後藤ひとりの兄は   作:人ドック

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転生者がいらない世界だけど、悪意があったから。

兄は妹を守るものだから。

今度こそは、幸せになりたいから。


これは、後藤ひとりの人生を良いものにしようとした兄のお話


転生者で

 深い、覚めるはずのない眠りを求めて、どうしようもない世界にさよならを告げたはずだった。気がつけば、俺は産声を上げていた。ぼやけた視界の中で俺をのぞき込む影を見た。体は泣き声をあげているのに、心はまるで静かな水面のようだった。

 それはそうだ。目が覚めたら、赤ん坊になっていたなど、まるで転生物語だ。まるで夢のようだ。現実ではありえない事に興奮している。

 クソみたいな前世よりはよい生き方ができるのだと心で微笑む。神様がくれたこの奇跡に感謝したいほどに、俺はこの時救われていた。

 

「名前は…玲。貴方は後藤玲よ」

 

きっと、俺の母親がこぼした言葉は俺の名前なのだろう。

この時から、俺は『後藤玲』として生きることとなった。

 

 

 

「…くそったれ」

 

 病院に隣接する公園で俺はため息をつく。齢5歳にして、こんな言葉を放つ幼稚園児がいたら、家庭環境や精神状態、教育を疑われるだろう。だが、それでも、この世界に俺を転生させた神に対して、全力のファックサインを突き立てたいのだ。俺は現在、下北沢に住んでいる。それ自体は何の不満もない。問題は先ほど生まれた俺の妹だ。名前は既に決まってある。

 

 

名前はひとり。後藤ひとりだ。

 

 

 俺はその名を聞いて、神を呪った。そう…ここは『ぼっち・ざ・ろっく!』の世界である。これ自体は何の問題はない。後藤ひとりの家族として、姿はないが設定だけがある兄として、生きていけばいいと考えていたからだ。

 問題はこの世界はきらら世界ではなく、現実世界と何ら変わらない点だ。きらら世界のように悪意が少ない訳でも、視聴者を不快にする要素がないわけでもない。

 

「悪意がある。それだけで、ここまで壊れる可能性があるのかよ」

 

 ファン達が妄想を出し合って楽しむ分はとても楽しい。だが、俺にとっては現実で、冗談抜きでその妄想が起こりえる世界だ。加えて、後藤ひとりは俺の妹だ。後藤ひとりは生きている。創作物ではない。

 だから、俺は後藤ひとりが原作と同じように生きているようにサポートしようと考えた。幸運にも、俺はそれができる立ち位置にいる。

 

 

だが、同時に後藤ひとりの人生に口出しをしたくない。

 

 分かっている。サポートなんぞ何様なんだということくらい。原作を知っている。それが一番であると決めつけて後藤ひとりの人生を俺が制限していい訳がない。

 

 あの物語は後藤ひとり達が織りなす物語だ。俺が立ち入る隙間などない。それでも、あいつが音楽に対して不信感や恐怖を覚えることだけは避けたい。

 

「…兄は妹を守るものだ。これだけは、譲れない」

 

 

この時から、俺は後藤ひとりの兄として生きていく事を決めたのだ。

 

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「…今日も弾いているのか」

 

 後藤ひとりの部屋からこぼれる音は一度なり始めたら基本、6時間は止まない。おそらく、押し入れのギターヒーローが明日に控える高校入学に様々な期待を妄想しているのだろう。

 

「まぁ、その望みは半分程叶うわけだが」

 

 とは言ったものの、流石に今日は長すぎる。俺は階段をのぼり、後藤ひとりの部屋の前に立つ。ノックをしてみるがいつものように、返事は帰ってこない。

 

「ひとり。入るぞ」

 

大きめに声を出し、しばらく待つ。反応はない。

 

強めにノックをする。反応はない。

 

「入るぞ」

 

部屋に入り、押し入れに直行する。基本、そこでギターヒーローをやっている。押し入れをノックする。

 

「ひとり。そろそ「う”ァッ!?お兄ちゃん!!?」…うるせぇ」

 

美少女がだしちゃいけない声を出すな。そして、顔を崩壊させながら押し入れから出てくるな。

 

「ひとり。流石に寝とけ。明日、入学式だろ」

 

「あっ、そうですよね。すみません。夜中に耳障りなギターを鳴らしてまくって」

 

「んなこと言ってねぇ。前に俺が話したこと忘れたのか?」

 

「あっ…。ううん。忘れてない」

 

「なら、いい」

 

ひとりの目から視線を外して踵を返す。

 

「帰ってきてたんだね」

 

安心したような声でひとりは俺の背中に声をかける。

 

「あぁ。しばらくは家にいるよ。大学の方もひと段落着いた」

 

「えっ…単位ギリギリだったお兄ちゃんが…?その眼光で、大学の先生脅してないよね…?」

 

ボソッと呟いたひとりの言葉に俺は感心する。

 

「ひとり。成長したな」

 

振り向いて、笑顔を向けてやる。そんな顔をするな。お兄ちゃんの素敵な笑顔だぞ。

 

「お祝いに、玲クローを喰らわせてやる」

 

「いらない!いらない!いらなあ”あ”あ”あ”!!」

 

「お眠りー」

 

よし、寝たな。この手に限る。

 

「安心しろ。朝日はきっとお前を見つける」

 

ひとりを布団に寝かせ、俺は部屋を出た。

 

 やっと、ここまで来た。くだらない事にも手を出したが、ひとりにとってはあの人達は必要だ。そう認識せざるを得ないほどに、俺は後藤ひとりをなめていた。

 

「正直、ここまで珍獣だとは思っていなかったが」

 

 後藤ひとりの生き方や在り方がロックでバンドマンに適性がありすぎる。今はまだ、悪意に食われる可能性があるが、あの人達と出会うことで悪意さえも振り払うバンドマンになる。正に、ギターヒーローってやつだ。ほんと、ひとりは主人公だよ。

 

 

夜の町を見下ろして、俺は呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、俺の妹超かわいい」

 

 

後藤ひとりの兄はシスコンである。

 




名前
後藤 玲(れい)

容姿
目つき以外、イケメン。数人くらい人を始末してる目つきをしている。

性格
ろくでなし

年齢
成人済み

得意技
にらみつける
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