Persona3 Temperance 作:人ちゅら
「理」だと地の文に埋まりやすくて、ちょっと扱いづらかったので。
大型シャドウが巌戸台分寮へ到達してから、しばらく後。
あなたは寮の屋上、給水タンクの陰に座っていた。
影時間の静寂に包まれた屋上へ、三つの人影が姿を現した。
先頭を歩くのは、
その後ろに、転校してきたばかりの
そして最後尾には、青い囚人服を纏った“あの少年”が独り、足音もなく続いていた。
――……来たか。
ゆかりの顔色は死人のように白く、呼吸はひどく浅く、早い。
だが、それ以上に目についたのは湊だった。
妙に落ち着いている。
初めて
その時。
外壁を、ずるり、と巨大な影が這い上がってきた。
黒いヘドロのような大型シャドウ。
粘液を滴らせながら、昆虫めいた不気味な動きで壁面を|登ってくる。
ゆかりが息を呑む。
「う、そ……っ」
ヘドロじみた巨体が屋上へ乗り上げた瞬間、大気が震えた。
圧倒的な存在感。
そこから振りまかれる、言いしれぬ圧迫感。
ゆかりは震える手で、腰のホルスターから召喚器を抜く。
桃色と白の、可愛らしい拳銃のようなもの。
逆手に持って額へ向け、浅くなった呼吸を必死に整えようとする。
だが――
「いや……っ!」
少女には引き金が引けなかった。
なにを躊躇ったか。
なにを恐れたのか。
彼女の視線は定まらず四方を
その一瞬の隙を、大型シャドウは見逃さなかった。
ぶん、と粘液塗れの腕が横薙ぎに振り抜かれる。
「きゃあっ!」
ゆかりの身体が吹き飛び、床へ激突した。
召喚器が乾いた音を立てて滑っていく。
べちゃり、べちゃりと汚らしい音を立て、異形がゆっくりと迫る。
だが衝撃に意識が飛んだのか、ゆかりは立ち上がることができない。
その時だった。
湊が、静かに召喚器を拾い上げた。
まるで最初から使い方を知っているような、自然な動作だった。
囚人服の少年が、彼の耳元へ顔を寄せる。
『やっと
囁き。
あるいは宣告。
湊は無表情のまま、拳銃を自らのこめかみに当てる。
そして引き金を引いた。
淀み無く流れるような所作には、なんの躊躇もない。
パリン!!
ガラスが割れたような、澄んで甲高い音が広がる。
今、何かが決定的にズレてしまった。
そして蒼い光が炸裂した。
刹那、湊の背後に巨大な影が立ち上がる。
黒い仮面。
青銅色の胴体に、白い四肢。
まるで球体関節人形のような、作り物めいた人型。
竪琴を抱えた異形。
ペルソナ――オルフェウス。
竪琴が爪弾かれる。
炎が
だが炎に
複数の腕がそれぞれに持つ短剣を打ち鳴らし、手にした複数の白い仮面が湊に向けられる。
あなたは僅かに眉を動かした。
――足りないか。
目覚めたばかりの【
すると囚人服の少年が、オルフェウスへ両腕を差し伸べ、導く。
『……さあ』
世界が
影時間が脈動する。
黒い裂け目のようなものが、オルフェウスの胸を走った。
裂け目が大きくなるにつれ、そこから漏れた赤光が、心臓の鼓動のように明滅する。
変貌。
強制進化。
だが、その変化は途中で停滞する。
裂け目から時折、白い何かが出ては引っ込む。
あと一歩、何かが不足していた。
囚人服の少年が、ゆっくりとこちらへ振り返る。
その眼はしっかりとあなたを捉え、切実な願いを語っている。
あなたは小さく息を吐いた。
――貸しイチ、だな。
右手を掲げる。
指先から、赤黒い燐光が溢れ出した。
圧縮された
本来、人の身には
あまり与えすぎても、却って悪化させかねない。
少量に制御し、オルフェウスへと流し込む。
瞬間。
変化が臨界へ達した。
裂け目から伸びた白い五指が、その縁に手をかけて左右に引き裂く。
オルフェウスの身体が裂ける。
内部から現れたのは、“死”。
獣の頭骨のような白い頭部。
黒のコートに黒のベルトを締め。
中に浮かぶ八つの棺を繋ぐ、大きな銀の鎖。
そして右手には長大な片刃の剣。
ペルソナ――タナトス。
死神が空を仰ぎ、大口を開けて
次の瞬間。
タナトスが右手の剣で、仮面を横薙ぎにする。
周囲の腕が数本、巻き添えになって切り飛ばされる。
腕だったものを左手でつかみ、握り潰す。
飛び上がり、剣を投げてヘドロの巨体を床に縫い留める。
そのまま剣でつけた裂口に両手指を突っ込み、左右に引き裂いてゆく。
声にならぬ絶叫。
白仮面と短剣がこぼれ落ち、主に代わって乾いた音を立てる。
どろり。
異形は形を失って黒い泥となり、霧散する。
静寂。
屋上には荒い呼吸だけが残った。
そして湊は、その場に崩れ落ちる。
――無茶が過ぎる。
あなたは給水タンクの上から、静かに呟いた。
だがその視線は、倒れた少年ではなく。
その背後に一瞬だけ覗いた、“死”の気配を見つめていた。
感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
キタローこと結城湊はプレイヤーであって、なるべく透明なままにしたいのですが、観察対象になるとそれも難しいんですよね。公式でもゲームの他、漫画、アニメ、映画などマルチメディア展開してますが、それぞれ別人格にデザインされているので軸が定まらず。ぐぬぬ……
次回は原作でカレンダーがパラパラーと進む期間のエピソードです。