Persona3 Temperance   作:人ちゅら

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#010 ビビる少年

 2009年4月8日――影時間。

 

 あなたは一人、辰巳ポートアイランドを歩く。

 死の淵に沈んだような、【異界】化した街。

 地べたにへばりつき這いずり回る影――シャドウと呼んでいるらしい――は、あなたを遠巻きフラフラしてはいるが、近付こうとはしない。

 

 実のところ、ちょっと夜食が欲しくなったのでコンビニに来た。

 ただそれだけの話なのだが。

 だが巌戸台のコンビニには今ひとつ食指の動くものが無かったので、ムーンライトブリッジへ迂回して遠征してきたのだ。

 

 大枚(はた)いて買ったバイクを走らせていると、急に【異界化】が発生。

 前方の車が急停止をしたことから慌てて急ブレーキ。

 急激に体を前に持っていかれて前輪がロック、ハンドルをとられて転倒しかけたのを強引に片足ブレーキをかける。

 それほどスピードを出していなかったが、それでも緩衝材が見えるまでソールが削れてしまった。

 

 歩きにくいなあと途方に暮れて空を見上げれば、遠くにポツンと浮かんでいたはずの月が、いつの間にやらケミカルイエローの自己主張をしていた。

 

 ()()()

 0時と0時1秒の間にあるこの影時間の存在を忘れていた。

 

 ああ、やっちまった。

 額を叩いて自分のウッカリにツッコミを入れる。

 もう仕方がない。さっさと用事を済ませて帰ろう。

 そう考えて辰巳ポートアイランド駅前のコンビニまで来たのだが……

 

 月明かりしか無い夜の街に沈んだコンビニを見て、あなたは気がついてしまった。

 

 影時間の中では人間は棺桶になってしまう。

 それはコンビニの店員だって同じだ。

 

 つまり――

 

 ()()()()()()()()

 

 品物を取ることは出来るかもしれないが、持ち出してしまえば立派な万引きである。

 もちろん影時間の最中は防犯カメラも動いていないので、バレることはない。

 だがバレなければ良い、というものでもない。

 

 金をカウンターに置いていけば……とも思ったが、自動ドアの前に立てば、薄っすらカウンターを挟んで棺桶が二つ、立っているのが見える。

 おそらく接客中だったのだろう。

 そんな時にカウンターに金を置いていっても、それが勝手に持ち出した弁当の代金とは思うまい。

 つまり意味がない。

 

 ああああああああああああああああああああああああああああああ……

 

 あーもう、何やってんだかなあ。

 

 

*   *   *

 

 

 それでもここで引き返すのは負けた気がするので、店内に入る。

 自動ドアは動かない。

 触れてみても動かない。

 ああ、影時間の中では機械は動かないのか。

 

「あああああ」

 

 声?

 店の中から意味をなさない、声、らしきものが聞こえる。

 

 入ってみよう。

 あなたはガラス戸に掌を押し付け、ゆっくりと自動ドアを手で開ける。

 

「なっ、なんだよもおおおおおお」

 

 今度はもう少し、ちゃんと言葉になっている。男の声。

 入り口から見ても棺桶が三つあるだけだ。

 棚の向こう側にでも誰か居るのだろうか?

 あなたは店内を奥へと進む。

 

「こ、怖くねえぞ!」

 

 店の隅に向かってしゃがみこみ、頭を抱えた人間が居た。

 

 棺桶になっていない。

 

――おい。

 

「ひいっ!!」

 

 あなたが声をかけると悲鳴を上げ、もっと体を(ちぢ)こませる。

 どうしたもんかな、これ。




(20230104)加筆修正
・薄暗い夜の街に煌々と明るいコンビニ
→月明かりしか無い夜の街に沈んだコンビニ
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