復刻はよ
冒険者という職業がある。
それはこの世界では割とポピュラーな職業であり、多くの民衆の人気を得ている代物である。またそれを分かっているのか国家を超えてそれを支えるべく『冒険者協会』なる組織まで存在する。そしてこの冒険者という職業、腕利になると巨万の富と、そして羨望の目を向けられるというわけで、まさに『一攫千金』の象徴、成り上がるためのものとなっているのだ。
そして騎士。
この国には統治組織である騎士団が存在し、こちらもまた民衆の憧れとなる存在である。まあこっちは冒険者とは違って選抜試験だのなんだのがあるのだが…その代わりに受かってしまえば戦いに身を投じなければならない代わりに国家からのその身の保証と、そしてその身にとてつもない名誉が授けられるのである。
さて、ここまで長々と話してきたが、
「…いた。」
この世界はそれ以外の職業に就いている者の方が圧倒的に多かったりする。
木々の隙間から光が漏れ、あたりに鳥の囀りが響く。そんな森の中のとある木の下の茂みの中に1人の男がいた。彼はその手に持ったライフルのスコープにその目をあてがったまま、まるでその身が石像であるかの如くピクリとも動かなかった。
そんな彼の視線の先にあるのは、三羽の鳥。果たして鶴か鷺か…詳しくはわからないが、本来水辺にいるこの鳥が森の中にいるのは珍しいことだった。そしてこの珍事態において、彼はそのうちの一羽を仕留めんと虎視眈々と狙いを定めているのである。
「……………。」
彼の存在に気がついているのかいないのかは分からないが、その
そしてそれがその鳥の最期の動きとなった。
わずかな音がした後に、明後日の方向を向いた鳥の首元から鮮血が吹き出した。その美しく白い羽を真っ赤に染めて、鳥は地面へともんどりうった。鳥を襲ったのはそれほどに速く、そして鋭い一撃であったのだ。
仲間が慌ててその場から飛び立っていく中、動かなくなった鳥の元へと先程ライフルを構えていた男がザク、ザクと足音を立てて歩いてきた。彼の全身は地味な、だが動きやすそうな服装に身を包まれていたが、唯一腰につけた真赤な宝玉だけは人の目を引くものであった。
彼は仕留めた獲物の元へと辿り着くと、一度手を合わせた。そのまま何かをぶつぶつ呟いたかと思うと、腰元の大きなナイフを抜いた。
辺りをもう一度赤が染め上げた。
「珍しいわね。」
彼が一通りの処理を終えた時、背後から土を踏み締める足音と共に、聞き覚えのある涼やかな声がした。
「ああ。ここらではなかなか見ない獲物だな。」
彼は声の主をチラリとも見ずに応じた。彼はこの声の主を間違えるはずがないと確信していたからだ。
「そうね。それにしても相変わらずいい腕ね。あの距離から違わず首元に命中、なんて騎士団の弓兵でもできる人は少ないわよ?」
「…俺の得物はライフルだからな。ちゃんと狙えば当たるようにできている。」
「それでも、よ。」
歩いてきた声の主である女性は話しながら彼の前に立った。背負った大剣に右肩の宝玉、高貴さを感じられる服装が特徴的な女性だった。
彼女は獲物と男を交互に見ながら、言った。
「今のは賞賛される技術よ。…それとも、なに?私の賞賛は受け取れないっていうの?」
「…そういうわけじゃないさ。ただ、あまり慣れていないだけだ。…さて、まあお前が来たなら都合はいいか。」
男はそう言うと、まだ熱の残るそれを女性へと押し付けた。
「丁度いい。手伝ってくれ。」
「信じられない。私をなんだと思っているの?」
「肉を冷やせる女。」
数分後。獲物を押し付けられた女性がこぼした不満に男は即答した。側から見ていて気持ちいいほどの即答だった。とは言え女性にとっては(当然ではあるが)不満だったのか、大きくため息をついた。
「…まったく、人を便利な存在扱いして。この恨み、覚えておくから。」
「それは怖い。あとで夕飯を出すからそれで許してくれ。」
「…メニューは?」
「シチューだ。肉はこの間とれた鹿肉を入れている。」
今、軽口を叩きながら2人は山道を麓へと下っていた。道とも呼べない道を歩いているが、2人の足取りに迷いはない。どうやら相当に歩き慣れているようだった。
「そう。なら副菜しだいね。」
「そんなものはない。一人暮らしの猟師にそんなものは期待はするな。」
女性の呟きをバッサリ切り捨てると、男は女性へと手を伸ばした。それを見て女性は男に獲物である鳥を手渡した。それは仕留めた時間からすると不自然なほどに冷え切っていた。そのことに男はわずかに喜色を浮かべて、言った。
「ああ、よく冷えている。やはりこういうときにお前はいると便利だな。」
「…ほんと、人をなんだと思っているのかしら。」
女性から漏れた先程と同じ質問に答えるものはいなかった。
2人が麓の村にある小さな小屋にたどり着いたたどり着いたのは、日が間も無く暮れる、と言った時だった。村の家々からは煙と共に食事のいい匂いが漂ってくる。その中を2人は歩いていた。
「久しぶりに来たわね、ここ。」
「そうか?」
人の少なくなってきた道を横切って女性が呟いた。
「ええ。2ヶ月は来てなかったんじゃないかしら。」
「前来てからもうそんなに経つか。時間が経つのは早いものだな。」
「…年寄りみたいなこと言うわね、貴方。」
「俺が年取りならお前も年取りになるぞ。いいのか?」
同い年だろう?そう言うと女性は男を睨みつけた。どうやらお気に召さなかったらしい。
「怒るわよ。」
「…すまんかった。」
女性に年齢の話は禁句。そのタブーを犯したのはこちらだ。ならさっさと謝ってしまうのがいいと判断して、彼は素直にそうした。
そうこうしているうちに男の家へと2人はたどり着いた。男は獲物を壁に吊るすと荷物を置きに向かい、女性は勝手知ったるといった様子で椅子に腰掛けた。勝手に新聞を読もうとしている始末である。
「エウルア、食事前だがとりあえず茶でもいるか?」
「ええ、いただくわ。」
戻ってきたら男の問いにエウルア、と呼ばれた女性は新聞から目を逸らさずに答えた。なにか気になるニュースでもあったのだろうか。
女性の返答を聞いた男はヤカンに水を移すと、まだ火のついていない竈へとそれを構え、そのまま薪も用意せずにその両手をヤカンへと添えた。
「…よし。」
それはたった数秒後の出来事だった。先程まで水しか入っていなかったヤカンからは今や湯気が勢いよく吹き出し、その熱さを存分に知らしめている。彼はそれを確認すると、茶を入れ始めた。どうやら彼にとってこの不可思議な現象は日常のものであるようだった。
「入ったぞ。食事もすぐでいいか?」
「ありがとう。いただくわ。」
「そうか、シチューもすぐ温めるから待っていろ。」
品よくカップを傾ける女性を尻目に、男は今度はシチューの入っている鍋を竈へと置いた。やはりまたしても薪は置かれていない。
そしてシチューが温まるまでにも数秒しかかからなかった。
「今日は急にどうしたんだ?」
熱々のシチューを食べながら男がエウルアへと尋ねた。彼女が自分の元を、ましてや狩猟中の自分を追ってくることはそうそうなかったからだ。
「特に用はないわよ。一仕事終わって休みが取れたから来ただけ。今アンバーも城内を離れてるから、宿舎も居心地悪いもの。」
「…なるほどな。」
それを聞いて彼は納得した。彼はエウルアのことを幼少期から知っており、どんな人物かを把握しているが、何せ彼女はこの国において微妙な立ち位置にいる。そのせいで気苦労も多いのだろう。
「ならせめてアンバーが戻るまででも好きにするといい。どうせ俺もこの村では浮いた存在だからな。俺がお前を連れ込んでいようが誰も気にせんだろう。」
「そんなライフルなんて使ってるからでしょ。しかも神の目頼りの空気式なんて…誰が作ったの?」
「あの錬金術師だ。頼めば一晩で作ってくれたぞ。」
彼の持つライフルはかなり特殊な代物であり、彼にしか使えない特注品であった。最近作られたばかりのそれに慣れるために彼は近頃日夜格闘しているのである。
「…そう。まあどうでもいいけれど。」
「どうでもいいのか。まあいいが。…風呂はどうする?」
「入るわ。いつも通りあとで水だけ汲んでおけばいいわね?」
「頼んだ。その間に俺は鳥を解体しておく。」
食べ終えた彼女はそう言い残すと外へと向かった。宣言通りに井戸に水を汲みに行ったのだろう。それを見送った彼は、最後の解体をするべく吊るしておいた獲物へと手を伸ばした。
夜半になった。
やるべきことを終えた2人はようやく眠ろうとしていた。男は自室で、エウルアもいつも通りに客間で寝ようとして、居間の灯りを消した。
「おやすみ、エウルア。また明日。」
「ええ、おやすみレオン。また明日。」
最後に2人はそう言って、夢の中へと旅立った。
エウルア
最推し。トリプルクラウンおめでとう。
レオン
エウルアの友達。炎元素。神の目の熱で空気を爆発的に温めて弾を撃ち出すとかいう変態みたいなライフルを使う猟師。