後藤ひとりの兄は   作:人ドック

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目つきが悪いけど、イケメンのお兄ちゃんが欲しい人生だったと最近思う。


防人で

 後藤ひとりが高校に入学して一か月がたった。ひとりは日に日に、やつれていったような気がする。いつの間にかピンクジャージに戻っていたことから察するに、あいつの高校デビューは上手くは行かなかったみたいだ。

 

「まぁ、予想はしていたが…悪意はどこにでもあるな」

 

 後藤ひとりは目立つ。本人は目立ちたくないだろうが、その姿と言動、奇行は目立ちまくる。何よりも、悪意はひとりのような人間が大好きだ。

 

「ある程度の悪意なら払える。だが、ひとりが孤立することには変わりない」

 

 ひとりは自分を変えようとする意志は誰よりもある。だが、あいつ一人では難しい。結束バンドのような存在が必要だ。

 

「俺に相談にくる程だ。何とかしてやりたいが…」

 

 ろくでなしの俺には、お前を変える言葉をかけることはできない。それはきっと、間違っているとどこかで感じているから。

 

 後藤ひとりの人生において、転換期となるのが伊地知虹夏との出会いだ。あの公園で彼女に声をかけられなければ、あいつは引き篭もりルートに入る。

 

 それはきっと、後藤ひとりの可能性を潰してしまう選択なのだろう。

 

「何も間違いではない。まして、正解でもない…か」

 

 町を見下ろしながら、一服をする。 

 

 そう。ひとりの人生において、その選択肢を選ばせる事は間違いではない。ただ、それはその選択の未来を知っているからだ。

 

 基本、人生に正解なぞない。俺は未来を知っているからこそ、正解と失敗の天秤にかけることができる。

 

「はっ…妹の人生を天秤にかける。悪役を通り越して外道だな」

 

 毎度毎度、たらればの話を常に意識させられる。ほんと、頭打って記憶消えねぇかな。

 

「…罪悪感よりも他の感情が湧いてくるのが、何よりムカつくわ」

 

 罪悪感を抱いておきながら、原作以外の道を進める。

 

 それはつまり…

 

「結局、俺はひとりを信じてやれてねぇのか?」

 

 ひとりがバンドを始めても、友達ができても、俺は既に知っている。知っているから、安心する。

 

「信じて送り出す。なんて、結果を知っているならできやしない」

 

 全知全能になると誰も信じなくなるという話があったな。

 …心底、気持ち悪い。この世界を現実だと認識しているはずなのに、原作が未来そのものだと考えている。

 

「愚者であるが、悪人でも、善人でもねぇ。どうしようもない人間すぎて笑える」

 

 ピエロ後藤でーす。そんな事実を口にしても笑う奴も咎める奴もいない。本物の愚者がそこにはいた。

 

 タバコの煙が空へ消える。きっと、彼の言葉と同じ質量だからだろう。タバコの火が消える。また、町を見下ろす。

 

「さて、ひとりがどんな選択をしたか見にいこうか」

 

 既に、向かう先は決まっていた。

 

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 下北沢のライブハウス「STARRY」

 

 そこは、『ぼっち・ざ・ろっく!』において、重要な場所であり、後藤ひとりが成長する大きな要因となる場所だ。

 時間帯は夜。もう既に、ひとりは帰路についている。先ほど連絡があった。あんなにテンションが上がり、何かを決意するひとりは久しぶりに見ることができた。

 

 扉をくぐると、懐かしいと感じる音や光、独特のにおいが俺を満たす。まぁ、それも一瞬でなくなったが。

 

 来店早々、ドロップキックが飛んでくるとは思わねぇよ普通。

 

「随分荒い接客ですね…店長」

 

「黙れ。何の用だ。…ゼロ」

 

 姿を見るなり、全力で走ってきてドロップキックとはあんたほんとに29歳か?

 

「何か今、失礼なことを考えなかったか?」

 

「めっそうもない」

 

 まったく、妙に感がいいなこの人は。できれば、ひとりがここでバイトを始めるまでは初対面でいたかった。

 

「…まぁ、いい。中に入れ。お前がいると客が減る」

 

「そうだと思って、伊達メガネを付けてるじゃないですか」

 

「ヤクザがインテリヤクザに変わったところで意味ないだろ」

 

 ひどい。

 

 中に通され、ステージから離れたところで伊地知星歌…店長とライブを見ている。

 

「…で?何の用だ?」

 

「…金を借りに…おう、待ちやがれ下さい。ポリに連絡しようとしないで」

 

「黙れ。もう一人のクズと同じようなこと言いやがって」

 

「冗談ですよ。冗談」

 

 頬を引っ張る力がえぐいなこの人。容赦がない。

 

「…まぁ、パトロールとでもいっときましょうかね」

 

 苦虫を嚙み潰した顔になる店長。そんな顔してると恋愛運が逃げますよ」

 

「いってぇ!」

 

「だ・れ・が、恋愛運とやらを私から逃がしていると思ってるんだ!」

 

 容赦ねぇな。この未婚。

 

「ちっ…まだ、続けるのか」

 

「人の悪意に底はありませんからね」

 

「分かっている。…ゼロ。お前はいいのか?」

 

 店長は俺の目を見てくる。…その目で見られるのは、やめてもらいたい。

 

「…さぁ?」

 

「お前の人生だぞ?」

 

…やはり、この人は苦手だ。伊地知星歌を見なくてはいけないから。

 

「…そうですね。俺も変わりたいものなら、変わりたいですよ」

 

 笑って答え、踵を返す。俺は笑えているだろうか。自信がなかったから、俺は逃げるようにSTARRYから、出ていく。

 

 一人残った星歌は彼の不格好な顔を見て、ため息をついた。どこまでも、自分を見ようとしないろくでなしを思って。

 

「お前に救ってもらったのに、私はお前に何もできないのか…」

 

 そう。ゼロを引き留めることもできない。辛いはずなのに。いや、結局、怖いだけなのだ。彼がこの店に訪れなくなることが。

 

「…私も、変われるものなら、変わってみたいよ…」

 

 そんなつぶやきは、ライブハウスの喧騒に飲まれていった。

 

 

 ライブハウス「STARRY」。変わらずに営業していたことに安心した。まぁ、お茶の水の魔王と裏ボスがいれば何とかなるか。

 

 いや、

 

「STARRY…。星が悪意ごときに沈むわけないか」

 

 

 

 

 

 

 

 にしても、

 

 

 

 

 

 

「やっぱ、店長めっちゃ美人だ」

 

 

 後藤ひとりの兄は年上好きである。

 

 

 




ゼロ
後藤ひとりの兄の別称。悪い事する時は基本こっちを使う。
性格
やっぱり、ろくでなし。
趣向
年上好き

伊地知星歌
ライブハウス「STARRY」の店長
過去
ゼロに助けてもらった事がある。
現在
今年30歳を迎えることに戦々恐々している。


きっと、店長にはゼロ君が不器用な男に見えている。
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