十年ぶりに会った幼馴染がぶっ壊れてたんだけど 作:村岡サン
ガタンゴトン、ガタンゴトン、電車が不規則に揺れる音へ耳を傾けながら、高速で過ぎ去っていく町々の景色を眺める。
町々というと少し語弊があるかもしれない。今俺の視界のほとんどをを占めているのは田と畑で、それを町と呼ぶには少し、いや、かなり無理があるだろう。
「今日でこのクソ田舎ともお別れかぁ」
俺しかいない電車の中で、ポツリとつぶやく。
人っ子一人いるのすら珍しいクソ田舎生活も昨日でおしまい。ここから出ていくのは念願だったことだけど、いざ離れるとなると少し寂しいような気もする。
いやはや、長いようで短か……いや長いな。なんだかんだで人生の半分以上を過ごしたんだからな。
親の仕事の都合で爺ちゃんのいる限界集落に飛ばされてから約9年。爺ちゃんが死んだので、流石に中坊一人であの雄大な自然をたくましく生き抜くのは難しいだろうと判断した両親が俺用に賃貸を用意してくれたらしい。正直な話、不便極まりないクソド田舎生活にいいかげん嫌気が差して来ていたのでタイミングとしては完璧だ。しかし忘れてはならないのは、俺を爺ちゃんの村もとい超原始的監獄に放り込んだのも父さんと母さんだということだ。
「仕事で忙しかったのは分かるけどなぁ……」
住処を提供してくれることには感謝するが、俺の育児を放棄して認知症のボケジジイに押し付けた罪はまだ清算されきってねぇからな。
「あ゛ー……」
脳内で浮かび上がってきた、のほほんと笑うの両親に中指を立てて、それから「はぁ」とため息をついた。
「なんか、なんでこんなに気が立ってるんだ?」
自分でも何故か分からないが無性に腹が立つ。湧きどころの分からない謎の怒りに、余計に腹が立つ。悪循環とはまさにこのこと。
席を立ち上がって頭をクシャクシャ掻き毟り、人がいないのをいいことに大声で叫ぶ。
「あぁもう、よくわかんね!寝る!」
ドカっと座席に座り直し、ふんっと鼻息を吐いて目をつむる。降りる駅までかなり時間はあるし、とりあえず寝たらこのムカムカも治まるだろ。
◆
「こっち!」
「あはは!まってよ〜」
それは確か、物心ついて間もないくらいに小さな頃の記憶。朧気に憶えている彼女との細やかな一時。
名も分からぬ公園の草原で、走り回って笑い合う、二人の幼い少年少女。あるいは、俺と彼女。
ひとしきり笑って、二人ともちょっと落ち着いてきたところで、少し青臭い原っぱに手とお尻をついて座り込んだ。
隣に座り、楽しげな笑顔をさかせる彼女―――まふゆに声を掛けると、彼女は可愛らしくこてんと首を傾げた。
「なぁまふゆ。しってるか?けっこんっていうのをすると、ずっといっしょにいれるんだぜ」
なんとも突拍子が無い言葉。幼子特有のどこが話の切り口になっているのかわからないあれである。
「えっ!ずっといっしょにいれるの?」
「うん。ずっといっしょにいれる」
「じゃあわたし、じゅんくんとその、けっこん?したい!」
「きぐうだな。おれもまふゆとけっこんしたいとおもっていた」
「ほんと!?じゃあじゃあ!」
「ああ、けっこんしよう」
「やったー!」
この時、お互いの母親が俺たちの後ろであらあらまぁまぁうふふふふなんていって口元に手を添えていたのは、幼い自分には理解出来ない行動だった。だから、なにしてんだこいつらみたいな視線を送ってたと思う。
「うれしいか?」
「うん!」
「そうか。やはりおれたちはきがあうな。おれもうれしいぞ」
「えへへ、じゅんくんとずっといしょ」
まふゆの浮かべた太陽のように暖かくて眩しい笑顔は、色気のいの字すらわかっていないクソガキだった俺の鼓動すらも、キュンと高鳴らせた。
◆
『次は〜〇〇。次は〜で〇〇でございます。トウキョウ□□線にお乗り換えのお客様は、当駅をご利用ください』
「ふがっ」
鼻提灯がぱちんとわれて、目が覚めた。
大きくあくびをかきながら電車内を見渡す。
ふむ、随分と人が増えたな。都心に近付いている証拠か。
人がたくさん乗っている電車に半ば感動を覚えつつ、次に乗り換える駅を確認するためにスマホを起動する。
スマホが立ち上がるまでの時間、少しだけ空いた間を利用して思考する。
さっきは、随分と懐かしい夢を見た。あれはいつ頃のことだったろうか。
思い出そうとしても、蘇ってくる記憶の中にあの日の時期が分かるようなものはない。
俺的には、小学校に入ったばかりか入る直前くらいのことだったかなという気がしなくもないが、正確性は無いので信用には値しない。
そういえば、まふゆは元気にしているだろうか。
俺の夢、というか記憶?の中にも出てきた少女。彼女の名前は朝比奈まふゆといって、家が近かったということが縁のきっかけになった俺の幼馴染だ。
小さい頃はよく近くの公園に出て一緒に遊んだり、互いの家に遊びに行ったりと、かなり仲良くさせてもらっていたと思う。結婚の約束するくらいだし、相当仲が良かったというのは間違いないはずだ。
しかし、所詮は全て若気の至りならぬ幼気の至りだ。俺はまふゆとの約束を覚えているからといって、彼女の方も約束を覚えているとは限らない。なんなら忘れている可能性のほうが高いだろう。
まふゆとは、俺が地方に飛ばされてから一度も会っていないし連絡も取っていない。いわゆる音信不通状態だ。彼女の方から俺に会いに来たり電話してきたり、コンタクトを取ってくることはまずないだろう。逆に俺が彼女に会いに行くとなったところで、もちろん朝日奈家の住所は知らないし、仮に知っていたとしても朝比奈一家がまだそこに住んでいると絶対に言い切れることもない。それに彼女の電話番号も知らないし、俺は今、彼女がどこで何をしているのかも分からない。
つまり、まふゆと俺の縁はほぼ完全に切れていると言っても過言ではないだろう。
ま、だからといって何かあるとかそういうわけではないんだが。彼女が健やかに育っていてくれればそれでいいかな。特に俺に関係あることではないけど。
乗り換えまであと数分の時間がある。眠るにはちと短すぎるので、スマホをいじって暇をつぶすとしよう。
◆
「ついっ……たぁ……!」
某買収された青い鳥アプリではないぞ。
さて、ようやっとシブヤに到着した。ずっと電車に乗っていて、座っていただけなのに結構疲れが溜まった。慣れない人混みのせいだろうか。
「ふむ」
片手に持ったスマホを見つめる。地図アプリだ。
親が送ってきた住所を入力してナビを開始すると、青色の矢印が俺の進むべき道を示してくれるのでそれに従って歩きだす。
改札を通過し、中央にハチなんとかみたいな名前の犬の像が鎮座している広場に出る。
感嘆の声が漏れた。
「おお」
なんかこう、いろいろとデカイ。ビルなどの建物はもちろんのこと、街を歩く通行人たちの背中も大きい気がする。多分それは、今まで住んでいた環境に腰の折れ曲がったジジババしかいなかったからだと思う。
「行くか」
シブヤという大都海へ足を踏み出す。気分はさながらコロンブス。それともはたまたナポレオンか。まだ見ぬ住処を求めて歩みを進める。右も左もわからない。土地勘は無論0。頼りになるのは発光する縦長電子板だけ。さぁどうする……なんて。そうはいっても、この電子板が便利すぎて俺の大冒険はだいぶ甘口なものになりそうだがな。
◆
「ここ……であってるのか?え?ほんとうに?」
スマホの地図アプリと俺の眼前にそびえ立つ一軒の住宅を何度も何度も、交互に見る。しかし、いくら確認し直したって、このポンコツスマートフォンはこの建物が今日からお前の住む家だと言って聞かない。
「ここであってるなぁ……クソ」
観念して、ため息をついた。それから、近所迷惑にならない程度の声で叫んだ。
いやここ……
「―――実家じゃねぇか!!!」
何故だ。話が違うではないか。一人暮らしさせてくれるって話じゃなかったのか。
第一俺はまだ両親を許していない。正直顔も見たくないくらい嫌いだ。それなのに両親と同居とかマヂ無理。いや、本当に。
うがーっ、と俺が一人で騒いでいると、通知の音がスマホから鳴った。
確認してみると、それは母からのメッセージだった。
『ごっみーん★間違えて私んちの住所送っちゃってたぁ(*ノω・*)テヘ。今正しい住所送ったから、そっち行ってねー』
狙い撃ちをしたかのように完璧なタイミングで送られてきた謝意が一切感じられぬ星と顔文字が添えられた文章。
この母親、クソアマである、紛うことなき。
今、額に青筋が浮かんでいるのがわかる。
どうしようもないくらいスマホを地面に叩きつけたい。iPhoneメンコしたい。
だが俺はTPOくらいわきまえられる男だ。衝動的なそれをぐっとこらえた。手に力が入り、わなわなと震えている。
スマホに新しい住所が送られてきたことを確認すると、俺はため息をついた。幸い、ここからそう遠くない場所だった。
当邸クソ実家に背を向け、表札に唾でも吐き捨ててやろうかと思ったが、それは流石にやめておいた。俺はTPOくらいわきまえられる男なのだ。
「ふぅぅぅぅ……」
胸に溜まった怒りを空気と共に吐き出すように深くため息をついた。
空を見上げる。
あたり一面、目が覚めるような青色だ。
今度は、視界を下に落としてみる。高級そうなアッシュグレーの石が目に映った。
玄関アプローチを出て道路に立つ。
地図アプリによるナビを再び開始する。
さぁ、今度こそだ。矢印の方向に体を向けて、歩き出そうと顔を上げた。
一瞬、思考が止まった。
顔を上げた先には、一人の少女が立っていた。見覚えのある少女だった。
深く艷やかな紫の髪と、それと同系色の瞳。髪は昔と違ってひとつ結びのポニーテールなっていて、長さも随分伸びている。背は伸び、実るところはたわわに実り、どこかの高校のものであろう制服を身に纏った今の彼女は髪の色がなければ誰だか見当もつかないくらいに大人びていた。
「まふ……ゆ?」
口からついて出るとはまさにこのこと。無意識のうちに彼女の名前を読んでしまっていた。
おいおい、急展開が過ぎるだろう。脳の処理が追いついていないぞ。
俺と同じように、呆気に取られたような顔でこちらを見つめるまふゆをこちらからも見つめながら、そう思った。
―――俺こと
はてさて、これからどうなることやら。
Q.今まで書いて投げっぱなしにしている作品の数は?
A.ギリ両手で数え切れるくらい。
はい、書き溜めとか何もないです。次回更新も未定ですが連載です。よろしくお願いします。