Persona3 Temperance   作:人ちゅら

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 キタロー(P3主人公)の名前はアニメ版から姓を、漫画版から名をそれぞれ採っています。
 「理」だと地の文に埋まりやすくて、ちょっと扱いづらかったので。



#014 顕現する死

 大型シャドウが巌戸台分寮へ到達してから、しばらく後。

 あなたは寮の屋上、給水タンクの陰に座っていた。

 

 影時間の静寂に包まれた屋上へ、三つの人影が姿を現した。

 先頭を歩くのは、岳羽(たけば)ゆかり。

 その後ろに、転校してきたばかりのメカクレ少年(キタロー)――結城(ゆうき)(みなと)

 そして最後尾には、青い囚人服を纏った“あの少年”が独り、足音もなく続いていた。

 

 

――……来たか。

 

 ゆかりの顔色は死人のように白く、呼吸はひどく浅く、早い。

 だが、それ以上に目についたのは湊だった。

 

 妙に落ち着いている。

 初めて死活(たたかい)の場へ放り込まれた人間とは思えないほどに。

 

 その時。

 

 外壁を、ずるり、と巨大な影が這い上がってきた。

 黒いヘドロのような大型シャドウ。

 粘液を滴らせながら、昆虫めいた不気味な動きで壁面を|登ってくる。

 

 ゆかりが息を呑む。

 

「う、そ……っ」

 

 ヘドロじみた巨体が屋上へ乗り上げた瞬間、大気が震えた。

 圧倒的な存在感。

 そこから振りまかれる、言いしれぬ圧迫感。

 

 ゆかりは震える手で、腰のホルスターから召喚器を抜く。

 桃色と白の、可愛らしい拳銃のようなもの。

 逆手に持って額へ向け、浅くなった呼吸を必死に整えようとする。

 

 だが――

 

「いや……っ!」

 

 少女には引き金が引けなかった。

 なにを躊躇ったか。

 なにを恐れたのか。

 彼女の視線は定まらず四方を彷徨(さまよ)い、必死に整えた呼吸はすぐに荒れてしまった。

 

 その一瞬の隙を、大型シャドウは見逃さなかった。

 ぶん、と粘液塗れの腕が横薙ぎに振り抜かれる。

 

「きゃあっ!」

 

 ゆかりの身体が吹き飛び、床へ激突した。

 召喚器が乾いた音を立てて滑っていく。

 

 べちゃり、べちゃりと汚らしい音を立て、異形がゆっくりと迫る。

 だが衝撃に意識が飛んだのか、ゆかりは立ち上がることができない。

 

 その時だった。

 

 湊が、静かに召喚器を拾い上げた。

 まるで最初から使い方を知っているような、自然な動作だった。

 

 囚人服の少年が、彼の耳元へ顔を寄せる。

 

『やっと()()()ね』

 

 囁き。

 あるいは宣告。

 

 湊は無表情のまま、拳銃を自らのこめかみに当てる。

 そして引き金を引いた。

 淀み無く流れるような所作には、なんの躊躇もない。

 

 パリン!!

 

 ガラスが割れたような、澄んで甲高い音が広がる。

 今、何かが決定的にズレてしまった。

 そして蒼い光が炸裂した。

 

 

 刹那、湊の背後に巨大な影が立ち上がる。

 

 黒い仮面。

 青銅色の胴体に、白い四肢。

 まるで球体関節人形のような、作り物めいた人型。

 竪琴を抱えた異形。

 

 ペルソナ――オルフェウス。

 

 竪琴が爪弾かれる。

 炎が(ほとばし)った。

 だが炎に(あぶ)られ、小さな爆発に曝されても、異形の動きは止まらない。

 

 複数の腕がそれぞれに持つ短剣を打ち鳴らし、手にした複数の白い仮面が湊に向けられる。

 

 

 あなたは僅かに眉を動かした。

 

――足りないか。

 

 目覚めたばかりの【ペルソナ使い(まどうし)】では、出力不足なのだ。

 

 すると囚人服の少年が、オルフェウスへ両腕を差し伸べ、導く。

 

『……さあ』

 

 世界が(きし)む。

 影時間が脈動する。

 

 黒い裂け目のようなものが、オルフェウスの胸を走った。

 

 裂け目が大きくなるにつれ、そこから漏れた赤光が、心臓の鼓動のように明滅する。

 

 変貌。

 強制進化。

 

 だが、その変化は途中で停滞する。

 裂け目から時折、白い何かが出ては引っ込む。

 あと一歩、何かが不足していた。

 

 囚人服の少年が、ゆっくりとこちらへ振り返る。

 その眼はしっかりとあなたを捉え、切実な願いを語っている。

 

 あなたは小さく息を吐いた。

 

――貸しイチ、だな。

 

 右手を掲げる。

 指先から、赤黒い燐光が溢れ出した。

 圧縮された生気(マガツヒ)

 

 本来、人の身には(あま)るだろう。

 あまり与えすぎても、却って悪化させかねない。

 少量に制御し、オルフェウスへと流し込む。

 

 瞬間。

 

 変化が臨界へ達した。

 裂け目から伸びた白い五指が、その縁に手をかけて左右に引き裂く。

 オルフェウスの身体が裂ける。

 

 内部から現れたのは、“死”。

 

 獣の頭骨のような白い頭部。

 黒のコートに黒のベルトを締め。

 中に浮かぶ八つの棺を繋ぐ、大きな銀の鎖。

 

 そして右手には長大な片刃の剣。

 

 ペルソナ――タナトス。

 

 死神が空を仰ぎ、大口を開けて()える。

 

 次の瞬間。

 

 タナトスが右手の剣で、仮面を横薙ぎにする。

 周囲の腕が数本、巻き添えになって切り飛ばされる。

 腕だったものを左手でつかみ、握り潰す。

 

 飛び上がり、剣を投げてヘドロの巨体を床に縫い留める。

 そのまま剣でつけた裂口に両手指を突っ込み、左右に引き裂いてゆく。

 

 声にならぬ絶叫。

 白仮面と短剣がこぼれ落ち、主に代わって乾いた音を立てる。

 

 どろり。

 異形は形を失って黒い泥となり、霧散する。

 

 

 静寂。

 

 

 屋上には荒い呼吸だけが残った。

 そして湊は、その場に崩れ落ちる。

 

――無茶が過ぎる。

 

 あなたは給水タンクの上から、静かに呟いた。

 

 だがその視線は、倒れた少年ではなく。

 その背後に一瞬だけ覗いた、“死”の気配を見つめていた。

 




 感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。

 キタローこと結城湊はプレイヤーであって、なるべく透明なままにしたいのですが、観察対象になるとそれも難しいんですよね。公式でもゲームの他、漫画、アニメ、映画などマルチメディア展開してますが、それぞれ別人格にデザインされているので軸が定まらず。ぐぬぬ……

 次回は原作でカレンダーがパラパラーと進む期間のエピソードです。
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