一日一回ぼっちに可愛いって言う虹夏ちゃん   作:サンダーソード

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褒められ慣れることの重要性

 時は朝。家族が寛ぐべき居間で、今にも叫び出したくなる昂揚を抑えるために、愛用のギターを魂の赴くままに掻き鳴らす。

 

「ふふ……ふへへ……」

 

 それでも漏れる含み笑いを止める気も起こらない。今日の私は無敵だ。

 聞いてください。『遊びに来るあなたは寝起きドッキリじゃない』。

 

「はーじめ「おねーちゃんさきごはんたべよ?」あ、はい……」

 

 5歳児の妹に諭されてそっとギターを置く。ド正論過ぎたので私には逆らえない。なんかジミヘンにも笑われてる気がする。

 だがしかししかし。今日の私は無敵だ。なんと虹夏ちゃんがいきなり遊びに来ると。遊びに来ると! 遊びに! くると!! いうのだ!!!

 千切れるまでほっぺつねってもちゃんと痛かったし、何か別の意図があるのかと行間を読んだけど尽く間違えて呆れられたりしてその節はご迷惑をおかけしたり、つまりこの世は現実で、確かに虹夏ちゃんがうちに遊びに来ると言うことなのだ。片道2時間もかけて!

 前に虹夏ちゃんが喜多ちゃんと一緒に来たときは、横断幕とか花輪とか風船とかミラーボールとかクラッカーとかツイスターとか色々用意してたものの、あれは本来は遊びじゃなくってライブTのデザイン相談が目的だった。二人とも優しいから一緒に遊び倒してくれたけど。

 でも今回は、最初っから最後まで純度100%遊ぶことが目的のお誘いをもらったのだ! この私が! こんな奇跡この世にあるんだね。ああ、イマジナリーフレンドの祝福が聞こえる……。おめでとう……おめでとうひとり……。

 棚からぼた餅マシンガンが口の中めがけて連射された現状、この降って湧いた奇跡を余すことなく楽しみたい。あわよくば、虹夏ちゃんにも楽しいって思ってもらってまた誘ってもらえたらすごく嬉しいな……。

 こういう奇跡が起こるんなら、夏休みみたいに毎日予定は開けておくべき……いや、元から入ってないんだけど。でも、気持ちの上でも開けておくべきかもしれない。

 あああでもどどどうしよう、逆に考えれば、ここで失敗してっしまったら二度と誘われないという致命傷を負ってしまうのでは?

 

 ……その日の終わり、気を遣ったような笑顔でバイバイする虹夏ちゃん。

 

 翌日から予定を開けて、虹夏ちゃんから誘われるのを待つ私。

 

 そこで喜多さんと話しているのを偶然聞いてしまい、虹夏ちゃんが困ったような笑顔で一言。

 

「あーうん、ぼっちちゃんとはもういいかなー……」

 

「ひぎゃああああああああああああ!!」

 

 絶対に嫌だ、辛すぎる! ごりごりごりぷつって心が磨り潰されて折れる音が聞こえる! この音歌詞に使えるんじゃないかなってくらいはっきり聞こえる……。う、うおお……交通費くらい包んで渡すべきなのかな。こ、この前のときのを参考にしてツイスターと大富豪と青春胸キュン映画……? でもそんな忌まわしいホラームービーなんてうちにはないし……。経験がなさすぎてどうすればいいのか分かんないし何が正解かも分からない……。

 

「ごはんさめちゃうよ?」

「ひとりちゃん、お休みなのに朝食から百面相は珍しいわねえ」

「今日のひとりは表情の振れ幅が大きいねえ。何かあったのかい?」

「しらなーい」

 

 家族の会話も耳に入らないまま、私は思考の渦に呑まれていった。……あ、お味噌汁冷めてる。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

「ぼっちちゃーん! 遊びに来たよー!」

「か、鍵は開いてますっ! ど、どうぞ……」

 

 呼び鈴と共に、扉の外から虹夏ちゃんの声が聞こえる。私は緊張に包まれたまま彼女を出迎える。

 

「おじゃましまー……うおっ」

 

 頭上を虹夏ちゃんの驚きの声が通り抜ける。今の私は古式ゆかしい三和土の上での土下座スタイルだ。

 あの後、正気に戻った私は冷めた朝食を掻き込み、部屋に戻ってどうするかの対策を考えたんだけど、何処で消えたのかいつの間にか残り時間が半分になっていた。

 そうなるともう焦りが頭の真ん中に居座ってしまって、何も思いつかず何も思いつかないまま時間が消し飛ぶから更に焦って、負の無限ループで私は死んだ。

 

「お……おじひを……」

「ど、どーしたぼっちちゃん! 何があった! 玄関で土下座って汚れちゃうよ、ほら顔上げて!」

 

 虹夏ちゃんがぐにゃぐにゃに融けた私の肩らしき部位を支えて、起こしてくれる。距離が近くて、胸元に飾られた大きな赤リボンがほっぺたあたりに触れる。くすぐったい。

 

「私はせっかく遊びに来てくれた虹夏ちゃんを楽しませる事もできないミドリムシです……」

「だ、大丈夫だよ! ぼっちちゃんと一緒にいるだけであたしは楽しいから! ほら自信持って!」

「えっ優しい……」

 

 トゥクン……と胸が高鳴って私は人の形を取り戻す。虹夏ちゃんの優しさが身に沁みて好きになる……。

 

「あたしがいきなり押し掛けちゃったんだし、何して遊ぶかは一緒に考えよ? さ、立てる?」

「あっ、は、はい……」

 

 虹夏ちゃんに支えられて、私は立ち上がる。ちょうど、真正面から向き合うような姿勢になった。……虹夏ちゃんってやっぱりいい匂いするよなぁ。あるべき女子高生の香り……。

 

「あっ、そうだ、ちょうどいい」

 

 香りに気を取られていると、虹夏ちゃんは何かを思いつい……えっ、がしっと両肩に手を置かれた。なんかすごく虹夏ちゃんの目がキラキラしてる。なんかぴょこんと飛び出た髪の毛もぐるぐる回ってるように見える。

 

「ぼっちちゃん!」

「えっあっはいっ」

 

 熱量を感じる虹夏ちゃんの勢いに押されて、腰が引けたまま返事をする。常態の猫背と相俟って、虹夏ちゃんと視線の高さが揃う。

 

「ぼっちちゃんは、かわいい!!」

 

「       えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後の記憶は途切れている。

 願わくば……願わくば、私の知らない私が虹夏ちゃんに失礼を働いていませんように……ひぃ……。

 

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