さあ大詰めになってきたよ。
今回の話で原作の時間軸を追い越してしまいます。
ご注意下さい。
ライブ審査当日
会場となる新宿FOLTにはこの審査まで残ったバンドマン達が集まっていて、ピリついた空気を醸し出していた…
私達も今日のライブは悔いなく全力を出しきる所存だ。控え室まで行くと無表情でスマホを弄っている大槻さんと目が合った。一瞬だけ表情が明るくなったかと思えば直ぐにいつものツンとした態度に変わり、私達の側に寄ってきた。
「後藤ひとり!結束バンド!あなた達ならここまで残るって信じてたわ!まっまあ私が唯一認めたライバルなんだから当然よね!もちろん今日のファイナルステージへの切符を譲る気はないからね!」
「あっはい」
大槻さん相変わらず圧がすごい…
「後藤ひとり!なんで毎回少しよそよそしいのよ!そろそろ慣れなさいよ!ちょっと傷つくんだけどちょっとだけね!」
「あっいや…」
「ヨヨコ先輩顔見知りが来て安心するのはいいっすけど悪絡みしたらダメっすよ」
「あっわっ私は大丈夫です。わっ私達もぜっ絶対ファイナルまでいくので…お互い頑張りましょう」
「ぼっちちゃん…そうだね!大槻さん私達結束バンドも負けないよ!」
「この会場からは2組が進めるみたいですしどっちもいけたら嬉しいっすよね」
「ヨヨコ先輩が認めたライバルだもの~。その方が楽しいですよね~」
「結束バンドさんはここで命運が尽きるオーラは出てないわ~」
「…そうね、でも一番になることは譲らないから」
SIDEROSの人達と言葉を交わしていると未確認ライオット運営のスタッフさんが、今日の流れの説明と出演順を決めるために入ってきた。
「…以上で説明は終わります。では出演順を決めますので代表者の方はくじを引きに来て下さい」
出演順…印象に残りやすい最初か7番目が好ましいけど。
「伊地知先輩、絶対トリで!」
「緊張せずに他のバンド見たいですし最初がいいです!」
「微妙な順番はやめてよ?」
「任せろーい!」
張り切ってくじを引きにいったけど結果は…
「5番…」
「微妙ですね」
「絶妙に印象に残りにくい順番ですね」
「夏終了か…」
「くじ運なくてごめんね!でもやる前から決めるなー!」
確かに5番目は微妙かもしれないけど、それでも1番盛り上がるライブをすればいいんだ…!私達が一致団結すれば…できる!
そしていよいよライブ審査が始まる…
「全国の10代バンドからまだ見ぬ才能を発掘するこの未確認ライオット!3500を超えるバンドが応募してくれたぜ!この東京会場からファイナルステージに進めるのは2組だけだ!」
司会進行のお兄さんの煽り文句にお客さん達の熱気も上がっていく…もちろん出演者の私達も…。
「君たちが次世代バンドの最初の目撃者になるんだ!最後まで楽しんでいってくれ!じゃあオープニングアクトはゲストSICK HACK!会場を温めてくれ!」
お姉さんなんだかんだで大役任されてカッコいいな…
「うぇ…二日酔いなんでエチケット袋持ちながら歌わせてもらいます…吐いたらごめんねぇ~…」
「廣井姐さん…」
「それでこそSICK HACKの廣井きくり」
「ファンとそうじゃない人で反応がハッキリ分かれるバンドですね」
カッコいい…?
斯くして始まったライブ審査。トップバッターは以前同年代バンドを調べたときに名前が上がっていたケモノリア。司会者のキュートでポップでロックという謳い文句が本当にしっくりくる。新時代の音楽をお客さんがノリやすいように演奏して会場を熱くさせている…。人気と実力を兼ね備えているのも納得できる。
2番目はSIDEROS。前のバンドや後から出てくるバンドとか関係なく、今日のライブを1番盛り上げてやるんだという想いが垣間見えた。大槻さんの言う「一番になりたい」がただ思ってるだけじゃなく、それに裏打ちされる努力と練習によるバンドの完成度がこのライブの圧倒的な盛り上がりに現れている…。掛け値なしに…上手い。こんなすごいライブの後に私達が良い演奏できるのか…
ってきっと1周目の私だったら思ってただろう。しかし私は3周目!あと30回くらい掌に“人”って書いて飲み込めば大丈夫大丈夫…あんなに練習したんだから…
「ぼっちさん一心不乱に手に人って書いてますね」
「人肌が恋しいんだよ」
「普通に緊張を解そうとしてるのでは?」
「ぼっちちゃん大丈夫?」
「あっはい」
「うん、…じゃあ出番の前に輪になってオーッ!ってやつやろっか!」
「いいですね!」
「やりましょう!」
「えー暑苦しい…」
「いいから!ほら、ぼっちちゃんも」
「あっはい!」
5人が輪の形に並び、全員の右手を前へつき出す。
手首にはお揃いの結束バンドが巻かれている。
「じゃあいよいよ本番だけど、ファイナルステージ通過かどうかとかは置いといて、今の私達にしかできないライブを…楽しもう!」
「はい!」
「はい!」
「ん」
「あっはい」
「いくぞ!結束バンド~」
「「「「「(おっ)お~!」」」」」
あっ今すごく結束してる感がある。1人じゃない。バンドやってるんだから当たり前なんだけど改めてその幸せを実感した気がする…。
私達の演奏は過去1盛り上がったと言っていい。それぞれが最高のパフォーマンスを発揮できたと思う。私もいつもより緊張しなかったかもしれない…。たくさん“人”を飲み込んだおかげ…いや路上ライブやブッキングライブで度胸がついたからかな?お客さんの中にはSIDEROSとケモノリアで決まりみたいな意見の人もいたけど、私達結束バンドのことも充分にアピールできたと思う…。
全バンドの演奏が終わり、後は投票結果を待つばかりだ。ステージのライトが司会者を照らすと、観客のざわめきが一瞬止まる…。
「それではみんなお待ちかねの結果発表だ!未確認ライオットファイナルステージに進む栄えあるバンドはーーっ…!…SIDEROSと…結束バンドだ!」
ステージに上がった虹夏ちゃんと大槻さんがお客さん達の歓声に笑顔で応える姿をファイナルに進めた喜びを噛み締めながらメンバーと眺めていた…。ついにここまで来たんだ。ファイナルは今までの比じゃないくらいの人数の前で演奏する。あっ…体が震える…むっ武者震いかな。
そして迎えた未確認ライオットファイナルステージ…
全国から選ばれた実力者達が一堂に会する一大イベント。その中に私達結束バンドが参加できているという奇跡…。特設ステージには先に出番のSIDEROSが演奏前の挨拶をするところだった。
「あー、SIDEROSです。観客の皆、暑い中朝からお疲れ様!…今立ってるこのステージを目指したバンドをたくさん見てきました。…いいバンドばかりだった。それを退けて私は今ここに立ってます。…それに自分が認めざるを得ないくらい凄いギタリストにも出会った…。今日その人と雌雄を決することになるでしょう。だから私達が背負ってるものや意気込みが半端ないの!初っ端から死ぬ気でトばすから!最後までついてきなさい!」
堂々たる風貌から発せられた口上は、数千人の観客が沸くのに充分な効果があった。間髪いれずに始まった演奏がそれを助長する。今までならその迫力に気圧されて萎縮するところだけど…。
「さすがSIDEROSだね~。でも私達は私達らしいライブで盛り上げよう!そんで楽しもう!」
「ですね!」
「ですです!」
「もう優勝しか見えてないので」
「あっはい」
私達の出番はSIDEROSの次…大槻さんが言ってくれた「凄いギタリスト」が私のことなのだとしたら…応えなきゃ。
「あっあの演奏前にわっ私に一言時間もらえませんか?」
「えっ大丈夫?お客さんSTARRYの10倍くらいいるけど」
「あっはい」
「何かあったら私達がフォローしますよ」
「あっお願いします」
「ぼっち…一発かましてやれ」
「はい!」
そして結束バンドの番になり、喜多ちゃんの挨拶で私からの一言に繋げてもらう。
「あっえっと…私がここに立てるようになるまでたくさんの障害がありました。それはもう、言葉では表現しきれないくらい…でっでも、諦めずに足掻き続けて今では頼れる仲間がいて、こんな私のことをライバルだって言ってくれたすっ凄いギタリストとも出会えました…それら全部が私にとって大事なもので…成長に繋がりました。このライブでその成長を見せようと思います…けっ結束バンドの結束力…観てください!!」
大槻さんくらいスラスラと言えなかったけど観客の皆には想いは伝わったみたいで、喜多さんの曲紹介から始まった1曲目から会場全体が大いに沸き上がった。私が見たかった光景…チヤホヤされたいという願望が今叶っている。演奏している5人全員に向けられた歓声が止まない。楽しい、楽しい。ただ無我夢中で掻き鳴らす。まるで夢のような、永遠にも思えた時間はあっ言う間に過ぎて…。
陽もすっかり傾き、未確認ライオットの全日程は終了。私達は撤収作業中のステージをぼんやりと眺めていた…。
「終わったね~未確認ライオット」
「ですね。あっという間の半年でした」
「…」
「負けちゃったね~やっぱりSIDEROSは強かったね…」
「大槻さんのドヤ顔がすごかったですよね」
「…」
「でも結成1年ちょっとでここまで来れたのは大躍進と言っていいよね!」
「準優勝は上々の結果。つまりサイン付きの物販の価値が爆上がり確定」
「…」
「だからさ~ぼっちちゃん。そろそろ泣き止んで。ね?」
「うっ…うっ…でもやっばりぐやじぐでー…」
「ありがとうねぼっちちゃん。私達の分まで泣いてくれて。私も悔しい気持ちはあるよ?でもそれ以上に嬉しいんだ!多分…て言うか絶対にぼっちちゃんがいなかったらこんな大舞台に立つことなんて夢のまた夢だったよ」
「ひとりちゃんが先生になってくれなかったら…いやそれ以前にひとりちゃんが私のために動画あげてくれなかったら私逃げっぱなしの人生だったわ!ありがとう!」
「それを言うなら私もですよ。ぼっちさんがいてくれたから私は途中で投げ出さずにギターを続けることができたんです!」
「ここからもっと売れよう。ぼっちと私達の戦いはこれからだ!」
「びなざんー…ありがどうございばず…」
「ほらぼっちちゃん、これで涙と鼻水拭いて」
「入りづらいわね…後藤ひとり!えっと…大丈夫?」
「あっ…はい」
「そう、それじゃあ。…ん!」
大槻さんは右手を差し出してきた…
「握手よ。こういう時はお互いの健闘を称え合うものよ!ほら」
「あっはい」
大槻さんの手が…何か手汗がすごい。
「いいライブだった!どっちが勝ってもおかしくなかった。…だから今回でバンド辞めちゃうとかはなしだからね!絶対良いバンドになるから続けなさいよ?」
「あっはい」
そうか大槻さんなりに私を励まそうとして…
「ありがとうございます」
「…何か手がしっとりしてるわね」
「あっさっきまで号泣してたんで多分涙と鼻水が…」
「うわ汚っ!」
「あっ!いたいた。皆さーん!」
声の方を振り向くと、そこには佐藤愛子さんもといぽいずん♡やみさんと隣には知らない女の人がこっちに歩いて来るところだった。
「やっと会えたわ!今日のライブ最高でした!しっかり記事にしますよ。もちろん以下略です!それと今日はこの人を紹介したくて探してたんです」
「ストレイビートというレーベルでマネジメントをしています司馬都と申します。以前からMVやライブを観て気になっていたのでお話しできたらと思っていました」
れえべる?えっ?
「「「「「レーベル~!?」」」」」
そこからの私達は破竹の勢いで駆け抜けた…未確認ライオット準優勝、そして前々からぽいずんさんの記事で知名度が上がってきていたところにミニアルバムの販売で一気にブレイク。メジャーデビューまでに時間はかからなかった。確実に結束バンドが最高のバンドへの階段を登っていっていると実感することができた。そして、あれよあれよという間に3年の月日が流れた…。
「え~…もう何回目かはわかんないけど結束バンドメンバーミーティング~拍手!」
「「わー」」パチパチ
「腹へった…」パチパチ
「あっはい」パチパチ
「先ずは皆、アルバムのレコーディングお疲れ様!来る12月27日に結束バンドのファーストアルバムその名も『結束バンド』がついにリリースされます!はい再び拍手!」
「「「(わっ)わーい!」」」パチパチパチパチ
「ネーミングセンスよ」パチパチ
「いいの!最初はバンド名を前面に押し出す方向でいくんだから!それからこれはまだ話が来てるってだけなんだけど来年の秋放送のアニメのオープニング主題歌のお話が来てます!」
「「「おー!」」」
「マジかこれは売れたなちょっと楽器屋行ってくる」
「おい待て。まだ話が来てるだけだよ!それに今までみたいに自分達だけで曲作れるわけじゃないからね!ちゃんとそのアニメの作風とか世界観とかに寄り添った曲作らないとダメだからね!」
アニメの主題歌か…初めてのことだけどすごく楽しみだ。
「どんなアニメなんですか?」
「えっとね~タイトルは『ブラッシュ・アップ・ロック!』っていって売れないミュージシャンが自分のバンドを売れさせるために何度も人生を繰り返すアニメだって!なんだかぼっちちゃんとリョウみたいだよね」
確かに何度も人生を繰り返してるところなんか私達そのものだ…これなら作詞もしっかり感情移入して書けそう…。
「これは私達の腕の見せ所。頼むぜぼっち」
「あっはい」
そこからさらに10ヶ月後…
今日は『ブラッシュ・アップ・ロック!』の放送日。私達結束バンドがオープニング主題歌を歌う深夜アニメ。この日は皆で集まって上映会をする予定で、私は会場となるSTARRYへ向かう途中だった。信号待ちに差し掛かったタイミングでイヤホンを着けて音楽を流す。アルバム『結束バンド』の1曲目『青春コンプレックス』のイントロが始まる…。もう何千何万回と聴いたし弾いてきた…だけど…いやだからこそこの曲が大好きだ。もう少し音量を上げよう。喜多ちゃんの歌声が心地良い…目を閉じて曲に没頭しながら今日のことも考える…今日の上映会のために店長さんが大画面モニターを用意してくれたらしい。それだけ楽しみにしてくれてるということだよね。ウヘヘヘ。私も楽しみだな…。全国放送で結束バンドの名前が出るんだ。..ブナイ!なんなら作詞者と作曲編曲者は個人名が出るから私とリョウさんはもっと有名になっちゃうな…へへ..ニゲロッ!!…え?
せめて目は開けておくべきだった…そうすればわき見運転で突っ込んでくる大型トラックから逃げることはできたはずなのに…
曲が止まり、思わず目を開く…飛び込んだ光景は信号待ちの交差点ではなく何もない真っ白な空間…見覚えのある真っ白な空間。瞬間理解する。しかし信じたくない。息が荒くなり走り出す…。目の前に現れたのはいつもの案内所。男が事務仕事中なのもいつも通りだ…。
「あのっ!」
「それではですねここにお名前と生年月日の記入をお願いします」
「あのっ!こっここにテレビはありませんか?」
「テレビですか?ないですけど」
ないと言われて引き下がれる訳がない。
「あっあの、今日私達が主題歌を担当するアニメが放送されるはずだったんです。皆でSTARRYで見ようって、集まるはずだったんです!」
「そうですか」
「全部じゃなくていいんです。せめてオープニングの『結束バンド』のクレジットが出るところだけでも見せてもらえませんか?」
「いや、無理ですね」
「そっそこなんとか」
「いや、無理です」
何度お願いしても答えは変わらなかった…。私はその場に泣き崩れる。
「うう…せっかく…91.2%の壁を乗り越えて…メジャーデビューもして…これからって時だったのに…」
「あのー、お名前と生年月日の記入をお願いします」
ああ…この人はこの人の仕事をしてるだけだ…まだ全然心の整理はついてないけど…
「…はい」
「では後藤ひとり様20年間お疲れ様でした。それでは新しい命にご案内しますね」
新しい命…もういいか。まだまだ途中だったけど、それでもほぼ理想通りの人生を歩めたんじゃないかな…もう来世にいってもいいんじゃないかな…
「あっ来世ってどうなってますか?」
「えー…後藤ひとり様の来世は…人間ですね」
「えっ人間ですか!?」
「はい、そのようですね。おめでとうございます」
また人間になれる…それならもう来世でいい…いいよね?私充分頑張ったよね?
イヤだ…
イヤだ…
イヤだ…
まだ私は後藤ひとりでいたい。後藤ひとりでギターを弾いてバンドをやって皆でチヤホヤされたい!例え来世が人だったとしても別人になるなんてイヤだ!
「もう1周…できますか?」
「できますよ」
「あっじゃあもう1周します!」
「かしこまりました。…ちなみに後藤ひとり様これで最後になります」
「あっえっ?さっ最後?」
「はい、最後の場合は伝えておくことになってまして。どうされますか?」
最後…つまり泣いても笑っても正真正銘次がラストチャンス…もしかしたらまた15歳で死んじゃうかもしれない…バンドに入ることすらできないかもしれない…でも…それでも!
「…もう1周…します」
「かしこまりました。それでは後藤ひとり様から見て右の扉入っていただきますともう一度人生が始まりますので」
「はい!」
「いってらっしゃいませ」
私後藤ひとりの最後の人生…精一杯生きてやる!!
次回 ブラッシュ・アップ・ぼっち!
↓おまけ
山田リョウ5周目終了時
「えー…山田リョウ様の来世は…人間ですね」
「えっ…人間…?」
「はい、どうされますか?」
「…もう1周できたりしますか?」
「できますよ」
「…じゃあそれで」
「かしこまりました。…ちなみに山田リョウ様これで最後になります」
「えっ最後?」
「はい、最後の場合は伝えておくことになってまして。どうされますか?」
「…もう1周します」
「かしこまりました。それでは山田リョウ様から見て右の扉入っていただきますともう一度人生が始まりますので」
「……ぼっち、もうこれっきりだからな…!」