々をからかったエゴは満足そうに街を歩いていた。

 

「あー楽しかった、明日はマスターが寝てる隙に背中に氷を突っ込もう」

 

 すると複数人の男達がエゴを取り囲み、不敵な笑みを浮かべたまま接触してきた。

 

「お前がエゴか?」

 

「うん、そうだよ? 君達は誰だい?」

 

「俺達ぁちょいと悪戯好きな集まりでよ、お前さんが悪戯好きって聞いて俺達の悪戯を手伝って欲しいんだよ」

 

 エゴはうーんと首を捻るがにこりと屈託ない笑顔を見せると肯定した。

 

「うん! いいよ!」

 

「そうか、それじゃあ早速だが手伝ってもらうぜ」

 

 

 

 

 

 ────喫茶店、アゼリアとユーフは共にお茶を嗜んでいた。

 

「はぁ……酷い目に遭ったな……」

 

「た、大変でしたね。ユーフさん」

 

「あぁ、まあ慣れてしまったがな……アゼリアは特に何もされていないな?」

 

「はい、私は食べていた果物にレモン汁をかけられたくらいですし……」

 

「まあまあ悪質な事をされたな……それはそうとよくこんな店を知っていたな、何度も通った道だがこんなに旨い菓子があるとは知らなかったぞ」

 

「実はお兄さまと初めて来たお店なんです、思い出もありますが味もお気に入りなんですよ」

 

 すると、ウェイターが二人の目の前に一杯の紅茶を置いた。

 

「あの、私達は頼んでいませんが……」

 

「こちらサービスです、少々店内にトラブルがありまして。現在店内にいる皆さんにサービスをしているんですよ」

 

「そうか、それなら遠慮なく頂こう」

 

 二人は紅茶をゆっくりと味わい、しばらくした後アゼリアがくあと欠伸をした。

 

「あら、すみませんユーフさん……何だか眠くなってきてしまいました……」

 

「そうだな……日に当たって私も眠くなってきたな……」

 

 そして二人がすやすやと机に伏してしまった時、男たちが現れ二人を連れ出し馬車まで運んでしまった。その手際の良さに気づいたものは誰もおらず、あれよあれよという間に馬車は街から離れてしまった。

 

 

 

 ──―馬車の中

 

「はっはっは!! こんな簡単に行くとはな!!」

 

「やるじゃねえかエゴ! あの店員の演技完璧だったぜ!」

 

「まあね、ぼくドッペルゲンガーだから! それで次はどんな悪戯をするの? 二人の顔に落書きでもするの?」

 

「ああ? このまま奴隷商に売り飛ばすんだよ、あさかわの奴らは顔はいいからな。高くつくぜ!」

 

「売る?」

 

「ああ、あの色白のガキはずっと狙っててな、お前のお陰で簡単に攫えたぜ!!」

 

 男達は指名手配されている山賊だった。そして彼らは前々からあさかわの女性陣を狙った誘拐を企んでいた、彼女たちは能力も高く顔も良い事は有名だったのだ。しかし強い彼女たちを誘拐する手段をどうするか四苦八苦している時、エゴの噂を聞いた。

 

 そして馴染みの店員に変形したエゴが睡眠薬の入った紅茶を渡し眠らせた隙に攫うという簡単な作戦は驚くほど上手くいったのだった。

 

「お手柄だぜエゴ! お前がいりゃ国の宝さえ盗むのは容易だな!」

 

「いっそ本当にやっちまうか? 先にこいつらを売っぱらってからな!」

 

「……つまんないね、君達」

 

 次の瞬間、馬車を運転していた男の胸に小さな穴が空き、男が一瞬で絶命していた。

 

 御者を失った馬は暴れ出し、馬車を大きく倒し男達は馬車から放り出されてしまった。

 

「な、何しやがる!?」

 

「つまんないんだよねー、君達についていっても楽しくなさそうだし大体悪戯じゃないし」

 

「はあ!? 悪戯だろ! ちょいと女を攫って知り合いに売るだけだ! この程度なら犯罪じゃあねえし悪戯で済むだろ!!」

 

「はいはい、それじゃあね」

 

 極めて冷たくあしらうとエゴは両手をぱちぱち、と叩く。その瞬間、男たちの胸に小さな穴が空いた。

 

「あ……?何が……」

 

深い森の中で、彼らは何が起きたか気づく間もなく山賊たちはこの世界から命を捨て去った。

 

「今日はもう飽きちゃった、この子たちは戻しておこうっと」

 

 

 

 

 

 ────ユーフは喫茶店で目を覚ますと口からだらしなく涎を垂らしてしまっていたことに気づき、恥ずかしそうに口を拭った。

 

「わ、私とした事が…………いつの間にか夕方になってしまったな、アゼリア、そろそろ帰ろう」

 

「ふえ……? あ、私眠っちゃっていたんですね……」

 

「そうみたいだな、思わず私も眠っていたよ」

 

 外に出た二人は伸びをすると綺麗に映る夕日を少しだけ眺めていた。

 

「次はお兄さまと行きたいですね」

 

「私はヴァインでも呼ぶとするかな、あいつなら喜びそうだ」

 

 二人は手を繋ぐと仲良く帰路に着きました……っと」

 

 エゴはふわりと屋根から二人を見送ると欠伸をした。

 

「無駄な時間を過ごしちゃった、まあいいか……おや?」

 

 欠伸で出た涙を拭うとふと遠くに蓮司の姿が見えた。

 

「お……! マスターみーっけ、くひひっ」

 

 エゴは嬉しそうな表情をすると蓮司の方に向かって飛び出すのだった。




エゴは転生者ではありません、しかしエゴがアルやザザに変化した際転生者を見分ける魔眼を持つ蓮司は変化したエゴを見分ける事が出来ませんでした。
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