一日一回ぼっちに可愛いって言う虹夏ちゃん   作:サンダーソード

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なおレベルアップのためには大量の経験値を必要とするものとする。


自撮りLv1

「よしっ、うまくいった……お、可愛い笑顔だ、ぼっちちゃん。」

 セッションがうまくいったときに、つい浮かべた笑顔だったり。

「ぼっちちゃん、声も可愛いんだなぁ」

 お互いの予定が合わなくて会えないときに、電話をわざわざかけてきてくれたり。

 ろいんっ、と結束バンドを組んでから、自己主張するようになったスマホが鳴る。

『ぼっちちゃん、よかったら自撮り送ってくれない?』

 ……こうやって、何かを求める……ううん、ぎ、欺瞞だ……。きっと虹夏ちゃんは、私に、か、か、かわ……おぐぅ、やっぱり自分とその単語をイコールで結びつけようとすると吐き気がしてくる……に、虹夏ちゃんは会える会えない関わらず、毎日私に……わ、私を、か、わ、うぅ、ほ、褒めてくれるために、頑張ってくれてる。

 な、なんでここまで……と言う思考をろいんっという呼び出し音がぶった切る。

『ひとりちゃんの自撮り』

『ひとりちゃんの自撮りですか』

『ひとりちゃんが自撮りするんですか』

『私も』

『私も見たいです』

 ろいんろいんろいんろいんろいんっ! と連続した通知が冷静さを欠いたまま流れてくる。大量の絵文字と共に。き、喜多さんパワーがすごい……。あ、圧が……。

 

「ぼっち。自撮りするの?」

「あっえっと……」

 

 また一つ鳴ったろいん、ではなく隣を見る。

 スマホを、おそらく私と同じように結束バンドのロイングループを見ていたリョウさんが、視線をこっちに向ける。

 ここは真新しい軽食屋。

 並んで座るは一面硝子張りの窓際席。……おしゃれな言い方だとなんていうんだろこういう席。

 新曲の歌詞を見てもらうためにリョウさんと待ち合わせの約束をして、ここに呼び出されたのだ。

 ……指定場所を見た時点でもう色々と諦めた。2人分の食費には十分な余裕がお財布に入ってることを確認してからここに来てる。いつかは返してもらうけど。

 リョウさんはなんか色々おしゃれな感じの、ご飯の上に半熟の卵の固まり? っぽいのが乗ってるのを、切って開いてとろっとした中身をあふれさせて、その上から焦げ茶色の液体をかけて食べてる。……なんなんだろあれ。

 私はハンバーグセットを頼んだ。出てきたハンバーグは思ったよりちっちゃかったけど、なんか……なんか、こう……お母さんの作るハンバーグより色んな匂いとか味とかしてる気がする。あとお肉もふわっとしてる。

 

「しないの? 自撮り」

「あっわっ、私なんかの自撮りでお目汚ししても……」

「なんで? 欲しいって言ってるのは虹夏と郁代だよ?」

「うぐっ」

 

 リョウさんはスマホをふりふりと掲げて正論を突き刺してくる。そ、それはそうなんですがぁ……!

 

「安心しろぼっち、ぼっちは金になる見た目してるぞ。ひんむいてえろい服着せて動画投稿すればがっぽがっぽだ」

「むぇっ!?」

 

 文化祭の時に言われた地獄の提案が脳裏によみがえる。むりむりむりむりどう考えても無理ぃぃぃ……!

 

「まあやるかどうかはともかく」

「むむむむむむむむむ」

「こないだの鉄棒にぶら下がってたのだって、いい笑顔してたじゃん。郁代も狂ってたし」

「むぇっ!?」

 

 こないだの公園で策士虹夏ちゃんが撮った写真は、無事ロイングループにあげられた。ひっくり返って鉄棒に引っかかっている、無遠慮な笑顔の私。

 喜多さんは絨毯爆撃みたいにべた褒めしてくれた。……陽キャ世界って自撮りを挙げられたらあんなに褒めちぎらないと村八分にされるのかって思ったらゾッとしたけど。

 リョウさんは『楽しそうじゃん、よかったね』ってだけロインしてくれた。楽しかったのは確かにその通りだったけど、リョウさんもいい笑顔だって思ってたんだ……。リョウさんこういうお世辞とか言わなそうだし。

 ちなみに虹夏ちゃんは約束通り、翌日のバイト前に手作りの賞状を授与してくれた。今は私の秘密基地に張ってある宝物だ。ふたりに写真付きで自慢したら「ふたりもできるよー」の一言で姉の威厳は撃沈したが。あっでもお父さんとお母さんはいっぱい褒めてくれて、晩ご飯がエビフライになったの嬉しかったな……。

 

「ごちそうさまでした」

「あっ」

 

 いつの間にかリョウさんが隣で食べ終わっていた。ししししまった、私が待たせるなんて許されるはずもない! 急がなきゃ!

 

「ぼっち。ゆっくり食べな。私もじっくり歌詞見てるからさ」

「あっ、は、はいっ。ありがとうございます……」

 

 慌ててスプーンを持ったところでストップがかかる。さく、とそのままハンバーグに落としてすくい、口に運ぶ。……おいしい。

 無表情でノートを凝視するリョウさんをちらちらと横目に見ながら、もそもそとハンバーグランチを食べ進める。

 やがて私が最後のひとかけを口に収めると、ちょうどリョウさんも考えがまとまったのかこっちを向く。

 

「うん……韻の踏み方とか尺の長さで調整したい部分は幾つかあるけど、概ねいいんじゃないかな」

「あっ……えへ、うぇへへぇへへっへ……」

 

 あぁ、リョウさんがちょっと口元ほころばせてるふへへ……。いっ一発でリョウさんのお眼鏡に適うなんて、もしかして私って作詞の天才だったりしちゃったりなんかしたりしてぇ……えへぇ……。

 

「まっまぁ? こっこのくらい私にかかればおちゃのこさいさいってやつですよねぇ? ほら私作詞大臣! ですからぁ」

「よーしよしよくやったぼっち。欲しいか、角砂糖欲しいか」

 

 あぁー私の承認欲求モンスターがフラフープ回しながら踊ってるぅ。くすぐられる下顎がこしょばゆい。でもその角砂糖ってテーブルに置いてるやつですよね?

 

「お、そうだぼっち。虹夏が言ってた自撮り送るか? やり方わかる?」

「あっあっおふでゅふぇへへ……。そっそうですね、虹夏ちゃんのお願いですし、撮ってしまいましょうか……」

 

 ギターヒーローの動画撮るときに録画機能は使い倒してるので、撮影方法くらいはよく知っている。実践は江ノ島以来だけど。

 伸ばした右手にスマホを掲げ、リョウさんと並んでピースサイン。

 

「ちっちちちちちチーズ……」

「チーズ……どのタイミングで撮ろうとしてたのかさっぱりだった」

「あっすみません……」

 

 さておき、リョウさんとのツーショットが撮れたので送る……送……うぁ、半目で引き攣った笑顔の寝癖頭が人差し指と中指をカメラに向かって突き出してる……。目潰しか? なんだこの撮られ慣れてなさの権化みたいなド陰キャ。私だ。しかもハンバーグのソース口元に付いてる……。子供かな? 拭って証拠隠滅……証拠写真に残ってるじゃん。

 それに比べてリョウさんはかっこいいなぁ……。無表情もサマになってるし、ちゃんとピースもできてる。

 撮り直……いやリョウさんに申し出るのも申し訳ないし、私の写真写り微妙に良くしたところで所詮私だしな……。送ってしまおう……。

 2秒で既読付いた……。あっ返信も。

 

『なんで二人で一緒にごはん食べてるんですかずるいです私とも行きましょうよ~! でも先輩最高にかっこいい! ひとりちゃんはもっと自撮りいっぱいやって慣れましょ! 今度一緒に可愛い服見に行』

 

 お、おふぅ……喜多さんの圧……。き、喜多さん入力早すぎない……? なんか最後の方に不吉な文言が見えたので咄嗟に視線を切ってしまった。いや目の錯覚だったはず……そのはず……そういうことに……。

 一分くらい間を置いてもう一通。虹夏ちゃんからだ。

 

『自撮りありがとー。いいね、二人でランチ行ってたんだ。ぼっちちゃん、今日も可愛いぞー。』

「はうっ」

 

 両手にスマホを握ったまま俯いてぷるぷると震えてる私。あんな、あんな写真でも虹夏ちゃんは何故か可愛いなどと言い続けてくれる。な、何故……。

 と、隣で動く気配。視線を向ければリョウさんだ。リョウさんはスマホを胸ポッケにしまい込み、高めにしつらえられている丸椅子から両脚揃えて飛び降りる。そうして出口に向かって歩き出し……

 

「それじゃ、浮かんできたフレーズ忘れる前にまとめたいし、帰るね。また……あ」

 

 一歩目で硬直。そのまま油の切れたブリキ人形みたいに振り返り、私に向けて合掌一礼。

 

「……ごめんなさい。次のお給料日に必ず返すので」

「…………はい」

 

 ……ああまあ、覚悟は、していたので。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

「あっ、それじゃあまた明日……はないから、明後日ですね。まっまた明後日……」

「うん」

 

 私の分まで支払いを済ませてくれたぼっちは控えめに手をふりふり、家路に就く。その背中を見送りつつ、開き癖の付いた歌詞ノートに視線を落とす。

 ぼっちの書いてきた歌詞。なんというか、なんと評すべきか……。

 

「……ちょっとだけ、前向きになってる?」

 

 最初の時みたいな、個性殺してる明らかに無理した感じじゃなくて。ぼっちの中を深く浚ってって、底の方まで掘り進めてようやく前向いてる部分が出てくる程度には僅かな兆しって感じだけど。

 パタンと殊更音を立ててノートを閉じる。ここ最近の虹夏が何をしたかったのかが、なんとなく理解できた気がした。

 

「まぁ、でも……」

 

 ぼっちはぼっち。周りが急にまとめて変わると窒息死するだろうし。郁代は虹夏に触発されてちょっかいかけまくるだろうし。……って言うか今もかけてそうだし。

 私くらいはそのままでいた方がよさそうかな、多分。その方が楽だし。うん。

 私もぼっちに背を向けて、そのまま家路に就くことにした。さしあたっては、この詩のために。

 

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