一日一回ぼっちに可愛いって言う虹夏ちゃん   作:サンダーソード

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なお一切のいかがわしさは存在しないものとする。



みんなの前でそんなこと……!

 虹夏ちゃんはやると言ったらやる人なので、私はダシガラになりました。でも虹夏ちゃんバイト終わりにいっぱい褒めてくれたの嬉しかったな……。それに加えて一晩経ったこととお父さんの特製ハンバーグのおかげでどうにか快復はできた。けど、やっぱり接客のバイトは一等辛い。床掃除とかは慣れてるんだけどな……。一人でできるし、自分でぶちまけたゲロを片付けることも……あっこれ考えると余計に沈む奴だ。楽しいことを考えようひとりってイマジナリーフレンドも言ってる。

 ……よし。今日は学校終わったらスターリーで合わせの練習の日だ。すごく楽しみ。早く学校終わんないかなぁ。

 私の腕じゃまだリズム隊に合わせて弾くのは難しいけど、ひとりでひたすら練習してるのとは違う楽しさがある。みんなと一緒にやってるんだって実感も嬉しい。日々の楽しみがあるってことは幸いだ。

 ……あれ、なんかスマホに通知が来てる。……喜多さんからだ。帰りスターリー一緒に行こうね、だと……?

 私のようなゴミクズド陰キャが喜多さんと一緒に下校するなどとおこがましい。なんであんなのが? と言う周囲の視線の圧力で物理的にへこまされてしまう。丁寧なお断りを……ああでもなんて言って断ろう……。

 ……喜多さん、かぁ。ううん、喜多さんに思いを巡らせたことで、昨日一昨日と虹夏ちゃんに言われた言葉が頭をぐるんぐるん回る。どう考えてもその形容がに合うのは喜多さんや虹夏ちゃん自身なんだよなぁ、すごくいい匂いするし。100人に聞いても101人がそう答える。他人にアンケートとか無理だから脳内にいるぼっち100人の解答になるけど。

 虹夏ちゃん、なんであんなこと……って言うか待てよ? もしかして今日も同じことを、なんて……。いやいや、そんなまさか。今日はみんなで練習するからつまりみんなの前で、いやこっそり二人っきりになって言う可能性も……そもそもなんでまた言ってもらえる前提なんだ私。気持ち悪い。

 ……喜多さんへのお断りの文言も思いつかない。せめて駅で待ち合わせに替えてもらおう……。どうして私ってこうなんだろうなぁ。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「おまたせでーす!」

「あっ、お、遅れましたすみません……」

「待ってた」

「んや、時間通りだよ。あたしらが早く着いただけだからね」

 

 結局喜多さんへの待ち合わせ変更願いもあえなく失敗して、学校からずっと一緒だった。私は弱い……!

 スターリーに近づくにつれ、今日の虹夏ちゃんがどう出るのか気になってしまって気がそぞろだったかもしれない。もしかしたら喜多さんにご不快を与えてたりしないだろうか……。ど、どうしよう。土下座で足りるかな。喜多さんをこっそり盗み見ると、目が合ってにこやかに手を振られた。そっと目を逸らす。機嫌良さそうなことに安堵するとともに、やっぱり虹夏ちゃんが褒めるべきは喜多さんだよねって思う。

 虹夏ちゃんをこっそり盗み見ると、やっぱり目が合ってにっと微笑まれる。虹夏ちゃん鏡見て。私と違っていつでもかわいいが見られるんだから。きょ、今日は流石にみんなの前だしないかな? ないよね? にちゃっと曖昧に笑い返す。

 

「伊地知先輩だけいいなぁ……」

「郁代?」

「あっいえなんでもないですリョウ先輩! さあ今日も練習がんばりま」

「うんうん、ぼっちちゃん今日もかわいいね。笑顔はまだちょっと固いけど」

「ぴぇ」

「伊地知先輩!?」

「おぉ……!?」

 

 油断してたところに刺さってなんか変な声でた。本当にみんなの前でそんなこと……! とはいえ、今日一日ぐるぐると思い悩み続けてただけあって『もしかしたら言われるかも』な覚悟はゆっくりと時間をかけて固まっていたらしい。風化することも四散することもなく虹夏ちゃんの言葉を受け止める。でも身体がぷるぷるしてるし多分顔とか赤くなってるぅ……。

 

「えっ伊地知先輩ずるい! どういうことですか!?」

「どういうことって、別に……。かわいいよね?」

「うむ、ちょっと踏み外せば金に替えられる可愛さ。ハイレベル」

「リョウ、ぼっちちゃん売ったら戦争だからね?」

「虹夏、私は?」

「私は、って」

「ぼっちみたいに言うことないの?」

「リョウにはいらなくない……?」

 

 リョウさんの混ぜっ返しで横道に逸れそうになった話題を、喜多さんがずずいと虹夏ちゃんに迫って強引に引き戻す。

 

「今日はひとりちゃんを褒めていい日なんですか!?」

「いや別に褒めちゃいけない日とかなくない……?」

「おかわりもいいぞ」

「あ、でも加減は」

 

 何か言いかけた虹夏ちゃんを光速でぶっちぎって私の目の前に瞬間移動してくる喜多さん。笑顔が、キターンとした笑顔が眩しいっ……! なんなら気付かない間に手も握られてて、パーソナルスペースとか一瞬で塗り潰されてる。

 

「あっあっあっ」

「ひとりちゃんは可愛いのよ! 甘い系の服ならなんでも着こなせる柔らかさと素材の良さ、なのに常に自信なさげな態度が危うくて目を離せないし地雷メイクとか絶対似合う! それでいてキリッとした顔でギター鳴らしてる時のギャップと来たらときたらもう反則も反則で……」

「おぶっ」

「ひとりちゃんっ!?」

「おお、ぼっち液状化からの爆散」

「加減しろって言ったでしょ!? 野に咲く花に水をあげるのに消防車の放水使ったらそりゃ根っから吹き飛ばしちゃうよ!!」

「ごめんなさい、ひとりちゃーん!!」

 

 もう、なにも、わからない……。

 そういえばなんだか今日の練習時間はいつもよりずっと短かったような気がするなぁ……。楽しい時間はあっという間だからかな。日々の楽しみはすぐに終わっちゃうね。悲しい。

 

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