ようやく誠は、翔子に本来の相談内容……武器がほしいことを説明し始めた。
タブレットを持ち出し、アリスが蜘蛛退治する動画を見せる。
「……こりゃまた……ヤバいね」
「翔子姉さん、語彙力が低下してます」
「いや、ヤバいとしか言いようがないじゃないか……」
翔子は再び驚き、戦慄していた様子だった。
アリスの状況が洒落になっていないことを、改めて思い知った様子だった。
「アリスちゃん」
「なんでしょう、翔子さん」
「……魔物と戦う動画を撮るって、あんまり危なっかしいことはするべきじゃないと思うけどねぇ」
「そ、それはそうなのですが……!」
「ただ、危なっかしい魔物とかいうのが近くにうろついてるんなら、武器は必要なのかもね……うーん……」
翔子が顎に手を当てて悩み始めた。
「そ、そうなんです! 火の粉を振り払うためにも必要なんです!」
「そういうことなら協力してあげられないこともないが……」
「いいのですか!?」
「ただ、あたしは武器職人でも武器商人でもないけどね。できることは限られてるよ」
「そうなのですか? ではなにを仕事にしてるのでしょう……?」
「工場の経営者さ。鋼材を削っていろんな部品を作ってる」
「はぁ」
アリスは、翔子の仕事内容が今ひとつわからなかったようで、曖昧に頷いた。
「流石に刀鍛冶をしたことはないけど、刃物も作ったことはあるよ」
「えっ、そうなんですか!?」
「コンビニとか惣菜の工場で食パンとかピザとかを切断する専用機械だけど」
「しょ、食パンですか」
「ともかく、折れた剣をなんとかしたいって話だったね。見せてみな」
「はい」
アリスは、翔子に真っ二つに折れた剣を見せた。
「ふむ、ちょいと見せてもらうよ」
アリスが頷き、翔子に渡した。
翔子は軽くこんこんと叩いたり、折れた箇所をしげしげと眺めている。
「へぇ……実用品としての剣は初めて見るよ」
「最初は鉈と斧を渡したんだが、ホムセンの物じゃ流石に軽すぎたみたいだ。かといって日本刀みたいなものを買うのも難しいしな」
「アウトドア用の高級品とかでもいいんじゃないかい? あるいはアメ横あたりのミリタリーショップでアーミーナイフ買うとか」
「ただ、高級すぎるナイフを使うと販売店から身元がバレて各方面から怒られる気がする」
「確かにね……。それに、ナイフでさえ軽すぎてダメかもしれない」
「もう少し刃渡りと厚さがあれば申し分ないのですが……」
アリスが残念そうに呟く。
「それでこれを直したいというわけね……でも正直言って、あまりお薦めはしないよ。溶接して無理やりくっつけても強度が落ちたりするし」
「やはり難しいですか」
翔子の言葉に、アリスは肩を落とす。
「でもそんなに珍しい素材を使ってるようにも見えないね。一応詳しく確かめてみるけど」
「材質って、鉄だろ?」
「鉄にも色々あるんだよ。純粋な鉄なんてそうそう出回ってなくて、世の中にある鉄にはだいたい不純物が混じってる合金さ。その不純物の比率次第で硬くなったり柔らかくなったりって違いが出てくる」
「ああ、それで剣の硬さの違いが出てくるってことか」
「あとは焼入れしたり表面処理したりでも変わってくるよ」
「おお……」
アリスと誠が、翔子に尊敬の眼差しを送る。
「な、なんだい、その目は?」
「なんかプロっぽいな……流石は社長」
「そりゃ社長だからね」
謙遜なのか自慢なのかよくわからない呟きだなと誠は思った。
「それで、修理が難しいなら……買う?」
「そっちのが無茶だと思うよ」
誠の言葉に翔子が渋い顔をした。
「こういう洋風の剣の方が日本刀より入手するのは難しいだろうね。日本刀は美術品扱いで手に入れられるけど、刃のついた本物のサーベルなんか間違いなく銃刀法違反になっちまう。それにアリスちゃんの剣って、西洋刀剣やサーベルとも違うんじゃないかい?」
「え、そうなの?」
「これ、割れてなかったら4キロくらいあるだろ。剣ってこんなに重くないはずだよ。剣っていうか、これはもう刃のついてるだけの鈍器だね」
「……確かに、これを振り回すとなったらすごく重いな」
誠は改めてアリスの剣を眺める。
博物館などで見かける刀や剣よりかなり分厚いと感じた。
出刃包丁をそのままサイズアップしたかのような有様だ。
「ああ、そういえば聞いたことがあります。昔の騎士はもっと薄い剣を使ってたものの、魔物やスケルトンのような死霊と戦うために分厚くしたんだとか」
アリスの言葉に、翔子が納得したように頷いた。
「なるほど、斬る相手に合わせて剣の形状や重さが変わってきたわけね……ということは」
地球の刀剣を渡すのは解決にならない?
そんな言葉が、誠の頭の中を巡る。
アリスもそれを察したのか、落胆の感情を顔に浮かばせていた。
だが、翔子の顔は違っていた。
むしろ自信ありげに微笑んでいる。
「そこで提案があるんだよ」
翔子は自分のカバンからメモ用紙を取り出し、そこにボールペンで何かを書き始めた。
「こんな感じかね」
「えーと……ただの四角?」
翔子は、紙に2つの四角形と、1つの五角形を並べて描いた。
五角形の部分は細長く描かれてる。
話の流れからしてこの五角形は、刃の断面図のようなものだろう。
「三面図だよ」
「でも、これだと真っ直ぐで薄い鉄の板に刃をつけただけに見えるが……。剣というよりただのカッターナイフの刃をデカくしただけじゃないか?」
「その通り」
翔子が描いた剣の図面は、ひどく素っ気なかった。
鍔がない、だけではない。
切っ先さえもない。
分厚く細長い、四角い板だ。
コンビニで売っているアイスのように、鉄板に棒が刺さっているだけだ。
「あたしのできる範囲で作れるのは剣じゃない。刃物や金属製品。刀剣じゃ法律に違反するしね。一線は守らなきゃ」
「いやでも……用途としては剣でしょ?」
「大丈夫。切っ先がない。鍔がない。法律的には剣じゃあないさ。作っている過程を見られても実用の剣とは思われないよ」
「つまり‥…使い勝手の問題とかじゃなくて、何を作ってるかごまかすためにこういうシンプルな作りにするって?」
「うん。『こういうものならできますよ』という提案さ」
「う、うーむ……」
あまりに身も蓋もない青写真に、誠は難色を示した。
「アリスはどう?」
「わ、私ですか……?」
アリスはそわそわしていた。
見るからに興味を惹かれている。
「なんでも言いなよ。というより言わなきゃ始まらない」
誠に促されて、アリスは翔子の顔を見た。
「え、ええと……翔子さん、確認させてください」
「なんだい?」
「本当に、このサイズのものが作れるんですか?」
「問題ないよ。なんならもっと大きくたって……」
「ぜひ! お願いしたいです!」
「よし、契約成立だ。握手できないのが寂しいね」
「まったくです」
アリスがくすくすと笑った。
こうして、アリスのための剣の製造が始まった。