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「此処が王都か…」
男にとって、王都は正しく圧巻の一言に尽きる、壮大な場所だった。
聳え立つ巨大な城、発展している街々。それら全てが、男からしてみれば縁の無いものだった。
だが、それも当然だ。
何せ、彼は本来ならば誰一人として住む事がない廃村で暮らしていたのだから。言うなれば、田舎者なのだ。
そんな男からしてみれば、王都という都会が壮大なものに見えるのは、至極当然であると言えるだろう。
「…金銭は有る。となれば、まずは宿探しからか。」
一先ず、最初にすべきは宿探しだ。
男は黒いコートを翻し、多くの人々が歩いている王都の街を歩き始めた。
この王都で、宿を取る為に幾ら金が掛かるか、などという事は男には分からない。
何故なら、男は今日まで一度足りとも宿を取った事も泊まった事もないのだから。
男はカゲノーの家を出てからというもの、常日頃から強さを求めて剣を振るうばかりしていたのだ。
絶対的な強さを求め、日々鍛錬を欠かさない事を男は心掛けていた。
それ故に、男には宿で休むなどという甘ったれた選択など無かったのだ。
「王都には騎士団が有ると聞く。だが、あの騎士達はあまりにも弱かったな…まさかとは思うが、騎士団全員があの程度なのか…?」
廃村の周辺を歩き回り、魔物を狩っていた男と少女を見るや否や、やれ違反がどうのだの何処の国の者だなど喧しい言葉を並べ始めた騎士達が居た。
あまりにも喧しかったが故に、男と少女は殺す気で斬り伏せようと剣を構えた。
それに対して騎士達も剣を構え、戦いが始まったのが…結論から言えば、その戦いは一分も持たなかった。
何なら秒で片付いた。あまりにも、呆気ない勝敗であった。
勝者は、言うまでもなく男と少女の二人だ。騎士達は、あまりにも弱過ぎた。
剣を折り、体を斬りつけ、さっさと殺そうと剣を振り上げれば、騎士達は命乞いをしながら何でも言う事を聞くと言った。
ので、一先ずは命拾いをさせたのだ。
それから、様々な事を聞いた後、用済みと見て、騎士達の怪我を治さぬまま森の中に放り出した。
魔物の餌になるだろうと、確信して。
「…まさか、な。」
男は考え、そしてそれを捨てた。
ここまで大きな城を守るのだ。そんな弱者である訳がない。きっと、強者が居る筈だと、男は希望的な観測で思い込んだ。
それが残念な思い込みであるとは、考えもせずに。
「…そもそも、此処に宿は有るのか?」
男は考えた。宿は探しているが、そもそもの前提として、この王都に宿は有るのか? と。
仮に宿が無ければどうする? 宿に泊まる事が出来なければどうする?
男は―――
「その時は盗人でも狩るか。」
別に泊まれずとも、やる事は有るのだから良いか―――と、楽観的に考えた。
そう。別に、無理して宿に泊まる必要など無いのだ。
此処は王都だが、しかしその実、日が沈み夜になれば、多くの盗人が現れる無法地帯でもあるという。
半殺しで留めた騎士からの情報によれば、その無法者な盗人達を、『シャドウガーデン』という組織が狩っているらしい。
であれば、夜に狩りをしていれば、何れはシャドウガーデンに出会うかもしれない。
そう考えると、男は別に宿はいいかと思い始めた。
「夜になれば盗人を狩る。盗人を狩っていれば、シャドウガーデンにも出会う可能性が有る…なら、宿に泊まる必要は無いか。」
そう決定づけ、次に男は夜になるまで何をするかを考え始めた。
その時だった。
「誰か、アイツを捕まえてくれ!」
そんな情けない声が、男の耳に入ったのだ。
声がした方に体を向けてみれば―――
「邪魔だ邪魔だ! さっさと退けぇ!」
バッグのような物を抱え、人の波を手で押し退けながら男の方へと突っ走ってくる男が居た。
情けない声を出した者の言葉から察するに、恐らく男の方に突っ走ってくる男は盗人なのだろう。
白昼堂々と、盗みを働いた愚か者だ。
それがご丁寧にも、真正面から突っ走ってきている。
「…」
男は、走ってくる男の方へと歩み始めた。
閻魔刀の鍔に親指を添え、押し出すように力を込める。かちゃ、という音と共に、その流麗な刀身の一部が顕となった。
距離が詰まる。その度に、盗人には死が近付いていくる。
「おぉっ、良いもん持ってるじゃねぇか! テメェのそれも寄越しやが」
盗人は空いた手で、閻魔刀の柄へと手を伸ばし、
キンッ―――
ぼとっ…と、それが落ちた。
「は…? え、」
男は疑問を抱いた。
伸ばした筈の手が、何も掴んでいない事に。
得物を取ろうとした手が―――手首から先が、無くなっている事に。
盗人は、下の方へと目を移す。
其処には、真っ赤な液体の溜まり場に濡れてしまった―――自分の手が有った。
「Go away.」
男の口から、その言葉が放たれた次の瞬間
盗人の視界には、澄み渡る青空が、綺麗に映っていた。
この時、盗人は無意識に己の死を実感し、そして理解した。
あぁ、自分は首を斬り飛ばされたのだ―――と。