~青い月に恋した紅い未亡人~   作:しじみ酢

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Mémoire1 Luna Rossa ―花月夜―

~青い月に恋した紅い未亡人(ヴァンピール)~

 

此処はあらゆる世界式が書き換わった事で、人間とは異なる種族【吸血鬼(ヴァンピール)】が産み落とされた世界。

 

そんな世界のすみっこにて、むかしむかし独りぼっちのヴァンピールは夜空をさも切なそうに見上げていました。

 

其処には不吉、禍、悲劇の象徴だと忌み嫌われ続けていた「青い月」が浮かんでいます。

 

「綺麗ですね。でも……誰からも愛されない、嫌われ者。……そう、私と一緒で哀れで、可愛そうで、空しいだけの存在」

 

紅い喪服を着た“未亡人”へ、優しく擦り寄ってみせる様に。

 

 

 

 

「ハハ……随分と口が悪いじゃないか。紅い未亡人、いやご婦人と言うべきかな」

 

 

 

 

紅い彼女の冷たい反応にも関わらず、青い月はほんの僅かの微笑も浮かべてみせます。

 

 

「折角、君を救いに参上したと言うのに。ああ、そうだ! オレが、その胸に空いた隙間を埋めてやる……!」

 

 

 

これは青い月と紅い未亡人の二人が、歩き、探し、踊り、誓うまでのお話――。

 

「いや、違うな。此処は貪り、解し、捥ぎり、融け合うまでって言う表現の方が合っているぞ。キミとオレに」

 

「あの、先程から言いたかったんですけど……そう言うの止めて貰って良いですか? このお下劣品性皆無の欲情丸出し男が」

 

そう言って、この私ファニー・スぺクルムは目の前の男性ヴァニタ

 

 

 

 

 

「これでも喰らえ……! 憎まれっ子のヴァニタス!」

 

 

 

 

 

しかしそんなむかしむかしのラブロマンスおとぎ話を切り裂く様に割って入るのは、一人の可憐な女性。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて残念ながら、~青い月に恋した未亡人(ヴァンピール)~を呑気に読み聞かせている場合では無いらしい。

 

と言う訳で、急遽お話を変える事にしよう。

 

 

 

 

 

 

――時は十九世紀。此処は、幻想的な月夜がよく似合う花の都パリ。

 

二つ名の通り今日も今日とて、色とりどりの花びらがあちらこちらと派手に舞い上がる。

 

しかし今宵、舞って上がるのは紅一点の血飛沫だけ。

 

「何だかやばいな逃げるぞ、ノエ……!」

 

「はあ、全く……なんでこうも騒がしいんでしょうね。このパリって街は」

 

「ははははー! それだけ淫らなのだろうなあ。お前達、吸血鬼(ヴァンピール)が! このスケベ!」

 

「え、何言ってるんですか、そんな訳無いじゃないですか。……初めて見た時は凄く素敵な街だと思ったんですけどね。正直、まだ全然観光すら出来てないですし、話題のスイーツである甘い甘いタルトタタンも食べてないですし、それにまだ先生の……」

 

「え、ええ……。あ、あの……ノエが一番騒がしい気がするんだけどなー……オレの気のせいかなー……」

 

本来は、人っ子どころかヴァンピールっ子も静まり返っているはずのパリ大通りにて。

 

どっちもどっちだと言いたくなるほどに煩いやり取り、もといイチャイチャをこれでもかと彼等二人は見せつけていた。

 

名前はそれぞれ淫らじゃない人間がヴァニタス、淫らなヴァンピールがノエ。

 

ヴァニタスは純度100%の闇夜を溶かした様な暗い黒髪、そしてどこかで浮かんでいた様な蒼き瞳が特徴的な青年。

 

一方のノエは、純粋100%の真昼を照らした様な明るい白髪、そしてより健康的に見える褐色が特徴的な青年。

 

そんな青年コンビは今、パリを騒がしているヴァンピール事件【九人殺し】について調査を行っていた。

 

探偵でも警察でも処刑人でも無いのに、何故か。

 

 

 

「ルカ様、どうかご命令を。あの二人を嬲る……ご命令を」

 

 

 

そして、折角語る予定であったおとぎ話を破ってしまった彼女の名はジャンヌ。ちなみに澄ました顔をしているが、ヴァンピールなので多分淫らであろう。

 

ジャンヌは白みがかった薄桃色の髪がよく似合う美女だ。しかし一番の特徴は、右手に展開される紅く巨大なガントレット。なんと、これで千を超えるヴァンピールを皆殺しにしていると言う。

直、今回お騒がせの九人殺しの犯人とは一切関係ないのであしからず。

 

「お願いです……。彼からヴァニタスの書を奪い取って下さい!」

 

そんな彼女の紅くない方の腕を力強く握るのは、ルカと言う名の少年。当然と言えば当然だが、めっちゃくちゃちっこい。ちなみに彼の付き人の役割を果たしているのが、当のジャンヌだ。

 

そして彼女が二人に我慢できず嬲りかかる理由の方は、ヴァニタスが持つ一冊の書物が役割を果たしていた。

 

「嫌だ! 理由は知らんが、この本を貴様の様なガキの玩具にされては敵わんからな!」

 

「……貴様」

 

ジャンヌはヴァニタスのなめ腐った態度に対し、刹那すら置き去りにする速度で激高。

 

タルトタタンと違い、甘くない甘くない吐息と共に殺気を放ちながら、備えられたガントレットの掌を二人に向けて静かに構える。

 

 

 

 

 

 

――――――――――これでも喰らえ、憎まれっ子のヴァニタス。――――――――――

 

 

 

 

 

 

パリを二分に切り裂くが如く、彼女のガントレットから放たれたのは一筋の強大な光線。

 

 

 

 

 

 

「どうやら、こちらの話は聞く様子が無いみたいですね。全く、都会のヴァンピールは話を聞かなすぎじゃないですか。でもとりあえず、ヴァニタスの言う通り撤退した方が……」

 

「ああ、それね。オレはさっきの発言を撤回しておくよ。やっぱり逃げなくていいみたい」

 

「……え、何言ってんすかアンタ」

 

 

 

そしてヴァニタスの言葉通り、夜空を裂き乱れる一線に輝く光は彼等に当たること無く消滅してしまった。

 

「……っ!? な、何を……!」

 

その理由は、上の方角からこれまた強大な衝撃波を光線にぶつけて見事、完璧なまでに相殺させたからだ。

 

 

 

 

 

「だ、誰ですあの人……?」

 

「あれ、言ってなかったか。じゃあ、丁度良い機会だ。オレの愛しい付き人さ!」

 

 

 

 

 

「相変わらず、風紀が乱れていて何よりですね。ヴァニタス」

 

 

大通りに属する建築物の屋上からは、錆びに塗れた巨大槍を片手で軽々持ちあげる赤髪の美女が主にヴァニタスを見下していた。

 

 

 

 

――そう、彼女を歓迎するかのような紅い月を背に。

 

 

 

 

「私の名はファニー・スぺクルムと言います。まあ……ヴァニタスよりもジャンヌさんの方が仲良くなれそうですけど」

 

 

 

 

さらに彼女の二つ名は――、紅い未亡人。

 

 

実は、あのお話。まだ途中部分しか完成していない。

 

 

何せまだ、ヴァニタスとファニーは現在も多くの喧騒とほんの僅かの微笑に塗れながらも旅路を続けているのだから。

 

そしてこれは……青い月が紅い未亡人を、この手で殺すまでのお話。

 

それでは、~青い月に恋した紅い未亡人(ヴァンピール)~のはじまりはじまり。

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