一日一回ぼっちに可愛いって言う虹夏ちゃん   作:サンダーソード

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棺桶状態だとパワーレベリングしようにも経験値は入らないんですよね。


ダンジョンアタック

『なんで二人で一緒にごはん食べてるんですかずるいです私とも行きましょうよ~! でも先輩最高にかっこいい! ひとりちゃんはもっと自撮りいっぱいやって慣れましょ! 今度一緒に可愛い服見に行こうね! 明日とか!』

 

 現実から目を逸らした代償は大きかった。目の錯覚は目の錯覚じゃなかったので、昨日のこのメッセージから喜多さんの中でどんどん話が進んでいってたようだ。ロインから発生する圧力も誰はばかることなく高まっていき、程なく私はへし折られた。

 どういうことかというとだ。

 

「あっひとりちゃん! こっちよこっちー!」

「ひうっ」

「おっ、やっと来たねぇ。あっはは、相変わらずジャージか-」

「大丈夫ですよ! 今日可愛い服を買うんだから! ね!」

 

 ……はい。こういうことです。ここは陰キャを殺す渋谷駅。陰鬱な気分のまま駅から出た私を目敏く喜多さんが見つけ、ぶんぶんと手を振ってきた。その隣にいるのは虹夏ちゃんだ。二人ともおめかししてて、なんかこう女子高生ーって感じする。いや私にはそのおめかしした服の詳細な名称なんて全然分かんないんだけどさ……。

 喜多さんからの期待のメッセージに押し切られ、みんなで服を買いに行くことになってしまった。あれに対抗できるようならコミュ障なんてやってない……。つまり臨時の腹痛で欠席したリョウさんはコミュ障なんかじゃないってことだよね……。私と違って。

 

「昨日もう眠れないくらい今日が楽しみだったの! 張り切って行きましょう!」

「気合い入ってるねぇ……。あたしも楽しみではあったけど、ちょっとは加減したげてね?」

「あっへへ……」

 

 はい。私も今日眠れませんでしたね。不安と緊張で。とっ、ともだ……う、うぅ……私たちは友達でいいのかな……。と、友達じゃないにしても仲がいい……って向こうも思ってくれてると嬉しい相手と一緒に遊びに行くことだけは喜びもあった。目的地と目的が別なら純粋に嬉しさだけで心を満たせたんだけど……いやないな。冷静に考えればどうせ私だ、どこで何したって私がやらかすんじゃないかって不安は常に切り離せないよね……。

 

「お店はもう決めてあるの。行きましょう、ひとりちゃん、伊地知先輩!」

「うひぇっ」

「はいはい、走らなくてもお店は逃げないよ」

「はぁーい」

 

 喜多さんが私と虹夏ちゃんの手を取って走り出す! 虹夏ちゃんが止めてくれなかったら芋ジャージで渋谷を引き回される女の動画がSNSにあげられてたところだ……。ありがとう虹夏ちゃん。

 今日の喜多さんは夏休み江ノ島行ったときみたいに陽キャパワー満タンだ。キターンとした笑顔がいつもより眩しいし、繋いだ手も体温高い気がする……。あっ溶ける……その笑顔向けられると溶ける……。喜多さんって太陽光発電とか出来るのかな……。

 喜多さんが虹夏ちゃんとおしゃべりをしてる間に、二人の影に隠れてこそっと周囲を見渡す。う、うおお……。おしゃれタウンだ……。休日だから余計になのかな。私という存在が場違い以外の何物でもなくて辛い。どうにか目立たないようにしたいが、私の手を引く喜多さんは歩道の真ん中を突き進める人なので、すみっこに引っ込むことも出来やしない。

 

「あー、どんな服がいいかなぁ。ひとりちゃん、何か希望とかない?」

「ひぇっ……あっあの、こんなおしゃれスポットで売られてるような服だって私なんかに着られたくないでしょうし、なんならバカには見えない服でも……」

「いいわけないでしょ何言ってるの!? ってかどっからそんな発想出てくるの!?」

「そっそうですね、皆様にお見苦しいものをお見せするわけにもですよね、すみません……」

「私、どんな服がいいかってお話してバカには見えない服なんて聞いたの生まれて初めてだわ……」

「あたしもだしそんな解答があるなんて想像もしなかったよ。人類史上初めてなんじゃない?」

「あっ私も別に脱ぎたいとか言うわけじゃなくてですね、その、私に着られるおしゃれ服の気持ちになったと言いますか……」

「おしゃれ服の気持ち!」

 

 虹夏ちゃんがツボに入ったのか、口に手を当てて思いっきり吹き出す。横で喜多さんも笑いを堪えながら肩震わせてた。……自分の言動を振り返って、私も私何言ってんだって思った。なんで自分から全裸とか希望してるの……?

 

「くふっ……ふふふっ……あっ、着いたわここよ!」

「うえぇ……でっかい、ですねぇ……」

「今日丸一日ひとりちゃんの着せ替えショーになっても大丈夫よ! 予定は空けてあるから!」

「待って待ちなって加減しろって言ってるだろおい。ぼっちちゃんの苦鳴を聞いてあげて。目も死んじゃってるから」

「おぇ……うぇ……ぐぇ……」

「え、えー……。じゃ、じゃあどうすればいいんですか?」

「そうだな……喜多ちゃん、ぼっちちゃんには厳選して三着まで! あたしも一着だけ選んでみるから。……ぼっちちゃん、これならどう? 大丈夫そう?」

「…………はっ、はい……。それなら、まだなんとか……おぇ……。あっでも、その……て、店員さんに気を遣われるのが辛すぎるので、えと……み、見るのは、お二人だけで……」

「? 店員さんが気を遣うって、どういうこと?」

「あーうん、ぼっちちゃんにしてみれば店員さんの褒め言葉は全部気遣いってことなんだろうね。そんなこt「そんなことないわよ! ひとりちゃん可愛いもの!」……うん、あたしもそう思うけど、まあぼっちちゃんがそう思ってるんだから、ぼっちちゃんのお着替えは今日はあたしら二人占めってことにしようか」

「あっ、そ、それでお願いします……」

 

 虹夏ちゃんが汲んでくれてよかった……。喜多さんにしてみれば、店員さんの褒め言葉イコール気遣いって発想がないんだろな……。う、羨ましい……。

 賽の河原の石積みみたいに脱いで着てを無限に繰り返す拷問じみた徒労から、四回という終わりを作ってもらえたのも助かった……。虹夏ちゃん、私が息しやすいように優しくしてくれるから、どんどん好きになっちゃう……。の、残りの時間は二人の服を選べばいいよね。私の服選ぶ時間の百倍有意義だろうし。

 ……さて。覚悟決めて服をみ、見て……見て、みようか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はっ」

 

 左右を見回す。あれ、服を選んでたんじゃ……。ここ、レストラン? って言うか目の前にじゅーじゅーと音を立てるハンバーグとライスが店員さんらしき人に配膳されて……その向こうには、椅子にちょこんと畏まった虹夏ちゃん?

 

「お、おはよーぼっちちゃん」

「あっ、ひとりちゃん起きたのね」

「えうっ!? あ、き、喜多さん……」

 

 虹夏ちゃんはひらひらと手を振り、それに気を取られてた私は、隣からの声に座ったままちょっと跳ねる。視線を向ければ私と同じソファーに座った喜多さんがこちらに身を乗り出してきていた。あれ、どんな状況?

 

「ま、ちょうど来たんだし、食べながら話そっか。ぼっちちゃん、どこまで覚えてる?」

「え、あれ、あのダンジョンみたいな大きな服屋さんでさあ服を見てみようって……」

「最初も最初!?」

「思ってたより重傷だったね……。喜多ちゃんが厳選に厳選を重ねて服を選んでる間もちょっとずつ溶けてってたなぁとは思ってたけど」

 

 周りを見た感じ、ハンバーグの専門店なのかな。二人とも私とは違うハンバーグみたいだし、他のお客さんも殆どがハンバーグのようだし。……あっでもちょっと不躾だったかな人が食べてるの見るの。

 ともあれ、冷めないうちにとまずはいただきます。そのままハンバーグにスプーンを落とす。さくっとキレのいい感触が手に返ってきて心地いい。おいしそうな匂いだぁ……。ギザギザのちっちゃい銀紙が鉄板のすみっこにちょこんと置いてて、その中にどうやらソースが入っているらしかった。虹夏ちゃんがハンバーグ付けて食べてたからきっとそう。真似するみたいに付けて食べてみる。……ふわぁ、おいしい……。

 ……二日連続で、子供だけでハンバーグを外食。な、なんかドキドキする。ちょっと悪いことしてるみたいで……。い、いいのかな? こんなことしちゃっても。

 

「なんとか私の一着目選んだときもうひとりちゃんがぷるぷるしてたのはそういうわけだったのね……。で、でもちゃんとひとりちゃんの着替え写真は撮っておいたのよ? ほら」

 

 と言って、喜多さんは隣からスマホを取り出して画面を向けてくれる。……うぐぉう、あんまり自分の恥は見たくない……。

 

「あ、そ、その……喜多さん、ハンバーグ冷めちゃい……ますよ?」

「あっそうね、ありがとうひとりちゃん」

「まあでも、可愛い服着たぼっちちゃんはやっぱり可愛かったよね。最後の一着にもなると顔やばかったけど」

「ひうっ」

 

 唐突に褒められて、ハンバーグに刺したフォークが鉄板まで容易く貫通。カチンと硬質な音を響かせてしまう。貫かれたお肉は柔らかさのままに重力に負けて千切れ、容易に倒れてしまう。

 

「顔はヤバかったですけど、最後のふんわり系オールインワンが私一押しなんですよね。ひとりちゃん、このタイプは絶対何来ても似合うって思っちゃうと逆に一番いいのを決めるのに迷っちゃって」

「実際当たり前のように似合ってたよね。あれならぼっちちゃん普段着にしても全然違和感ないし」

「伊地知先輩は早々に決めちゃってたから、ひとりちゃんの顔もまだ正常でしたよね。あの全力ゴスロリのやつ」

「ぼっちちゃんにはスタイリッシュなのもいいかなって思ったんだけど、せっかくの試着だから、絶対買わない……って言うか、買ってもぼっちちゃん九分九厘着ないやつ選んでみた。可愛かったでしょ?」

 

 ……倒れたハンバーグをフォークで刺すけど、うまく刺さらないし持ち上がらないしでどんどん細切れになっていく。あっあっ、これこうなっちゃったらどうやって食べれば……。

 

「もう最っ高に可愛かったです!! でもあれは反則ですよー。流石にあれを普段着は無理じゃないですか」

「いや反則って……。勝負じゃないんだから」

「うっ……。確かになんか選んだ服をひとりちゃんが買えば勝ちみたいな気分でしたけど……。でもでも、着方がわからないひとりちゃんに手ずから着せ替えさせたのはやっぱりずるいです! それに頭からカロリー高い服だったから、ゴスロリ終わった辺りからちょっとずつ顔のパーツずれ始めてきてましたし」

「たはは、ごめんね、それは頭になかった」

 

 そうだ、私の右手にはスプーンがあるじゃないか……! これならバラバラになってしまったお肉もまとめて食べられる……! スプーンですくう、すく……あれ、難しい? スプーンの先っぽを鉄板に寝かせて、左手のフォークでちょこちょこと散らばったお肉を乗せて……うまくいった!

 スプーンを銀紙に……いや、無理だな。このままソースにつけようとしたらせっかく乗っけたお肉を落っことす。私にはわかる。このまま食べよう。……あぁ、ちっちゃくなって人肌くらいに冷めてもおいしい……。

 

「喜多ちゃんの一着目は結構攻めてたよね」

「あれも自信持って選びましたから! ひとりちゃんスタイルいいんだから派手目にしても全然負けてないもの。……スタイルいいから」

「喜多ちゃん。生まれつきどうしようもない差ってのはあるんだよ……」

「伊地知先輩……」

「ま、それはともかくだ。ぼっちちゃんの服選ぶのは楽しかった?」

「もっちろんです! ほんとにひとりちゃん可愛くって、たった三着に絞らなきゃならないのすっごく迷ったんですよ私!」

「あっはは、喜多ちゃんめっちゃ真剣だったもんね」

「そりゃもう! ひとりちゃんにバカには見えない服着せるわけにいかないもの!」

「ぶっほ」

「げほっ! き、喜多ちゃん笑かさないでよ! 食ってるときだったらやばかっぼっちちゃんがヤバい!」

「きゃー!? 乙女がしちゃいけない顔に!」

 

 ずっと喜多さんと虹夏ちゃんの話題から意識を逸らそうとハンバーグに集中していたが、それはつまり耳には入っていたわけで……当たり前だ、同じ席で話してるんだから。思わぬ不意打ちに、口に含んだハンバーグが飛んでった。咄嗟にギリギリで下向いたから私のハンバーグ定食以外は被害を受けていないようで、そっちはセーフだったみたい。

 まあ私本体の方は気管支に入ってアウトなんだけどね……。ばたんきゅー。

 

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