ブラッシュ・アップ・ぼっち!   作:氷英

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感想、誤字報告ありがとうございます!
先日元ネタになったドラマ『ブラッシュアップライフ』が
最終回を迎えました超おもしろかったです(語彙力が迷子)

でもぼっちちゃんの話はまだ続きます。


後藤ひとり2周目Ⅹ

ライブ当日…容赦なく吹き荒ぶ風と横殴りの雨…

わかっていたけどほんの少しだけ…

もしかしたら万が一にも逸れてくれるかも…

と期待しなかったわけじゃない…

台風さん、そんなに毎回律儀に来なくていいんだよ?

 

一昨日みんなで作り、ライブハウス内に所狭しと吊るした

てるてる坊主達は、出勤してきたPAさんを少し

ビビらせるくらいの効果しか発揮しなかった…

結束バンドの皆は今準備中、現在は誰よりも

落ち込んだ様子の店長さんと側にPAさん

私の3人で現状を憂いていた…

 

「結局台風来ちゃいましたね…この様子じゃチケット買った人すら来ないんじゃないですか?皆お客さんの入りを見て心折れなきゃいいんですけど…」

 

PAさんも結束バンドがどれだけ練習してきたのか知ってて心配してくれてるみたい…

 

「…バンド続けてくならこんな理不尽なことたくさんあるんだから…どんな状況でも乗り越えられるようにならないと…」

 

消え入りそうな声でまるで自分に言い聞かせるように言う店長さん…顔を伏せてるから表情はわからないけどきっと今日の結束バンドの活躍を楽しみにしてたんだろうな…

 

「店長ハンカチ使います?」

 

「あっちいってよ…」

 

「あっわっ私皆の様子見てきます…」

 

「あっいやぼっちちゃんに言ったわけでは…」

 

 

 

 

控えにいた4人を見に行くと案の定重い空気が立ち込めていた…

 

「あ~…私の友達も来れないみたいです…」

 

「私の友達も親からダメって止められたみたいです…」

 

「この天気だもんね~しょうがないよ!切り替えていこう!」

 

明るく振る舞ってるけど虹夏ちゃんも相当参ってるよね…

 

「あっあの、皆さんだっ大丈夫ですか?」

 

「あっぼっちちゃんさん、正直厳しいですね…」

 

「お客さん半分以下になっちゃいそうで…リョウ先輩もなんだかいつもよりローテンションに…」

 

リョウさんを見ると、虹夏ちゃんに寄りかかってなんだかダルそうにしてる…

 

「これは低気圧のせい…客の入りとか関係ない…断じて

色々変わってるしちょっと期待してたとかは断じて…ない」

 

リョウさん…ほんのりグレーゾーンな発言してますよ?

1周目ならそろそろお姉さんと1号さん2号さんが

来てくれる時間…今回はどうかな…?

 

「おっお客さん来てくれてるかもですし、みっ見に行ってみませんか?」

 

「お~そだね!」

 

 

 

 

 

「あっ!サーヤちゃん、ひとりちゃん、きたよぉぉ~」

 

全員で戻るとちょうどお姉さんが入ってきたところだった

当然のごとくすでにべろべろに酔っているようだ…

これでもベース弾いている時はカッコいいんだけどな…

 

「あっ!お姉さん来てくれたんですね!」

 

「えっなにお前サーヤちゃん目当てで来たの?」

 

「そうだよぉ!私ら一緒に路上ライブした仲だからね~」

 

この後の打ち上げにも来る気マンマンなんだよね…

この積極性は見習うべきかな?お酒は飲む気になれないけど…

 

 

「ひゃ~濡れた~」

 

「すごい風だったね~あっサーヤちゃん!」

 

「あっ!路上ライブの時の…来てくださったんですね!」

 

よかった1号さん2号さんも来てくれた…!…

 

「もちろん!私達サーヤちゃんのファンだし!」

 

「台風吹っ飛ばすくらい楽しい演奏期待してますね!」

 

「はっはい!」

 

 

さっきまで暗く沈んだ雰囲気だったけど、

サーヤちゃんの元気で明るい笑顔が戻ったことで

全体の士気が上がったようだ…

出番が最初なこともあり、皆はまた控えに戻っていった…

 

この後ちらほらとお客さんはやってきて

全部で20人くらいになった…前回より少し多い…?

 

バイトの私はドリンク係…苦手な業種だけど頑張ろう…

隣に店長さんがついてくれてる

 

「ジンジャエールください」

 

「あっはい…どどっどうぞ…へへっ…」

 

(この子すごくぎこちない笑顔だな…)

 

「ぼっちちゃん接客慣れてきたね」

 

(えっ…あれで!?)

 

 

 

ライブ開始の時間が迫る…皆緊張してるだろうな…

 

 

「1番目に出てくる結束バンドって知ってる?」

 

「知らなーい興味なーい」

 

「だよねー観とくのたるいよね」

 

ああダメ…確かこの時お客さんの入り具合を覗いてたから…

その言葉は虹夏ちゃん達にも聞こえたはず…

当然サーヤちゃんも…1周目はここから皆動揺して

グダグダな演奏になっちゃったんだよね…

リョウさんはここまでの流れはわかってただろうけど

これは回避しようがない…わっ私がなんとかしないと…

 

「どこ行くんだ?」

 

「あっその…」

 

店長さんに止められた…

 

「お客さんがどのバンド目当てに観に来るかなんてお客さんの自由だ…こっちはお金と時間もらってステージ立たせてもらってるんだから文句なんて言えない」

 

「あっ…はい」

店長さん…あのお客さん達をみる目がコワイです…

多分自分にも言い聞かせてますね…?

 

「そんな最悪な空気でもやるしかないんだよ…あいつらは」

 

「はい…」

もう私には見守ることしかできないんだ…

信じよう…今の結束バンドを…

 

 

 

「初めまして!結束バンドです今日はお足元の悪い中お越し頂き誠にありがとうございます~!」

「あはは喜多ちゃんロックバンドなのに礼儀正しすぎ~!」

 

リョウさん…スベるとわかってるのにこの台本変えなかったんですね…1号さん2号さんの愛想笑いしか聞こえない…

前より少しお客さんが多い分ダメージが…

 

 

 

「あっうっじゃあ早速1曲目いきます~これは私達のオリジナル曲で『ギターと孤独と蒼い惑星』です!」

 

 

 

演奏が始まった…ダメだ前回と一緒だ…

虹夏ちゃんのドラムのもたつき…

喜多さんとサーヤちゃんもミスを連発してる

リョウさん…必死で虹夏ちゃんに合わせようとしてるけど

余計にギターとのズレが強調されてる…

みんな練習ではあんなにできてたのに…

完全に勢いが…なくなってる…

 

 

 

「『ギターと孤独と蒼い惑星』でした~…」

 

ああ…またこうなってしまうのか…サーヤちゃんは…

ダメだ、路上ライブの前半の時と同じように下を向いてる…

 

 

「…やっぱ全然パッとしないわ~」

 

「早く来るんじゃなかったね…」

 

「!?…うっ…」

 

皆…このままでいいのか?

虹夏ちゃん!夢を叶えるならそんな顔しちゃダメだよ…!

喜多さん!お客さんの言葉に惑わされないで…!

リョウさん!まだ終わりじゃないよ…!まだ…!

 

 

サーヤちゃん!…私の教えたこと…思い出して…!

 

 

 

 

 

 

ライブ前日

 

「あっあのサッサーヤちゃん、こっこの後少しだけ残れますか…?」

 

「え?はい、大丈夫です!」

 

 

「あっありがとうございます」

ライブまでにやらなきゃいけないこと…最後の仕上げ…

 

「それで何をするんですか?」

 

「あっうん…ちょっと聴いててくれる?」

余計な言葉はいらない…先ずは聴いてもらう

私の100を…guitarheroを聴いてもらう…

普段は2人の技量に合わせてしか弾いていないので

驚くかもしれない…

1周目、『あのバンド』の前に弾いたアドリブ

もう15年前に1度やったきりだからうろ覚えだけど…

 

 

 

 

「ほあぁ…」

 

弾き終わるとサーヤちゃんは驚嘆の声をあげていた

 

「すごい!すごいです!」

 

拍手を送りただただ褒め称えてくれる…ウヘヘ…って違う違う浮かれてる場合じゃない!

 

「あっあのね?サーヤちゃんにはこっ“コレ”をできるようになってほしくて…」

 

「えっ?」

 

すべては明日のために…やってもらうしかない

 

「そっそんな無理ですよ、難易度が高すぎます!しかも本番前日になんて…」

 

言いたいことはわかるよ…でもこれは前日ギリギリじゃなきゃダメなんだ…

 

「だっ大丈夫です…わっ私が言ってる“コレ”はそっそのまま今私が弾いたのをやれってことじゃないんで…」

 

「えーと、どういう意味でしょうか?」

 

「あっその、ラッライブっていうのは当日までほっ本当に何が起こるかわからないんだ…もっもしかしたら全然練習通りに演奏できなくておっお客さんをガッカリさせちゃうこともあって…」

 

「…はい」

 

「そっそんな悪い流れのままだとバンドメンバーもお客さんも満足できなくて…」

 

「はい」

 

「でっでもね?ギターはそっそんな空気を変えることができる…!メンバーもお客さんもぜっ全員巻き込んで…」

 

「はい!」

 

「そっそれがさっき弾いたようなアドリブのソッソロなんです…わっ私は今のサーヤちゃんなら“コレ”ができるって思うんです!」

 

「私が…?」

 

「おっ思い付きで…いいんです…ひっ必要な時が来たらサーヤちゃんの感じるままに今のサーヤちゃんが全力でやれる“コレ”をぶつけてください!」

 

「私の全力で…」

 

「これがきょっ今日私が伝えたかったことです…明日のライブ頑張って…!」

 

「ぼっちちゃんさん…わかりました…できるだけのことはやってみます!」

 

あとはサーヤちゃん次第…打ち砕くか…打ちのめされるか…

 

 

 

 

もうすぐ2曲目に入る…

 

 

「ほっほら喜多ちゃん、次の曲紹介しないと!」

 

「あっはい!つっ次も私達のオリジナル曲で…」

 

 

サーヤちゃんは動かない…どうしたんだ…

今しかない…今やるしかない…なんで下を向いてるんだ…?

君がやるしかない…このまま2曲目に行ったら後悔するぞ…

 

 

「つい先日できたばかりの曲なんですが…」

 

 

前を向け…!お客さんを見ろ…!

君のファンになってくれた2人を見ろ…!

台風吹っ飛ばすくらい楽しくなる演奏するんだろう?

君たちを「パッとしない」と言った人を見ろ…!

このまま本当にパッとしないまま終わるのは嫌だろう?

サーヤちゃん、君が動くしかない…!

やれる…サーヤちゃんなら…やれる!

 

 

…やれ!!

 

 

 

「サーヤ!!」

 

 

 

「!!」

 

声が出てしまった…

私とサーヤの目が合う…ついでにライブハウス中の人達の目線も…うう…恥ずかしい恥ずかしい逃げたい隠れたいこの場から消え去りたい…でも…!

 

私はじっとサーヤの目を見つめ軽く頷く…それだけ

 

「…っ!」

 

しかしサーヤにはそれで十分伝わった

 

ギャァーーン

 

喜多さんの曲紹介を遮って始まるサーヤのギターソロ…

私の時とは全然違うサーヤが今できる最大をぶつけた

渾身のアドリブ…まるで飛び跳ねるように、

まるで軽やかなステップのように、まるで同じ目線で

演奏させてもらっているかのように次々と発する音色

“コレ”にリョウさんと虹夏ちゃんが呼応する…

アイコンタクトでキリのいいところから『あのバンド』

のイントロへ繋げる…喜多さんも気付いてそれに続く…

 

そう、そうだそれでいいんだ…!できたじゃないか!

周りを見渡すと1号さん2号さんをはじめライブハウス内

全員がノッているのがわかる…

お姉さんも店長さんも…もちろん私も…

 

 

 

 

 

「ちょっといいじゃん…」

 

「ね…」

 

 

 

「めっちゃカッコよかった!!」

 

「ねー!!」

 

 

 

「2曲目『あのバンド』でした!」

 

 

皆いい顔してる…あっ

またサーヤちゃんと目が合う…思わずサムズアップ

あっ…そういえばライブ中に大声出しちゃった…

店長さんに怒られる…?お姉さんもこっち見てる…

 

「ひとりちゃん大胆だねぇ~」

 

「まあ、今回は大目に見といてやるよ」

 

「あっはい…」

 

 

 

「じゃあ次、ラストの曲です!」

 

 

 

 

サーヤちゃん頑張ったね…よかった…これでもう大丈夫…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これでもう…




次回 決壊
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