バズれアリス   作:富士伸太

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◆幽神霊廟について、私、聖女アリスの口から説明したいと思います

 

 

 

 はい、そういうわけで、この霊廟の歩き方のチュートリアルを改めて始めようと思います。

 

 いや、わかります、みなさんの聞きたいことは。

 

 昨日のアレは何だったのか、ということですね?

 

 なんで私の部屋で暴れたのか。

 

 アレの正体は何なのか。

 

 その答えを得るためには、そもそも幽神霊廟というものが何なのかを改めて説明しなければなりません。

 

 と、いうわけで、幽神霊廟の入り口に移動しましょう。

 

 ……はい、移動しました。

 

 いや、外から見るとほんとデカいですね。

 

 で、入り口のすぐ側に石像がありますね?

 

 鳥人間みたいなやつ。

 

 私の世界ではガーゴイルって呼んでいます。

 

 城とか迷宮によくありますよね、

 

 なんだか地球にもあるみたいですね、ビックリです。

 

 今までの私はここでイベント回収忘れて突っ込んでしまったんですね。

 

 というわけで、ガーゴイルさん。

 

「わ、儂が、ここの守護精霊の、が、ガーゴイルじゃ」

 

 表情硬いですねー、はいリラックスリラックス。

 

「おぬしこそキャラ違くない?」

 

 あの、そういうのやめてください。カメラ回ってますんで。

 

「すまんすまん」

 

 えー、彼がここの門番だそうです。

 

 本来ならばこのガーゴイルさんに色々と説明を聞いた上で幽神霊廟《ゆうしんれいびょう》を探索するらしいのですが、いやあ、すっ飛ばしちゃいましたね。すみません私、マニュアル読まずにゲームするタイプなんです。

 

「……勇敢な人間の戦士よ。よくぞ幽神霊廟へ参った。もしおぬしが10階層毎に現れる守護神を倒して最下層の地下100層に辿り着いたとき、褒美は思いのままじゃ」

 

 はい、ありがとうございまーす。そういうわけで、ここを攻略すると幽神様に謁見できるらしいです。わー、ぱちぱち。

 

「軽いのー」

 

 話が壮大すぎてティンと来ないんですよ。

 ま、ともかく地下10階層までサクサク潜ってみましょうか。

 

「え、儂の出番これだけ?」

 

 あ、はい。

 

 なにかやります? 場面終了のアイキャッチな挨拶とかジャンケンとか。

 

「自然な流れで定番アイキャッチができるならともかく、無理矢理な流れでやっても寒いだけじゃないかのう。それになんかパクリっぽいし」

 

 たまにツッコミ鋭いですねあなた。

 

 それじゃあ移動しまーす。ありがとうございましたー。

 

「雑じゃのー。なんか儂がもうちょい格好良くバえる企画考えておいてくれ」

 

 はーい、なんか思いついたらがんばります。

 

 さて、地下1階層から5階層までは、地表階と同じ石造りの迷宮ですね。

 代わり映えしないんで飛ばしましょう。

 

 次の地下6階層から10階層は、森と平原が組み合わさった広大な場所ですね。

 

 住環境が良いのか、野良犬とか野良狼とか野良竜とか住んでいますね。

 

 以前探索したときの竜退治の動画もあるので、未見の方はそちらもどうぞ。

 

「ギャワー!?」

「グワッ! グワッ!」

「はよせな」

 

 ……ええと、ドラゴンが私の姿を確認した途端に猛スピードで飛び去っていきました。

 

 こないだ戦っていたのが他のドラゴンにも見られてたのかもしれませんね。

 

 他の魔物も近付く様子がありません。

 

 以前ここを探索したときと比べて明らかにエンカウント率が下がってます。

 

 みなさんの応援のおかげで魔力がめちゃめちゃ高まってますし、そのあたり感知されてる気もします。

 

 せっかくできあがった聖剣ピザカッターも、スプリガン戦以来使いどころがないですね。

 

 あ、剣の名前は仮称です。ピザを切る刃物メーカーにお願いしたのでそんな名前にしてるだけです。アイディアがある人はぜひぜひコメント欄に書き込んでくださいね。

 

 ともかく、だいたいこんな感じの光景が続きますから10階まで飛ばしましょう!

 

 はい、ジャンプ!

 

 

 

 

 

 ……はい! ここが10階ですね。

 

「ねえ、いまなんでジャンプしたの?」

 

 ジャンプして場面転換して着地するやつ、やりたかったんです。

 

「ふーん、まあいいや。戦士よ、よくぞ我が守護する10層まで来たな。ほめてやるー」

 

 もうちょっとやる気ある感じでやりませんか?

 

 鎧も脱いでますし。

 

 あれ意外と評判いいんですよ。

 

「いや、アリスがめちゃめちゃ壊しちゃったじゃん」

 

 ……そうでしたね。

 

 腕とか千切れたりひしゃげたりしてましたし。

 

「オーバーホール中だよ」

 

 予備とかないんですか?

 

「あるけど、ケンカするのもたまにでいいよたまにで。50年に1回くらい」

 

 長命種特有のウエメセ時間感覚ですね。

 

「そお? それよりゲーム実況しようよ、ゲーム実況。アリスは壺少年やらないの?」

 

 えー、知らない視聴者様に説明しますね。壺少年とは、壺に入った少年をマウス操作で移動させて、少年が囚われていた謎の研究所から脱出させるゲームです。私あれ苦手なんですよね。

 

 あとFPSとかTPSとか、マウスぐりぐり視点移動させて戦うゲームもだいたい苦手です。

 

「じゃあなにが得意なのさ」

 

 いやゲームとかまだよくわかってませんよ。

 あなたが一週間くらいで馴染みすぎなんです。

 

「えー、そうかなー? ともかくゲームやろうよゲーム。欲しい物リスト作ってもらったら送ってくれた視聴者さんいるんだよね。勝ったら先進んでいいからさ」

 

 ですからなんで私より馴染んでるんですか!?

 

 ていうか私、あなたに勝ちましたよね?

 

「あー、勝ったってことでいいのかな? でもよく考えたら僕の守ってる10階層を突破したとも言いにくくない?」

 

 じゃあ今からゴッ倒すので構えてください。

 

「ボク、マルゴシ。ブキ、モッテナイ。オソイカカルノ、ヒキョウ。オーケー?」

 

 なんで片言なんですか。

 

 まあ確かにフェアじゃないかもしれませんが……かといってゲームもフェアではないでしょう。私だって不得意なんですから。

 

「じゃあこうしようよ。多人数プレイするゲームで、視聴者も参加できるようにしよ。それで視聴者は好きな方に味方するとか」

 

 いや、ここWIFI届かないから無理じゃないですか?

 

「あ、大丈夫。鏡の向こうから来る電波くらいなら拾えるからここでも通信できるよ。もともとここは1層にワープできるんだもん。人間ワープさせるより遥かにラクショー。録画撮影だけじゃなくてここで生配信もできると思うよ」

 

 えっ、知らなかったんですけど。

 

「僕、アリスのサブチャンネル担当するから今のうちにゲーム実況配信のやり方とか覚えておきたいんだよね。いいでしょー?」

 

 そういうことならいいですよ。

 ただ、今回は解説動画なんで別枠でやりましょう。

 

「はーい」

 

 というわけで、次回の迷宮探索動画もお楽しみに!

 スプリガンは一体どんなゲームを提案するのか!

 そして次なる11層から20層では一体なにが待ち受けているのか!

 まだまだ未知の部分は多く、これからもアリスは頑張って探索してきたいと思います!

 

 いかがでしたか?

 

「あ、次は氷河の世界だね。氷の足場をジャンプして移動する感じ。海に落ちると凍死しちゃうから気をつけてね。ボスは氷属性の亀だから火とか熱に弱いよ」

 

 いやここで唐突なネタバレやめてくださいよ。

 

 こほん! ともかく、チャンネルフォローとgood評価もお願いしまーす!

 まったねー!

 

 

 

 

 

 

「……どうしてこれでアクセス数が稼げるんでしょうね?」

 

 アリスが画面を見ながらなんとも微妙な顔をした。

 

 生配信トラブルから一週間が過ぎて、チャンネル登録者数は順調に伸びている。

 

 当初はファンタジーやオタク向けコンテンツが好きな人に対してバズっており、初日のフォロワー増加は5万人ほどであった。

 

 しかしこの一週間で、オタククラスタの外にも『聖女アリスの生配信』の異常性が認知され始めた。作り物とは思えない幽霊やドラゴン、水晶のような蜘蛛は、生き物・ペット系動画を見る人々にも大きな驚きを与えた。

 

 また、建築関係が好きな人にも幽神霊廟の異常さが伝わった。地球上にはあんな建築物はなく、あの大きな天井を支える柱の材質はなんなのか、どういう重機や工法に頼ればあんな無茶な建物を作れるのか、どうして地下に入った瞬間に別世界になるのか……などなど、終わりのない議論を続けている。

 

 あるいは気象・天文などの専門家も疑問を投げかけた。地球から見える星空とはまったく違う星が見えることや、雲の流れが地球とは微妙に異なっているなど、各方面から「この動画なんかおかしい」という疑問がどんどん投げかけられており、検証まとめサイトが出来上がりつつあった。ついでに言えば『アリスの婚約者ってどこの誰やねん特定班』のトピックも熱く盛り上がっている。

 

 だがもっとも視聴者に受けたのは、アリスの素の性格であった。

 

「アリスが絶叫して蜘蛛を倒してるシーンが一番コメント多いんだよなぁ」

 

 誠がぽつりと呟いた。

 

 視聴者たちはなぜかアリスの悪態や罵声を大変高く評価していた。

 動画内でアリスが大絶叫する度に高評価やハイテンションなコメントが書き込まれる。

 これこそがアリスのチャンネルの個性だと言わざるを得なかった。

 

「ですからそれがわかんないんですけど!? 普通、ここまで口が悪い女の子ってドン引きませんか!?」

「自分でそれを言っちゃうのもどうかと思うけど……」

「それはわかってますけどぉ!」

「まあまあ落ち着いて。お茶でも飲んで」

 

 アリスが、誠に出された麦茶を飲んで深呼吸した。

 

「と、ともかく、更に追加で2万フォロワーを獲得したのは素晴らしいことだとは思います、はい……」

「う、うん」

 

 ちらっと誠はチャンネルフォロワーの数を見ると、78,825人の登録者がいた。

 

「でも、もうちょっと落ち着いた動画も撮りませんかぁ……?」

「そ、そうしよう」

 

 アリスの涙ながらの訴えに誠は素直に頷いた。

 

 だがそもそも、アリスは撮影モードに入るとやたらとハイテンションな性格になってしまう。本人曰く「緊張しすぎて、自分でもなにを言ってるのかよくわからないトランス状態になってしまいます」とのことで、本人が自覚的にその性格を抑えないとどうにもならない問題であった。

 

「ともかく、これで収益化には問題ない程度にチャンネルフォロワーも再生時間も稼げそうだ。広告案件も来るかもしれないし、がんばろう」

「ハッ、そ、そうでした……。私もこの世界でお金が稼げるんですね……!」

「ああ、そうだ。最初の月は微々たる額だろうけど、このペースで動画を投稿していけば収益アップは間違いないよ。頑張ろう」

「ハイ!」

 

 アリスは元気よく頷く。

 だが、喜んだ顔が少し曇った。

 

「……となると、私はこのキャラ付けを続けたほうがいい……?」

「そこはまた後で考えよう」

 

 だが、アリスはこのとき気付いていなかった。視聴者が勝手に動画を切り貼りして「アリス絶叫場面集」と題し動画撮るンやSNSに投稿し、これがまたバズってしまうことに。

 

 そしてアリスの悪態そのものに「ファッキンエヴァーンしぐさ」「エヴァーンクソマナー講座」などという謎のあだ名が付いて更なる人気が出て、ますますアリスのチャンネルフォロワーは増えていくのであった。

 

 

 

 

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