Persona3 Temperance   作:人ちゅら

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 こちらでも、お久しぶりです。



#012 変わる日

 2009年4月9日――早朝。

 

 あなたは早朝5時過ぎ、バイクを走らせ巌戸台(いわとだい)寮へ向かっていた。

 昨夜――と言ってもほんの数時間前だが――押し付けてきた家出少年・伊織(いおり)順平(じゅんぺい)の件で、相談することがあると理事長に呼び出されているからだ。

 

 だっる……

 

 とは思うものの順平が月光館学園の生徒である以上、養護教諭であるあなたの業務範囲内である。肉体的にはともかく、精神的な疲れを引きずったまま、あなたはバイクを寮の玄関脇に停めると、携帯電話から理事長・幾月(いくつき)修司(しゅうじ)にコールする。

 

『おや、随分早いね』

 

――来いと言ったのはお前だろう。

 

『本当に来るとは思わなかったなあ』

 

 軽薄な声色だ。

 朝から元気なことで。

 

 ガチャリ。と玄関の鍵を開ける音がして、内から扉が開かれる。

 

『ま、入ってくれたまえ』

 

 顔を出した幾月に招かれ、寮のロビーに入る。

 幾月はネクタイまで締めた完全な仕事姿で、ソファに座ると湯気の立つコーヒーを片手に笑みを浮かべている。

 

 あなたは黙ってソファへ腰を下ろす。

 世間話をするでもなく、早速昨夜の少年について確認すると、幾月は手元の書類へ目を落とした。

 

『捜索願は出ていなかった。学校への連絡も無し。保護者としては少々問題がありそうだ』

 

――……そうか。

 

 入試時の三者面談でも、順平の両親からは妙に子供への関心が感じられなかったと聞いている。だが、一晩帰宅しなかった子供を探しもしないとなると話は別だ。

 

 ふと、昔の記憶が脳裏を掠める。

 同級生だった新田(にった)(ゆう)も、似たような目に遭っていた。

 

 家に帰っても誰もいない。

 いても、関心を向けられない。

 あの頃の東京には、そんな子供が珍しくなかった。

 

 ……嫌な記憶だった。

 

 自分も似たようなものだ。

 だから面倒と知りながらも、順平(アレ)を放っておけなかったのか。

 

 しばし想いに耽るあなたに何を思ったのか、幾月は少しだけ話題をズラした。

 

『今はぐっすり寝ているようだね。よほど気疲れしていたんだろう、ベッドに寝かせたらグーグー……』

 

――入寮を勧めたらどうだ?

 

 幾月がまた笑えない駄洒落を言い出す前にカットイン。

 あなたの提案に、幾月は少しだけ考え、それから「うん」と軽く頷いた。

 

「なら、ご両親への連絡は任せるよ」

 

――何故だ。

 

『それも()()()だからさ』

 

 にこやかに言い放つ。

 あなたは露骨に顔を(しか)めたが、幾月は楽しげに肩を竦めるだけだった。

 

 

*   *   *

 

 

 その後は、ほとんど事務仕事で一日が潰れた。

 

 入寮申請書類。

 保護者承諾書。

 生活案内。

 転入関連の確認事項。

 

 どうすればよいのか分からなかったあなたは、庶務係のおばちゃんに相談した。すると机脇のトレイケースからテキパキと紙束を取り出し、「確認して」とあなたに突きつけてくる。

 ええと……とあなたが戸惑っていると、おばちゃんはため息を一つ吐いてから、一枚ずつ説明してくれた。分からないことがあったら事務手続きをまとめたバインダーが教職員室にあるから、それを見るようにと言われ、保健室に戻る前に立ち寄って借りてきた。

 

 保健室の机には紙束が積み上がり、あなたは無言で処理していく。

 こういう仕事は苦手なんだが、仕事であるからにはやらざるを得ない。

 面倒だなあ……

 今日中に終わるんだろうか、これ。

 

 

*   *   *

 

 

 終わらない書類仕事を尻目に、昼飯を学食で済ませてきた。

 新学期が始まったばかりなので、まだ授業は午前中しかない。

 部活のない生徒たちはそのまま帰宅するので、食堂は意外と空いていた。

 

 逆に部活に励む体育会系は、これからが本番である。

 一人で丼物を二杯、空にする男子など珍しくもないようだ。

 そういうあなたもカレー大盛りとシュークリーム二個を平らげてきたのだが。

 脳の活動に糖分は不可欠なのだ。

 

 

 月光館学園は、意外とスポーツに秀でた生徒も多いらしく、部活動は活発だ。

 それはつまり、元気のいい子供たちが怪我をしやすい環境ということだ。

 

 案の定、今日も部活動中に足を痛めた生徒が来たので、治療を行った。

 軽度の捻挫だったが、「痛み止めのツボだ」等と出鱈目なことを言いつつ魔力を薄く流してやると、痛みはすぐに引いたようだ。一種の心霊治療である。

 

「うお、マジで痛くない……」

 

 驚く生徒を適当に追い返した後、なんとなく書類から目を背けていると、今度は教師がやってきた。

 

「休み明けに小テストとか正気じゃないですよね……」

「採点地獄だぞ、採点地獄……」

 

 愚痴だった。

 あなたは適当に相槌を打ちながら聞き流す。

 自分に正直すぎる神や悪魔からではなく、教師から労働環境について愚痴られる日が来るとは。

 東京受胎前でも想像しなかった。

 

 適当に話を合わせてストレスを吐き出させ、お帰りいただいた。

 気付けば窓の外は夕暮れ色だ。

 そろそろ帰り支度をしよう。

 

 

*   *   *

 

 

 日が沈み、仕事を終えたあなたはポロニアンモールへ足を向けた。

 

 広場中央にある大きな噴水の周りには、さまざまな人々がいる。

 大きな買い物袋を二つ、足元に置いて一休みをする若い女性。

 井戸端会議に花を咲かせる主婦。

 携帯電話で仕事の話をしているサラリーマン。

 制服のまま遊んでいた生徒たちが、雑談していたりもする。

 

 賑やかなのに、それぞれは何の関係もない。

 そこにあるのは、ただ日々の暮らしの一ページ。

 流れる水音が、疲れた心に染み込んでゆく。

 

 

 あなたもそこへ腰掛け、なんとはなしに水面を覗き込んだ。

 急に周囲の灯りと音が消え、天頂のステンドグラスから月光が降り注ぐ。

 波ひとつない水鏡に映るあなたの顔が、女の顔へ変わった。

 

『今夜の影時間には気をつけることだねぇ』

 

 この地の【異界】の主。

 受胎トウキョウで迷惑をかけた、BARのママ。

 マダム・ニュクスだった。

 

 揺らいだ水面に、緑色の満月が(にじ)む。

 灯りが戻り、音が戻る。

 おかしな演出をしてくれるものだ。

 

 

 あなた自身に危険が及ぶとは思えなかった。

 ならば警告の対象は別だろう。

 

 脳裏に、転校生の少年の顔が浮かぶ。

 

 ……念の為、見るくらいはしておくか。

 

 あなたは小さく息を吐いた。

 

 一体、何が起こるのやら。

 




 感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。

 なんとなく書けるようになってきたので、こちらも再開します。
 事務&社会人スキルを身につける前の、だらだらした若き人修羅さんのお話です。
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