一日一回ぼっちに可愛いって言う虹夏ちゃん   作:サンダーソード

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ぼっちちゃんの誕生日ですね。ぼっち・ざ・ろっく! はじめました。


ぼっちちゃんは可愛いんだよ!

 それは、お休みの朝。お姉ちゃんと一緒に晩ご飯食べながら見ていたテレビ番組がきっかけだった。

 

「……かように、子供を認めてあげること、直裁に言えば褒めること。これが子供の自己肯定感に与える影響は極めて大きなものとなっています。人間は社会的な動物であり、自己の認識を形作る上で他者からの評価は切って離せるものではないのです。……誤解を恐れずに言えば、その欲求を完全に捨て去る方が人間という種としては不自然で……」

 

 今晩の煮物の出来に満足しつつ、お姉ちゃんとの話の途切れにふと視線を向けた先にいたのは、難しい話をする賢そうなおじさん。

 断片的にとはいえ、理解できる程度にはあたしの頭の出来は悪くない。話が横道に逸れていくおじさんの代わりに、自然とぼっちちゃんが頭のおおよそを占めてくる。それと一緒に、喜多ちゃんと一緒にぼっちちゃんちに遊びに行ったときの、ご家族のことも。

 ……子供を認めてあげること。あのパパさんママさん、ぼっちちゃんのことすっごい溺愛してたよねぇ。いや盛り塩とかお札とかはマジで何事かって思ったけど。友達代行サービスを疑われたときは思わず突っ込んだけど。でもほんと、ぼっちちゃんが好きで好きでたまらないって感じでいっぱいだった。あれがぼっちちゃんに伝わってないとは思えないし。

 

「むー……」

 

「なんだ、ぼっちちゃんのことか?」

 

「へっ?」

 

 思わず目を見張る。なんか変な声も出てた気がする。恥ずかしい。思考の迷宮から戻ってくると、お姉ちゃんの視線もテレビを向いてた。……よくそれだけで勘付けたね。

 

「はは、だって他に該当者いねーだろ。郁代は陽キャの極みみたいな奴だし、リョウは……リョウだし」

 

「お姉ちゃん、それは……」

 

 いや分かるけどさ。分かっちゃうけどさ。そんでもあたし友達いっぱいいる……いや友達の顔全部全員思い返してもぼっちちゃんは言い繕いようがないくらいオンリーワンだったね……。

 

「自己肯定感の固まりみてーなもんだろあいつ。ぼっちちゃんに1/10でも渡せれば大分生きやすくなるだろうになあ。まあ人の性格を数みたいに足して割ることは出来ねーけど」

 

 お姉ちゃんはコーヒーにミルクを混ぜながら、そんなことを言う。

 

「そだねぇ……。でも、ぼっちちゃんはぼっちちゃんだから」

 

 なんだろ。ぼっちちゃんなら足して割ることももしかしたら出来そうとかそういう意味じゃなくって。……ぼっちちゃんが自分で変わっていくならともかく、そういう風に外から足したり引いたりするのが……なんていうか、さ。

 首をふるっとさせて、左手をお味噌汁のお椀に伸ばす。……ん、味噌汁はお手軽にできておいしいからいいよね。

 

「ほふ……。ぼっちちゃんの家族、とっても仲いいし。じここーてーかん? なんであんなにまるっとなくしちゃってるんだろうね」

 

「さあなあ……。奇行が原因の一つなのかもしれねーけど、鶏が先か、卵が先か」

 

「でもさでもさ、奇行で忘れがちだけど、ぼっちちゃんめっちゃ可愛いんだよ?」

 

 奇行で忘れがちだけど。奇行で忘れがちだけど。あたしもぼっちちゃんちで制服に着替えてもらったとき改めて思い出したことだ。奇行で忘れがちだけど。

 あたしのナイショのギターヒーローだからギターが巧いのは当然としても……っていうかぼっちちゃんそっちの方は流石に自分でも理解してる節あるんだけど、特にソロ弾きなら……でも、可愛さの方は本気で無自覚っぽいんだよね。

 アー写撮るときのジャンプでパンツ映り込んじゃった事件、照れさせようとしたのにぼっちちゃんの反応が枯れすぎてて驚いたのを思い出す。……口の巧い悪い男にころっと騙されたりしない? なんか不安になってきた。斜め下の拒絶反応起こして切り抜けるかもだけど、それに期待するのはギャンブルみたいなものだ。

 

「んじゃ、それ言ってやれば?」

 

「ふぁっ?」

 

 皮肉っぽく笑うお姉ちゃんの言葉を聞いて、さっき以上の間の抜けた声と顔を晒す嵌めになったけどそんなことはどうでもいい。お味噌汁の器置いてて良かった。うっかりおっことしたら目も当てられない。

 

「……お姉ちゃん、天才?」

 

「え、お、おう……。正直思わぬ反応が返ってきて驚いてるんだが」

 

 そっかそっか確かにその通りだなんで思いつかなかったんだろやっぱりお姉ちゃんはすごい。ぼっちちゃんに自分の価値がちゃんとあるんだって、ぼっちちゃんがぼっちちゃんだからそれだけで大切なんだって、誰かが伝えてあげればいいんだ。

 家族の評価は親の欲目としてぼっちちゃんの中で処理されてるかもだけど、あたしならそんなことにはならないハズ。とするとどんな風に言ってあげるのがいいかなぁ。当たり前のことみたいにさらっと言うか、それともちゃんと目を見て伝えるか。いやぼっちちゃんだと目を合わせるのも難しいかな? 前髪上げただけで風化する子だし。言うタイミングとかもどうしよっかなぁ。出会い頭に? それとも別れ際? お話の途中ってのもアリかも。

 

「虹夏? 虹夏ー? 飯冷めるぞ虹夏-? ……ダメだこりゃ」

 

 二人っきりでか、みんなの前でか。ふふふ、迷うなぁ。ぼっちちゃんどんな反応するだろ? そういえば次のバイトは……うあ、ちょっと遠いな。こういうとき学校違うと困るよね。うーん……うん。思い立ったが吉日だ、今日はあたしから会いに行こう! そうと決まれば……。

 

 

 

 

 この後諸々まとまってから意気揚々と飲んだお味噌汁は、見事なまでに冷めていた。

 

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