えー、ども。
みなさんお久しぶりです……。
いや、そんなに日数経ったわけでもないですけどね。
でも、体感としてはお久しぶりって感じです。
地球に降り立ったアリスです。
こ、こんにちアリス!
『おっ、配信久しぶり!』
『こんばんアリス!』
『なんだ、表情硬いぞ』
『シャバなんだからもっとリラックスしろ』
いやー、霊廟の私の部屋や攻略中のときと違って、はっちゃけにくいというか。
地球に来たばかりでおのぼりさん感覚が抜けないというか。
住民票の登録もできて、ようやくここで生活するんだなって感慨が出てきたというか……。
あ、ちなみにここはレストラン『しろうさぎ』の客席です。
休業中なのでカーテンも締め切ってます。
最近はここでコーヒーの淹れ方とかホール業務のお勉強してます。
オープン再開はもう少しだけ待ってください。
周辺のご迷惑を避けるために予約制になるかと思います。
『新婚オーラ出しやがって……!』
『そうだそうだ! 旦那はどうした!』
店長は今怒られ中です。
金塊やレアメタルを売買した件で、今日も警察に事情を説明しにいってます。
『お、おう』
この度は私の夫が社会にご迷惑をおかけしたこと、誠に申し訳なく……。
『1の母かよ』
『日本に馴染みすぎてて笑う』
『つーかアリスさんの生活費とか武器防具代じゃん!』
いや、本当にそうです。
私のせいです、本当にごめんなさい。
日本の貴金属業界や鉄鋼業界には特に混乱させちゃいました。
ですので。
お詫びの企画を一つ。
『おっ』
『なんだなんだ?』
これは、あの、夫には内緒なんですけどね。
夫には内緒なんですけどね。
『露骨な人妻ムーブかましてきたぞ』
『いやらしい……』
『人妻というには幼すぎる』
いやらしくありません!
あと幼くもありません!
いや、ガチでどっきり企画やるつもりなんですよ。
『流石にしろうさシェフも配信見てるんじゃないの?』
大丈夫です。
スマホいじれる状態ではないと思います。
『ちょっと可哀想になってきたなw』
ですので、このチャンスを利用して、とある企画をしたいと思います。
緊急事態宣言もなく、感染者数も減ってる今しかないと思いまして。
こしょこしょ……。
『声小さくする意味ある?』
そこは大事な雰囲気作りです。
◆
「ねえ、アリス」
「なんでしょう、誠さん?」
「目隠しする意味ある?」
アリス、誠、そして翔子の三人は車で移動していた。
窓をスモークで隠した業務用のワンボックスカーに乗り……というよりアリスと翔子が誠を拉致気味に押し込めて、高速道路に乗ってどこかへ移動しているところだった。
「一応、そういうルールで動画撮ってますので……。でも、カメラ撮る側も楽しいですね……」
運転は翔子が担当している。
そしてアリスは、笑いを噛み殺しながらカメラを回していた。
「普段と立場が逆だしね。てかマジでどこに行くの?」
「ですから秘密ですってば。ねー、翔子さん」
「そうさ。言っちまったら動画にならないよ」
ハンドルを握る翔子が、けらけらと笑いながら返した。
雑談しながらもワンボックスカーは滑らかに道路を走る。
しばらくするとブレーキやカーブで体が揺れる頻度が増えた。
誠は、車が高速道路から降りて市街地に入ったのを察した。
そしてまたしばらくして、車は完全に停止した。
「え、まだ目隠し取っちゃダメ?」
「もうすぐですから」
車を出た誠は、手を引かれてどこかの通路を歩く。
足音が響く。
最初はコンクリートだった足裏の感覚が、柔らかい絨毯のようなものへと変化した。
恐らくは野外ではなく屋内であることだけがわかる。
「おまたせしましたー!」
アリスが大きな声で誰かに挨拶する。
そこでようやく、目隠しが取られた。
だがそこは、真っ暗な部屋だった。電気が一切ついていない。
困惑してアリスに話しかけようとした瞬間、部屋の中の明かりが一斉に灯る。
まぶしさに目を覆った瞬間、ぱぁんという破裂音が響いた。
「「「「「「「釈放おめでとう!」」」」」」」
そして、何人もの声が一斉に響き渡る。
「えーと……あ、弁護団のみなさん。あとは……」
「抽選で当たった人たちですね。あとは誠さんの方のチャンネルの『しろうさキッチン』の伝手の人を雇って手伝いをしてもらってます」
「手伝いって言うと……」
「ファンミーティング兼パーティーってところだね」
誠が質問しかけたところで、翔子が部屋の天井にぶら下がってる糸を引っ張った。
くす玉だ。
紙吹雪とともに、メッセージが書かれた幕が降りる。
「えーと……『檀鱒誠様、釈放おめでとう』『アリス=セルティ様、地球到着おめでとう』……」
「と、いうわけさ」
「いや逮捕まではされてないよ!?」
「でも書類送検されたり罰金食らったりしただろ。似たようなもんだろう」
そうだそうだと野次が飛んでくる。
どうやら全員、このタイミングを待っていたようだ。
誠もようやく事態を把握した。
「えーと……つまりサプライズパーティーってわけか」
「数百万人の配信者のパーティーとしちゃささやかだけどね。あんまり大規模すぎるパーティーだとこっそりやるのにも限界があるし、それはまた今度ね」
場所はどうやらどこかのホテルのホールを貸し切っているようだ。
とはいえ、そこまで大きな場所でもない。
集まった人数は五十人程度で、それでほぼ満員というところだろう。
「これなかった人には申し訳ないですが、撮影してちゃんと公開しようと思います。……と、ゆーわけで、誠さん」
アリスが、マイクを差し出した。
「えーと、なんか言う流れ?」
「とか言いながらマイクオンにして早速喋ってるじゃないですか」
「一応、配信者だからなぁ」
くすくすと忍び笑いが漏れる。
スーパーアルバイター氏だった。
他にも弁護団の面々が誠を注視している。
「えー、ちょっとサプライズされてる本人ということで状況が掴めていないのですが、本日はお集まりいただきありがとうございます。……そこで、改めてみなさまにお伝えしたいことがあります」
誠は深呼吸をして、少し間を置く。
そして言い放った。
「アリスをプロデュースした張本人にも関わらず結婚しちゃいました! ほんっと、すみません!」
その言葉に一瞬笑いが起きた。
そしてあけすけな野次がどんどん飛んで来る。
「そうだそうだ! 配信者としてアウトだぞ!」
「合法ロリだからってロリに手を出していいわけないだろ!」
「こっちはガチ恋してたんだぞ! NTRだ!」
「いや、BSSだ!」
「スパチャ返せ!」
「でも幸せならオッケイですって言ったけどやっぱ悔しいに決まってんだろ! おめでとう!」
「もげろ!」
半ば本気の野次や非難が集まる。
誠は苦笑しながら話を続けた。
「落ち着いてきたらレストランも再開するので、たまに遊びにきてください。きっとそこには素敵なバリスタがいると思いますので」
「はやく予約させろー!」
「はい、もうちょっとまってください。予約サイト作ってるところです。……で、レストラン経営と並行して、もちろん配信業も続ける予定です。付け加えて、アリスは……やりたいこと、あるよね?」
「ええ、あります!」
「じゃあ発表をどうぞ」
会場内がどよめいた。
アリスが何か挨拶をするのは特に予定はなかったようで、皆が注目している。
「えーと、皆様のおかげで私はこうして地球に来ることができました。ありがとうございます! 生アリスですよみなさん! さあさあ! もっとアゲていってください! まあアゲていこうと言っても乾杯もまだですけど、手短に終わらせますからね!」
いきなり参加者たちに早口かつ大声でまくしたてる。
参加者たちにとっては馴染みのある空気だ。
カメラを向けられてるときのアリスに切り替わったのを全員が肌で感じた。
「アリスー!」
「生アリスだ!」
「剣はここで振るなよ!」
「振りませんって! 日本に突然ダンジョンでもできない限りは平和に暮らします!」
「なんかそれ言ったら実現しそうだな」
「フラグだフラグ」
参加者のツッコミにくすくすと笑いが漏れる。
「今は戦闘から遠ざかって、配信したり、レストランのホール業務やバリスタの仕事を学んだりしています……が! 実は一つやりたいことがあります。みなさん、覚えていますか?」
「やりたいこと……?」
「私、女子高生になります!」
ええー! という驚きが参加者たちの口から飛び出した。
「あ、女子高生になるというと語弊がありますね。学校に行ってちゃんと卒業したいなと」
アリスが補足の説明を入れて、すぐに納得の空気が広がっていった。
アリスは以前、学校に通いたいと配信で自分の胸の内を明かしたことがあった。学校に憧れているのだ。
「すみません、質問が」
「あ、どうぞ」
参加者の一人が挙手した。
弁護団のスーパーアルバイターだ。
「つまり、アリスさんは26歳、人妻、配信者、女子高生になるというわけですか?」
「今は事実婚で、高校受験を目指してる感じです」
「ぞ、属性が多いですね……」
「属性はどれだけあってもいいですからね」
「あ、はい」
アリスが凄まじく強引に話をまとめた。
スーパーアルバイターもその圧に納得せざるを得なかった。
「まあ、紆余曲折ありましたが、これからも『聖女アリスの生配信』をよろしくおねがいします! かんぱい!」
誠と翔子が、そして参加者たちが飲み物を手に取って高らかに打ち鳴らした。
アリスが日本に来たことによる所々の問題が解決し、ようやく始まろうとしていた。
誠との結婚生活が。
そして新たな目標へ向かう、新しい生活が。