バズれアリス   作:富士伸太

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※ 11/25に書籍2巻発売します。よろしくお願いします。
今回の章の某キャラとかも書籍でイラスト付きで出ていますので、ご興味ある方は手に取って頂けると嬉しいです。


プロデューサーなのに異世界の美少女を娶った罪で、自分が美少女になって異世界迷宮を攻略するお話
◆シェフ・ラビットちゃん デビュー その1


 

 

 

 原初の土。

 

 あるいは賢者の石。

 

 仙丹などと呼ばれることもある。

 

 あらゆる可能性が秘められし物質であり、それに願いを込めたとき万物へと変化する。

 

 黄金。ダイヤモンド。すべてを溶かす強力な酸。不老長寿の薬。あるいは生命そのもの。

 

「それ使ってガレキ作ったんだよね。等身大の」

「おかしいですよね!?」

「怖い怖い怖い。それサラっと言うことじゃなくない?」

 

 スプリガンの言葉に、アリスと誠が度肝を抜かれていた。

 

 今、誠とアリスはマンション生活をしている。すでにアリスが地球に訪れて数か月が経っているが、マスコミやファンが押し掛けることもまだまだあるため、ご近所迷惑を考えて東京某所の賃貸マンションを借りていた。

 

 そこに、『鏡』のレプリカがガーゴイルたちよりもたされた。以前ほど大きな『鏡』ではなく、ご家庭の化粧台や洗面台と同じくらいのものだが、誠たちは不自由なく異世界ヴィマとやりとりをして暮らしていた。

 

 そんなある日、スプリガンがミニ『鏡』の前に変なものを持って二人に見せた。

 

 それは等身大のガレージキット……というかフィギュアだ。

 

 ウサギの耳を付けた可愛らしい女の子であり、更には人間が着るための服も着せられている。コスプレ衣装用のマネキンと表現しても差し支えないだろう。

 

「あ、勘違いしないで。何か人造生物を生み出すとか、妹分の守護精霊を生み出すとか、そういう話じゃないから。そもそも、噂で言われてるほど万能なものじゃないんだよね」

 

 『鏡』の奥のスプリガンが、慌てて首を横に振る。

 だが、誠もアリスも、「また不穏なことを考えてる」という疑念を捨てなかった。

 

「だとしても、一体何をするつもりなんですか? ヤバヤバな物質ってことには違いないですよね?」

「ヤバヤバではあるんだけどさ。これがあるとチュートリアルができるんだよ」

「チュートリアル?」

 

 アリスが首をひねる。

 

「このガレキは今のところだたの土くれなんだけど、あるものが入り込むと生身の人間みたいになるんだ。生命として成立するための最後のピースが足りない」

「最後のピース……?」

「魂だよ」

「魂って」

 

 スプリガンのあっけらかんとした言葉に、誠は逆に凄みを感じて冷や汗を流した。

 

「この人形には人間の魂を入れられるんだ。込められた魂が、人形の体を自由自在に動かせるってわけ。生き霊が憑依するって言うのがわかりやすいかな?」

「……えっちなことする気じゃないでしょうね?」

 

 アリスの言葉に、スプリガンがスンっと冷めた目を返す。

 

「そういうの幽神様がコンプライアンス的に禁止してるからダメです。そういう発想する方がえっちです」

「ちちちちちち違いますぅー! 怪しげな呪術めいた道具を使ってよからぬことをしないか不安だから聞いたんですー!」

「だからチュートリアルだって言ったじゃん。幽神霊廟を攻略するために、ここに魂を封じ込めて戦闘力にゲタを履かせたり、事故って死んじゃうのを防ぐのが目的なんだって。人間を蘇生するのはけっこう魔力使うし本人の負荷も大きいけど、人形だったら魂を元の体に戻すだけだし」

「あ、なるほど。霊廟のチュートリアルとかテストプレイみたいな感じか」

 

 誠がスプリガンの説明に納得して頷く。

 

「だとしても、かわいいウサギちゃんである必要あります? 私イヤなんですけど……コスプレ的な芸は流石に使いすぎると飽きられますし」

「アリスはそうだねー色々着てるもんねー。でも誠は着てないよねー」

「え?」

 

 スプリガンに言われて、誠が間の抜けた声を出した。

 

「ボクもちょっと考えたんだよね。超人気配信者とその運営が婚約発表するのって、配信者としての仁義にもとるんじゃないかなって。アリスの地球の居場所を用意して許された感はあるにしても……ねぇ? 地球の法律とか云々を抜きにして、配信者としての筋の通し方とか視聴者への贖罪ってあるんじゃないかなって」

「待って待って。飛躍してる」

「続けなさい」

「アリス!?」

 

 アリスが椅子に座って手を組み、どこぞの特務機関の司令官っぽいポーズを取る。そして、アリスの言葉に気を良くしたスプリガンが持論を展開していく。

 

「配信者の女の子を奪った責任は、自分が女の子の配信者になることで許されると思うんだ。これをやっとけばさー、後々に響きかねない怨恨も消えるんじゃないかなって」

「スプリガン! やっぱり考えてることやべーよ!」

 

 救いを求めるように誠はアリスを見る。

 

「マコト」

「はい」

「やりましょう」

 

 そういうことになった。

 

 

 

 

 

 ミニ『鏡』も、過去に誠たちが使っていた『鏡』も、物質は通過できても生命体は通過できない。

 

 では魂だけが通過できるのか。

 

「できちゃうんだなこれが」

「そっかー……。無理だったっての期待したんだけど」

「はいはい、諦めて手をミニ『鏡』にくっつけて。それで人形の手と、誠の手をミニ『鏡』越しに合わせて……。で、呪文を唱える。【傀儡操作】」

「えーと、【傀儡操作】」

 

 その瞬間、誠の体が力なく崩れ落ちた。

 まさしく魂が抜け出たかのように。

 

「あっ、マコト!」

「だいじょーぶだいじょーぶ。今のマコトはこっち」

 

 同時に、今まで土くれで塗装さえされていなかったはずの人形の肌が、白めの黄色人種くらいの色へと変化する。髪の毛も、粘土に筋を入れて形状を表現していただけのはずなのに、きめ細かい金色の髪へと変化した。

 

 だがもっとも異彩を放つのは目だ。

 

 瞳が描かれていなかったはずなのに、くりっとした青い瞳が現れた。

 そこには確かに意思が宿っている。

 

「……俺も配信者やってて、Vの者になってバ美肉しようかなって思ったことはちょっとあったよ。あったけど……生身でやるとは思ってなかったなぁ……」

 

 ウサ耳を生やした少女が、元はアリスの部屋だった場所で、おっさんくさい溜め息を深々と吐いた。

 

 

 

 

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