魔法というものがある。魔法文字というものに魔力を通すと発生する事象または構造物の事だ。
文字とは言われているが平面だけでなく立体の物もありそういうタイプは製造が大変だ。
俺が今思い付く最も製造が大変な物は都市の中核フェルメールだ。人間が持つ最も重要な器官、保全器があるがこれは魔法文字が刻まれた器官だ。これにより発動する魔法は人間が生存出来る法則を満たした空間の生成。
人間が生存出来る法則と書くだけなら簡単だが定めなければならない法則はとても多い。その為その魔法文字はビビる位複雑かつ緻密だ。何で人体にそんなものがあるかは不明だ。それの素材を変えて出力上昇させ広域に展開したり都市機能を組み込んだりして超巨大化させたのがフェルメールという魔法文字の刻まれた装置、魔具だ。
俺は今日それを操り都市機能を落としてこの都市レールタリアから脱出する。
決心した理由は一つ、ここにいたら俺は死ぬと知ったから。
生まれてから過ごしていく内に俺は謎の力を持っていることに気が付いた。それは魔具の乗っ取りと軽い内容解析、魔具の位置感知。
それによって見知らぬ人が常につけている事が分かりそれが余りに恒久的で他の奴はそんなことが殆ど無い事から自分について不審に思って周りに人が居ない時にこの都市一帯の魔具を解析したところ判明したことがある。
この都市は南の建造物群に居る謎の存在達を滅ぼす為に作られその根幹となる兵器の素材こそが俺、計画が完遂される時には殺される。
知ってから準備を始めたが名残惜しさのような信じられないような感覚に襲われて長らく決行を延期してもう十七歳、ようやく心を決めた。
「よし、行くか」
都市の中核の機能を生存空間を展開しつつ落とす。実際に音は聞こえないが周りの魔具で経験は積んであるので確実だ。
次に周りの監視の武装を暴発させ倒して窓を開け足を掛ける。
この日の為に裏地に平面の使える魔法文字を印した服を着て左手には父親の部屋から盗んだ鞘型の魔具を持ち二階から飛び降りる。着地の衝撃を服の魔法で軽減してから目的の外への門へと走る。
俺の家は外への門からは遠いが魔具は制御下におけるので多少の人間になら見つかっても報告より早く叩き潰せるだろう。と考え一応敵襲に警戒するが道中に敵は現れずすんなり門の前まで辿り着く。
しかし、
「待て、家に戻るんじゃ」
嗄れた声を耳にすると同時に轟音と共に門を塞ぐ壁が現れる。
いや、それだけじゃねえな。
壁は正面だけが全てではなかった。全容は大きめの小屋。そしてこの声には聞き覚えがある。
「真っ先に来るのがあんたかよ······爺さん」
俺の家族とされる人間は俺を封じるための武装を持っていた。爺さんも例に漏れない。だからそれを持ってくると思っていたが背面には魔具の存在を感じなかった。
振り返りながら鞘に魔力を込める。
魔具には種類がある。単一機能型と多機能型。難しいのは勿論後者だ。魔力の通し方を魔法に応じて変えなければならない。
この鞘は多機能型で機能は剣の生成と雷、炎の発生。中、近距離をこれ1本でこなせる上に構造が他の武器より単純で扱い易い。
「!? ·······何故だ」
剣を出現させた俺が見たのは鎧と剣の魔具を完備した爺さんの姿だった。
おかしい······! あの魔具は何故感知出来ない!?
「お前には分からぬだろう。言っておくが勝てぬぞ。大人しく帰るんだ!」
「対策はバッチリって訳かよ·····! でもな、帰るつもりは無いぞ。脱走の理由ぐらい分かってんだろ!? むざむざ殺されるつもりはない!」
「お前が持っている情報は偽者なんじゃ! 今からでも説明を────」
「言葉巧みに騙そうったって無駄だ! 嘘を吐き続け奴の言葉なんて信じられるわけ無いだろうが!」
何だそりゃ、謝ることすらしないのか?
失望に失望が重なり、無様な言葉を止めるために斬りかかる。
殺す必要はない。剣を弾いて鎧を叩き割ればいい!
「ぐっ! やめろ!」
荒げられた声とは裏腹に老体に見合わぬ剣捌きで剣から手を放さず俺の攻撃を受け切る。
鎧の魔法か·······! 面倒だな。あいつは俺を殺せないといってもその為の拘束用魔法を更に鎧に刻んできている筈だ。どうする······!?
「止まるんじゃ!!」
「ッ!?」
怒号に応じるように鎧の一部が光り、俺の地面以外の全方向を覆う鉄の壁が生成される。
鉄か、しかもかなり分厚い。雷でも大したダメージにはならない·······ならば!
一撃、一撃と剣で壁を打ち鳴らす。斬撃で壁を打ち破ろうとしている訳ではない。
目的は文字。斬撃により与えた表面の傷で文字を書き魔法を発動させる。発動させる魔法はさっき二階からの落下を軽減させたものと同じ引っ張る力。一つの文字では軽減程度だが無数にあれば鉄の塊でさえ動かせる。
「·······何じゃと!?」
「新しい武器をくれてありがとよ」
鉄の塊は魔法により与えた力でサイコロを転がすように倒れ奴へ直撃しても死なない程度の速度で一直線に向かっていく。鉄の塊が相手との壁の役割を果たしている内に後ろへ雷を打ち込む。
爺さん、俺が門から出かけてたから広範囲を覆える家を展開したんだろうがそれぐらいなら雷でブチ抜ける········このまま脱出してやる!
雷は予測通り壁に穴を開ける。そこに飛び込み門外へと出てひた走る。後ろから追ってくる姿は見えずに門からかなりの距離が離れる。
「はぁ······はぁ··········この距離なら追ってこれねえだろ」
と安堵するのも束の間。
ドッ!! という音が聞こえてきそうな程の数の鎖が俺目掛けて殺到する。
「動いて来なかったのはあのためかよ!?」
魔法文字から生成される物質の形状は文字を増設などすれば弄れる。多分あれは鎧でさっき俺が使った引力の文字が刻まれた状態で生成されたのだろう。そして俺が何処へいてもいいように沢山作るのに時間が掛かった。
全力で走るが鎖の方が速く凄まじい速度で距離が縮まる。
「クソッ! 何て速さだ! このままじゃ────―」
鎖の位置を測るため振り返ると視界が真っ白に染まる。
白が晴れ、視界が開けると鎖は跡形も無く消え去っており代わりに巨大なクレーターが出現していた。
「あらら? 穏やかじゃないね。どーしたの?」
驚く俺の真上から場違いな程に呑気な声が光と共に発生した爆音が鳴り止んだ静かな空によく響いた。
「誰だ!?」
「ただの通りすがりの旅人だけど?」
夜に溶け込む様な黒髪の少女が魔具に乗り空へ浮かんで俺を見下ろしていた。